少女の秘密②

「ん~。何か分かった、あきらん?」


 印刷してきた書類にひと目だけ目を通してから、美紅は顔を向けた。ぐだーと机にもたれかけながら訊ねるその姿勢は、実にだらけきっている。

 そんな相手に苦笑も浮かべず、晶は目だけ向けた。


「うん。とりあえず、何体かは、それっぽい妖怪の伝承を見つけた」

「え、嘘! どれどれ、見せて!」


 借りてきた本の一つを見ていた晶に、美紅は慌てて駆け寄って肩を寄せてくる。二人の少女の距離が一気に近寄るが、両者は別に慌てない。

 そして、晶は本の文面へ指を当てる。


「これ。犬や狼のような妖怪が、江戸時代の中頃に出たっていう話がある。騒ぎは数年間で何回も起きたって、書いてある」

「どれどれ……あ、本当だ。見た目毛むくじゃらな犬の化け物ってある」


 美紅が記事を目にすると、晶は頷く。


「うん。特徴が、私が見た奴らと似ている。もしかしたら、これかも」

「灰色や、茶色など色は様々。あまりの騒ぎに、城のお殿との様が捜査を行なわせたほど、ってあるわね」


 記事を読みながら、美紅は目を瞬かせる。

 それは、今から三百年ほど前に起こった妖怪騒ぎの伝承だった。

 当時この街にあった城下で、人々を襲う謎の妖怪が出たと市井しせいで騒動になった。それを奉行所に訴え出た町人は多く、藩主の耳にも騒ぎが届いて調査を行わせるほどだったと記されている。


「この妖怪がまた現れたのかもね。で、この妖怪騒ぎは結局どうなったの?」

「えっと……あ、あった」


 記事に目を通し、頁をめくりながら、晶はそれらしき記述を発見する。

 騒ぎから数カ月、ある山の中で妖怪の住処すみからしきものを発見し、そこを調査した結果、大量の狼の死骸が散乱しているのが確認されたという。

 それを見て、民衆は彼らの怨念が人々を襲ったのだと、噂し合ったという。


「なるほどぉ。狼の怨念だったわけか~。じゃあ今回も」

「うん、たぶん。狼の怨念かどうかは知らないけど、それっぽいものかも」

「怨念かぁ……ん、『怨念がおんねん!』ってことかしら?」

「……さぁ?」

「ちょ、ちょい待って! そんな冷めた目で見ないであきらん!」


 冷ややかな横目にやや慌てる美紅を無視し、晶は更に頁をめくる。


「山の今の場所は……あった、社森東町やしろもりひがしまち犬追山広場いぬおいやまひろばってのがそこみたい」

『そこに、今回の魔の騒動の根源がいる可能性が高そうですね』


 スヴァンが口を挟むと、晶は頷く。


「じゃあ、今夜早速行ってみよう。もしかしたら、出てきている魔の原因か妖怪たちの親玉がいるかもしれない」

「そう。じゃあ、私に出来ることは他にある?」


 美紅が尋ねると、それに対して晶は考える。


「ここまでわかれば充分だよ。今回もありがとう、美紅」

「なぁに、いいってことよ。何せ私は、街を守る正義のヒロイン・フェアリーヴァイスの強力な協力者なんだからね!」


 胸を叩きながら、美紅は誇らしげに言う。


「ん? 『強力な協力者』……あ、待ってあきらん! 今のは狙って言ったわけじゃなくてね、単なる偶然と言う奴で――」

「聞いてないよ?」


 相手の言葉に、晶はくすりと微笑む。

 同時に、スヴァンも苦笑らしき声を漏らすのだった。

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