第18話 マザコンの出来上がり(笑)

 ふいに、お母ちゃんの歌詞が頭の中に出てきた。

 『これから始まる物語  今までの事忘れよう

 辛い事も 苦しい事も 

 嬉しい事も 全部

 忘れられない事もある

 それは 時間(とき)と いうものしか 無いんだ


 ゴロゴロしろよ

 泣いても良いんだ

 布団に潜って ふて寝すればいい

 それは 生きている証拠さ  

 喜びと不安を 胸に秘めて 私達は旅立ちます

 色んな事をしていき

 そして 強くなっていきたい


 いつの日か 自分を好きになれるように

 今日から また 踏み出します 』


 そうだね。

 忘れられない事には、時間しかないよね。

 その時、友明は分かった。

 『いつの日か 自分を好きになれるように

 今日から また 踏み出します 』

 この部分は、そのままを考える事では無い。

 好きになるという事は、自分の事を心ごと受け止めるという事だ。

 過去も含めて…。

 だから、9年間苦しんできた分、あと9年間は受け止めるのに必要な期間だという事か。


 何故、オーストラリアだったのか、それも分かった。

 居心地が良い、と言ってた。

 だから、オーストラリアだったんだ。

 お母ちゃんは、克服なんて出来てない。

 だから一緒に付いて来た時は睨みはしたけれど、文句は言ってこなかった。

 お母ちゃんは1ヶ月半という期間だったけれど、パースに居る間は1人での時間だった。本来の自分で居られる為の時間だったんだ。


 東京に住んでた時はどうだったのだろう。

 福岡に移ってからは、お父ちゃんは1年のほとんどを東京で過ごしていた。

 だけど福岡では子供3人が居て、うっとおしかったのだろうか。

 自分の血を引いてない子供が3人だからな。

 お母ちゃんのことだ。

 完全に、1人になりたかったんだな。

 それか、誰も気軽に来たがることのない所に行きたかったか。

 だから、オーストラリアだったんだ。


 お母ちゃんのバカ。

 時間が掛かれば掛かるほど、独りぼっちだという思いがあったのだろう。

 だから、誰も知らない所に行って、1人になっていたんだな。


 少しだけど、涙が出た。

 お母ちゃん。

 私や優人は知ってたんだよ。

 香織は知らないと思うけれど、言う気もないから安心して。

 生みの母親なんて知らないし、必要ない。

 私の母親は、昔も現在も、これからも、お母ちゃんだけだよ。


 康介。

 来世で会う時があれば、その時も、私の親友になって欲しい。

 私は、もう大丈夫だよ。


 博人さんを、力いっぱいに押しのけてやる。

 「重いっ!」


 だけど動かないので、なんとか位置を変えようとした。

 苦心の末、やっと動いた。


 ゴロンッと半回転させると乗っかってやる。

 今度は、私が博人さんの腹の上に乗っかる番だ。

 布団を首元まで引き上げると、博人さんの身体と布団に挟まれて眠りについた。


 「お母ちゃん、大好きだよ。

 私は、昔も現在も、これからもマザコンではないからな!」と、強く強く念じていた友明でした。




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