第6話 彼女は明日を見ていた、俺は、今しか見れていない

朝ごはんを食べ終わるとミクが皿を持っていってくれる

「ありがとうございます!」

「サンキュ!」

「どういたしまして」

ミクは皿を台所に持っていき、洗い始める

その後ろ姿がなんだかホッコリする

「今日はどこに行きますか?」

スグがキラキラした目で聞いてくる

「決まってないからなぁ、どっか行きたいところはあるか?」

「いえ、私はタクトくんと一緒ならどこまでも行きたいです!」

スグはまたこういうことを軽く言ってくる

「そういうのはふざけて言ったらダメだぞ?」

タクトが笑いながらそう言うと急にスグが真面目な顔になった

「どうした?」

「私、ふざけてませんよ?」

「え?」

「私はいつだって本気ですから・・・私、タクトくんに軽いことなんて言ったことないです!いつだって本気です!」

タクトはなんだか恥ずかしくなってきて視線をそらしてしまう

スグはほっぺを膨らませて

「もぉ〜、また、そうやって目をそらしちゃってぇ」

「二人とも、茶番はそこまでにしてね」

片付けを終えたミクが間に入って止めてくれた

「茶番じゃないもん!」

「いや、茶番だな」

「タクトくんまでぇ〜」

「いつまでもいじけてたら留守番させるぞ?」

「それは嫌です!」

スグは背筋を伸ばしいい子モードに切り替える

「よし、いい子だ」

フワフワの髪の毛を撫でてやると子犬のように擦り寄ってくる

それを見ているミクはソワソワしているような・・・

「た、タクトくん?あの・・・」

「ミクもするか?」

ミクの笑顔が咲き、大きく頷く

スグの逆側に擦り寄ってきてこちらは甘えている子猫のようだ

優しく頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じる

ミクの肌は白くて腕は細い

この腕からあの強力な魔法が放たれるのは簡単に信じられるものではないのだろう

戦う時のミクは普段のおっとりしたミクとは少し違う

なんというか、何かを背負っている様な戦い方をするのだ

また、スグの細い腕から放たれる烈剣も凄まじい威力でミクとの合わせ技はトッププレイヤーも唸りをあげる程だ

だが、ミクとは違ってスグは戦いを楽しんでいるようだ

舞うような攻撃の連鎖は敵の刃を近づけさせない

そんな強い二人に挟まれるタクトはと言うと

ステータスは二人ほどはある

攻撃力も防御力も特訓のおかげでかなり上がっている

だが、その二つを重視しすぎたせいでスピードがかなり遅いのだ

細身のスグは風をきって走る

ミクは遠距離が中心だ

そのためタクトは攻撃に間に合わないのだ

パーティとして経験値は入るから同じようにレベルは上がるのだが、実践が足りていない

だからタクトは結構焦っているのだ

かつて守ると誓った二人に守られていることがヒモ感が出ていて情けなく感じてしまう

だからこそタクトは戦いを重視するのだ

今は無理でもいつかは二人を守れるくらい強くなるために

それに今のタクトにはライフ=耐久値というステータスがある

朝食は食べたし、耐久値は完璧だ

「よし!じゃあ、今日はスール森林に行こうぜ!」

「あそこは敵も弱い割に数が多いので稼ぐのにはもってこいの場所です!」

「でも、あそこに行くなら準備はしておいた方がいい・・・迷うかもしれないから」

「そうだな、回復ポーションとMPポーション、水結晶に状態異常なおしか」

それらをストレージに入れていく

あれ?入らない

「ひび割れた影響で個数が限定されたみたいだ・・・あとは二人で持てるか?」

「えっとー、はい!まだ空きがあります」

「わたしもまだ少し空いているわ」

それらを入れてもらって準備完了!

「あ!二人ともちょっと待ってもらっていい?」

「あぁ、いいぞ」

「うん!待ってる間、こうしてるね!」

スグが腕を抱きしめてくる

「や、やめろって・・・」

「あれ?あかくなってますよぉ?」

「いや、これはだな・・・いきなりだったからだよ!べ、別にそんなんじゃ・・・」

「二人ともイチャイチャしないの・・・」

不満そうなミクを見てスグは「は〜い」と返事をして離れた

「準備できたのか?」

「うん・・・」

「何を準備したの?」

「秘密だよ!」

「え〜」ムゥ

「後で見れるから楽しみにしといて」

「分かった!」

「それじゃぁ出発しようか」

「「「いってきまーす」」」

部屋に鍵をかけたのを確認して3人は宿屋をあとにする

まずは町の中心のテレポーターに向かう

そこからスール森林に転送すればいい

町の中心が近づいてくるとなんだか騒がしい声が聞こえる

街の人達が何かを囲って見ているようだ

「なんだろう?」

「私、気になる!見てもいいですか?」

「スグが見たいって言ってるがミクはどうだ?」

「わたしも見る・・・」

3人は人混みのあいだからのぞき込む

「よく見えないですぅ〜」

「あぁ、俺もよく見えない・・・お、少し見えるな」

「どんなです?」

「えっとな、二人の剣士が戦ってる?多分デュエルだろうな」

人混みの隙間からは二人の男が向き合って剣を構えている

頭上には数字がカウントダウンされている

多分デュエルが始まるまでの時間だろう

カウントが10を切った瞬間、騒がしかった広場が静寂に包まれる

そしてカウントがゼロになった瞬間、静寂を切り裂くような刃のぶつかり合いが始まる

だが、左の男は余裕の笑みを浮かべる

「まだまだそんなものか?」

「くっ!」

その瞬間、左の男の剣が後方に弾かれ、首に刃を突きつけられる

「ひっ、こ、降参だぁ〜!」

左の男の降参宣言を受けてデュエルは終了する

「これで49連勝だ!」

周りからはそんな声が飛び交っている

「ジュール!ジュール!ジュール!」

どうやらあの男はジュールというらしい

「かなり強いな・・・」

「そんなにですか?」

「力が凄いみたいね・・・相手の剣を弾くなんて・・・」

「次に私の50連勝目を飾ってくれる敗者はおるか?」

「はーい!はーい!私がやります!」

「ちょ、スグ!おまえ、相手がどんな強さがわかってるのか?」

「わかっています、わかっているからこそ戦うんです、今の自分はどれだけかを図るためには自分だけで収まっていてはダメです、強いやつと戦うんです、それが私を強くする・・・」

「スグ、お前、強くなったんだな・・・」

昔のスグとは違う

今のすぐは肉体的な強さだけじゃない

精神的にも強くなってるんだ

「ふふっ、誰かさんの受け売りですけどね!」

スグはニコッと笑って人混みの中心に入っていく

タクトとミクも人混みの前線に行ってスグを見守る

「なんだ?こんなか弱い乙女が相手とは・・・だが、手加減はしないぞ?」

「手加減なんて最初から必要ありません!あなたの本気を見たいです、本気で来てください!」

「なかなか威勢は良いようだな、わかった、本気で参ろう!」

二人は剣を構える

カウントダウンが始まる

スグの登場に人混みはざわついている

「こんなの始まる前から決まっているだろ」

「俺は、女の子を応援したいぜ!」

「ジュール様!頑張ってぇー!」

などといろんな意見が飛び交う中、カウントは進む

「ジュールさんで合ってますよね?」

「あぁ、そうだ、お前の名前も一応聞いておこう」

「私はスグルです、みんなからはスグと呼ばれています」

「そうかスグル、お前はこの勝負、勝つ気でいるのか?」

「当たり前です!本気を出して負けたならそれが私の実力!でも、始まる前から負けたなんて思う勝負はしません!」

「そうか、その心意気、気に入った!スグルの持つすべての力をぶつけてこい!魔法も剣術も使えるもの全てをだ!わたしが全てを受け止めてやる!」

「始めっからそのつもりです!」

カウントが10を切り静寂が訪れる

両者が剣を取り出し構える

睨み合うなか、デュエルが始まると同時に両者の剣が火花火を放つ

「なかなかやるな!」

「ジュールさんこそ!」

刃は両者互いに相手に届かない

「くっ!二人の剣が早すぎて見えない!」

しかし!

「それじゃぁ私の本気を見せてあげます!」

「ま、まだ本気でないというのか!フハハ!面白い!こんなにも心を熱くする戦いは久しぶりだ!」

ジュールとスグは同時に後ろに飛ぶ

ジュールは守りの体制に入り、スグは左手に魔法陣を出現させる

「行きますよ!ジュールさん!」

「どんとこい!」

二人は同時に走り出す

「奥義!龍頭烈剣!」

観客からは

「おぉ!ジュールがあれを使うなんて!今までどんな相手にも使わなかった最強の奥義を!」

「融合魔法です!はっ!」

スグは左手に描いた魔法陣から炎を出現させ、剣を両手で握る

その瞬間、剣は大きく燃え上がり観客のところまで熱さを感じるほどに膨れ上がる

「あ、あれは!スグが必死に練習していた剣と魔法の融合攻撃!奥義、リフレクトスラッシュと上級魔法のエレガントファイアの融合技か!」

ジュールとスグはスレスレのところまで詰め寄り、一気に剣を振り抜く

だが、リフレクトスラッシュは先制攻撃技じゃない

スグはギリギリのところで立ち止まり、走ってきた反動を利用して一瞬だけ防御力を3倍にまで増幅させる

それによって相手のはじめの一撃を弾くのだ

そして弾かれた相手は不意を疲れてよろけてしまう

「な、なに!?」

「隙アリです!」

その一瞬をついてスグのエレガントファイアをまとった烈剣が炸裂する

防御なしで喰らったら一溜りもない威力だ

すごい速さでジュールのHPが減っていく

「ぐ、ぐぐぐぐっ!おりゃぁ!」

ギリギリのところで

何とかガードを発動し、スグを弾く

「さすがです、粘りますね」

「思っていたより強いな」

「ありがとうございます!」

「だが、勝つのは俺だ!これで終わらせる!」

ジュールは紫の光を放つ剣を握り締める

「オラァァァァ!」

ジュールはものすごいスピードでスグの目の前まで詰め寄り、剣を降る

「さ、さっきより早い!かわせ!スグ!」

「これで終わりだァ!」

スグの腰に刃が触れる、その瞬間

「遅いですよ?」

「な、なに!?」

スグはもうそこにはいなかった

「ど、どこに行った!?」

「う・し・ろ・です!」

「なんだと!?」

ジュールが振り返った時にはもう遅く、スグの刃は完全に首を捕らえていた

そしてデュエルの終了表示が現れる

結果はスグの完全勝利

デュエルでは絶対にHPが無くならないようになっているため、スグはゼロダメージをくらい、ジュールは残りHP1の状態だ

「勝った、勝ったんだ!スグ!お前、勝ったんだぞ!」

「やりました!私、勝ちました!」

スグはすぐにタクトのもとへ駆け寄ってきて抱きついてくる

「よく頑張った!」

そう言って頭を撫でてやると

「も、もっとしてください・・・」

「あぁ、もっとやってやる!」

するとミクが寄ってきて・・・

「よーしよし、良く頑張りました・・・」

スグの頭を撫でてあげる

「えへへ・・・ミクちゃんにも褒められちゃいました・・・えへへ」

その光景を見ていた観衆は皆、微笑ましいという表情で眺めていた

「完敗だ、スグルよ」

「あっ!ジュールさん!ありがとうございました!」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ、俺は、強くなってから何かを見失っていたのかもしれない、自分が最強だと勘違いしていたのかもしれない・・・だから、気づかせてくれてありがとう」

「いぇいぇ、また、今度もデュエルしましょうね!」

「あぁ、その時はもう少し手応えのある戦いを出来るように特訓しておくよ」

では、と言ってジュールは去っていく

観客もまばらに散っていってほとんど3人だけになった

「あれ?何かが届いています」

スグのメールに何かが届いている

開いてみると・・・

「えっと、デュエル勝利賞金・・・え!?」

「どうした?スグ・・・え!?」

タクトがスグのウィンドウをのぞき込むと同じ反応をしてしまう

そこには

『デュエル勝利賞金・4000万パル』

そう書かれていた

パルというのはこの世界のお金の単位だ

1パルで『うMYぼぅ』が買えるくらいだ

「よ、4000万パル!?」

目も耳も疑う金額に目を丸くする3人

「ということは、ジュールにはこれだけの賞金をかける強さがあったってことだよな・・・」

それを倒したスグっていったいどれだけの強さをひめているんだ・・・

これを超えなくてはならないと考えると先が思いやられるよ・・・

「で、でもこれでお金に困ることなく特訓ができますね!」

「あ、あぁ、そうだな・・・」

もうそろそろ正午だ

「それじゃぁご飯にしましょうか」

ミクはストレージから三人分の弁当を出す

「おっ!朝用意していたのはお弁当だったのか!」

ミクはタクトには黒の弁当箱を、スグには赤の弁当箱を、自分には青の弁当箱を渡す

弁当を開くとそれぞれに違ったものが入っているようだ

「うぉ!俺の好きなものばっかりだ!」

「みんなの好物をまとめてみたんだけど・・・おいしい?」

「あぁ!めっちゃ美味い!いつもありがとうな!」

ミクは少し照れ笑いをして自分の分を食べ始める

「あぁ!タクトくんのウィンナー欲しい!ちょうだい!」

「しょうがないなぁ、ほら!」

「あーんってしてよぉ」

「こ、ここは公共の場だぞ?そういうのは・・・」

「もぉ〜、タクトくんが来ないならわたしからむかえにいきますぅ!」

スグはタクトの箸に挟まったウィンナーを自分から迎えに行ってパクっ!っと食べてしまう

「ムフフ、おいひい・・・」

そんなスグを見てやはりミクさんも動き出す

体を前に乗り出し、ワタシモホシイアピールをしてくる

「うっ、俺のウィンナーが消えた・・・」

渋々ミクにもあーんをする

だが、幸せそうな二人を見ていると

「まぁ、いっか!」

そう思えてしまう

「ほら、タクトくん!あーん」

スグがお返しに自分の梅干しをあーんしてくる

「あーん、ってこれはスグが要らないだけだろ!」

「あ、バレちゃった?えへへ・・・」

「笑っても無駄です!食べなさい!」

「えー、いやですぅ!梅干しは無理なんですぅ!」

そんな二人をキラキラした目で見守るミクも含めて、これが僕らの日常なのです

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