影の街

はるみや

プロローグ この先は最果ての世界

大きくて黒いものが横切った。

犬か、あるいは猫か。

それを確認しようと、来た道を振り返る。

しかし、そこには何も無かった。誰もいなかった。何も、誰も。


もう一度前を向いた。

そこには大きな大きな街があった。ここがどこの街なのか、分からない。

けど、立ち止まったままでは埒が明かないので、足を一歩前へ出す。あとは少しずつ、勝手に足が動いてくれた。


暫く歩くと、大きな扉がそびえ立っていた。

扉に手をかけようとした刹那、雷鳴が轟く。

白い閃光が、暗い街を明るく照らした。後ろを振り返る。誰もいない、何もいない。真っ暗な、孤独な、ひとりぼっちなはずの街。

その街外れに、誰かが立っていた。

目を見開いた。

口を開こうとしたが、なかなか言葉が出てこなかった。

何分かして、出た言葉は




「――――!」






――



ヒュー、ヒュー、という喘鳴と、時折漏れる苦しそうな嘔吐き。

髪の毛は汗でおでこや頬、首に張り付いている。

身体の内側からは燃えるような暑さ、外側からは凍えるような寒さ。

熱は四十度を超えている。


誰かが呟いた。



「この子はもう……」



誰かが怒鳴った。



「ふざけるな! この子は大事な子供なのだぞ!」



ふいに、ジュワ、ジュワ、と、肉が焼ける音がした。

みんなは目を見開いた。

さっきまでは青白かった肌が、少しずつ、少しずつ黒くなっていく。



誰かがこう叫んだ。






「――“黒影病こくえいびょう”だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

影の街 はるみや @ffharuka33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ