5-9 懺悔 -Pray for forgiveness

「汝、聖都をレナンの不死鳥より救いし勇者。ここにネラの神の祝福の下で聖アルベリウス教皇騎士団勲章を授ける」


 ネラ教の教皇陛下から勲章を賜った。俺は騎士団の制服を身に纏って、これを謹んでお受けした。


「今宵はささやかながら宴を催した。皆で祝い。皆で喜ぼう」


 教皇陛下がお声をお掛けになると列席していた聖職者たちが諸手を挙げて俺を祝福してくれた。最前列にいるリストとエトハールとメモ教授も祝福してくれる。俺は勲章に手を添えて、軽くお辞儀をした。


「さあ、行って上げなさい、若い騎士よ。今宵は楽しむと良い」


 教皇陛下が目礼なさる。俺も目礼を返し、檀上から降りた。


「おめでとう、シドウ君!」


 リストが胸の前で手を組んで祝福の言葉を贈ってくれた。


「ありがとう」


 俺はリストに笑顔と感謝の念を返し、エトハールに視線を向ける。


「おめでとうございます! まさかレナンの不死鳥を撃墜するなんて……随分とレベルアップしていたんですね」


 素顔で祝福の言葉を贈ってくれたが、元々素直じゃない性格の所為か、あまりまっすぐこちらを見てくれない。でも、嬉しい。


「ありがとう、エトハール」


 感謝の言葉を贈ると、エトハールはつば広帽子を被ってしまった。


「いや、大したものだ。古竜ザーヴァを倒したというのも頷けた。君の栄誉を聞いて、学院も大いに沸いているらしい。戻ったらまたパーティーだぞ? 覚悟しておきたまえ」


 メモ教授が肩を叩いてくれる。俺は小さく数回頷いて、笑顔を返した。


「しかし、惜しい事をしたな。レナンの不死鳥の内部に死者の書がデータ保存されていたとあの神殿の端末に記録されていたが、あれではもうどうしようもない」


 メモ教授は肩を落として、幾らか元気を失ったようだ。


「でも、それは写本だったんじゃないですか? もしかしたら原典がまだ何処かにあるかも」


 俺が何気なく言うとメモ教授はにやりと笑った。


「やはり君もそう思うかね? 私もだ。まだ諦める必要はないよ。きっとある!」


 メモ教授復活! やはり人間こうじゃないと、というくらいメモ教授のモチベーションのあり様には頷けるものがあった。


「シドウ君、少しパーティーを楽しみましょう」


 リストが俺の手を引く。聖職者たちが笑顔で退いて道を作ってくれた。俺はリストと共にパーティー会場へ向かう。今日は思い切り楽しもう。




 夜も更けて、皆がお開きと帰り始めた頃に、俺は聖堂の長椅子に腰掛けていた。何となく一人になりたくて、リストもそれを許してくれたので、ここで静かに夜を過ごす。ふと横を見ると小さな個室があった。懺悔室だろうか? 明かりがついていて、神父が在室であるらしい。俺は突然懺悔したくなって、個室に入った。席に着いて、カーテンを開く。格子の向こうで誰かが息をしている。


「どうぞお話しになって下さい」


 少年の声だ。随分と研鑽を積んだのか厳かな感じがする声だった。


「神父様、俺は秘密を抱えています。大きな秘密です。俺が生まれた村は皆が他の星から連れて来られたと信じ込まされていますが、実際は村の地下の生産プラントで造られた人造人間なのです。それを教えてくれた人たちを俺は死に追いやってしまって……ずっと悔やんでいます」


 ここは秘密を守ってくれる場所のはずだから遠慮を失くしてしまっている。


「その方たちのために何かをしましたか?」


「出来る限りの事を。危険な仕事で得た大金を慈善事業にほとんど全部投じました。子供たちは幾らかましな生活を送れるようになったと思います。これからも志を失わずにやっていきたいと思っています」


「それは大変良い心掛けです。良いですか、その心の痛みを忘れずに生きていきなさい。君ならそうしてくれると私は信じていました」


 ぎょっとしてしまった。俺は個室から飛び出して、神父側のドアを開けた。中には誰もいない。でも、カーテンが僅かに揺れていた。誰かがいた。いたはずだ。


「は……そういうのずるいぜ」


 俺は笑ってしまった。あまりにもおかしくて、あまりにも不思議で。やはりこの人の死の香りを感じられる都には特別な何かがある。それを見る事が出来て満足だ。


「リストに話さなきゃ」


 たった一人心を打ち明けられる女性の下へ。俺は夜の聖都を鼻歌交じりに歩いていった。

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