第1話:全国覇者

高校規模、全国剣道大会。高校剣道部なら1度は出たいと願う高校剣道界の祭典。

 それを目指そうと鍛えに鍛えた強豪たちが立ちはだかる。その全てをなぎ倒し、決勝の舞台に立っていた。

 選手準備室にて支度を済ませた美江は、精神を落ち着かせ、呼吸を整えて緊張をほぐしていた。

 

 「ふぅ…」

 

 高校一年で全国の決勝に出るのは、大会史上初らしい。早くも注目が集まり、期待をされている。

 プレッシャーにめっぽう弱い美江は、落ち着かせなければまともにやれないと自負している。実際、祖父と剣を交える時もその気に圧され、自殺行為をしてしまう時は多かった。

 

 (大事な大会。全国を制覇できるこの時は…立派に戦えるようにならなくちゃ。)

 

 そう心に語りかけ、竹刀を握る。

 そして、闘士を燃やした。

 

 (きっと!きっと本気を出せる相手なはず!)

 

 こうして決勝に向かった。

 

 

 勝った。

 

 保おけて止まない美江とは裏腹に相手選手は、倒れていた。

 

 (呆気ない!本当に呆気ないほどに弱かった!いや、私が強いのか!?それでも、今まで1割2割程度で勝ち進めたが、これは出せても3割だったぞ!本気を出させろ!

 ほらぁ!周りが呆けて静まり返ってるよ!ガッツポーズも出せないよ!出させろガッツ!むしろ出せ、ガッツ!)

 

 と、心の中でツッコミを入れまくってる中、審判が「い、1本!勝者!天塚美江!」と、体育館の中をその声で響かせた。

 ワンテンポ遅くぎこちない拍手が起きる。拍手の中に「お、おう…」、「えぇ…」と声が聞こえた。

 (ほらぁ…)

 ため息しか出ない美江は、全国覇者となった。

 

 (この程度で全国覇者。おじいちゃんも呆れていたのもわかるわ…)

 

 そして、決勝の舞台が微妙な拍手とともに閉ざされた。

 

 その次の日。

 朝飯を頬張りながら、新聞を開く祖父が突然ニヤニヤしながら話しかけてきた。

 「美江よ。今回もよーやるの」

 「別に…大したことじゃないよ。」

 そう、大したことじゃない。たかが全国制覇をしただけ。敵があのざまじゃ、こっちも感覚を無くす。

 「これを見てもかな?」

 と言って、新聞の記事を見せてくる。

 この記事を見ると驚愕だった。

 美江の緊張して引きつった顔が一面に張り出され、「剣姫現る!」だの「全国制覇は、剣の申し子」と記されていた。

 「こ、これは……」

 「まぁ、当然だろ。あんな勝ち方をすれば。」

 「あんな勝ち方って……」

 確かに。あの勝ち方はまずかったかもしれない…だとしても物申したい!

 「そもそも、一発で終わるって弱すぎじゃない?普通の面だよ?」

 「そこだろな。たった一振りの面が相手のガード上からたたき割り、気絶をさせた。明らかにまずいだろ。」

 「うっ……」

 (だからって、ウォーミングアップ気分で振った竹刀がガードしきれずそのまま面になって、しかもそれが有効打で、あと脳震盪で気絶したとか……)

 「あ、まずかった。」

 「そやろな。」

 それならこれだけ騒がれても仕方ないし、納得がいく。16歳の高校一年生が高校剣道の全国大会の決勝で、相手をたった1発でなぎ倒す。これほどまでに驚愕な記事があるだろうか。書かない訳にはいかない。書かなかったらそれこそ記者の名折れだ。

 「まぁ、そんなことよりだ。学校大丈夫か?」

 「え?あぁ、まぁまぁ……です。」

 「いや、そうじゃなくて。時間だよ。」

 「へ?あ!もうこんな時間!おじいちゃんごめん!片付けしといて!」

 「ほいほい。気をつけての。」

 「うん!いってきます!あ!今日帰ってきたら手合わせね!忘れないでよ!」

 「あぁ、はいはい。いいから行ってきなさいな」

 「うん。じゃまた後で!」

 玄関を開け、走り出す。

 「ふむ。元気があってよろしい。」

 そう言って照史は、片付けを始めた。余り物はラップをかけ冷蔵庫に入れ、洗い物を済ませて隣の部屋に移る。その部屋には、美江の父と母、2人の写真が飾られ線香が置かれていた。花も新しく、埃はない。

 その前に座り、手を合わせ、線香を焚く。置いてある線香の横に置き、鈴を鳴らした。

 (燈馬…お前の娘は立派に育っておるぞ。華也乃さん…あの子の緊張癖はあなた譲りで、なかなかなおらんよ。)

 手を合わせ、念を込め、その鈴の音に乗せ、想いを伝えた。

 (あの子はもっと強くなる。きっと。)

 

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