1-9 役割 -Immortal machine-
ドクター・モンローと共にトルデの森基地を輸送機で出立して三時間。
カーブリング基地に着いて早々俺は作戦会議に呼び出されて、余所者ながら末席で基地司令の説明を聞いている。
「先の各基地攻撃で気が付いた者もいたと思うが、民族解放戦線が主戦力を動かし始めている。
これは昨今深刻化しているインフレに乗じた国家主権の簒奪を目指すものと推定される。
これを受けて各地で潜んでいたシンパの動きか活性化しており、ゲリラ活動によって街の治安が悪化の一途を辿っている」
と、説明をされて、俺は小さく頷いた。
この国に来た時にバセットに説明された事と符合する。
「我が軍の諜報部が掴んだ情報によると首魁であるケイヒル・アダーはアザス鉱山の廃坑を基地化して潜んでいるらしい。
この鉱山の岩盤は頑強で戦線が配置している対空対地兵装も厳重らしい。
そこで諸君等パイロットにはこれら防御システムを引き付ける役割を負って貰い、その隙をついて地上部隊が坑道への侵入を目指す。
これが本作戦の概要である」
つまり派手に敵の目を引き付けろという事か。
分かり易くて良い。
「ここに集められた諸君等は我が国のトップガンだ。
たとえ撃墜されようとも敵の砲台を一つでも多く潰して貰いたい。
では、時刻合わせを開始する。七、六、五、四、」
三、二、一、ゼロ。俺も腕時計の時刻を合わせた。
「発進は明朝○六○○、作戦コード『ビッグ・ハンマー』。
では、解散」
全員が席を立った。
我先にと出入口から出ていく。
俺も混じって出ていこうとして、肩を掴まれた。
振り返れば基地司令がいた。
確か、ジェットハマー中佐だったか。
アフリカ系といった容姿の少年だが、髭面で何処となく中年の雰囲気がある。
「君は残ってくれ」
ジェットハマー中佐が周囲を注意して見ている。
何か内々の話のようだが、トップガンたちに黙っていなければならない話とは一体なんだ?
やがて誰もいなくなると、ジェットハマー中佐が指で招いて付いてこいとジェスチャーした。
俺は黙って後に付いて行き、早く睡眠を取りたいと脳内でぼやいていた。
連れて行かれた先はどうも中佐のオフィスらしい。
基地司令らしく調度品にも気を遣った贅沢な部屋だ。
彼は椅子に腰かけると、デスクにファイルを放った。
やや滑って中頃で止まったそれを俺は見下ろす。
それは……俺のファイルだった。
「君はほとんど部外者だ。
本来であればここに立っている事すら罪に問われるべきなのだが、大佐の肝いりだからこうして話をしている。
そこを理解して欲しい」
「はい」
俺は冷然と返事をした。
これからまずい話をする。
そういう空気がある。
「これから話す事は決して口外しない事。
まずそこを約束して欲しい。いいかね、少尉?」
「はい」
ジェットハマー中佐は深く息をついて、額に手を当ててしばらく黙り込んだ。
俺は固唾を呑んで佇立している。
「本作戦で地上部隊が標的の確保に失敗した場合、大佐は核を使うおつもりだ」
それを聞いて、俺は頭の中が真っ白になった。
「……核? 核って、核の事ですか?」
馬鹿みたいに聞き返して、俺はジェットハマー中佐の目を見つめる。
「核兵器だよ。
短距離弾道ミサイルで全てを焼き払う。
リスタートしたアダーが何処に出現するかは把握している。
意味は分かるだろ?」
「ああ……」
理解出来た。
強制的にリスタートさせて、そこを捕縛するというのが本作戦のプランBなのだろう。
「君の乗っているあのテスト機。
あれは我が国の財産だ。
他に替えが利かない。
本作戦に参加させるのはあくまでデータ取りが目的だからだ。
決して失うわけにはいかないのだよ」
「じゃあ、他のトップガンと地上部隊は……」
俺が詰め寄るとジェットハマー中佐は額の前で両手を組んでため息をついた。
「捨て駒……になる可能性もある」
「馬鹿なっ!」
俺は怒りをぶつけて、中佐に掴み掛かるか考え始めている。
「彼等はリスタート出来る。
君もリスタート出来る。
しかし、ヴァンシール・レゼルは出来ない。
いや、かも知れない、か」
「かも知れない?
何を言っているんです?」
「ドクター・モンローは言っていないだろうが、あれは不死のマシンだ。
我々と類似する点が多い。
というより我々があれに似ているといった方が正しいのかも知れない」
「そいつは……」
何となく理解し始めている。
中佐が言っている事は正しい。
「我々よりもあれは先にこの地にいた。
それが指し示す事実を確かめるためにもあれを失うわけにはいかない。
我々全員の命よりもあれは重いのだ。
それを託された君の責任の重さを自覚して貰いたかった。
私が言いたかったのはそれだ」
この国の人たちの事情だ。
俺が勝手な行動をすれば台無しになってしまう。
理解出来た。
「アツタニ少尉、任務を拝命致しました」
姿勢を正して、顎をやや上げる。
「話は終わりだ。
明朝の作戦には遅れずに参加したまえ。
指示は随時私から直接与える」
「了解。失礼致します」
俺は中佐のオフィスを出て、宿舎に足を向けた。
大変な任務を与えられている。
改めて痛感したが、自分にしか出来ない仕事だ。
明日の作戦に備えよう。
プランBにさせなければ良いのだ。
そのためにはプランAかもしくは――。
そこから先は神様と賭けをしなければならないだろう。
既に
その中での俺の役割――一つ試したい事がある。
俺なら多分出来る。
彼となら上手くやれる。やって見せるさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます