第4話 犯人捜索

ーー鳴(めい)が逃げて少しした後


 ◇ ◇ ◇


 「見つけたか?侵入者は?」


 「いえ、まだ見つかりません。カメラの情報があの路地裏から途絶えているため捜索には多少時間が掛かるかと」


 「なら早くしろ、このまま逃げられなどしたら我ら【機巧警備隊(きこうけいびたい)】の恥だぞ」


 という会話がある


 彼らは機巧警備隊、この都市【ミラドー】の治安維持を主に活動する部隊だ。

 

 「しかし、変わった侵入者だな。テレポートでこの都市に侵入したのなら自分の身の隠蔽は必須だろうが、相当間の抜けたヤツだな」

 そう思わざるを得ない程、杜撰な侵入だった。

 しばらく侵入者の手掛かりを探していると、部下から連絡が入った。


 「主任!こちらへ来て下さい!」


 「どうした!」


 耳に付けている無線機から部下の報告を受け、その部下のいる方へ向かうと

 

 「これは!・・・・・」


 そう驚愕せざるを得なかった。


 「凍っているのか?・・・」


 目の前にあるのは4台の凍っている【ABU】だ。

 「・・・侵入は杜撰のくせに機巧師(マキナ)としては一流とはな」


 【ABU】は耐熱にも優れており、万が一、凍らさせたりした時の為に発熱機能を備えているため

余程のことがない限り凍ることはない。

 それが凍っているとなると発熱機能まで凍らされたことになる。

 となると、今侵入者を追わせている【ABU】や部下の機巧師(マキナ)も相手にならない可能性が高い。

 

 (一旦、引かせて対策を練るか・・)


そう思って、部下に連絡を送ろうとしたところ


 「どうなさったのですか?」


 と声をかけられた。


 ここは警備隊以外立入禁止なんだが・・、部下は何をやっているんだと思いながら、


 「すみません、ここは関係者以外立入禁止な・・・・・」


 と振り向いたところまさかの人物がそこに立っていた。


 「ミリア=エーリル・・・」


 「申し訳ありません、ですが何かお困りになられているのなら微力ですがお力をと思いまして・・・」


 といきなりの呼び捨ても気にせずに丁寧に謙虚に返してくれる。


 ミリア=エーリル、都市【ミラドー】が属する国【クリエスト】により認められた国内に12人しかいない特級機巧師(エクスマキナ)の一人。

19歳という年齢にしてトップクラスの実力をてにしている。

有事の際の特記戦力の為、ほとんど首都【マディア】の警備を任されていると聞くが何故、この様な大物がここに?

 と思考を巡らせていたが、


  「実は最近、首都にスパイが現れるようになり、首都から離れている都市から侵入されているという情報がありこの都市に来たわけです」


 と考えていることを読み取ったように、老若男女見惚れるような笑顔と共に教えてくれる。


 「なのでどうか、捜査に参加できませんでしょうか?」


 と言ってくる。


 「いえ、それは有り難いのですが、今は捜査が手詰まりで、唯一情報を持っていそうな【ABU 】(コイツ)でさえご覧の有り様なんですわ」


 凍っている状態の【ABU】を指差し、八方塞がりな事を伝える。

 

 「分かりました。では私がどうにかしましょう」

 

  だがしかし、彼は無理だと思った。

 

 何故なら、発熱機能の部分まで凍らされているとなると他の記録(ログ)や映像(ムービー)の部分を保存している所は壊滅的な被害を受けていると考えられる。


 「流石にそれは・・・」


 「大丈夫です。まあ、見ててください」 


 すると彼女は頭の上に掛けていたレンズの部分が薄紫色のゴーグルのような物を装着した。


 「【MAG(マグ)】起動」


 と彼女が起動パスを言うと、レンズに一層濃い紫色の数多くのラインが走る。


 「対象【ABU】、記録(ログ)、映像(ムービー)復元、取得」


  と氷漬けの【ABU】に視線を移し、そう言ったあと、レンズに映像が写し出される。

 その映像を空中にスクリーンの様に移し出した。


  「これは!」


  「・・・・・・」


 その映像にはまだ15、16と思われる子どもが【ABU】から逃げている映像だ。

 その後、何故か立ち止まり一息ついたかと思うと、【ABU】からの射撃に驚いたようにまた逃げ始める。


 「・・・コントみたいですね」


 と部下の1人が言う。 


 「静かにしておけ」


 分からなくもないが今はそのような空気ではないのでたしなめておく。


 「ここからです」


 ミリアの言葉で映像に注意を向けると、その少年がこちらに手を向けた。

 

 「何だ?」


 と思った次の瞬間ーー


 「なっ!!」


 「!」


 といきなり映像がブラックアウトした。


 「ここで破壊されたようですね・・・」


 今、映像で起こった出来事が衝撃的で、部下のほとんどはほとんど反応出来ないでいた。


 辛うじて主任だけが彼女に質問できた。


 「・・・どうやって今攻撃を?」


 「分かりません。ですが、並の使い手では無いようです」


 

 機巧師(マキナ)は【機巧武装(クラフト)】という専用の武器を使う。

 たが、この少年はそれすら見せずに【ABU】を行動不能にした。

 並の実力ではない。

 

 そう思っているとミリアが思いがけないことを言う。


 「主任さん。今から私はこの少年を不法侵入と器物損壊の容疑で捕まえます」


 「!?」


 

 「彼の実力は未知数です。下手に人員を送ると返り討ちに合う可能性があります。ここは私だけが行って捕まえる方が得策です」


 「しかし・・・・」

 

 こちらも都市の治安維持の仕事に誇りを持っている。危ないから、という理由ではい、そうですか、と任せる事が出来ない。

 

 そう言おうと改めて視線をミリアに合わせると驚きのあまり目を見開いてしまった。


 「お願いします。この都市の人々、国の人々の安全の為です!」


 なんと彼女は頭を下げてまで頼んでいた!

 

 特級機巧師(エクスマキナ)には単独で容疑者の検挙ができる権限があるので頭を下げる必要は無いし、捜査の主導権は特級機巧師(エクスマキナ)が持つのだが、無理に従えてもチームワークがとれず検挙に影響が出ることを理解しているし、更に現場を知っている人に敬意が感じられる。


 都市の安全の為にこんな下っ端にすら頭を下げる事に敬意を感じた主任は、

   

 「頭を挙げて下さい! 立場は貴女の方が上なんですから! ・・・・ハァ 分かりました。ですが我々もこの都市の治安維持を任されている身、我々も全身全霊職務を全うさせて頂きます」 


 すると途端に花も恥じらうような満面の笑みを浮かべ


 「ありがとうございます!」


 もう一度頭を深く下げる。

 そして直ぐにピシッと表情を引き締めて、警備隊の皆に指示を出す。


 「では私が容疑者の捜索確保、機巧警備隊の皆さんは情報統制や一般の人々の安全確保をお願いします」


 

 「「「分かりました!」」」

 

 「では、皆さん・・・」


  「「「「出動!!!」」」」



ーーーこうして阿澄鳴(あすみめい)がスパイ容疑で追われる事になり、波乱の異世界ライフの第一歩が始まる。


 もちろん、その事を本人が知る由などない。




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