第二話…「魔法使いと師匠の悩み」【2】


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 訓練場を出て館に戻る道すがら…。

「でも見られるだけじゃ、その柔肌が傷物になる事は無いだろ? 幸いな事に、その格好じゃ中身が誰かなんて、身内でしか判断できないからな」

「それもそうか…じゃなくて、私はバッチリ傷ついたよ、隊長先生。私の夢と希望の詰まった乙女心は、大陸の北にあるターニア山よろしく、そこから流れ出て、大地に線を引いた大川の如く、大きな傷という名の川を引いてしまったよ」

「例えが分かりづらい」

「とにかく、すごく傷ついたのじゃ!」

「そうか、それはすまなかったな」

「心がな~い…」

「悪かったな。その辺の気遣いが下手なもんでね」


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「も~…、可愛いお嫁さんがいるのに、こんな気の利かなさじゃ、苦労させますよ?」

「誰が嫁だよ? 誰が?」

「わかってるくせに~…。ちっちゃな魔法使い様ですよ~」

「あ~…、そうか、なるほど」

 セスといい、何故そういう茶化し方をしてくるのか…。

「せめて娘とかそういう言い方をしろ」

「え~…」

「まぁそれは横に置いとくとして、女への気遣いか…身近な女と言っても、お前とか譲さんとかだろ? 身近って言うと。譲さんに対しては元々そういう接し方をするつもりもないし、お前は…、まぁそういう事だ」


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「何その、この状況を考えればわかるだろ、みたいな言い方ッ! 身の回りの女の子が私とフェリス隊長ぐらいって思っているだけでもダメですよ、ダメダメ。もう色々とお察し感満載ですって」

「悪かったな」

 反論するつもりもないが、そもそも反論するにしたって、それに対する答えを持っていない。

 ただただ悪い、と口にするだけで終わる。


 館に着いて、まずは食堂に寄り、フォーに飲ませる水を取りに調理場へと向かう。

「シオじゃないか。盗み食いか?」

 そこには先客シオの姿と、調理長でもある譲さんの世話したがり、俺にとってのティカのような存在の、小人種のドルチェ・ストレガの姿があった。


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「違うって、ちょっと相談してただけ」

 俺の出現に若干の動揺をしつつ、すぐに冗談で言った問いに首を振る。

「なんて気の利かない言葉なのでしょう…」

 そんな俺とシオとのやり取りに対して、ストレガは露骨に不快感を前面に出して、言葉を吐き出す。

「気が利かないって…、そんな真面目に取る事でもないだろ。別に緊迫した状況でもないみたいだったし、冗談を言っただけだって」

「どうだか…」

 ストレガは、こちらの言葉が何から何まで気に食わないと言わんばかりに、嫌悪の表情を浮かべるが、シオに向き直る瞬間には、その嫌悪の色は見る影もなく消え去る。


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「そこの野郎は放っておいて、シオさん、他に欲しいモノはありますかしら?」

「え、あ、いや、大丈夫。ありがとうございます」

「そうですか。では、さっきおっしゃったモノを一緒に注文させていただきます。物が入り次第お伝えしますわ」

「はい」

 そう言って、シオはストレガに対して深々と頭を下げた。

「何か入り用なのか?」

「いや、そんな気にするような事じゃないから大丈夫」

「そうか。何か手が必要になったら言えよ」

「うん。そんな時が来れば、頼むよ」

 そう言い残し、シオは小走りで食堂を後にする。


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「ほんと、無粋な人だわ」

 そして、そんな彼女の後姿を見送ったストレガは、あからさまに不機嫌なため息を吐き、俺を睨みつける。

 俺とストレガ、どんな行き違いがあったのか、正直見当もつかないが、とりあえず何かあったらしく、関係は最悪の一言だ。

「それで…? あなたは何の用? 食事の時間にはだいぶ早いですし、そもそも必要以上に調理場に人が入るのは不快なのだけど」

 シオは良くて、俺はダメか?

 まぁ俺に限らず、シオに対しても俺と同じ感情を抱かれていたらと思うと、それはそれで看過できない事だけど。

 最初はこんなんじゃなかったと思うが…村に譲さんを追ってきた時が初対面だけど、その時は普通に受け答えをしてくれていたし、本当、何が原因なんだか。


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 犬猿の仲…というのだろうが、一方的な不仲なので、理不尽にも程がある。

 原因もわからず一方的に嫌われるというのは、それだけで怖いモノだ。

「訓練で動く事もままならなくなった弟子のために、水を一杯貰おうと思っただけだ」

「・・・」

 不機嫌そう…、台に乗り、食堂の状況を確認、動かないフォーの存在に気付き、嫌々という表情を崩す事なく、無言のまま水の入ったコップをトレイに乗せて、こちらを見る事なく渡してくる。

「ありがと」

 こちらに敵意はなく、嫌っていないという意思表示も兼ね、出来る限り嬉しそうな表情を作ってお礼を言った。


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 普段意識的に嬉しそうな表情とかしないから、その表情はぎこちなかっただろうけど、変ではないはずだ。

 フォーの所へ戻り、もらった水を渡すと、彼女は仮面を上に少しずらして、少しずつゆっくりと飲んでいく。

 口元を見る限り、その健康状態に問題はなさそうだ。

 断定はできないが、肌荒れとかそういう類のモノはない。

 謎が多すぎるからな、わかる範囲で気を使っていかないと。

「隊長先生は、シオの事をどう思う?」

「突然だな」

「いやいや、さっきから話は全て一本の線でつながっているのですよ?」

「ん~…。どうと言われても、答えようがない」


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「え~、何かあるでしょうが、可愛い~とか、守りたくなる~とか」

「そうか? シオに関しては、むしろ頼もしさを感じるんだが。なんでも率先してやっていくし、周りへの気配りも忘れない」

 初めてシオを見たのが喧嘩をする光景だから、第一印象は良いモノではなかったけど…。

「喧嘩をすぐ買うし、性格も荒っぽい部分が見て取れるが、性格と周りへの気配り、その相反する組み合わせは、育った環境故なのかもな」

『呆れますわね、ほんと』

 俺の言葉を評価するかのように、横槍が飛び、ストレガがトレイに何かを乗せて現れる。

「なんだそれ?」


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「あなたには関係ないモノですわ」

 彼女は持ってきたモノをフォーの前に置く。

「動けない程運動をしたという事なので、クリョシタさん、水分だけでなく消費した分の栄養を取らないとダメですわ」

 そう言って、チラッとこちらに視線を送る。

「お~、ありがとう」

「今日の昼食用に仕込んでいた芋と肉のスープです」

「これはこれはかたじけない」

 フォーは嬉しそうにスプーンを取ると、両手の平を合わせ、お辞儀をするような動きをしてから、水を飲んでいた時と同じように、仮面を付けたまま出されたスープを飲み始めた。


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「何があっても、その仮面は取らないんだな」

「何を言う、当たり前じゃないか。この仮面の先、中身は乙女の花園、そう易々と見せられるモノじゃないのだよ、隊長先生」

「人見知りで恥ずかしいからじゃなかったのか?」

「あ~ん、それもあるけど、あるけどもだよ。それは理由の1つに過ぎないのさ」

「女性の事をあれこれ詮索するとか、失礼にも程があるわね」

「むぅ…」

 言われたい放題だな…。

 そしてストレガは満足したのか、調理場の方へと戻っていく。

「ふっふっふっ、隊長先生が弟子の事を知ろうとする努力は、素直に尊敬するよ。そして、一番の謎に包まれた美女に時間をかけるという姿勢も、好感触だ」


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「素顔を一回も見た事のない人間相手に対して、自分から美女とか言うなよ」

「なんで~!? いいじゃな~い。普段声しか聴く事ができない女性が、いざその姿を現したら、それは絶世の美女だった…とか、結構王道というか夢のある話だと思うんだけどな、僕は」

「そういう物語を書いた本はほとんど読んだ事が無い。だから王道とか言われても、頷けないって話だ」

「そうなのか~…。じゃあ今度私がおすすめする本を数冊貸そう。それで隊長先生も乙女心と言うモノを学ぶと言い」

「学べる事を祈る。良い経験だ、有難く借りよう」

「え? マジで!? やったぜ! ぐへへへ…」

 不安だな。


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「大丈夫大丈夫気にしないで、初心者って事で、敷居が低いモノを用意するから」

 こちらの心を読んだかのように、問題ないと笑い飛ばすフォーだが、不安を拭う事は全くできなかった。


「お、来るのが早いな。やる気があってよろしい」

 フォーがスープを食べ終わるのを待った後、少しは動けるようになった彼女に肩を貸し、魔法の鍛錬場所である部屋へと向かうと、部屋にはすでに。セスが額に汗を浮かべながら、木の板を魔法で浮かばせ続けていた。

 やり過ぎには注意しろという俺の言葉が聞き届けられていない…なんて事を思いはしたけど、やってしまったのならしょうがない。

「シオは来ていないか?」


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「ああ? 知らねぇよ。こっちは集中してんだ。話しかけんじゃねぇ」

「残念。浮かせるだけならできるんだ。次の段階に進む事を意識しないとダメだぞ。会話ぐらい、もっと余裕をもってできるようにしないと」

「う、うるせぇ」

 俺の言葉に集中が揺らいだせいか、声をかける前はぴたりと浮いたまま動く事の無かった木の板が、全く動かない状態と激しく荒ぶる状態を交互に繰り返す。

 声をかける前は昨日の今日で一気に成長したなと思ったが、声をかけた後は昨日とたいして変わらず、安定しない。

 セスは、一人でいれば集中もそれなりにできるみたいだが、誰かがいるとその方へ意識が持っていかれるようだ。

 シオとは別の意味で、周りを気にする性分らしい。


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「妙に疲れているように思えるけど、いつからやってんだ?」

「さっき来たばかり…だ…」

「そう」

 集中のし過ぎで体力の消耗が激しい?

 いや、単純に嘘を言っているだけだな。

 我が強い奴だ、一人頑張って練習をする光景なんて、誰かに見られたい光景じゃないんだろう。

 それにしても、シオの奴が一番乗りすると思っていただけに、セスだけが先に着ているというのは、予想外だ。

 二人だけ同じ部屋に置いておく…なんて、出来るだけ避けたい事ではあるから、ある意味幸いと言える。


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「おい…、一つ…いいか?」

「ん?」

 新しい試みか、セスが木の板を浮かせるのを止めずに、こちらに話しかけてくる。

「魔法で体を強くしたら…、どのぐらい強く…なれるもんなんだ…?」

 彼から素直に質問される事自体稀で、その新鮮さから俺の口も元気に走る。

「強化する体、魔法に使う魔力量、明確な強さに対する想像力、その3つがどれだけ高められるか次第だ。そういうの関係なく強化による最大値だけの話なら、強化する体がどれだけ鍛えられているか次第だな。強化するのはその体だ、腕なら腕の筋力とかの元の力がどれだけ高いかで決まる。同じ魔力量、同じ想像で強化した場合、俺とセスなら、確実にお前の方が力は大きくなる。要は足し算ではなく掛け算なんだよ。元がどれだけ強いかで上昇値も変わるって事だ」


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「む…ぐ…」

「当然、体には限界がある。それは魔力量とか想像力ではなく、肉体がどれだけ耐えられるか次第。だから何を求めるかによっても変わるが、純粋にどれだけ強い力を出せるかだけで言えば、体、魔力、想像、その3つの中で一番重要なのは体だ。残り2つがどれだけ優れていても、体が弱けりゃ出せる力は小さい。もっと詳しく話すなら、体の魔力に対する耐性なんてのも入ってくるんだが…今言っても頭に入らないな」

 セスの顔が、長時間息を止めているかのように赤くなっていく。

 話している途中から段々と顔が赤くなってきた、それは浮かせ続ける事の限界が近いという表れだ。

 何とか浮かばせ続けようと力み過ぎた結果。


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 その姿を見ては、話を続けようという気持ちも萎えると言うモノだ。

「ブハァッ!」

 そして、糸が切れたかのように、木の板は床に落ち、セスの硬く閉ざされていた口が開かれて、古くなった空気を肺から一気に吐き出した。

「それで? なんで急にそんな事を聞いてきたんだ?」

「わかりきった…事を…聞きやがる…。あいつに…勝つためだ…。借りは必ず…返す…。それだけだよ…。あいつが…俺の剣を防げた…理由が知りたかった…。それが俺にできない…事なら…、それだけあいつ…との力の差が開く…。逆に…、俺にできるようになれば…、空いた差は縮まる…。しかも今の話からいけば、縮まる所か…数歩先を行く可能性だって…あるはずだ…」

 確かに…。


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 というかあれは単純なモノで、しかも発声魔法で強化していたから、習得難易度は低い。

 ちゃんと発声魔法さえ発動できれば、後は強化する度合を調整するだけ。

 バテているのに、セスの目は闘争心でいっぱい、負けず嫌いも、ここまで来ると怖いの一言だ。

「数歩どころか…だ。セスがどういう戦い方を目指しているのかは知らないが、その体格、体なら、単純な強化魔法でもかなりの優位を得る事ができるだろう。そもそもお前は剣士、純粋な魔法使いに転向するのなら話は別だが、そうでないのなら肉体強化を主にして、徹底的な肉弾戦特化が良いかもな」

「そんな事は、言われなくたってわかってる。最初からそのつもりだからな。遠くからチマチマと豆玉を飛ばすよりは断然良い。一撃確殺を求めるなら、てめぇのその右手みたいになる事を覚悟しなきゃいけないんだろ? こっちはそんなの願い下げだ。剣が持てなくなったら元も子もない」


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「ち、ちょっと、セスっち、それは無神経が過ぎるぞ?」

 呼吸を整え言い放たれるセスの言葉に、思わずフォーが反応する。

 右手を失う程という意味では相手が相手過ぎる、現状の右腕程度の怪我で済ませるにしてもかなりの強敵相手だ。

 セスが言う一撃確殺は余程の強敵でもない限り可能、でもそれはさすがに偏見過ぎる気がしないでもない。

 この怪我の一撃確殺できる範囲が広すぎるからな。

 なんて、笑い交じりに言うつもりだったが、フォーの焦りの混じった制止に、完全にその時を見失った。

「ふんっ、別に何の問題もねぇだろ」

「いやいや、普通言わないよ? 問題ないなんてないって」


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 一応、俺が王都で生活する事になった経緯は、弟子4人に伝えてある。

 この腕の事も、ジョーゼの事も。

 魔法を教えてくれればそれでいい…なんて言われたらそれまでだが、上に立つ者として、自分の素上は伝えておくべきと判断した。

「別に構わないから、そんな気にするな、フォー」

 不適切な言葉と思って、それを止めようとするフォーの言葉、こんな事で気苦労を増やさせる訳にはいかないと、俺はセスにやめさせようとする彼女を止めた。

「だから言ったじゃねぇか」

「まぁそれはそれ、これはこれだがな」

 ほれ見た事かと優越感に浸るセスに、俺は釘を刺す。

「俺は別に気にしないが、言っていい事と悪い事、ちゃんと気を付けないといけない」


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「ふっ…。はいはい、わかりましたよ、し・しょ・う」

 生意気な臭いを漂わせながら、反省していないと体で表現しつつ、口では謝罪の言葉を口にする。

 まるでいたずらをした子供が、反省もせずに謝りに来たような気分だ。

コンコン…。

 そんな時、部屋のドアが叩かれ、少しの間を置いて扉が開かれる。

 顔を覗かせたのはシオだった。

「来たか。食堂を出たのは先だったのに、来るのは遅かったな。何か問題事か?」

「い、いや、私情で外に出ていたので…」

 いつもの彼女とは雰囲気が違い、妙にそわそわとして、しきりに未だ開いたままの扉越しに外へと視線が動く。


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「どうした?」

「そ、その、私情で外に出ていたのはそうなんだけど…その。遅れたのはまた別の理由で…」

「別?」

 なかなか要領を得ず、外を気にして動く視線の回数が段々と増えていく。

 いったい何事なのか…という疑問に、自分から動いて確認しようとした時、シオがソワソワしている原因となる人物が、姿を現した。

 身長は俺と同じぐらいで、セス並みに身長相応のがっしりとした体、青みがかった短髪に、左頬を鼻から首にかけて4本の獣に負わされたかのような傷痕が嫌でも目に付く男。

 俺はこの男の事を知っている。


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 騎士団に入る前、場違いにも程がある宮廷に行った時、その場で一番力を持っていた人間。

 その名を「レジエン・ウォーム」、騎士団の最高位である騎士団総長の地位に身を置く人物だ。

 言うなれば、俺、俺達の上司であり、最高権力者。

「自己紹介は…不要だな。サグエ殿」

「え、ええ」

 予想外の人物の登場に、完全に面を喰らってしまった。

 総長がこんな所に何をしに来たのか、騎士団での生活が浅いにも程がある俺には、想像すらつかない。

「そう畏まるな。自分は、仕事を持ってきただけだ」

「は、はぁ」


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 話が全く掴めない、総長が直々に仕事を持ってくる事なんて、普通ないだろう。

「サグエ殿が抱いている疑問は、聞くまでもなく想像がつく。が、これは王直々の話、疑問は持たれるな。王は貴殿らに期待しているのだ」

「な、なんと言えばいいか。その期待に応えられるよう、努力はするつもりです」

「うむ。その言葉期待しよう。仕事の件は、王自ら貴殿らを推薦為された結果だ。故に、誰かに代役を任せるのではなく、自分自ら、ここに来た次第である」

 そう言って総長が視線を廊下の方へと向けると、付き人らしき女性が現れ、一枚の筒状に丸められた紙を総長へと渡す。

 それを開き、総長はその内容を読み始めた。


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「ヴィーツィオの件において、大陸5か国の王が集まる会議を行う事が決まった。そしてその会議の発起人である我が国の王もその会議に参加、開催地である「チェントローノ」に向かう事となった。チェントローノに向かう王の護衛部隊の一員として、貴殿らを含めたカヴリエーレ隊長率いる部隊の参加も決まった事をここに伝える。出発は三日後、それまでに最善の準備をされたし」

 全てを読み終え、総長は紙を再び筒状に丸め、それを俺へと渡してくる。

「本来ならカヴリエーレ隊長に伝達され、部隊の編成を行ってもらうのだが、君達は立ち位置が特殊故、直に伝えに来た。要件は以上だ」

 驚き、困惑…、どうしていいかわからない感情が体全体を渦巻く。

 全てが置いてけぼりで、総長とその付き人が部屋を出て行っても、その部屋にいた4名はしばらくの間、呆然とその場に居続ける事しかできなかった。


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