誰かが迎えた最終章
「ああ……何故……こんな事に……」
そう弱弱しく、少年は頭を抱えて膝を地についた。
「どうして……ああ……どうして? 」
泣きじゃくる少年は、そこに横たわっていた同い年くらいの少女を強く抱き締めた。その拍子に少女の腕がダラリと垂れる。
「トモ……ああ……トモ……こんな、こんなはずじゃなかった……
私が……私の所為なのか?
私が、君を愛したから? 」
彼は腕の中で血の気を無くした少女の顔を見つめる。少女はまるで眠っているかのように穏やかな表情だった。白い肌が、赤い石を飾った首飾りにより強調されている。
「彼女が、彼らに何をした? 鬼神族から世界を救った英雄……彼女こそ彼らが待ち望んでいた勇者ではないか……」
その顔に、幾度も幾度も少年の涙が流れ落ちる。
「魔王など最初から存在すらしていなかった。いや、在るとするならばそれは一過性の決断に縛られた民衆の心だ。
そして、それを諌めるべき存在、神も初めから存在などしていなかった。
どちらも架空の中で人々を動かす具現せぬ、概念に過ぎない……
……ならば――」
涙が止まったその瞳から、夥しい鮮血が溢れだす。
「ならば――そのどちらにも私が成ろう。
この先――。
ヒューマもニュータも、この先どの様な繁栄を遂げようとしても。それを阻止する強大驚異の存在、魔王と私はなろう。
そしてその脅威に救いを求む、高潔な存在。
神にも……」
そして、壊れぬように少女を優しく地に寝かせると、鮮血に塗れた狂気の瞳を空に向けて睨みつける。
「この様な哀しみは続けさせてはいけない。
――私が終らせる。全ての歴史を。
だから……
だから、トモ。
どうか、安らかに眠っていてくれ」
そこまで言うと、その少年は目の前に掛かった虹に吸い込まれる様に姿を消した。
それは、今よりも遥か。遥か遠く昔の話。
永遠を背負わされた一人の少年の。
永遠の時間にも勝る、復讐の決意が地獄の業火の如く燃え盛った物語。
その、最終章でもあり。
別の誰かの序章であった。
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