第一章 出会いの記憶-①

僕こと島内啓人と彼女こと白浜友理が

出会ったのはこの街からとおく離れた

東北のとある街でのことだった。

それは今からちょうど10年前、僕達が

10歳の年のことだ。

その日は52年ぶりの最低気温を更新する

だろうと天気予報が言っていた。

確認のために外に出てみると確かに寒かった

10月なのにあたり一面は銀世界で

晴れているのに雪が降っていた。

...今日も学校なのか。嫌だなぁ。

と思いながら僕は教科書を鞄にしまう。

朝飯を自分でささっと済ませ東京時代から

よく見るアナウンサーの顔と声を聴きながら

僕は小学校入学から住んでいる祖父母の家を 出た。 僕の両親は僕のもとにはもういない

父親は自らが設立したベンチャー企業の社長

で、その会社の株の65パーセントの株を所持していた。

常に新聞の株価欄をじーっと見ていて

ニュースの株価のコーナーになると

テレビの音量を大きくしていたような気がする。

母親は都内にあるケーキ屋のパティシエール

をやっていた。それでなのかは不明だが

僕の家はスイーツや食べ物には苦がなかった

僕も幼い頃はスイーツが大好きだった。

そんな二人が離婚したのは小学校入学前の

3月だったような気がする。

それから僕は両親の消息を知らない。

そして聞く気もないのである。

そんなの知らなくていいと思ってるからだ。

風の噂では母親は自分が働くケーキ屋の

オーナーと再婚したとかしないとか。

とにかく僕の両親のことはどうでもいい

話を友理との出会いに戻そう。

祖父母の家から小学校までは徒歩で15分程

その登校中のことである。

学校の前にとんでもなく車の通行量の多い

道がある。その道を渡らなければ学校に入ることは出来ない。そして学校の前に横断歩道がない。

その道を僕は渡ろうとした。その時だった。

道の反対側から小学生くらいの少女が

道を渡ろうと出てくる。そこに白いセダンが

スピードを徐々にあげて迫ってくる。

僕は何も考えずに少女を助けようと走り出した。

車はさらにスピードをあげ少女に気づかない

のか少女に近づく。

もう間に合わないと思った刹那。

『あぶない!』

僕の体は少女に向かってぶつかっていた。

否。僕が意図して彼女に体当りしたのだ。

車はものすごく大きな音でクラクションを鳴らしながらスピードを落とさずに去っていく

僕は車の運転手を睨みつけた。その男は

なぜだか僕に笑いかけて去っていった。

「ぶつからなかった?大丈夫?」

「私の不注意でこんな事になってごめん」

「大丈夫だよ!僕は何とも思ってないって」

僕は顔を顰めながら彼女に笑った。

「...体を張ってまで私を助けてくれてありがと。私この恩一生忘れない。」

「そこまでにならなくていいよ。なんなら僕のことすぐに忘れていいから。僕そろそろ学校に行かなきゃならないんだ。」

すぐそこの学校の時計を見たら8時25分

始業5分前だ。「私も学校に行こうとしてたんだけど。私引っ越してきたばかりで小学校をずっと探してたんだけどさ。この学校ってどこ?」彼女はメモ用紙を見せる。

「...どれどれ?ああ。この学校なら君のすぐ後ろだよ?そして僕もその学校に通ってる」

「え?うそ?もっとこう。こじんまりとした奴じゃなくてこんながちな学校?」

「田舎を舐めてもらっちゃ困るよ。」

「そうだよね。田舎だからって学校がこじんまりとしてる訳じゃないよね。」

そうだ。田舎とはいえこの街の人口は20万人。ちょっとした地方都市だ。

そして僕の目の前。彼女の真後ろにある

学校はこの街唯一の小学校だ。

人口20万のうち3パーセントしかいなかった

小学生のためにはこの学校一つで充分だというこの街の市長や市議会の連中の意図で

その年の5年前から学校は統廃合を繰り返し

小学校はこの街でこの一つ。中学校は

この街で二つしかなかった。

「そう言えばまだ君の名前を聞いてなかったね。今日のヒーローと言い続けるのも何だか煩わしく感じるからね」

「...僕の名前は島内啓人。君は?」

「...私の名前は白浜友理。よろしくね。ヒーロー君。」

その呼び方は本当にもうやめて欲しかった。

だけど僕はその時素直に嬉しくて雪が積もる

車道の上でゲラゲラと笑った。それに釣られて彼女もクスクスと笑った。

それが僕と彼女の出会いの記憶である。

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