第22話 博人&お爺様
別室では、クリニックのシェフだけではなくドイツからオーストラリアに帰郷してきたシェフも混じって作っていたせいか、豪勢なメニューが勢ぞろいしている。
日本料理、中華、イタリア料理、ドイツ料理等々。
デザートも豊富だ。
日本料理のブースでは、天ぷらに寿司が並び、そして飾り模様を刺したキュウリだ。天ぷらは、ドンであるトモが揚げた。だが、刺身のネタ捌きは博人だった。
人前で披露するのが苦手な博人なのだが、この時は違っていた。
自分から言い出してきたのだ。
理由は、これだった。
「食べ飲みして楽しむのも良いが、お爺様が居るからな」と。
未だに、16年前の事を根に持っているみたいだ。
でも、自分の後にある小テーブルには、各々のブースからチョイスしてきたメニューが置いてある。自分の食い分は、しっかりとキープする。
ちゃっかりしている博人だった。
すると、声が掛かってきた。
「こんな珍しいのを見るとは思ってもなかったな…」
声のした方に目を向けると…、
「げっ…。お爺様?」
呟きが声になっていた。
「キュウリ2つと、ツナを二貫もらおう」
「はい…」
「ほう、良い捌き方だな。 …うん、このツナ旨いな」
キュウリ一つに飾り模様を刺していた博人は、残りの一つには模様ではなく、文字を刺した。その場で食べようとしていた『御』は飾り模様に目を瞠り、文字を見て優しく微笑んだ。
「お前も、達者でやれよ」
そう言い残して、違うブースに移って行った。
『御』のお供として一緒に来ていたフランツは、キュウリを持ったままなので声を掛けた。
「食べられないのですか?」
「これは、博人が刺したんだ。フランツ、見るかい?」
フランツは、『御』の掌に並んでいるキュウリ2つを見た。
1つにはバイオリンの模様が掘られていて、もう1つには文字だった。
『フランツと、いつまでも元気で』と。
フランツは嬉しそうに言ってきた。
「良かったですね。ヒロト様は、元々お優しい方なので和解は近いですね。
今は、反抗期かもしれませんね」
「ふふっ…。反抗期、大いに結構。これは食べずに持っとくよ」
「それなら、何かで包みます。袋でも貰ってきますね。それと、もう一つ。よろしいですか?」
「なんだ?」
「今回の原因は、『御』にあるのですからね。騙し討ちの様にして、ヒロト様をドイツに来させた。それが元なのですから。だからヒロト様が怒られるのは当然の事です。ご自分でも、しっかりと自覚なさって下さいね」
フランツは、痛い所をツイてきた。
あれだけ量のあった料理が、2時間も経てば完全に底をついた。
そして、第二陣のデザートが並んだ。
デザートに目を輝かせたのは言うまでもない、女性陣だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます