第1話

スーツを着た男性が前から歩いてくる。

私を横目に見ながら、通り過ぎた。


先程まで周りにいた、同じ制服の高校生はもういない。

だいぶ前から見慣れてしまった道を歩く。

電車の走る音が聞こえる。


あぁ、また。

大きく息を吐き出した私は、駅とは逆の方向に歩き始めていた。


学校に間に合う最後の電車の音が聞こえなくなって、しばらく私の足音だけが響いていた。


学校に行けなくなって2ヶ月が経つ。

電車が出発するのを駅から見送るのが日課になっている。


いじめられているわけではない。

何か辛いことがあるわけでもない。


しかし学校に行こうとすると目眩がする。

動悸が激しくなり、息苦しい。


もう一度大きくため息をした。


スカートのポケットに入っているスマホが震えた。


優花からのLINE。

『今日は来れそう?

いつでも待ってるからね!』


名前の通り凄く優しい、お花みたいに綺麗な子だ。

優花の事は好きだ。

大事な友達だ。

でも学校に行けなくなった一番の原因だ。


「…不登校の友達を励ます女神様と、」


言葉が詰まる。

私は例えるなら何だろう。

目尻から涙が溢れる。


「あぁ、また。」


小さく呟いて足を止めた。

足元に泥で茶色くなった雪が薄く積もっていた。


「きれい」


落ちた涙がほんの少しだけ雪を溶かした。



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