第19話 人事決定

 翌日、カズキは夜勤明けから戻ってくると、その話を聞かされたのか、目をキラキラとさせて言ってくる。

 「これで安泰だねっ!」


 バキッ…と、何かを折ってしまったみたいだ。

 何が安泰だ?

 連絡を貰ったのだろう、ジュンヤからメールが着た。

 「ボスッ!凄い出世じゃないか。おめでとう!

 私のモデル業も、あと1本で終わりなんだ。

 来月に入ると、そっちに行くから。待っててね~」


 サトルからもメールが着た。

 「おめでとう、ボス!ユタカから連絡貰った。

 私の父や2人の兄も、嬉しそうにしてるよ。

 日本と同盟を結ぼうね。

 ボス、じゃなかった…、ドンだね。よろしく!」


 もう何も言わない。

 サトルは父親に言ったのか、あの御に…。

 しかも、2人の兄にまで。

 はぁ…と溜息を吐いて、1人しんみりとしていた。

 あの9人が、また来るのか。


 そして4月。

 エドワードは、ユタカの作った家紋を登録して、フクヤマ家を公に広めている。

 いつの間にか管制塔にはパイロットだけではなく、リペアマンも増えている。

 エドが教えてくれた。

 「彼らはドイツに居たのだが、オーストラリア国籍の奴等だけ帰郷してきた。

 パイロットも2人が4人になったし、リペアマンも2人が6人になって賑やかになった」と。

 それに、ガードマンも3人が帰郷してきたし、コンピュータ技師も2人が帰郷してきたらしい。


 「そういえば、バトラーは誰にしようかな。

 ヒロには無理だろうな、あいつは天然なところがあるから向いてないな…」

と呟くエドワードに言っていた。

 「エドワード」

 「なんだ?」

 「バトラーは私が決める」

 「いいけど、適正というのがあるぞ」

 トモは、1月からずっと黙って見てきたのだ。

 「私のバトラーは、エドワード・ジョンソンだ」

 エドワードは、ブツブツと呟いていた。

 エドワード・ジョンソンね。エドワード…、エドワード・ジョン…ソン?

 「トモッ!」

 トモは即答した。

 「今回の件については、ずっと黙って見てきた。その結果だ。

 エドワード・ジョンソンという人物は、人に命を出すだけではなく、細かなところまで気配りが出来て、自分でも動きたがる。

 それに、適正があるかないかは、私が決める。

 バトラーという立場の人間は、裏のボスとも成り得る人物だ」


 にっこり微笑んで、トモはエドワードに言う。

 「エドワード・ジョンソン。私は、おだてあげられて、それに乗っかるような軽い人間ではない。それに、お飾りの人間でもない」

 エドワードは、そのトモの表情や口調から、会ったばかりの頃のレディを思い出していた。

 『エドワード・ジョンソン。私は、見てくれのような軟な人間ではないわよ』

 呟きが、声に出ていた。

 「ふ…。さすが、あのレディの子供だな」


 トモは、エドワードにきっぱりと言った。

 「エドワード・ジョンソン。私をドンとして崇めようと思ってるのなら、私に従ってもらう。私のバトラーとして働いてもらう」

 エドワードは厳かに応じた。

 「喜んで」

 そして、エドは気になってた事を言った。

 「それならヒロはどうしよう…」

 トモは即答した。

 「ヴァレットで良いよ」

 その言葉に笑っていた。

 「わはははっ…。それ良いかも。思う存分、こき使ってやれよ」


 エドワードは、内心では驚いていた。

 (さすが、御の見立てた奴だ。トモは、御より上の人物になるだろう。

 ドイツとは違い、ここにはユタカが居る。全世界に顔が利く奴だ。

 しかもドーベルマン相手に愚痴るし、恋人はヒロだし。人間味溢れるドンだな。

 マルクも、あそこではなくここに居たら少しは性格が違ってたかもしれないな)


 しかし、私がバトラーね。

 フランツの様な恰好をするのか。

 憧れてたんだよな、あの服装に。


 数日後、エドワードの手元にスーツケースが届いた。

 上質な黒の上下が10組と白のインシャツが20枚に、リボンタイも20本ある。

 バトラー用にオーダーメイドをしたスーツだ。

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