街の闇と退魔の剣士①
結論から言うと、晶とスヴァンの推測は外れていた。
二人が見失った北方面の魔は、決して逃げ出したわけではない。
そいつは現在、ある人物によって虫の息になっているのだ。
「今、なんて言った?」
そう訊ねたのは、黒い羽織を着て、抜き身の刀を持った青年だ。
墨染め一色に染まったそれの裾をはためかせ、彼は足下を見つめる。
そこには、切り傷で血まみれになった人型の狼の姿があった。
「けけけ……。こ、ここで俺を殺しても、無駄なんだな!」
手足を裂かれ、もう長くはない筈のそいつは、しかし勝ち誇るように言う。
「俺を倒したところで、必ずお前は親玉に倒される。親玉は前々からお前に目をつけていたからな。会えば必ず殺されるさ。犬追山の親玉に!」
『ほう。親玉、とな』
狼の魔の言葉に、青年が持つ刀から声が発せられる。
普通刀は話さないが、その現象に持ち主である青年は微塵も驚かない。
刀は、続ける。
『そいつは興味深い。もっと聞かせてもらえるか?』
「けけっ。断るんだな。俺がただでお前に情報を売るはずがないんだな!」
いきり立つように、狼は言う。
が、それを聞いて青年側は嘆息する。
どうやら相手は、すでに青年たちに情報を与えているということに気づいていないらしい。なかなかめでたい頭の持ち主のようだった。
が、そう言った以上、確かにこれ以上有力な情報は得られそうになかった。
「そうか、分かった。なら死ね」
そう言って、青年は刀を振り下ろす。
刀は相手の頭に突き刺さり、すなわちそいつを絶命させる。
息絶えた狼の魔は、すぐに粒子のようにその場を解けて消滅した。
「犬追山の親玉、って言ったな?」
『あぁ、言った。そう言えば昔、似たような妖が山で
「そうか。じゃあ、ひとまずそこへ行くか。何か分かるかもしれない」
『そうだな。行こう、剣聖』
同意する相手に頷き、青年こと剣聖もその場所へ向かって歩き出した。
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