第六章 ソード・マーケット

6-1 入会 -New face-

 俺は今ヴィレンカントの衛星都市であるノーザンニースにいる。シュレイ夫人の仲介でここに寄越されたのだが、先方のたっての願いとの事で断り切れず、仕方なく顔を出した次第だ。この高層建築に本部を置くその組織の名はロメウス剣の友会というらしい。ガブリエルに聞いた所非常に格式高い歴史ある組織との事だった。俺は生後二か月程度なので勿論知らない。向こうは俺の事を知っていた。布是流の皆伝を許された先輩方は皆、ここの会員で先日のレナンの不死鳥騒動で名が売れたお蔭でとうとう俺にもお鉢が回ってきてしまったらしい。


「シドウ君、ここからの眺めは素晴らしいですね」


 同伴ありで、だが。リストは呼ばれたわけではないのだが、資格を有していたとかで、シュレイ夫人が先方に口利きをしてくれたらしい。ここは剣士のみが入る事を許される会で、条件は『神秘の剣』の所有者である事。俺は知らなかった事だが、リスト・ブレイズ(本体)は聖剣を秘匿していたらしい。フレイジェッタとリストはその剣を呼んでいるが、今腰に差しているそれだ。両刃の一般的なサイズの直剣なのだが、刀身が朱色で向こうの景色がやや透ける。柄の金の装飾が見事で観賞用としても逸品なのは俺の感性でも理解出来た。


「会長がお会いになります。どうぞ」


 犬みたいな顔の少年がドアを開けてくれた。俺は中に入って、広々とした空間に並ぶそれに唖然とした。剣が並んでいる。透明なケースに入って整然と綺麗にディスプレイされて。しかも、全てが魔剣や聖剣だ。どうもここの会長はかなりの収集家らしい。


「よく来た。ヴィレンカントの勇者たち。私がロメウス剣の友会会長のロメウス・シッテンハイトだ」


 青い髪のサングラスの少年が歩み寄ってきて、俺と握手する。がっちりと。随分と押しの強い人だな、という第一印象を受けた。顔を見上げると随分と独特なヘアースタイルでロックの人だな、という感想も湧く。


「では、早速だが……食らえ」


 ロメウス会長が突きを繰り出してきた。剣で、五度。俺は二回見切って、三回指で軌道を逸らした。全てスローモーションのように見えている。剣も横から見ればただの鉄の板なので、触れるタイミングさえ掴めば指一本でこの通りだ。


「ふむ……結構」


 ロメウス会長は非情に満足した様子で、口元に笑みを浮かべた。その視線がリストに向く。


「そちらのレディがリスト・ブレイズか。美人だな」


 ロメウス会長は愉快気に笑って、剣を放り投げた。スタンドに立てられていた鞘にすとりと納まる。


「随分と……結構なお手前で」


 世辞抜きで言うのは何時以来か忘れたが、俺はロメウス会長に敬意を表した。


「照れるねぇ。実際力量で言えば、私は君から見て六割程度だろう。経験値でのみ勝っている。この意味が分かるかい?」


「上手い、という事ですね?」


「いいね! センスがある!」


 俺の即答にロメウス会長は上機嫌の様子だ。こんなに陽気な人だとは思わなかったが、俺も大概だからおあいこではあるか。


「今日は俺たちに入会の勧めをして下さるとか」


 俺はシュレイ夫人から聞いた本題を切り出した。


「ああ……実はそっちはついでなんだ」


 おっと! トラブルの予感がしてきたぜ。


「ぶっちゃけるとちょっと困っていてね。笑えない話なんだけど聞いてくれ」


 顔をしかめながら笑うロメウス会長は困惑する俺に遠慮もせずにわけを話し始めた。


「オークションがある。ここから西に二百キロ行ったテルンオーズという都市で開かれるオークションだ。珍品名品はここで手に入る。そんな街でも指折りのオークションハウス『ミラーズ』にある品が出品される。これなんだが」


 と、出されたのは一枚の写真で、やけに古ぼけたセピア色だが、物が何なのか分かる程度にはまだ劣化していない。


「柄……ですか?」


「ああ、柄だ。これは史上最も栄誉ある英雄が愛用していた剣の柄で、元々私のコレクションだったのだが、かなり昔に盗まれてね。ようやく市場に流れてきたというわけだ。話の流れは掴めたかね?」


「つまり買い戻しですね?」


「そーなんだよ。どうしても取り戻したくてね、これ。まあ、ただ金を積めばいいというのであれば足を運ぶのもやぶさかではないのだけれど、ちょっと条件厳しくてね」


「というと?」


「金……じゃないのよ、これの落札条件」


「物……ですか?」


「ビンゴッ! 君たちに依頼したいのはこれの落札条件である品物の一部の入手。これ、それにまつわる情報ね」


 ドン! と両手に段ボールを持たされた。結構重い。


「ある程度情報は絞ったが、それでもこの量になった。何しろ伝説級の品物でね。レナンの不死鳥騒動を収めた君たちならと白羽の矢を立てたというわけ」


 期待しているよ、とウインクされた。何となく俺はこの人に良い印象を抱いてしまった。ややふざけているのは頂けないと思うが。部屋を出ようとドアの方を向いて、俺はふと振り返った。

 俺、この人を知っている気がする。何故だか知らないけど、そう思うんだ。

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