1-8 光の矢 -Sky burial-

 グリフォンたちのミサイルの猛攻、しかし、ピラミッドは奇妙な光の壁を展開して傷一つ付かない。


『何だ、あの壁は……!?』


 モロ少尉が驚愕している。


 直後、機体が爆散した。


『少尉ぃっ!』


 ガナー大尉が悲痛な声で呼ぶ。


 機体がばらばらになりながら墜落していく。


 今の一瞬、ピラミッドから光の線が走った。


 ヴァンシール・レゼルのホーミング・レーザーに似ていた。


 俺は目が少し慣れていたから気が付いたが、ミサイルを主武装とした基地守備隊ではあれを見切るのは難しいだろう。


『来るぞ! 各機散開!』


 ガナー大尉が命じる。


 グリフォンたちが四方に散らばっていく。


 それを光の線が追う。


 まるで宙を飛ぶ無数の蚊を無数のレーザーポインターで追っているような光景だが、ピラミッドの四方の壁面にその照射口が数か所見受けられた。


 一つの壁面に五つ。


 頂点を結ぶと五芒星を描くのでイメージにすんなりと入ってきた。


 その頂点にマークを付ける。


 ここで照射口を狙いたいが、彼も俺もまだ手を出すべきではないと判断した。


 何かまだある。


 直感があった。


 あれだけの異様な巨体なのにあのホーミング・レーザーだけでは出力を持て余す。


 果たして、それは現実のものとなった。


 ホーミング・レーザーの檻で追い込まれたグリフォンたちに向けて、異形のピラミッドが主砲を放ったのだ。


 頂点のクリスタル部から眩い光が走って、巨大な線となった。


 撃墜は全部で八機。巻き添えで半壊した機体が三機。


『馬鹿な……』


 ガナー大尉が呆然と呟く。


 俺は手順を探っている。


 上からの攻撃は危険だ。


 中段からの突撃も恐らく無謀。


 となると――。


「大尉、下から俺が行きます」


 バーニアスラスタがある構造上武装と防御兵装を底面に備えるのは無理があると見た。


 ただ、下から回り込まれる前に撃破出来ると向こうは考えているはずだ。


 グリフォン相手では計算上十分に可能だと見込まれた、そんな所か。


 ヴァンシール・レゼル相手ではどうなるか?


 俺はそこに大いに興味があった。


『テスト機の性能があれの計算には入っていない、か。よし! 俺たちであれを引き付けるぞ!』


 ガナー大尉が乗ってくれた。


 守備隊が隊列を組み直す。


 士気は少しも落ちていない。


 俺は俺の仕事をしなければ。


 まず、ガナー機を筆頭に囮になった守備隊が異形のピラミッドの注意を上に引き付ける。


 その隙に俺は下から奴を目指す。


 奴の顔の一つがこちらを向く。


 気付かれた。


 間を置かずして下に位置する照射口から光の線がこちらに来た。


 機体の後方へ通過して見事に空振り。


 読めてるんだよ!


 一瞬早く加速が掛かり、ヴァンシール・レゼルは超音速飛行に突入していた。


 森の天辺を軽く撫でるように限りなく高度を低く保ちながら下から奴の懐に飛び込む。


 さて、あのでかぶつを一撃で沈めなければ。


 そういえば彼が提示した武装に面白いものがあった。


 あれを使おう。


 機体の前面に光が集まり、集束して尖っていく。


 それは巨大な矢じりであり、ヴァンシール・レゼルを推進力として跳ね飛ぶフレシェット弾とも言える。


 この強力過ぎる出力で分厚い合金装甲ですら貫通が可能だ。


 果たしてスペック通りの結果を得られるかどうか。



 着弾の衝撃は思いのほか緩く、十分に熱した包丁でバターを切り分けるが如くあっさりと抜いて見せた。


 空が青い、本当に青くて――。


 振り返って大地を見下ろせば異形のピラミッドが煙を吹きながら四つに避けていた。


 中央で連結を担っていた一機が粉々に粉砕してしまったのと内部からの爆発で連結部が裂けてしまったようだ。


 その残骸をグリフォンたちが嬲る。


 まるで鳥葬のようで、直視に堪えるものではない。


 だが、自分がやった事の始末だ。


 見届けなければならない。


 敗れた者たちへの敬意を忘れればただの野蛮人に成り下がってしまう。


 その志を感じたか、ヴァンシール・レゼルの心が小刻みに揺れた。


 これは歓喜だろうか?


 俺の心がそう感じ取っている。


 彼もまた戦いに誇りを求めるタイプらしい。


 そういう生き物で、そういう生き方だ。


 よく分かる。


 俺だって――俺もそうだ。


 途端に強烈な虚しさが胸中に湧いた。


 自分を地球人だと思っていた事を否定出来ない。


 今になってもまだ――。


 もし……もしフェルナンド大統領が地球に辿りつけたとしたら、俺はその時どうするだろうか?


 寒気を伴った疑問に俺は答えを用意出来ない。


 ここを去る事が本当に可能なのか?


 異形のピラミッドが消えていくのを見下ろしながら、俺は出口の見えない迷路を歩き始めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る