第15話 トラベルウィーク!5日目!海満喫なのです!

「ん、ん……」

うっすらと明かりがちらつく

「タクトくん!あっさですよ♥」

「ん?あ、スグ おはよう」

まだ少し重いまぶたを無理やりこじ開けて、タクトの瞳が 覗き込むスグの瞳を捉える

窓から差し込む日差しがスグの白い頬を照らす

タクトは起き上がり部屋を見渡す

「あれ?ミクは?」

「ミクちゃんはライブに行きましたよ?」

「ライブ?なにか有名なアーティストでも来てるのか?」

「ちがいますよぉ、ミクちゃんライブですよ」

「ミクの……ライブ?」

「ほら!」

スグはNPCに配布されているフォログラムTVを起動させてライブの生放送を映す

『みんな〜、ライブ楽しんでる〜?』

ものすごい歓声とともにミクの姿が放送されている

「ほ、ほんとだ……」

昨日の1曲でここまで人気が出るとは……

ミク、恐ろしい子……

「……ということは」

「今日はふたりきりですよ♥」

スグは目をキラキラさせている

「ついに店に入るときに店員さんから

『2名様ですね?』と言われる日が来ました!」

「いや、どうでもいいだろ……」

「どうでもよくありません!ミクちゃんのことは大好きですが、たまにはタクトくんとデートがしたいんです!そういうお年頃なんです!」

(お年頃とつければなんとかなると思っているタイプだ……)

「まぁ、どうしようもないしな、じゃあ今日はスグの行きたいところに行こうか」

「ムフフ、じゃあ……」

スグはここら一帯の地図を取り出して指を指す

「ここと、ここと、こことぉ〜、あとここもここもここも行きましょう!あとここにいってぇ……」

「ちょっと待て、そんなに今日一日でまわれるのか?」

「タクトくん……、まわれるか回れないかじゃありません、まわるんです!」

まぁ、そんなにガッツポーズしちゃって

どこぞの誰かさんみたいなことを……

タクトも薄情なNPCではない

1度やると言ったからにはやらなければならない

スグの期待を裏切らないようにできる限り頑張ろう……

そう誓って始まるタクトの一日のお話である


ここは浜辺近くのショッピングモール

海に行くついでなのかビキニ姿に上着1枚のレディたちが多く出現している

その隣にはメンがいたりいなかったり……

どちらにせよみんな楽しそうだ

そしてメンが"いる"方のグループにスグは入っている

その隣にはもちろんタクト

薄手の真っ白な上着を羽織っていてチャックをしっかりと上まで閉めてある

下の方からはもちろんスク水がちらっと見えている

人に見られるのは恥ずかしいのか片手で上着の裾を掴んでいるがもう片手はしっかりタクトの腕に絡ませている

いつもはベタベタしてくるのに他人には見られたくないって……

一種のツンデレか?

いや、デレデレツンデレくらいの割合か

まぁ、本題に戻ろう

そしてこのショッピングモールにある日常装備品店、つまり服屋が1番目の目的地だ

ここへは服を買いに来た訳ではなく……

「帽子が欲しいです!」

とのことで、女の子だからやっぱり日焼けは気になるのだろう

店に入るなり直行で帽子コーナーへ

見渡してはっと手に取ったもの、それは

「やっぱりこれですか?」

水泳帽だ

「いや、いくら下がスク水でもそれはちょっとな……、それに日差し直当たりだぞ?」

「はっ!確かにです!直射日光はお避けくださいでした!」

スグは水泳帽を棚に戻すと逆の棚に目を移す

「うーん、うーん……」

「そんなに悩むのか?」

「はい、タクトくんはどれがいいと思いますか?」

あれこれ手に取った結果、タクトに決めてもらうことにしたらしい

「うーん、じゃあこれはどうだ?」

タクトが見せた帽子を見ると

「うーん、なにか違います……」

「何かってどう違うんだ?」

「なにかこう、あれな感じで……」

うん、わからん

多分、男性陣にはわからないと思うぞ?

そう、人口約 35には……

女性陣には分かるのだろうか……

タクトもちょくちょくこれは?と聞いてみるが首は縦に動かない

時間は焦りを残して去っていくばかり

だが……

「お客様、先程の『あれな感じ』とはこのようなものでしょうか?」

ここの店員だ

彼女が持っているのは麦わら帽子だ

するとスグはそれに飛びつく勢いで駆け寄り

「これです!これがあれな感じです!」

いました、ここに1名、意味不明の理解者が

スグはすぐさまそれを被ってひらりと回ってみせる

「タクトくん!どうですか?」

「うーん、白い上着に麦わら帽子がなかなかいい味を出してると思うよ、それに麦わら帽子のおかげでちらっと見えているスク水の紺色が青春の色を帯びているように見える」

「もう!そんなとこばかり見ないでください!でも、に、似合ってるってことですよね?」

タクトが首を縦に振るとスグは店員さんに向かって決めゼリフのようにこの一言

「これ、このままかぶって帰ります!」

_________________________________________

会計を済ませて店を出るとミクは即座に次の目的地を目線マーキングする

「次はあっちでーす!」

タクトは手を引かれるままにスグの望みの場所へと引きずり込まれていく

ついた場所はアクセサリーショップ

ここで売られるアクセサリーは現実に聞くアクセサリーショップに売られるアクセサリーとは少し違って特殊効果がついているものが多い

ここの店では使用者の属性によって効果を発動したりしなかったりのものが多いようだ

ランクの低いアクセサリーだと属性に構わず能力を発動するのだがその分、効果は弱めになっている

でも、スグもミクも魔法とアタックが両方使えるので守備属以外は使える

タクトは魔法が使えずアタックと魔防による防御が使えるので攻撃属性と守備属性、あとは魔力強化、増量は使える

ただ、見たところこの店においてある大半が魔法用アクセサリーなのでタクトにとってはほとんどがファッション用と同等の価値しかない

言ってしまえばタクトにとってこのアクセサリーは『スグに料理』『ミクに生ゴミ』くらいの価値だ

だがスグは来たいと言っただけあって目を輝かせてあちこち見て回っている

赤い宝石に映る自分の瞳を覗き込んだり青い水晶を透かしてタクトの顔を見たり……

まぁ、楽しそうでなによりだ

だが行ったり来たりしているスグがひとつの宝石の前で足を止めた

「タクトくん、こんなの始めて見ました!」

スグがのぞき込むのはダイヤ型の紫色の宝石

ほかのアクセサリーのようにネックレスになったり指輪になったりしておらず何故かこれだけが単体で置いてあった

「それに目をつけるとは、お目が高い」

突然ヒゲの店主が現れた

「あの、この宝石の色、この世界に存在する宝石は確か……」

「赤、青、黄、緑、茶、白、黒ですな」

「あぁ、そのはずだが……」

しかし、この宝石は明らかに存在しないはずの紫色をしている

「実はこの宝石、赤と青の宝石が何らかの衝撃で混ざってできた代物なんです!ほかのどこにもない一品ですぞ!」

タクトはどうも『限定!』『一品物!』という言葉に弱い

ちらっとスグの方を見ると……

欲しいと言わんばかりに遠慮しがちな物欲が見て取れるほどオーラとして溢れている

「……じゃあコレください」

「まいどありー!」

代金を支払って商品を受け取る

店主の胡散臭い解説につい心弾んでしまったことを後悔しながら店を出る

「そろそろ昼時だな」

「そうですね、じゃあ……」

昼飯内容は決まっている

二人が向かったのは美味しいと評判のアメリカンな店

ホットドックやらバーガーやらが売っているようだ

「スグってこんな男がガツガツ食う食べ物が好きだもんな」

「そ、そんなことないです!食欲男勝りなんて言わないでくださいよぉ!」

「言ってねぇよ!」

そんなことを言いながら空いている二人用テーブルを見つけて座る

「何を食べましょうか……」

そう言いながらスグが食べるものは既に決まっているのだ

ここの目玉商品である『激辛!海産バーガー』だ

今朝は

「激辛って大丈夫か?」

「大丈夫です!」

「ほんとうか?無理するなよ?」

「分かってます!」

なんて言っていたが本当に大丈夫か……

「じゃあ俺はこの『デミデミバーガー』にしようか、買ってくるから座っといてくれ」

「わかりました!座席は死守します!」

「誰も奪わねぇよ!」


タクトは列に並ぶ

前に並んでいるのは1人だけだから列と言えるのか分からないが……

自分の番が来て二人分の注文をする

さすが仮想世界と言わんばかりに素早く商品が出来上がる

それを席まで運ぶ

「はい、こっちがスグのだ……」

見るからに赤い……

スグは思っていたのと違うという顔をしてバーガーを持ち上げる

「だ、大丈夫か?」

「い、いけます……」

いや、目が不安で溢れてるぞ

スグは意を決してバーガーにかぶりつく

噛み切られた一口のバーガーはスグの口の中に入りそれらはさらに細かくされていく

ぐっとそれらを飲み込んだスグは

はぁ はぁ と吐息とため息の間ぐらいの呼吸をし、涙を流していた

「か、辛いでふぅ〜」

見ればスグのHPゲージが僅かに削られている

なんというバーガーだ……

「……仕方ないな、ほら、こっちを食べろ」

タクトは自分のバーガーとスグのバーガーを取り替える

「え、いいんですか?」

「あぁ、俺もあまり辛いのは得意じゃないけど……」

「ありがとうございます!」

スグはタクトのだったバーガーを頬張って幸せそうな顔をする

それを見てしまえば辛いのくらい!と思えてしまう

タクトも赤いバーガーにかじりつき……

(あ、やばいな、確かに内側から削られている感覚が……)

腹の中がジリジリかヒリヒリかわからない痛みに襲われながらもなんとか感触をする

タクトにとって回復行為であるはずの食事からダメージを受けるなんて……

ただ、すぐは最後まで

「間接……/////」

なんてブツブツ言っていたが

何だったんだ、あれは……

削られた耐久度はフライドポテトで回復した

店を出たがこれからはショッピングの後半戦

「では、次に行きましょう!」

デミデミバーガーに元気をもらったスグはタクトを引きずってあっちへこっちへ

意識が薄れながらも何とか目的地が残り一つになった

「最後の目的地ってどこなんだ?」

タクトも教えてもらってないのだ

「あそこです!」

スグが指さしたさきには……

「ん?ミク?」

ミクのライブ会場だ

浜辺で行われているライブはまだやっていたのだ

「あ!タクトくん!スグちゃん!」

あちらもこちらに気づいたようで手招きしてくれる

二人が舞台の近くまで行くとミクは観客を見渡す

「それでは次が最後の曲になります、聞いてください!『私のパーティ』!」

前に聞いたやわらかいメロディとは真逆の力のあるギター音が響く

そこで流れてくるミクの歌声

そこで語られたのはスグとタクト、二人についてだった


いつも隣にいて

いつも一緒に冒険して

たのしくて

笑い合える

それが、私のパーティ

_________________________________________

ギター音が止まり歓声が沸き起こる

スグとタクトも拍手を送る

ミクは最後に観客にお礼を述べて舞台を降りた

「さすがミクだな!」

「綺麗な歌声でした!」

「二人ともありがとうございます」

今日は二人とも疲れただろう

スグはあっちへこっちへ

ミクは歌いっぱなしで

ということで宿泊所のレストランで食事を済ませてそのまま部屋に帰った

スグとミクはそのままベッドに倒れ込んで寝息を立て始める

タクトもベッドに座る

その瞬間、突然眠気に襲われた

「だめだ、風呂に……」

そのまま眠りに落ちていった

_________________________________________

目が覚めると真っ暗だ

時計は夜中の三時を指していた

(ここの風呂は24時間営業だよな……)

タクトは起き上がり、風呂に向かう

寝起きでふらふらする視界で何とか風呂にたどり着き服を脱いで戸を開ける

当たり前だがこの時間に人はいない

プレイヤーはみんな現実に帰るしNPCも寝ている時間だ

1人で貸切のような優越感に浸りながらかけ湯をして風呂に浸かる

「ふぅ、やっぱり外の風呂は気持ちがいいねぇ!」

ガラッ

その音で振り返る

「!?」

「あら、タクトくんもいたんですか?」

そこにいたのはミクだ

「ミクちゃん、どうしたんですか?」

背後からスグもぴょこんと首を出した

「あ!タクトくんもいたんですね!」

「あ、いや、ここって男湯じゃ?」

「え?ここは混浴ですよ?」

「こんよく?」

タクトは頭が混乱してしまう

寝ぼけていたせいで男湯の手前の混浴に入ってしまったらしい

「で、でもなんで二人まで?」

「いやー、それは……」

スグは横目でミクをみる

「わ、わたしがせっかくだからこっちもって……」

「意外だな……」

「/////」

ミクは下を向いてしまった

「タクトくんはもう背中流しましたか?」

「いや、まだだけど……」

「そ、それじゃあ……」

スグとミクは顔を見合わせて

「「お背中お流しします!」」


というわけで今、二人に背中を現れている

タオルで何とか見せてはいけない部分は隠しているが恥ずかしい

優しく頭を洗ってくれるミク

「お痒いところはございませんか?」

「あ、あぁ、大丈夫……です」

ゴシゴシと入念に背中を洗ってくれるスグ

「お痒いところはございませんか?」

「スグはなんか違うが……大丈夫だ」

さらにゴシゴシしてふたりとも手を止める

「で〜は、前を「それはだめだ!」え〜、なんでですか?」

「なんでって普通ダメだろ!」

「普通ってなんですか?」

「それは……」

「それじゃあ洗いますね」

あああああぁぁぁぁぁぁ


そして今は二人に挟まれてお湯を満喫している

だが、なんとも落ち着かない

なぜなら……

「二人ともくっつきすぎじゃないか?」

二人のやわらかい胸の感触がタオル越しでも伝わってくる

「いいじゃないですかぁ」

そういうと二人ともさらにぎゅうっとしてくる

「ううぅぅぅぅ、もう耐えられん!あがる!」

タクトはお湯からガバッと立ち上がる

その拍子に腰に巻いていたタオルがはだけてしまう

「あぁ!/////」

いわゆるポロリ(男Ver.)だ

タクトは恥ずかしさのあまり逃げるように出口へ

だが出口の手前で足を滑らせて

ドーンっと転んでしまった

(あぁ、頭が痛い……、意識が……)

そのまま視界がブラックアウト

打ちどころが悪かったみたいだ

_________________________________________

気がつくと外が明るくなっていた

「ここは……」

どうやら部屋に帰っているみたいだ

「ということは……!」

つまり裸だったタクトに服を着せてここまで運んだのは……

横のベッドを見てみるとふたりとも仲良くくっついて寝ている

昨日のは夢だったのか?

そう思ってしまう

いや、そう思いたいタクトであった……

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