第三十二話…「メイドの拳と分らぬ矛先」


 岩砕の拳…久々に使ったのもあるけど、手がちょー痛いのだが…。

 できるという確信があったから出てしまったが、さすがのティカも、ちょっとだけ後悔がたっているぞ…。

『てめぇ…なんでここに居やがる?』

 助けてもらった人の言葉とは思えないな…、少なくとも子供に聞かせられない…と言ってももう遅いのだが…。

 その棘のある問いを投げてきたのは、ご主人の弟子…セ・ステッソ・フォルテ、我が強くて口が汚い…、腕はそこそこ立つのは認めるけど、それも結局上位者じゃないし、発展途上特有の…俺はやれる…できる…て思い込みのアレがヒシヒシと伝わってくる。

 変に強いと陥りやすいよね。


---[01]---


 分かる、分るぞ少年、全員ではなくても、誰しも通る可能性のある道だ。

「なんで? 察しが悪いな~。世のため人のため…、誰かを守るのに理由が必要なのか? いやいや、いらないいらない、そんなモノは必要ないの」

「答えになってねぇ…よ。クソが…」

「そういう言葉遣い、あまりしないでね」

「あ?」

 こやつ、本当に誰彼構わず噛みつくな。

 ティカの言葉に、そんなわかりやすくガンつけなくてもいいぞ。

 それに、イラっとしてるのはわかるし、その気持ちを否定するつもりもないけど、その程度の脅しで怖気づくティカではないのだ。

「ティカはやる事をやっているだけよッ!」

「んあ?」


---[02]---


 ティカのその言葉と同時に、物陰からセスの方へ、愛くるしい少女が駆け寄っていく。

「てめぇ、何すんだ、ゴラッ!」

 声を荒げるセスだが、それを突っぱねたり払い除けたり、そんな事はしない…、口が悪くて性格もアレであっても、子供に手を出す事はないようだ。

 いじめ云々は、また別問題と見た。

「医者を嫌う子供じゃないんだからさ~。駄々をこねるのはよそうぜ、少年?」

「ああ? 誰が少年だッ!」

「いいからいいから、その子が率先して自分からやりたいって言ってるんだから、お世話させてあげてよッ! ティカの教えの賜物なんだからッ!」

 駆け寄った少女…ジョーゼちゃんは取り出した杖を、セスにあてがう。

 お世話をするやりがいというモノを教えた成果が今ここに…。


---[03]---


 ・・・違うか。

 ジョーゼちゃん自身が、元々ジッとしていられない性格なだけだ。

 その杖は、簡易的な治癒を促せる杖魔法の杖、その効果に気付き、とにかく不満そうな表情を見せるセスだけど、文句も言わずにジッとした。

 それを見届けて、ティカは相手の方へと向き直る。

「やあやあ、長話で待たせちゃってごめんねッ!」

 魔法を使ってセスが戦ってた子…、子供か…それとも体の小さい大人か…。

 いくらセスが血の気が多くて喧嘩っ早いっていっても、こんな状況で喧嘩し続ける…なんて、しかも武器まで使ってまでやるとは思わない…え~…、思えない…多分。

 なんだかんだわかれば話せる少年なんだから。

 今だってジョーゼちゃんの治癒を静かに受けてくれてるし。


---[04]---


 だから、戦ってたという事は敵なのは確実。

 引っかかるのは、敵なら何で今すぐに襲ってこなかったかって事だ。

 ティカが言うのもなんだが、戦いの場にしては、えらく長ったらしい会話をしてたと思うの…、でも襲ってこなかったのには理由があるのかな?

 本当は戦いたくない…とかだったら、嬉しい事この上ないんだが…だが~…。

 目の前の敵は、自分の周囲に血?をまき散らす。

 あのよくわからない大きい魔物?の歩いた場所、割れた石畳の石にソレは付き、僅かな光を放つと共に宙へと浮いて行く。

「やる気満々といった所だな」

 無欠終戦…とはいかんようで…、なら、致し方なしだ。

 といっても、後ろにいるジョーゼちゃん達に被害が出ない様にするのが前提。

 スーハー…と軽く呼吸を整え、再びその手に拳を作る。


---[05]---


 さっきあの魔法使いの周辺に火の壁みたいなのも出ていたし、それを証明するように焦げた臭いが鼻に香ってくる…、よって危険なのは石だけじゃない。

 ティカは、勢いよく飛んでくる石に、来いッ!と意気込みながら拳を突き出した。

 1…2…3…と飛んでくる石を叩く。

 一際大きいモノにも、ティカは怯まない。

「フンッ!」

 強い踏み込みと共に、一点を狙いつつも両拳が貫く。

 その瞬間、鼻をかすめる土の匂い…。

 何かが来ると身構えた時には、今度はティカの左右を挟むように、飛ぶ石じゃなく、石でできた人型の何かが立ち上がった。

 いわゆる石人形…という奴だ。

 こっちを殴らんとして、その石でできた拳を振り上げている。


---[06]---


 だが問題な~しッ!

 左右同時に振り下ろされたゲンコツ。

 ソレを殴る様に両手で、同時に狙いを逸らす。

 人の手ではないその重量のあるソレに対し、生半可な力じゃ、逸らしきれずに体で受ける事になる…、だからいっそ逸らすというより殴り弾くように叩く…、一方を自分の前の方へ、もう一方を自分の後ろへ…。

 甲斐あって、狙いがズレた拳は地面を…石畳を穿つ。

 その一瞬の…相手の動きの鈍り…、まず1体。

 右側にいる石人形の胴体目掛け、支えとして左手で右手の拳を覆い、その状態から右の肘打ちでもって、胴体部分を作っている石を砕く。

 そして今度は左側…。


---[07]---


 振り向き様にその胴へ蹴りを入れ、石人形が後ろへ数歩動いた分、余裕をもって踏み込むと同時に、体の中の空気を入れ替えるように呼吸をする。

 敵へと打ち込む構え…。

「二連瞬撃打ち…」

 一瞬、瞬く間の二連撃…、一撃を入れるだけの間に、その石人形の胴体には、二撃の殴打痕が刻まれ、その体が叩き飛ばされると同時に、胴体が粉々に砕けていった。

「ふ~~~…」

 全ては一糸乱れぬ精神状態から…、精神状態が乱れていては思考が揺れて、体に染み込ませた武もまた乱れる。

 一撃一撃に魂を込めて拳は放つのだ…。

 だがしかし…、だがしかし…だ。

 体の中の状態を整えるために、その瞬間は深呼吸をする。


---[08]---


 必死に自分の頭の中を乱さないようにしても、ティカ自身の…落ち着け…という言葉とは裏腹に、痛い痛い痛い…と内心…本心が、大声で泣き叫ぶ。

 1回2回ならよかったのに…、思ってたよりも来る…、この痛みの叫び。

 でも、あるのは痛みだけ…。

 ティカの手は、まだまだ皮の1枚すら剝けてないッ。

 チラッと後ろを見れば、まだセスの治療は終わっていないみたい…、それはそうでしょ…、ジョーゼちゃんはご主人様の一番弟子、そもそも魔法使いの村の出で、他の人よりも魔力の扱いが上手いといってもまだまだ未熟者だし、だからこそソレを補うために杖を使っての治療をしてるけど、杖だからこそ、そこには限界というモノがある。

 ティカの役目は、そんなジョーゼちゃんに役目を全うしてもらうため、全力で邪魔をさせない事だ。


---[09]---


 そう…、応援するぞ…応援する…、ティカはジョーゼちゃんがやる事を応援する…、可能なら、力だって貸す。

 どんなに絶望の淵に居たとしても、ソレが、誰かに言われたからでも、自分の意思だとしても、絶望を乗り越えて先へ、未来へ歩いて行こうとする人を支えるのが、ティカの付き人の役目だッ。

 ・・・といっても、これでは埒が明かない。

 肘打ちをした方は立ち上がり、技を当てた方もまた…砕けた部分を取り除いて、体を小さくしつつも立ち上がった。

 やっぱり魔法使いとの戦いは、本人を叩かないと終わりそうにないなぁ~。

 それにしても血を使う魔法…か。

 自分の血さえ使えば、やりたい放題とか?

 何それヒドイ。万能? 万能なの、ソレ?


---[10]---


 ご主人、そんな魔法を極めっちゃったりなんかしてるの?

 ホント、世話のし甲斐があるなあの人は、そんな…魔法を使う度に血を使ってたら、いつかそこから病気になっちゃうでしょッ。

 そんな事になったら、ジョーゼちゃんが悲しんじゃう。

 でも、安心してほしい…、もし病気になっても、ティカが誠心誠意お世話してあげるから。

「むふふ…。」

 考えるだけでヨダレが…。

「…ハッ!?」

 ティカは、無駄無く後ろへと飛ぶ。

 すると、さっきまでティカがいた場所を、石人形が手を振り下ろしていた。

「あ、あぶないあぶない。」


---[11]---


 打開策で、相手の事を考えるのは良いけど、それで脱線してはダメだぞティカ、昔からの悪い癖だ。

 さぁ、これからどうするか…ね。

 ジョーゼちゃんの治癒が終われば、この場での形成は逆転する…として…してほしいとして、それまでの事だけどもさ。

 相手は、石人形が作れるのに、なんでティカしか狙わないのか。

 狙わない理由があるのかな?

 そもそも戦うのが目的じゃないとかだったら…嬉しいんだけど~、そんな事はないよね。

 セスが喧嘩を売ったから戦ってるだけとかなら、悲しいけど。

 変な巨人の…魔物だか魔人だかわからないけど、そんなのが歩いてる状況で、戦う理由なんて多くないよ、うん。


---[12]---


 アレを止めたい人、その止めたい人を止めたい人、ただただ便乗して戦いたいだけの人ッ…、あとは…そうだな~、普通に防衛してるだけとか…、その辺だけだよ。

 ティカは、あまりセスの事を知らないけど、ただ戦いたいだけの戦闘狂でもないと思うから、あの魔法使いは止めたいを止めたい人と見た。

「なら目的は時間稼ぎ…かな~?」

 ティカも目的はジョーゼちゃんの為の時間稼ぎだけど。

 でも、ソレだと治療も邪魔するんじゃない? しない?

 治療が終わって、あのセスがココをティカに任せて巨人の方へ行った日には、時間稼ぎどころじゃなくなるけど、狙わない理由でもあるのか?

 よくわからないな~。

 まぁ、ジョーゼちゃん達を狙わないなら、肩の荷が少し軽くなるし、ティカもちょっとだけやり方を変えようじゃないかッ。


---[13]---


 いくら怪我をしてるって言っても、セスはまだまだ戦う気満々だったし、もし自分の方に敵の牙が向いても返り討ちにするよね。

 パンッ!…と胸元で手を強く合わせる。

 まぁ相手がもし、ジョーゼちゃんを狙っても…、ティカが守るけどね…。

 ティカは、目の前の石人形を見る事無く、さらに先…、魔法使いをその目に捉えた。

 魔法使い相手の常套手段で行く。

 その一瞬、走る馬並みの速さで飛び出したティカは、石人形が反応するよりも早く、その2体を跳び越える。

 宙返りをしながら、2体の頭を掴み、それを地面へ叩きつけた。

 左右へと細かな動きを入れながら、蛇行するように魔法使いへと突っ込んでいく。

 その動きの甲斐あって、相手の魔法を撃つ照準は定まらないはず、それでも時折正確な魔法の射撃が飛んでくるのは、その腕あってのモノか?


---[14]---


 石ではない…魔法の玉、ご主人が練習だと言って撃っていたモノに似ている。

 それを手で弾けば、怪我をした訳でもないのに弾いた手が痛みを叫ぶ。

「嫌な魔法だなッ!」

 ただ痛みだけを与えるのが目的かのようにさえ思わせる…その攻撃。

 ティカを小馬鹿でもしてるの?

 陰湿な嫌がらせとも思えるね。

 そんなだから、ティカを懐まで近づかせちゃうんだよ?

 殺傷能力の魔法を使えるのに使わなかったのなら、その慢心が命取り、出来ないのなら、ごめんね…という言葉を送ろう。

 魔法使いはもう、ティカの手の届く範囲だ。

 それは相手も気づいてる。


---[15]---


 ティカから離れようとするのと同時に、石を集めてその間に壁…大きさ的に盾といった方がいいけど、ソレを作った。

「あんっまあぁーーーいッ!」

 邪魔な盾だ…、ティカはそこに左手を添える。

 そう…添えるだけ。

 それはただ、打ち抜く場所を正確にするだけの的。

 そこ目掛けて飛んでいく右手の拳は、その壁を容易く粉砕して見せる。

「一枚岩でなければ、今の状態でもこの通りだッ!」

 深々と被られたフードで、魔法使いの顔は伺えないのがもどかしいけど、うっすらと見える口元には…マズい…と言いたそうな口が見えた。

 命を取る事はしない。

 でも気絶するぐらいの拳は、なかなかに痛いよッ!


---[16]---


 相手にトドメを刺す時は、瞬きをする事すら忘れちゃう…、だからこそ、いつも以上に相手の動きが見える。

 その瞬間、ほんの一瞬、ほんのわずかな光を、魔法使いは纏った。

 ふわりと優しい風が吹いたかのような衣類の変化、赤みを帯びた光…、ティカの鼻に香る花の匂い…。

 ティカが突き出した左拳は、そのお腹へ確かに当たったけど、まるで宙を舞っている落ち葉を叩いた時のような軽さ…、相手の重みを一切感じない…、致命打にならない感触。

 こちらの驚きとは裏腹に、相手の手が光る。

 こっちが出した拳を戻しきれない中、魔法使いの手から出された光の玉が、お互いの間で弾け、そして四方に…人だって吹き飛ばす突風を巻き起こした。

「…ッ!?」


---[17]---


 攻撃を出す時の踏み込みは完璧ッ。

 踏ん張りも効いて、そんじょそこらの衝撃ならビクともしないけど…、コレは無理ッ!

 突風に飛ばされ、ティカの体は中を舞う。

 上下左右の間隔が狂う。

 どこが上で、どこが下?

 衝撃自体に相手を傷つけるような殺傷能力は無かったからよかったけど、いよいよ相手の目的がわからんなぁ~。

 宙へと浮いたティカ…、器用に体をくねらせて、体が地面に落ちる時には、ばっちし頭を上に…足を下に、手と尻尾は翻るスカートを押さえて、体勢完璧だ。

 でも、そんなティカに向かって飛んでくるのは拳ほどの大きさの石…、自分に当たる前に弾くが、その影に隠れてもう1つの石があった。


---[18]---


「…ッ!?」

 それも、ただの石じゃない。

 石には血が付着し、先に飛んできていた石を弾いた要領で、同じように弾こうすると、鼻へと焦げ臭い臭いが香る。

 その時、石についた血が発火、たちまちその火を炎の渦へと変え、ティカを飲み込もうと襲い掛かった。

 視界一杯に広がる炎。

 炎が出てるのはその石…、石を弾こうと伸ばした手を引っ込めながら、右足を振り上げる。

 石を頭上高く蹴り上げてた。

 酷い事にはならなかったけど、襲い掛かって来た炎が、服を…、肌を…、髪を少し焼き、鼻には髪が燃えた嫌な臭いが香って曲がりそうな程に臭い。


---[19]---


 思わず手で鼻を覆う程…。

 そんな中、視界の端に映る影に、ティカは反応が少しだけ遅れる。

 それは最初に弾いた石が飛んでいった方向…、再び現れた石人形…。

 マズい。

 さっきの炎はこれが目的かい!?

 視界を奪われ、鼻も奪われ、攻撃を退き切ったと思った時のコレは…。

 反応の遅れは、回避が間に合わない程の遅れを生んでいる。

 回避をする余裕も無ければ、攻撃される前に反撃する余裕だって当然無い。

 振り下ろされる石の拳に対して、目一杯力を込めた両手で防御する。

 その衝撃は痛みと共に、ドスンッと両手を通じて全身を駆け抜けた。

 両手が激痛と共に軋み、踏ん張っていた足は、今にも砕けそう。

「ん…ぐぅ…」


---[20]---


 石人形は振り下ろした手を上げずに、もう片方の手を上げる。

 上げてもらえない手が重しとなって、身動きだってままならない。

「これは、やばめ…だな~」

 次の一撃は耐えられるかわからない。

 相手の押し付けられてるような拳の重さに加え、その動きの遅さから徐々に上げっていく拳が、考える時間を与えてくれると同時に、恐怖を味わう時間にもなる。

 仕方ない…。

 ティカは歯を食いしばり、全身に…特にお腹の方へ意識を集中した。

 深く深呼吸をしながら、上げられた拳が振り下ろされるその瞬間…そのギリギリまで、この状況を打開するための準備をする。

 さあさあ…、その拳がいよいよ振り下ろされるその瞬間、やってやる…とさらに深く息を吸いこんだその刹那。


---[21]---


 石人形の拳がティカの所まで降ってくる前に、その重い体ごと横へと叩き飛ばされた。

「わぁ~…」

 その衝撃が、石人形伝いにほんのちょっとだけティカの体を襲って、恥ずかしくも横へ転ぶ結果となる。

「すんごい力な~」

 石人形を遠くまで叩き飛ばすのは、ただただすごい攻撃だ。

 それを成したのは…、ジョーゼちゃんの治療が終わったセス。

 色んな意味でホッと胸を撫で下ろす次第である。

 セスはこっちを見る事無く、魔法使いの方を見る…というより、魔法使いがいた方を見る…の方が正解。

 いつの間にか魔法使いは姿を消していた。


---[22]---


「チッ…」

 セスの苛立ちの籠った舌打ちが、ティカの耳にまで届く。

 そう言うのは誰もいない所でやってほしい。

 そんな空気がとにかく悪い所へ、ジョーゼちゃんが走り寄り、その手に杖魔法の杖を持ってしゃがみ込む。

「あり…ありがとう、ジョーゼちゃん」

 そのおぼつかなくとも自分の仕事をやろうとするジョーゼちゃんに、ティカは涙モノだよ。

 でもそんな嬉しさ溢れる状況の中、セスが歩き出す。

「どこに行く気かな?」

 聞かなくても何となくわかるというか、ティカ達が来た状況からして、あの巨人にちょっかい出しに行こうとしてると思うけど、話しかける口実として、そんな事を聞いてみる。


---[23]---


「決まってんだろ。あのデカブツのをぶっ潰しに行くんだよ」

 案の定だったか~、そうか~。

 彼の真の力が何処までかは知らないけど、いくら治療を受けたとはいえ、完全でない人をアレと戦わせたとしても、良い結果が出るとは思えないな。

 かといって、この男子を止める言葉をティカは持ってないという…。

 なんとも助け甲斐の無い人だ。

 感謝の気持ちを求めて手を指し伸ばす訳じゃないけど、何でもかんでも自分でやっちゃうご主人とは違うヤツ、ティカ、あの人嫌いです。

 ご主人は、助けが必要なくせに一人で頑張るから、放っておけないというか…助けてあげなきゃって気になるけど、あの人は使えるモノは使うけど、助けって概念を否定してる感じ。


---[24]---


 やらなきゃ…て気持ちか、やれる邪魔するな…て気持ち、その違いだな。

 あの人は後者、助け甲斐がない嫌いな人だ。

 ズキズキと、戦った余韻が残る中、ほんの気持ち程度の痛みの和らぎ…が身体を包む。

 決して早くないその優しい治癒に、不満の溜まった心が浄化されていくようだ。

 その杖を持つ手は震えているのに、真剣に、自分がやると決めた事を全うしようとするその姿勢は実に愛くるしい。

「もう大丈夫だ、ジョーゼちゃん、ここは危ないから、続きは安全な場所に行ってからお願い」

コクッ…。

 ティカの言葉に、ジョーゼちゃんは不安そうな表情を浮かべながら頷く。

 自分にできる事をやりたい…か。

 お願いされたとはいえ、危ない場所に連れて来てしまったティカは、胸が痛む思いだけど…。


 巨人目掛けて走っていったセスの姿はもう無い。


 この子の力が、何かの助けになるのなら…、ティカはそう願う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る