第14話 トラベルウィーク4日目!海に来たのです!

「なぁ、待ってくれよ!」

「早くですよ!海が逃げちゃいますよぉ!」

「海は逃げねぇよ……」

今、タクト達は海に来ている

スグは大はしゃぎで海にまっしぐら

ミクはタクトと並んで歩いている

ミクもワクワクしているのだろうが荷物を運ぶのを手伝ってくれている

だが、顔に出ているぞ……

口角がわずかに上がっているのが分かる

こんなわずかな違いでもミクにはかなりの変化だ

…………戦闘中は除く

シートをしける場所を見つけ、荷物を下ろす

タクトはシートを広げ、すぐそばにパラソルを立てる

ひと通りの準備が終わり、海に入る……

と、その前に……

「タクトくん……日焼け止めを塗って貰えませんか?」

やっぱり……

「あぁ、いいぞ」

ミクはシートの上にうつ伏せになり、水着を上半身だけめくる

言い忘れていたが二人、結局スク水を買いました……

別にスク水が好きなわけじゃない!

二人が勘違いして買っただけだ

うん、そうだ……多分……

タクトはそう自分に言い聞かせる

確か、オイルとか日焼け止めは1度手に出してからじゃないと冷たすぎて塗られる側が不快感を感じるって言ってた気がする

タクトは自分の手に日焼け止めを出して両手に少し広げる

「塗るぞ?」

「はい、お願いします……」

真っ白な肌に白色の液体が塗られていく

「んっ……」

「あ、冷たかったか?」

「いいえ、大丈夫です」

徐々に肌全体に伸びていく

「んっ ひうっ んん……」

何故か緊張する……

ただ二人日焼け止めを塗っているだけなのに後ろめたさがある……

背中を塗り終わり、

「足も塗るぞ?」

「は、はい、よろしくお願いします……」

さっきと同じ要領で足にも塗っていく

足、ふくらはぎ、太ももと順に塗っていく

「あ、その……ギリギリまでお願いします」

ぎ、ギリギリ!?

タクトは少しためらったが少し指に日焼け止めを出し、水着のギリギリまで塗っていく

線のように日焼けあとが入るのが嫌なのだろう

足も塗り終わったところで

「ま、前は自分で出来るな?」

「あ、はい、ありがとうございました」

ミクは起き上がり……

「え、ちょっ!水着!」

ミクは水着を戻す前に起き上がってしまう

慌てて水着を上げて周りを確認する

誰も見ていなかったようでホッとしている

ミクが立ち上がるが早いかスグも飛び込んできて

「私もお願いしまーす!」

「だよな……」

わかってた、いつも通りだ

スグも同じようにうつ伏せで寝転がりミクと同じように上半身だけ水着をめくる

あれ?ミクの時みたいな感情がわかない

「はやく♪はやくですよ♪」

「あぁ、じゃあ塗るぞ?」

タクトは手のひらに出した日焼け止めをスグの背中に塗っていく

「ひうっ!んっ、ん〜、あう〜」

「冷たくないか?」

「はい、大丈夫です!丁度いいくらいですよ」

肩から背中から腰からと徐々に広げていく

「ん〜、タクトくんの白いのが塗られていくよ〜」

「へ、変な言い方するな!誤解されるだろ!」

「ん?変って何がです?ねぇ、何がですです?」

くっ、こいつ……

周りの視線が痛い

悪いことしてないのに……

チラッとミクを見ると浅瀬に座りぴちゃぴちゃと遊んでいる

あぁ、和むわぁ〜

「えいっ!」

はっと我に帰るとスグの手によってタクトの顔に日焼け止めが塗られていた

「もぉ〜、よそ見しないでください!」

「あぁ、ごめん……」

タクトはもう一度日焼け止めを出して今度はスグの足に移る

「塗るぞ?」

「はい……」

同じ要領で塗っていく

(こう見るとスグの足、綺麗だな……)

普段はあまりじっと見ることのないものに少し目がいってしまう

ミクは静かであまり活発ではないから肌が白いのはわかるがスグは結構活発だが肌が白くて綺麗だ

多分、努力してるんだろうな……

そんなことを考えながら塗っていく

「タクトくん、ここも……」

そう言ってスグはスク水を下半身まで下ろす

「え、ちょ、そ、それは……」

「お尻もお願い!」

スグの顔は暑さのせいか恥ずかしさのせいかはわからないが赤く火照っている

タクトはみてはいけない場所を見ないようにタオルで隠し、手探りで塗る

見えないが柔らかい感触が伝わってくる

「ふぅっ、ん〜、あぁっ」

「へ、変な声出すなよ……」

「だ、だってぇ〜」

恥ずかしさをこらえながらなんとか任務を完了する

スグは水着を元の位置まで上げて起き上がる

「ありがとうございました!」

スグは立ち上がろうとするがなにか思いついたようでまた座る、そして

「ミクちゃ〜ん!」

ミクは振り返ってこっちを見る

スグは手招きしてミクを呼び寄せ、帰ってきたミクに何やら耳打ちをする

「タクトくん、寝てください」

「え、いや、俺は……」

「いいですから」

ミクに急かされてタクトはうつ伏せに寝転ぶ

「それじゃあ塗りますね?」

「で、でも……」

「私たちからのお礼ですから……」

「……それじゃあ頼む」

人の厚意を無下にするのも悪いとタクトは観念する

「いきますよぉ〜」

その瞬間、冷たい四つの手のひらが背中に触れる

「!?」

なんとか声を出すのは抑えたが……

「ど、どうですか?私、上手に出来てますか?」

「気持ちいいですか?テクニックが必要です……」

一言一言がアレだ、皆まで言わぬ、アレだ

「ここも……」

スグが水着の中に手を突っ込んでくる

「!? や、やめろって!」

「お返しですよ?」

「……」

男子として屈辱だが塗られるのが気持ちいい


二人はひと通り終わったようで手を止める

「終わったか?じゃあもう「反対を……」え?」

「お腹も塗るです!」

「え?いや、それはいいから!ガチでマジでmostでいらないから!」

「するです!」

スグが右手をタクトに触れさせると……

「体が動かない!?」

束縛の呪文だ……

スグとミクは協力してタクトの体を仰向けにさせる

「じゃあいきますよぉ〜」

スグの顔はなんだかすごく……怖い

だが、ミクが肩を叩いて止める

そして何やらを囁くとスグが頷く

スグは日焼け止めを手のひらに出して足の方に行く

足先に冷たい感触が……

ミクは

「この前テレビで見た方法で塗らせていただきます……」

ミクは日焼け止めを急に自分の水着に塗り始める

「み、ミク!?」

ミクはそのままタクトに覆いかぶさる

体が完全に密着している

ミクはそのまま体を滑らす

「ミクさん?い、一体何を……」

「ひ、日焼け止めを塗って……います」

うん、そうだね……でも、ちょっと、いや、かなりイケない方法だね……

ここでミクが

「何か硬いのが当たってるよ?」

なんて言ってしまえば官能小説入りは間違いない……

何かがなんなのかは……言えない

カテゴリー的に!

その頃スグは……

一生懸命太ももに日焼け止めを塗っていた


二人とも作業が終わったようで束縛が解ける

「はぁ〜、はぁ〜、た、タクトくん?どうでしたか?」

そう聞いてくるミクの体は白いのが至る所に付いている

なんか……エ〇いな……

男子としては致し方ない事だ……

まぁ、やっていた本人達は純粋に正しいやり方だと信じているようだし……

「ど、どうって……き、気持ちよかったよ」

いろんな意味で……


そんなこんなをしている間にも昼がやってくる

昼食は砂浜に建てられた木造の店、いわゆる海の家でとることにした

色々ある中、タクトは焼きそばを買う

三人分のドリンクと焼きそばを持って先に帰る

少しして二人も帰ってきた

スグはフランクフルトとラーメンを

ミクは同じくフランクフルトとポテトを買ってきた

「うおっ!この焼きそば うま!食べてみろよ!」

タクトはスグに焼きそばを適度に箸であーんする

カプっとかじりついたスグは焼きそばを(口で)受け取りそのまま焼きそばは口に吸い込まれていく

続いてミクにも同様に……

「美味しいです!」

「うん、美味しいです……」

「だろ?」

スグもラーメンを箸でつまみ、あーんとしてくる

それを素直に受け入れてちゅるっと……

「こっちも美味いな!」

するとミクもポテトをはいっと差し出してくる

さすがにポテトは……

と思い、手で受け取ろうとするがミクはいやでも口に運ばせたいようで手を出すとんー、んー、と嫌がる

つい可愛くて意地悪したくなるが素直に口で受け取る

二人とも「えへへ」と笑って食事に戻る

二人ともフランクフルトを手に取り前からカプっとかじりつく

だが、ここのフランクフルトは大きめなため、口の小さな二人には少し無理があったようだ

「ふんひーほー(くるしいよぉ)」

「ほほひーへふ(大きいです)」

二人とも1度口からフランクフルトを出してケホッケホッと咳をする

「大丈夫か?」

「は、はい……フランクフルトがこんなにも強敵だとは知りませんでした……」

二人は正面衝突を諦めて斜めからチビチビとかじっていくことにしたようだ

タクトが焼きそばを食べ終わった頃、二人はまだフランクフルトと格闘していた


「「「ごちそうさまでした!」」」

結局、二人は食べきれずタクトが食べることになった

「それじゃあ海に行きましょう!」

真っ先にスグが走り出し、二人もあとを追いかけるが海に入るのはスグだけ

なぜならタクトとミクはカナヅチだから

泳ぎが苦手なのだ

山で水に落ちた時は火事場の馬鹿力的なので助かったがいざ海へ!となると正直無理だ

タクトはミクと一緒に浅瀬に座り波にお尻をなでられていた

スグは元気にはしゃいでいたがしばらくして飽きたように帰ってくる

「どうした?」

「……一人じゃつまらないです」

まぁ、そうだよな

でも、二人はカナヅチだ

あそぶことは不可能

「ムゥ〜」

そう言ってスグは沖に向かって泳いでいった

何分経っただろう

タクトは魔防で作ったアクアボールに入って揺られていた

波の音が騒がしくなった気がする

目を開くとそこには沖から巨大な津波が!?

その上にはサーフィンをするスグの姿が見える

砂浜にいた人々は皆逃げ始める

タクトも逃げようとするが……

「融合魔法発動!氷破壊アイスブレイク!」

ミクが魔法で波を一瞬で凍らせる

そして出現させた弓から放たれた矢が凍った波にぶつかり一瞬で全体にヒビが入る

ミクがパンっと手を叩くとガラガラガラと崩れ落ちていった

その光景を見た人々は拍手喝采!

その動画はサーバー情報共有ツール

いわゆるゲーム内のSNSでも公開され、ミクは人気者になった

という話はまた今度……

ミクは津波からみんなを救ったヒーローと呼ばれるようになった


時は流れその日の夜

ミクの表彰授与式が行われた

「この度、多くの命を救ったミク殿に感謝状を授与します、ありがとう」

式は砂浜に設置されたステージで行われた

意外にも多くの人が見に来ていた

ミクは照れたように控えめに頭を下げる

暗い空に拍手が馴染んで消えていく

拍手が止んだ時、司会者がこう言った

「ミクさんはNPC何ですよね?実はミクさん、ギターと歌が上手いんだとか……という事で披露してもらってもよろしいですか?」

そこにいる誰もが期待の目を向ける

ミクは小さく頷き「がんばります」と呟く

司会者からギターとマイクが渡されミクにスポットが集中する

静寂の中、ミクの弦を調節する音が響く

準備が完了しミクが一つ大きなため息をしたあと綺麗な音色が響き始める

なだらかな前奏が流れミクの口が開く

「いつも隣で歩いてる

あなたを好きでいること

それが私の生きる意味

そう思っていたの

だけど違ったわ

私の生きる意味は

あなたと一緒に 笑って

いられる生き方をすることだって!」

なだらかな演奏が段々と迫力を帯びていく

そして一瞬の静寂のあと、大きなメロディが鳴り響く

「あなたが私を好きでいなくても

私があなたを好きでいてもいいでしょ?

あなたと笑えてる今が好き

だから今のあなたが居なくなるのが一番怖い……

あなたが誰を好きになろうと

私には止める権利なんてないわ

だから私はあなたの恋を

涙と笑顔で支えるわ


好きな人が幸せであるように……」


しばらくの静寂が流れる

時折、鼻をすする音も聞こえる

ミクの美しい歌声に涙を流す人もたくさんいた

司会者でさえも涙で上手く喋れていない

「ありがどうございまじた……」


式が終わると3人はそのまま宿泊先に帰った

ミクの歌声の余韻が残っているのか風呂に入ってもぼーっとしてしまう

いつもと違うミクがまた一つ増えた気がする

いったいどれが本当のミクなのだろう

全部が本当なのかもしれない

でも晩御飯の時も就寝前もミクはいつものミクだった

心配のし過ぎかもしれない

そう思い直してタクトは眠りについた


明日はいったい何をするのだろう

それはふたりに任せることにしよう……

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