第2話:ふたたび

学校に向けて街道を走り抜ける美江は、ある集団から逃げていた。

 

 「剣姫、桐谷さん!お話を伺いたんですが!」

 「全国覇者の感想を!」

 「その強さの秘訣は!」

 

 「うるさいうるさいうるさーい!」

 

 集団のマスコミが至る所に待機して、走り続ける私になんとかして聞き出そうとしつこく追いかけてきている。

 

 (予想はしてたけどすごい数だな…)

 

 背中にある竹刀でなんとできまいかと掴む。

 

 (いや、こんなところで暴れてでもしたら……)

 

 「剣姫は、剣鬼だった!?」

 「暴れだした全国覇者が逮捕!」

 

 (あ、だめだ。)

 もう逃げるしか手がなくなりとりあえずひたすら走る。だが、逃げの手もまた一つの戦法!川を渡ればすぐに落ち着くだろ。

 

 「ぬああああああ!」

 

 川に向かって走り出した私にマスコミ達は、戸惑いながらもついてくる。

 そのまま全力で走り、全力で飛ぶ。

 川をまたにかけスタッと着地し、見事川を飛び越えてみせた。マスコミ達は呆けて何も言えない状態。

 

 「それじゃーね!」

 

 大きく手を振って学校へ向かう。保おけていたマスコミ達は 「あ!まて!」と騒いでいたが、気にしない。

 それから、学校へと無事に着き、一安心する。が、

 

 「きゃぁぁ!美江さんよ!」

 

 その騒ぎ声がまた、人を呼び、

 「美江さん!?」

 「あれが美江さん…!?」

 「なんてお綺麗な…」

 「握手してくだい!」

 と、人だかりが出来てしまった。

 

 学校の校舎にある校章を確認する。

 

 (しまった!ここは第2校だ。)

 

 自分が目指すべき校舎は第1校。

 如月高校は、第1校と第2校と分かれ、第2校は世界的にも有数な進学校。第1校は、スポーツ、化学、商学とエリートから社長令嬢など、いわゆるVIPな人たちの学校となっている。

 私が通うべき校舎は、第1校。

 

 「ごめん!今急いでるから!」

 

 と、地面を蹴って集団を上から抜け出し、颯爽と第1校へ向かう。

 

 10分後……

 「はぁ……」

 

 「美江、すごい溜息じゃない。今日はどうしたの。」

 

 「あぁ、花恋。どうしたのって言わなくてもわかるでしょ。」

 

 「まぁ、あれだけ大きかったらね。ネットにもあったし。」

 

 「ネットにも!?」

 

 「う、うん。結構大きくね」

 

 「うっそぉん…」

 

 そう言って机に突っ伏す。

 今話をしている女性の名は、「菊一花恋」。ショートヘアの長身で綺麗な子。

 

 「はぁ……もうマスコミとか、もうやーだー。校舎にでかでかと旗が掲げられてたし〜!」

 

 「あぁ、あの『剣姫美江様。その容姿端麗の美貌とともに全国に名を…』」

 

 「あぁぁ!もうやめてやめてやめて!」

 

 「あはははははw」

 

 私の今の悩みを飛ばしていく勢いで笑い出す花恋。その姿を睨むように私はじっと見る。

 今までも、第1校に入ってから周りから少し変わった目で見られていたけど

 

 (もうこれ以上増えないでぇぇえ!)

 

 また頭を抱えて机に突っ伏した。

 

 それから、授業が終わり、放課後は剣道部に顔を出して、すぐに学校を後にした。

 

 (早く帰って、稽古してもらわなきゃ。)

 

 目的は、もちろん祖父。照史である。いつか祖父を超え、道場を引き継ぐことを夢に稽古に励んでいる。

 川をまたぐ橋からは山上に見える道場があり、立派なその風貌からこの当たりの観光スポットにもなっているらしい。

 

 (ふむ。やっぱりここから見える道場は、いいな)

 

 なぜかドヤ顔になる私は自慢げに胸を張る。

 

 (あっ、早く帰らなきゃ!)

 

 稽古を受けることを思い出し走り出した…

 その瞬間だった。

 

 ゴォォォォオオオオ!

 

 「え……」

 

 突如舞い上がる激しく渦巻く炎。

 その発生地は道場の場所だった。見間違えるはずはない。毎日この橋から見ていたのだから。だからこそ、この確信は、あの時の記憶を逆なでするように体の震えが始まった。

 

 (行かなきゃ…でも、でも…うううう!)

 

 頭を振り、恐怖を消し去ろうと必死になる。両手で顔を叩き、気を張る。

 

 (んなこと言ってる場合か!行かなきゃ…)

 

 炎の渦が収まらない道場に走って向かった。

 

 

 「ぐっ……かはっ……」

 

 「フフフハハハハハハ!無様だなぁ……剣聖と呼ばれし男も俺の前じゃやはり無力…か。この力は本当に素晴らしいな。」

 

 傷だらけになった照史。そして、返り血が付いた男が目の前にいた。

 周りは火に囲まれ、燃えた木々は倒れ始める。

 

 「な、なぜ…貴様が…あの時…殺したはず…だ!」

 

 「あぁ。あの時はほんとに世話になった。殺されるかと思ったぜ。いや、殺されたな。確かに。」

 

 「なら…なぜ生きている!なんなのだその力は!」

 

 「クックックックッ、知りたいか?知りたいのなら、これから死にゆく貴様の…冥土の土産に聞かせてやろう。」

 

 そう言って身を屈めて、不敵な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

 

 「貴様は信じるか?異世界の存在を」

 

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