6-2 カゾの壺 -Mystery pot-

 『カゾの壺』という名を聞いたのは初めてだった。ロメウス会長から入手を依頼された品だが、神話に少しだけ名が出てくるような物で実在するかどうかもはっきりとしない。これは分野で言えば考古学で剣術一筋の俺にはまったくちんぷんかんぷんだ。というわけで専門家の知識を借りる事にした。メモ教授のオフィスを訪ねた。


「ふーむ……やはりセランカで手掛かりを探すしかないようだな。この地図を見てくれ」


 テーブルの上に広げられた地図は飴色になるほど古いものだが、まだしっかりと線や地名を確認できる。


「これは今から二百年くらい前のものだが、当時あった世界大戦のお蔭でこの辺り一帯の地図が塗り替えられたんだ。ここだ」


 メモ教授が地図の中頃を指差す。サンメイリングという名の街のようだが。


「セランカは当時サンメイリングと呼ばれていた。そして、古代ではここら一帯は暗黒域に囲まれた地域だったんだ。古くはレイデスと呼ばれていたんだよ」


 俺はぎょっとして、地図をじっと見つめてしまった。地図の北側に小さく寺院らしき物が描かれているが間違いない。かつてエトハールと一戦交えたあのレイデスだ。


「私はレイデスに行った事はないが、ポーカー仲間がトレジャーハンターたちにカモにされた話にその名が出てきたのを覚えている。その連中に繋ぎを付けられるか当たってみるかな」


「いえ、教授。適任がいますよ」


「適任? 誰かね?」


「エトハールですよ。俺がレイデスからここに連れてきたんです」


「君」


「どうか内密に。彼女もわけありで……」


 俺が曇った表情でうつむくと、メモ教授は呆れたように息をついて、肩を叩いてくれた。


「とにかく手掛かりは掴めたというわけだ。エトハール君にも同行して貰うとして、問題は品物の方だ。この条件の欄を見ろ」


 メモ教授がカタログのページを指差す。ミラーズの出品ナンバーS978『古い剣の柄』落札条件その6『カゾの壺(相当経年の物に限る)』。


「つまりレイデスの宝物庫にあった当時の物では駄目だという事だ。現在と時差の無い物を入手しなければ条件をクリア出来ない」


「では、やはりセランカですね」


「うん。出発の準備をしてくれ。一時間後にエトハール君と塔の前で待っているよ」


 そういう事になった。期せずしてレナンの不死鳥事件と同じメンバーで臨む事になったが不安は無い。ただ、このカゾの壺というのがどうも引っ掛かる。

 『取扱い注意。現実に帰って来られなくなる危険性があります』なんて書いてあるのだ。一体どんな壺なんだか。エトハールに話を聞ければいいのだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る