遠ざかる君の近すぎる記憶

涼宮蓮

プロローグ

僕が住んでいる家の固定電話が鳴った。

誰だろう。固定電話にわざわざかける友人

なんていない筈だ。

表示されている番号に僕は納得がいった。

―― 娘が危ない。だから来てくれ。

5コール目で電話を取った僕の声を聞き

低く、そして憔悴したような声がそう伝えた

思った通りだ。と僕は思った。

僕は靴を履きダウンジャケットを羽織って

僕の家を出て戸締りをきちっとして

車に乗った。

電話で言われた病院へ向かい冷静な調子で

目的の人物がいるという2階の集中治療室

へ向かった。

その扉の前の椅子で電話の男が肩を落として座っていた。

「それで。現在どうなってるんです?」と

僕は冷静にその男に話しかけた

すると男は冷静な声にびっくりしてか

小さい目を精一杯大きくして

中にいるという彼女 白浜友理の状態を

ざっくり説明した。

それから数時間は無言で執刀ランプがついた

その扉をじっと見つめた。

執刀ランプが消え執刀医が出てきた。

「最善を尽くしましたが...」

男、もとい彼女の父親は獣の咆哮のように

大声をあげて泣いた。

僕は最後まで涙が出てこなかった。

そんなことを彼女が願っていたのを

僕は知っていたからだ。


この物語は僕が彼女といた

出会いから今日の別れまでの

遠ざかっていく彼女の近すぎる記憶の物語だ

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