1-7 迎撃 -Griffon-
「機体の調整は済んでいます。これを」
ドクター・モンローが俺に麻の袋を手渡した。
「玉です。魔剣のカスタマイズに最適と思われる物を選んでおきました」
「ありがとう、ドクター」
俺はヘルメットを被って、首のボタンを押した。
しゅっ、と襟が閉まる。
シートに座って、袋の中を確認した。
薄明りの中で玉の輝きを見下ろし、それらを取り出す。
一つ一つ順番にレゼルの魔剣に押し当て、光になって消えていくのを確認する。
これで空いているスロット八つ全てが埋まったはずだ。
内容を確認したいが、今は一刻を争う。
シートが下りて、ハッチが閉じた。
レゼルの魔剣を挿し込み口に挿入し、モニターが点灯するや無線で通信が入った。
『大規模な敵編隊を確認。機種はセイレーンが四十、特定不能が五。先の戦闘と同じく民族解放戦線の戦力と推定。攻撃許可は下りております』
「了解」
俺は人型のヴァンシール・レゼルをリニアカタパルトに載せ、発進のタイミングを待つ。
『進路クリア。発進どうぞ』
「アツタニ少尉、発進します」
猛烈な加速Gが身体に掛かり、ヴァンシール・レゼルが大空に射出された。
空の青さに吸い込まれそうな感覚を一瞬味わい、機体のカメラ映像と視界がしっかりとリンクするのを知覚する。
『少尉、編隊を組めるか?』
無線で味方機から通信が入る。
俺は後方の灰色の編隊を確認した。
すぐ様後退させて、編隊の一翼に入る。
『各機、敵さんは一世代前とはいえ制式採用機だ。油断はするな。数的優位の編成を意識しろ』
通信しているのは基地守備隊隊長のガナー大尉だ。
先頭のグリフォンに搭乗している。
あれはE型のインターセプター仕様だ。
他もインターセプター仕様だが、C型であり、僅かに性能で劣る。
仕様書にはそう書いてあった。
『エンゲージまで後十秒。アツタニ少尉、俺の右翼につけ。モロ少尉、アロー編成左翼』
「了解」
『了解』
モロ少尉と両翼につく。ガナー隊が先行する。
『アツタニ少尉はテスト機に慣れていない。モロ少尉、カバーを忘れるな』
と、お荷物だと言われてしまった。
俺は多少むっとしたが、こちらの性能を正しく評価出来ないのであれば仕方がない。
これはドクター・モンローが守備隊に開示すべき情報を出し渋りしたつけが回っているだけだ。
しかし、でしゃばっては大尉の面子を潰す事になる。
ここは自分がカバーに回る事を意識した方が良い。
判断は早かった。
先制攻撃したガナー機のミサイルがセイレーンを一機撃墜し、そのまま敵編隊の下を潜り抜ける。
四機がこちらの尻についた。数的優位というセオリーを向こうもやってくるという事だ。
俺はヴァンシール・レゼルの両手の平を後ろに向けて、尻につく四機をロックオンした。
即時ホーミング・レーザー発射。
数条の光の矢が獰猛な蛇のようにセイレーンに食らいついた。
四機撃墜。
『いい火力だ! アツタニ少尉、アタッカーにつけ! ガナー隊ブイ編成』
ガナー大尉とモロ少尉が前に出る。
ブイの字の編成で、俺が攻撃の要になった。
ガナー機とモロ機が敵機をけん制する。
その間生じた隙に容赦なくホーミング・レーザーを叩き込む。
ロックオンしたのは七機。
撃墜も七機。
命中率百パーセント。
これは非常に参考になる情報だ。
彼から見せられた性能と実際の成績に寸分の狂いが無いという事だからだ。
十億年経とうが機体が少しも劣化していない事が証明されたのだ。
――機械ではあるけど、不死なんだな。
正しくは不朽と言うべきか。
そこが自分たち人造人間と似ている。
妙ではあるが、今はこの戦いを終わらせる事が先決だ。
俺はヴァンシール・レゼルとの呼吸を合わせ、マルチロックオンを試してみた。
電子音が小刻みに鳴り響き、全三十三機の敵機を全て捕捉した。
即時ホーミング・レーザー発射。
イルミネーションのように光の矢が踊り狂い、敵機が炎上、墜落していく。
『すげえ……一体どれだけのパワーが……』
モロ少尉が感嘆の声を漏らしている。
『敵が五機残っているぞ! あ、あれは……!?』
ガナー大尉の声で俺は撃ち漏らした敵機の異常に気付いた。
セイレーンではない。
特定不能とオペレーターが言っていた機体だ。
それが、上昇しながら分離、変形していく。
まさか、と思った。
よもや、と疑った時には想像したイメージがにわかに現実味を帯びていた。
そして、やはり、と確信した時それは正体を現した。
それはアクセル・ギアと呼ぶべきなのか判断のつかないものだったが、俺には何なのか理解出来た。
五体合体なんて――そのまさかが起こったのである。
それは人型ではない。
四角錐に似た巨体を無数のバーニアスラスタで支えた空中砦といった趣の兵器で、四方にそれぞれ顔が付いている。
『全機、包囲してあれを叩け!』
ガナー大尉の号令でグリフォンたちが異形のピラミッドに襲い掛かる。
俺はまだ手を出さない。
ヴァンシール・レゼルが警戒しているからだ。
身体が素直に同調していた。
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