第7話 出オチもできないんじゃ俺の存在意義と価値が見当たらねぇ!
駄々をこねるスグも一言言ってしまえばいうことを聞くいい子モードに切り替える
「スグ、食べないとお留守番だぞ?」
たったその一言で背筋をぴーんと伸ばし、梅干しをパクリッ
「ん〜〜〜!す、酸っぱいれふぅ」
その酸っぱさに耐えながらスグは種だけを吐き出す
「ペッ!うぇ〜、す、スグ頑張りましたよ?だからお留守番は嫌ですよぉ〜」
涙目でタクトに訴えかける
「あぁ、頑張った頑張った」
頭をポンポンと叩いてやるとスグは嬉しそうに笑って
「えへへ、もっとしてくださいよぉ」
「続きは帰ってきてからな!」
「わ、わかりました!さっさと終わらせちゃいましょう!」
「よし、その意気だぞ!」
「二人とも、お弁当を貸して」
「おぅ、サンキュ!」
「ありがとうございます!」
ミクは二人の弁当を受け取り、ストレージにしまう
自分のもきちんとしまってから立ち上がる
「準備できたか?じゃあ、出発だ!」
「はい!いざ・・・あれ?どこに行く予定でしたっけ?」
「何処だっけなぁ・・・」
「スール森林よ・・・」
「あ!そうだそうだ!ありがとな、ミク」
「えぇ、でもおかしいわね・・・」
「おかしいって何がだ?」
「スグちゃんは忘れっぽいから仕方ないけどタクトくんはいつもならきちんと覚えているはず・・・NPCはプレイヤーとは違って体内の情報に直接記憶がリンクするから忘れることはほとんど無いはずだもの・・・」
「もぉ〜!ミクちゃん!私は忘れっぽくなんてないもん!」
「じゃあさっき戦った人の名前、覚えてるか?」
「あ、えっとー・・・・・・忘れちゃった」
スグは下をチロっと出して、てへっと笑う
「そんなことしたって無駄ですよ、スグさん、現実を受け入れよう・・・あと、ジュールさんな、覚えてないってなかなか失礼だぞ?」
「はーい、ごめんなさい」
そのあとスグは明後日の方向を向いて
「ジュール、ジュール、ジュール、ジュール、ジュール、ジュル、ジュル、ジュルジュル・・・」
(あ、これはすぐに忘れるやつだ・・・)
そんなスグは置いといて、ミクの方に向き直る
「はい、だからタクトくんがおぼえてないと言うのは・・・」
「・・・バグの影響かもしれない・・・という事か?」
「はい、あくまでわたしの推理ですが・・・」
「まぁ、偶然という可能性もあるから断言はできないな・・・」
「はい・・・他に異変があったらすぐに教えてくださいね」
「あぁ、わかった」
「はい!じゃあ、くらい話はここまでにしてそろそろスール森林に向かいましょう!」
「あぁ!ほら、スグもそろそろジュルジュル言うのやめろ!」
「なんだか・・・お腹すいてきたですぅ」
「もう無いぞ・・・」
「スール森林にいるモンスターからは美味しいお肉と蜜が取れるらしいわよ・・・」
「じゃあ、早く行くです!」
「ちょ、いきなりやる気出すなよ!」
スグは一人でさっさと走り出してテレポーターの上でピョンピョンはねている
「は・や・く!は・や・く!」
「はいはい、そんなに急かすなって・・・」
タクト達も急いで追いかけてテレポーターに乗る
「早くしないとお肉が逃げちゃいます!」
「安心しろ、嫌になるほどウジャウジャいるから」
「えっ!うじゃうじゃはちょっと・・・せめてうにゃうにゃまでに・・・うぅ、やっぱりそれも嫌です!」
「そんなこと言ってないでさっさと行くぞ?」
「は、はいぃ・・・勇気出して行くです!」
「「「転送!スール森林!」」」
3人は光の雫になって消えた
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シューン
「着いたな・・・」
三人が到着したのは少しくらい森林の中
どちらかって言うならジャングルに近い
木々のあいだから少しだけ漏れる木漏れ日が輝いている
「う、うじゃうじゃしてますかぁ?」
目をぎゅっとつぶったまま手探りで歩いてくるスグ
「大丈夫だぞ?うじゃうじゃはいない」
「本当ですか?」
スグがぞぉーっと目を開けようとした時
「グチャグチャがいるわ・・・」
「ひっ!」
「み、ミク!あんまりスグを怖がらせるなよ・・・」
「スグちゃん?嘘よ・・・大丈夫、何もいないわ」
「ほ、本当ですか?し、信じていいんですね?」
「うん・・・」
スグはそっと瞼を開く
「うわぁー!綺麗です!」
涙ぐんだ瞳は木漏れ日で輝いた木々を捉える
風に揺れて擦れ合う音が涼しげだ
「うふふ」
スグは涙で濡れた瞳を拭いながらトコトコと景色につられて歩いていってしまう
「スグ、あんまり一人で行動するなよ!迷子になったら帰れないぞ!」
かなり遠くに行ってしまったスグにそう叫ぶとものすごいスピードで帰ってきた
「こ、こ、こ、怖いです!ま、迷子、怖いですぅ!」
「そ、そんなに怖がらなくても・・・」
「二人と一緒にいられなくなったら怖いですぅ!」
スグはタクトとミクの腕を掴んで抱き寄せる
「これで三人一緒です!」
「こ、これじゃまともに戦えないだろ・・・」
「そ、その時は私が威嚇します!」
スグは小さな口をめいいっぱい開いてシャーっと威嚇の真似をする
「ははは、そんなんじゃモンスターは逃げないぞ?」
「ムゥ〜、じゃあ、どうすれば・・・」
「その時は私が魔法で倒してあげる・・・」
ミクは自由な左手に持った杖を振りながら言う
「そうだな、じゃあ、俺も剣で倒してやるよ!」
「二人とも頑張ってくださいね!私は二人の腕を抱きしめる係ですから!」
まぁ、ここのモンスターは弱いし、いっか!
二人はそう思って逆にスグの腕をギュッとする
「えへへ、なんだか遠足みたいです・・・」
「そうだな・・・」
3人は色々な話をしながら進んでいく
「まだ出てこないな・・・」
「うじゃうじゃもニョロニョロもしてません」
「いつもより少ない・・・」
そんな話をしていると近くの茂みがガサガサっと揺れてハチ型モンスターが飛び出してくる
それも1匹ではない・・・
「お、多い!3人がかりでもやっとぐらいか?」
「ほ、本当に沢山ですぅ・・・」
スグは頭を押さえて座り込んでしまう
「だ、大丈夫か、スグ?」
「た、タクトくん、わ、私・・・虫無理ですぅ!」
「そ、そうだったな・・・ミクは?」
さっきまでスグを挟んで反対側にいたミクがいない・・・
見回すとなんとちゃっかり後ろの方にいた
「わ、わたしは後ろから支援します!」
「そ、そう言えば二人とも虫、苦手だったな・・・じゃあ、スグもミクと一緒にいるんだ」
「は、はひぃ〜」
スグは逃げるようにミクのもとへ走っていく
ミクはその頭をなでなでして笑いかけている
タクトはなぜ自分だけ・・・とも思ったが二人を危険な目に合わせないためなら仕方ない
そう思い直し、剣を構える
その直後、大軍のハチ型モンスター達が一斉にタクトに襲いかかる
タクトが先頭のモンスターに剣を振りかぶった時、背後から無数の炎の矢が飛んでくる
それらは大量のハチ型モンスターにもれなく刺さり、消滅していく
これはミクの攻撃だ・・・
弓矢の攻撃に命中率アップの効果を付与して魔法・フレイムを矢に融合させる
ほぼ確実に当たるこの攻撃には大抵のモンスターは膝立ちすらできなくなるほどの威力がある
ましてや空中タイプのハチ型モンスターには絶大なダメージだ
タクトの目の前に残ったのはたった1体のモンスターだけ
タクトは涙をこらえて最後の一体を倒す
「うぅ、なんでだよぉ・・・」
離れた場所にいたミクとスグはダッシュで駆け寄ってきて
「タクトくん!やりましたね!かっこよかったです!」
(いや、俺一体しか倒してないよ・・・)
「あんなに敵がいたのに・・・タクトくん凄い・・・」
(いや、ミク様がほとんど片付けちゃいましたよね?)
二つの悲しい現実を無理やり飲み込んで
「やったな!二人とも!」
「何でタクトくん、泣いてるんですか?」
抑えきれない感情が零れる
「いや、嬉しいからだよ?」
「はい!私も嬉しいですぅ!」
「わたしも・・・」
タクトの心には二人の笑顔が刺さる
(な、なんだか・・・苦しいなぁ)
二人は本気で喜んでいるのだ
そして自分はその喜びを分かちあった方が良いのだろう
だが、今のタクトには無理やり笑うことしか出来なかった・・・
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