街の闇と正義のヒロイン①
県庁所在地から南東に位置するこの街は、江戸時代に発展した城下町をそのまま継承し、県の中心の郊外にあるベットタウンとして成長してきた。
名の由来は、全国でも有数の神社が多く点在することからで、今でこそ著名な神社はないものの、古い歴史を持つ神社が数多く存在している。
最近では、未開発な土地が多いということで注目が集まっており、新興企業や大企業などが続々と進出を図っていることでも知られていた。
閑静とした住みやすい街――というのがこの街についてもっともよく言われることであり、実際に田舎過ぎず都会でもない、そんな場所だ。
そんな街が、この物語の舞台である。
*
「おいテメェ! 痛ぇじゃねぇか!」
社宮市の中心部、ビルが立ち並ぶ一角にある暗い路地裏での出来事だ。
肩を押さえた数人の高校生と思しき制服姿の少年少女と、薄汚い服装のホームレスが、僅かな距離を置いて対峙している。如何にも柄の悪そうな学生側は、年老いた相手に対して因縁をつけていた。
「汚ぇ身なりの上にフラフラしやがって! 迷惑じゃねぇか!」
「すっげぇ、うぜ! 服汚れちゃったしー」
男女は怒鳴り、目の前の老人を威嚇する。
因縁の付け方、内容は実に稚拙だが、威嚇の勢いはなかなかのものだ。
馬鹿馬鹿しいその行動は、ゆえに次の言葉を容易に予想させた。
「痛てて。怪我しちまった。おいテメェ、慰謝料払えや!」
予想通りの要求を口にすると、学生たちはホームレスの首根を掴む。
あまり賢そうには見えない、横暴な脅迫と要求だった。
そもそも、ホームレスに金銭を要求する時点で彼らの頭の悪さが露呈しているようなものなのだが、しかし彼らは自分たちのやっているのが冴えた行動だと思っているのか、微塵も迷いなく行動していた。
そんな行動に、ホームレスは怯える様子をみせる……と思われたが。
相手は、何故かぐるると、顔を伏せて呻きだしていた。
その様子を、学生どもは不審がる。
「ん、なんだ? 何を急に呻きやがって――」
眉根を寄せて、掴みかかっていた学生が言った直後である。
突然、ホームレスの身体の周りを、瘴気のとぐろが渦巻いた。
黒いそれは、掴みかかっていた学生が思わず手を離すには充分な迫力で、彼らを数歩後退させる。
ぎょっとする彼らの前で、瘴気に包まれたホームレスは変化していく。
人型のそれは、みるみる人外の異形へと、身体を変えていった。
やがて現れたのは、人のような二足歩行の狼だ。
動物といっても、とても愛らしいものではない。
それは怪物といってよく、鋭い眼光は相手を睨み殺すほど迫力があった。
煌めく眼光は、すぐさま学生たちを驚愕せしめる。
「なっ、なんだテメェ……うわあああああ!」
「きゃあああ! ば、化け物ぉぉおお!」
学生たちは、慌てふためく。
相手が危険と判断した彼らは、すぐに路地裏の出口に走ろうとする。
そんな彼らに、人狼はぎろりと目を向ける。
そして、跳躍。
高々と飛んだそれは、壁を蹴って学生たちの上を越えると、出口から逃げ過ぎようとした彼らの前へ立ち塞がる。
回りこまれ、思わず足を止めて戦慄する学生たち。
そんな彼らへ、人狼は毒牙を向けるべく襲い掛かる。
その前に空から飛び降りて来たのは、白い影であった。
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