第9話 変なもの入れるなぁ!
タ・・・くん・・・
タク・・・ん・・・
(ん?何か聞こえる・・・)
タクトくん!
その声でタクトは飛び起きる
そして目の前にあったスグのおでこにぶつかってしまった
「イテテテ・・・」
スグはおでこをさすりながら
「やっとお目覚めですか?もうお昼近いですよ?」
お昼?と思いタクトは壁にかかった時計を見る
針が11と5を指している
ぼやける目を擦ってもう一度見る
長い針が5
短い針が11・・・11時25分か・・・
「ふわぁ〜、よく寝た」
「本当によく寝ましたね・・・」
ミクが食卓に昼食を並べながら微笑む
「早く着替えてきてください」
「リョーカイです!」
タクトは早足に着替えを掴み洗面所へ向かう
水をバシャバシャと顔にかけてタオルで拭く
「はぁ〜、目が覚めた」
寝巻きを脱いでカゴに入れ、服を着る
食卓に戻ると準備が完了していた
「お待たせ!」
「今日はタクトくんの好きなお魚です!」
「おぉ!今日も一日頑張れる気がしてきた!」
「ふふふ、タクトくん大袈裟です」
「ごめんごめん」
3人は今日も一日頑張るためにたくさん食べる
だが、
「わたし、最近あまり食べすぎないようにしているのですがどうですか?」
「んー、どうって・・・見た感じ変わってないな」
「そうですか・・・頑張ってるのですが・・・」
ミクは少し落ち込んでしまったようだ
「いやいや、少し細くなった気がしますよ?ほら、えーっと、輪郭とか!」
スグはタクトに目配せをしてくる
「あ、あぁ、そう言われてみたらそうかもな!アハハ」
「うんうん、そうですよ!アハハ」
「二人ともありがとう、わたしはもうごちそうさまするわね」
そう言ってミクは流し台に自分の食器を持っていく
その隙にスグが目でなにかを訴えてくる
多分、『女の子が体のことを聞いてきたら褒めないとですよ!』とかだと思う
タクトはわかったと頷き、目でお礼を言う
スグは分かってくれたようで少し微笑んで食事を再開する
二人が食べ終わる頃にはミクは洗濯物をたたみ終え、ベッドを整えて矢の整備をしていた
「ごちそうさま!」「ごちそうさまです!」
「二人とも、置いといていいですよ、私がやっておきますから・・・」
「いや、でも運ぶくらいは・・・」
「いいから・・・」
そう言ってタクトから食器を受け取るミクの指にはいくつかの切り傷があった
「大丈夫か?痛くないのか?」
「あ、うん、少し痛いくらいですから・・・」
「でも絆創膏だけでも貼っといた方が・・・」
「じゃあ、そうします」
「今とってくるよ」
タクトは救急箱の入った棚を開けて絆創膏を10枚ほど取り出してミクのところに戻る
「何箇所に貼るんだ?」
「えっと、6箇所です」
ミクの手を見ると右手の親指、人差し指、小指、右手の親指、中指、手の甲に切り傷があった
「あの・・・片手だと貼りにくいので貼ってもらえますか?」
「あぁ、いいぞ」
タクトは切り傷に丁寧に貼っていく
「よし、できた!」
「ありがとうございます!」
「ミクちゃんばっかりずるい!私も貼ってください!」
スグがわたしも!っと擦り寄ってくる
「スグはどこも怪我してないだろ?」
「み、見えないケガなんですぅ!」
「そんな無茶苦茶な!」
「貼ってください!貼ってくださいぃ!」
「わかったよ、どこに貼るんだ?」
「えっとー・・・」
(急に笑顔で貼る場所探し始めたぞ・・・)
「ほっぺとぉ、おててとぉ、あとおでこと唇にも切り傷が・・・」
「よし、ほっぺと手の甲だな」
「あ、唇は絆創膏じゃなくてタクトくんの・・・キスが「却下!」な、何でですか!?」
「そんなので治るとは思えない!」
「私の心の傷が治りますぅ!」
「いや、唇の切り傷はどうするんだよ!」
「ほっとけば治ります!」
「ダメだ!」
「してください!」
「ダメなものはダメだ!」
「して!して!してしてしてしてぇぇ!」
ご近所さんに聞かれたら勘違いされてしまいそうなことを・・・
「わ、わかったよ、唇は無理だけど・・・」
タクトはスグの前髪を手でかき分けておでこにキスをする
「キスしたぞ?いいか?」
「はい〜、大満足れすぅ・・・」
そのまま力が抜けたようにスグはその場に寝転んでしまう
その時、タクトの肩に何やら重圧がかかる
振り向くとミクが涙を浮かべた瞳でほっぺを膨らませて何かを言いたそうな顔でこっちを見ていた
その右手はタクトの肩を掴み、ぎゅーっとしていた
「わかったよ・・・」
タクトはミクの前髪を手で上げておでこに軽くキスをする
「は、はい、したぞ?」
「あ、ありがとうございます・・・」
「ど、どういたしまして・・・」
こんな事が意外とすんなり出来てしまう自分が恐ろしい
「ところでさっきの話だけどミクはどこに行きたいんだ?」
「わたしは指が切れていて海水がしみてしまうので山がいいです」
「そうか、スグ、という事だから海は諦めて・・・ってまだ寝転んでんのか?」
「体が痺れて・・・動きません・・・」
確かにスグのパラメータの上に麻痺が追加されている
「あ、そういえば今日のご飯に一つだけ痺れ薬を入れておいたんでした!」
「な、何でそんなことを?」
「誰が当たるかな?って感じで・・・」
「恐ろしいわ!」
「ちゃんとシャッフルしましたよ?」
「いや、問題はそこじゃない!」
「でも、こんなに遅く効果が出るものではないのですが・・・一滴でも効果の出る代物ですから」
「ってことは・・・」
タクトは自分のパラメータを見る
「何も無いか・・・」
だが、ログ画面にはこう表示されていた
『タクトが麻痺になりました』
『タクトの麻痺が打ち消されました』
「・・・つまり?」
「当たったのはタクトくんでした!って事です・・・」
「じゃないだろ!俺がライフゼロだから効果がなかったってことだろ?でも効果はスグに出ているってことはおでこのキスが原因だよな?」
「はい、そうです・・・」
「恐ろしいよ!キスだけでこの有様、恐ろしいよ!」
「実験成功ですね・・・」
「大失敗だよ!いや、成功してるけどミクの仁義が正しい道を歩むことを失敗しているよ!」
「えへへ、照れます・・・」
「褒めてねぇよ!てか今日のミク、いつもよりテンション高いな」
「あ、それは抗体を作る薬がタクトくんのキスで痺れ薬に反応して起きた副作用です、自分が痺れたら楽しくないので・・・」
「用意周到だな!っていつになったらスグは戻るんだ?」
「王子様のキスで・・・」
「王子って誰だよ!」
「スグちゃんの王子様はタクトくんですよ?」
「よし、わかった!・・・ってキスしたらまた痺れるだろ!」
「バレちゃいました?」
このミクのテンション、疲れる!
「まぁ時間で治るだろ・・・」
「タクトくん、私が動けないあいだに色々としちゃダメだゾ?です」
「しねぇよ!男子として興味が無い訳じゃないが俺はそんな卑怯じゃない!ジェントルマンだからな!」
「まぁ、かっこいい!」
「ミクさんも寝ていてもらえます?」
「何で?」
「副作用のせいで俺の中のミクがミクじゃなくなり始めてるからだ」
「なんかかっこいい・・・」
「あ、痺れ治りました!」
「良かったな!」
「わたしもかっこいい言葉を使います!で、では冒険に出ようか・・・持つのはただ剣と杖、そして回復薬に結晶、地図と飲料と食料だけあればいい・・・」
「あんまかっこよくないよ?てか、まあまあ持ち物多いな!」
「さぁ、ゆこう!」
ミクは一人で宿屋を飛び出してしまう
「ま、待てよ!す、スグ、準備出来てるか?」
「は、はい!行けます!」
二人は慌ててミクを追いかける
だが、ミクは宿屋の入り口で止まっていた
「だ、大丈夫か?ミク・・・」
「あ、タクトくん、私は何をしていたのですか?」
(き、記憶喪失!?)
どうやら薬の副作用が切れて正気に戻ったらしい
「覚えてないのか?」
「えっと、はい」
「まぁ、思い出さない方がいいと思うぞ?」
「何でですか?」
「黒歴史だから・・・」
「じゃ、じゃあ辞めておきます・・・」
いまだにへ?っていう顔をしているスグに
「忘れるんだ」
「え、は、はい、うー、うー、ワスレマシタ」
「よし、いい子だ、じゃあ、仕切り直してミクが山に行きたいらしいがスグはどうする?」
「うーん、ミクちゃんが行けないなら諦めるしか・・・」
「じゃあ、どっちも行きますか?」
「どっちも?」
「うん、山に行ってから海に行くんです、山に行ってからだったら私の怪我も治っていると思います・・・」
「そうか、じゃあスグはそれでいいか?」
「はい!どっちも行けるなんて楽しみですぅ!」
スグはワクワクノリノリな雰囲気だ
「あ!」
「どうした、スグ?」
「水着がないです・・・」
「水着・・・去年のがあるだろ?」
「あれじゃもう小さいです!特に胸のあたりが・・・」
「でもスグはあんまり変わったようには「しーっ!それ以上言わないでください!」・・・わかりました」
「でも、確かに去年のだと小さいかも・・・」
「ミクは確かにそうかもな!」
「な、なんで私にはそういう反応なんです!?わたしもあんまり変わって無いですよぉ!」
どこのナイスバディがそんなことを・・・
そんな視線を飛ばすのはタクトだけではない
タクトとは少し違った想いのこもった眼差しで見つめるスグがある
「ま、まぁ、つまり今日は水着を買いに行くのか?」
「はい、そうしたいです!」
ミクも頷く
「じゃあ、水着を買いに行こうか、ついでにほかの店で山用のテントとかも買っておこう」
「はい!」「うん・・・」
「じゃあ、先に水着を見ようか、あそこの店だな」
タクトが見つけたのは水着専門店
3人はそこに踏み入っていく
「うわぁー!すごい数でなやんじゃいますぅ!」
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいましたです!」
スグもミクもキョロキョロ
タクトは去年の水着で大丈夫だからと試着室の前の椅子に腰をかける
二人の水着選びはまだ少しかかるだろう
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