第2話 ライフゼロ生活始めます

3人が落ちた谷間はかなり深く、直接落ちたら一溜りもないだろう。


スグもミクも気絶している。


「クソっ!」


タクトは最後の力を振り絞って二人に魔力を送る。


(俺は死んでもいい!だから、二人だけは生きてくれ!)


二人に魔力を送り切ってタクトの魔力はそこを尽きた。


薄れる意識の中で二人の身体が少し動いていたような気がした。


次の瞬間、タクトの体に大きな衝撃が走った。


体も動かせないまま、タクトはHPが無くなるのを待つしかなかった。


誰かが駆け寄ってくるのがわかる。


「タクトくん!どうして?」


「スグ・・・よかった、無事・・だったんだな・・・」


「タクトくんが魔力をくれたからです!タクトくんが私たちの魔法防御を高めてくれたから……」


私たちということはちゃんとミクにも効いたんだな、よかった……


「タクトくん!死んじゃダメです!死んじゃ嫌です!」


スグは涙と鼻水を垂らしながら動けないタクトの体を抱きしめる。


「だ・・・ぶだ、お・・はまたいき・・・えるから。」


「生ぎがえっだってで・・・今のダグドぐんじゃなきゃ嫌でずよぉぉ!・・・今のダグドぐんがずぎなんです!ダグドぐんが一瞬でも私を忘れぢゃうのが嫌なんでず!」


「おぃぉぃ・・・なき・・・・だろ」


いつの間にかミクもスグの隣で泣いている。


タクトは最後の力を振り絞ってはっきり聞こえるように言った。


「いままで・・・・ずっと・・・ありが・・とう・・・げんき・・で・・・な・・・」


「タクトくん?タクトくん!どうしたんですか?なにかいってくださいよ!タクトくん!タクトくん!」


スグはタクトの体を思いっきり揺らす。


でも、タクトは目覚めない。


タクトは徐々に透明になって消えていく。


涙を必死に抑えようとするスグの肩をミクはしっかりと抱きしめた。


「大丈夫、タクト君なら記憶が無くても大丈夫、私たちが新しい思い出を作っていこうよ。」


そういうミクもまた、涙を必死にこらえていた……


「もうそろそろ生き返るよ……」


新しいタクトにこんなくらい顔しちゃダメだと二人は無理やり笑顔を作る。


その瞬間、目の前にタクトがリスポーンした。


「初めまして!スグです」


「初めまして、ミクです」


「……あぁ、覚えてる」


「ですよね!誰だって感じですよね!私たちは以前まであなたと旅をしていてその途中であなたがモンスターに……って、へ?」


「だから覚えてる。」


(覚えてる?何を?)


「全部覚えてる、スグのことも、ミクのことも、俺がタクトだってことも……」


「え?おぼえて・・・る?ほ、ほんとに?」


「あぁ!本当だ!」


「うそ……覚えてる……タクトくんが……私たちのこと、覚えてる!」


スグの目にはまた涙が溢れてきた。

でも今度は悲しいんじゃない。


「うわぁ〜〜ん!タクトくん!タクトくん!」


「泣くなよぉ・・・」


そういうタクトも泣いていた。


「タクト、わたし、タクトくんが居なくなっちゃったらどうしようって、タクトくんが私のことを忘れたらどうしようって・・・うぅ!」


しばらくの間、スグとミクは泣き止まなかった。


タクトは二人を抱きしめながら生きている幸せを噛み締めていた。


_________________________________________


「大丈夫か?」


「うん、もう大丈夫、ありがとう!」


「ミクも大丈夫か?」


ミクは小さく頷く


「でも、どうして記憶を持ったまま生き返れたんでしょう・・・」


「なんでだろう・・・」


タクトとスグが悩んでいるとミクがタクトの肩をトントンと叩いてきた。


「ん?なんだ、ミク」


するとミクは、


「タクトくんの体力ゲージ」


と言った。


「体力ゲージ?」


タクトが自分の目線の左斜め上にある体力ゲージを見る。


上から順番にタクト、スグ、ミクの順番でパーティ全員の体力ゲージが見れる。


そしてタクトのゲージは・・・


「あれ?俺の体力が・・・ない・・・」


タクトの体力ゲージには枠はあるものの、残り体力はゼロと表示されている。


「どういう事だ・・・俺はもう、死んでるはずってことだよな・・・」


「ほ、本当です!タクトくんのゲージがゼロだ!」


考えられる原因は3つ。


一つは単なるバグ。


バグであるならすぐに修正されて消されるはずだ。


このゲームはコンピュータの


AIが勝手に学習し、人の手を借りずに


世界を管理するというシステムを


採用しているからバグは3秒もあれば


修正される。


つまりこれはない。


2つ目は誰かによってシステムを改変されて


俺が生きているという線だ。


AIが完全に仕切っていても


ハッカーはいくらでもいる。


システムに侵入し、


俺が死んだという情報を


改変したのかもしれない。


3つ目はほとんど可能性の無いものだが、


俺自身が特別な仕様になっている、


という線だ。


俺は死ねないという不死身の敵、


という作りなのかもしれない。



「ところで俺はこれ以上死ぬのか?」


ライフゼロから死ぬことなどできるのか?


「試しに・・・」


タクトは近くに落ちていた石を


拾って上に投げる。


「えっ、ちょっと!タクトくん!何をやってっ・・・」


スグが止めに入るがもう遅い。


重たい石はタクトの頭に直撃!


『タクトは0のダメージを受けた』


「やっぱり!俺はもう、死ななくなった!」


タクトは飛び跳ねて喜ぶ。


しかし、スグが可愛らしい鬼の形相で


睨んでいるのが視界に入る。


「タクト・・・くん?いまの、本当にダメージ喰らわないから良かったものの・・・」


スグの鬼の形相はだんだんと


泣き顔に変わっていく。


「一瞬でも、心配させないで!」


「ごめん、でももう俺は死なないからさ!これからは俺が二人を守る番だぜ!」


「もう、タクトくんったら・・・」


スグは少し嬉しそうだ。


ミクは静かに笑っていた。


「じゃあ、これからどうしようか・・・」


忘れていたがここは崖の下。


登る手段なんてある訳・・・


3人は当たりを見渡す。


でも周りは暗すぎてよく見えない。


「手分けして探すか!俺はこっちを探すからスグはそっちでミクはあったを頼む!」


タクトが歩きだそうとすると


急に背中を引っ張られた。


「ん?どうしたんだ?スグ。」


スグは、下を向いたまま何かを呟いている。


「ん?聞き取れないよ、もう少し大きな声で言ってくれ」


「わたし、暗いとこ、怖いです・・・」


「そ、そういえばそうだったな、

じゃあ一緒に探すか」


スグは顔を上げて小さく頷いた。


「じゃあ、ミクはあっちを・・・って」


ミクもタクトに抱きついてきて。


「もしかしてお前も・・・?」


ミクは小さく頷く。


その体は震えていた。


「じゃ、じゃあ、全員でさがすしかないか。」


結局全員で探すことになりました……


タクトはスグとミクが出してくれた


炎の明かりを頼りに当たりを探す。


「あのぉ〜、そろそろ離れて・・・」


さっきからずっと二人は


タクトの両腕を抱きしめたまま話さない。


嫌な訳では無いしむしろ心地いい、


暖かい温度が腕から染み込んでくる感じ・・・


だが、今はそれどころではないのだ。


しかし、


「い、いやですぅ!こ、こわいですからぁ。」


(いや、俺の腕抱きしめてたら大丈夫なのか?俺の腕はどんなお守りだよ・・・)


これ以上言っても聞いてくれないと思うし、


何より二人とも震えている。


それが怖さのせいか、


それとも寒さのせいかは分からないが


俺の腕が役に立つなら悪い気はしない。


そんなことを考えていると足に何かが当たる。


「なんだこれ・・・」


スグが足元をよく照らす。


「何か、丸いものか?」


「あ!もしかして!」


「スグ、何かわかるのか?」


「いや、もしかしてなんですけど、

これってワープゾーンじゃないですか?」


ワープゾーン……言われてみれば確かに!


「でも、起動していないみたいですね・・・」


「クソっ!これが起動していれば帰れたのに!」


やるせない気持ちからタクトは


ワープゾーンをドンっと踏んでしまう。


ウィーーーン!


「う、動きました!流石です!タクトさん!」


スグが尊敬の眼差しをしてくる。


「ははは、そ、そうだろぉ、ははは」


(やべっ!つい嘘をついてしまった!


見栄っ張りな性格のせいだ!クソっ!)


スグはまだ尊敬の眼差しで


タクトを見つめる。


しかし、ミクは少し笑っているようだ。


そして小声で


「いつものタクトさんで良かった。」


と言ったのが聞こえた。


(えっ!俺っていつも


見栄っ張りだと見られてんの!?)


少し心が寒くなった気がしたタクトであった。

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