第一話…「勉強と勉強」【2】
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最初は半生だったり、焦げてたり、まさに半人前と言った感じだったが、今日の料理にそういった失敗は見られず、魔法の時と同じく飲み込みが驚く程早い。
「ん?」
自分がジョーゼの料理の上達に感心していると、アレン達が自分の食事を持ってくるが、一番大柄な人間が、その場に現れない。
またかと思いつつ、視線を横へと流すと、セスが少し離れた席に腰を下ろし、大口でパンをかじっていた。
「セスは、まだこっちで一緒に食うって選択には至らないか?」
「当然だ。必要だと思ったから魔法を教えられているが、それ以上に慣れ合うつもりはねぇよ」
「そうかい」
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俺の隊…というか班だが、魔法を学ぶ姿勢は良いものの、班としての団結力はガタガタだ。
「いいよ、あいつの事は放っておけば」
そして、その仲間同士の間の溝を埋めるつもりのないシオ。
「ふん、今日の集まりはもう終わりなんだろ? なら慣れ合う時間も終わり、勤務時間外だ。元々飯の時は対象外だがな」
魔法を学ぶというのは、こいつらにとっての仕事、任務、仕事上の付き合いはするけど、そうじゃない個人的な部分は干渉しないしさせない、そんな意思の表れなのか、セスは最初からこの関係を貫いている。
今後、この面々で魔法の勉強以外に、魔物やら魔人やら、何かしらの命を預け合う任務を受ける事になるだろうに、この団結力では先が思いやられるな。
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「てめぇはこっちの事を気にしてないで、愛妻の作った手料理の感想でもほざいてろ。飯の邪魔だ」
「愛妻って…」
ジョーゼはどちらかと言えば、愛妻というより愛娘って言った方がしっくりくるだろう。
そもそも歳から言って子供過ぎる。
『ダメだ、ダメだぞ。ジョーゼちゃんはまだ成人していない。ご主人と夫婦の契りを交わすには早すぎる』
「そうだな」
『でも、ご主人が望むのなら、ティカはいつでも体を上げる決意ではあるぞ』
「ブッ!?」
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突然な暴露に思わず、口の中に含んでいたスープを吹き出す惨劇を生む。
『あぎゃッ!! 隊長先生酷いっ! 私の大事な顔を汚すなんてェ…』
「悪い…突然の事で我慢出来なかった…」
横から差し出された手ぬぐいを受け取って、スープのこぼれた口元を拭く。
口の中に何も残っていない状態を作り、改めてスープを吹き出してしまった方に視線を送ると、無表情な女性の顔を象った仮面のスープまみれになった姿が真っ先に目に入る。
その予想していなかった光景に、また吹き出しそうになるが、今度は口の中に何も入っていなかったおかげで、悲惨な事態だけは逃れられた。
「フォーか…、その見た目は心構えが無いと、さすがに精神的に来るな」
「ひどくないか隊長先生? この前は嫌でも慣れたって言ってくれてたじゃないか」
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「心の準備ができていたらの話だよ」
「それでも失礼だよ。この仮面は、ワコクで代々伝わっている神事で、使われているモノを模して作られているんだよ?」
フォーは、懐から自分用の手ぬぐいを取り出して、仮面を取る事なく、スープで汚れたそれを綺麗にしていく。
「それこそ知らないわ。勉強不足で悪いな。というかこの街の人間は皆ワコクが好きなのか?ちょくちょく名前が出てくるぞ?」
ワコク、大陸の東に位置する国エヴェントの王都の名だったか。
身近な人間、そうでない人間、よくその名前が耳に入る。
『それはしょうがない話だぞ。ワコクとは貿易が盛んだからな、ワコク産のモノがいっぱいある』
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「そうなのか…、それも知らなかった。というか、ティカ唐突に変な事を言わないでくれ」
渡された手ぬぐいがティカのモノであると気付き、いつの間にか姿を現していた彼女にそれを返す。
「何を言うか、ご主人。ティカは嘘が付けない性分でな。口から出るのは素直な気持ちだけだぞ?」
「そ、そうか。気持ちは有難く受け取っておこう」
ティカは自慢げな表情を浮かべつつ胸を張る。
その光景はまさに、さっきジョーゼがやった自慢げな感情表現に似たモノだ。
成長に対する影響、これは良いのか悪いのか、今の俺には判断するだけの余裕がない。
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「フォー、これ」
気を取り直してと思いつつも、話を愛妻だのなんだとの方へ戻すのも気が引けて、どうしたものかと思っている時、シオがフォーの分の昼食を彼女の前に置く。
「お~、これはありがたや。シオは気が利く良い子だなぁ」
確かに、相手にもよるが、基本的に彼女は周りを良く見ている。
「環境柄、そういう事に目が行くだけだ」
「良い事だ。自然と周りに意識を向けられるなら、無駄に疲れる事が無い。意識しなきゃって意識が向くと、疲れるからな。大事な事だよ」
シオは、俺の言葉に返事をせず、うつむき気味にコクッと小さく頷いた。
『皆さんお揃いですね。調子はどうですか?』
今日は会話の輪が広がっていくな。
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いつもなら、弟子連中とだべりながら食事をして終わりなんだが。
「ぼちぼち、可もなく不可もない。明日から本格的に短所や長所に対応していくぐらいだな。進展があったとすれば」
輪に入って来たのは、この館の主であり、もはや上司の譲さん事「アリエス・カヴリエーレ」だ。
その体を野外討伐任務用の鎧に身を包み、小脇にフルフェイスの兜を持っている。
今まさに任務から戻ってきた…そんな印象を受ける見た目だ。
「あッ、ご主人様。お疲れ様です。喉とか乾いていないか? 今日は良い果実水があるぞ? 飲むか?」
「ありがとう、ティカ。もらいます」
「譲さんは、討伐任務だったな。無事で何よりだ」
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「討伐任務というより、駆除任務に近いですけどね。ありがとうございます」
「三日ぐらい出ていたが、普段からそんなモノなのか?」
「だいたいは。警備も兼ねているので、討伐依頼があるモノ以外にも探して、人に危害を加えるモノが人里の近くに出没した場合討伐します」
「なるほど、それで三日間も出ていた訳か。大変だな、改めて知ると」
「まぁ私達の隊の基本任務がそれですから。臨機応変に対応できる隊としては、もう少し多彩な任務を持ってきてほしい所ですけど。それでも討伐依頼などが最近は多くなってきているので、致し方ありません」
「そうか…」
最近になって討伐依頼が多くなってきている…か。
関連性があるかはわからないが、王都を襲ったヴィーツィオの出現に関係しているのではないか、そんな勘繰りをしてしまう。
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「話は変わりますが、明日から本格的に動き始めるとして、この後の予定はどうなっていますか?」
ティカから貰った果実水を飲み干して、譲さんはこっちを伺う様に首を傾げる。
何故か、背中を若干の悪寒が襲った。
「今日の魔法の講義は終了です、カヴリエーレ隊長」
そして、その悪寒で返答が少し遅れた所で、俺の代わりにアレンが譲さんの質問に答えた」
「そうですか、なら丁度良いですね」
「何がだ?」
「サグエさんへの剣術の訓練の事です」
「は?」
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「あなたの剣術は、必然というか、当然というか、我流です。それも個性があって悪くはありませんが、ちゃんと基礎を収めていた方が良いと思いまして」
「なるほど…、言いたい事はわかった…が。この後の予定を聞いたって事は、すぐにでもその訓練に入ろうとか、そう思っているのか?」
「はい。今日は、私ももう仕事は片付きましたので、ちょうど良いのです」
「そ、そう」
任務が終わったばかりなんだから、俺の事など気にせず休んだ方が…と思うも、その譲さんの意気揚々とした雰囲気に、断る気力をごっそりと削がれた。
「じ、じゃあお願いするか。良い機会だし、他の連中はどうだ?」
そう言って、俺は自分の弟子たちに視線を送る。
「・・・」
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「ウチはやりたい事があるから、遠慮しておきます」
「僕はやりたいです」
「俺は行く所がある。てめぇの訓練だ。てめぇが励め」
返答が無かったのはフォーのみ、シオとセスは用事があるからと拒否し、やると手を上げたのはアレンだけだ。
「じゃあ他のフォーとアレンもお願いするよ」
「わかりました。では食事が終わり次第、訓練場の方へ来てください」
そう言うと、譲さんは食堂を後にする。
当然の事ながら、ここは食堂であり、食事をする場所なのだが、もしかしたら譲さんの目的は最初からそれだったのかも。
「え、隊長先生!? 私の拒否権は!?」
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「すぐに返答が無かったからな、予定がないと判断した」
「そんなご無体な! 今日は明日のためにしっかり休めって!」
「まぁ気にするな。今後、譲さんのとこの訓練に参加するんだから、良い機会だし、どういう訓練なのか見ておくと、余計な力が入らなくて済むぞ」
「あ~、それは確かに…。じゃなくてねっ!?」
「まぁ休めと言ったのは俺だから、その言葉を投げ捨てる形になってすまない。その埋め合わせは今度一杯おごるって事で勘弁してくれ」
「んぐ…。やる事は決定なんですね…。わかりました。わかりましたとも。やるからにはサボれる箇所を見つけるぐらいさせもらいますよ~。あと、絶対おごってくださいね!」
「はいはい。わかったから、その姿で、乗り出してまで顔を近づけないでくれ。怖い…」
カンカンッと金属のぶつかる音がこだまする。
普段、魔物や魔人を相手にしているからか、その音は目新しく、なかなかに心地よい。
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心機一転、普段とは違う環境が、心身の疲れを癒してくれるような…、そんな気がする。
「力任せ過ぎます。もっと剣の仕組みを意識して」
そんな中で、私事アリエスは、自分に剣を持って向かってくるサグエに、余裕を持った声で助言をする。
「剣は鈍器ではありません、刃物ですよ」
私に向かって振るわれる剣は、良い言い方をすればとても力強い、悪い言い方をすれば、とても分かりやすいと言える。
これはあくまで訓練、だからこそ、本当の闘いとは違う太刀筋になる事は必然と言えるけど、長きに渡って身に沁み込んだモノはそう変わるモノではない。
彼の剣は、素直に相手に一太刀浴びせようという、真意が溢れ出ている。
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そして、大雑把で、嫌ったらしさが足りない。
振り下ろされる剣を、体を横向きにして避け、横に振り払われる剣は、後ろへ軽く飛び退くように距離を取って避ける。
彼の剣は、とても大振りだ。
自己流、我流で訓練してきて、魔物に対しても魔法ありきではあるけど、戦ってきただけあって、素人の剣よりもだいぶマシというか強い分類だろう。
でも駄目。
あくまでその強さは魔法あってこそ、魔法があるからこそ多少の雑さをカバーできていたけど、今はそうじゃない。
今は、純粋な剣の力を全て見るために、魔法無しでの模擬戦をやっている。
結果、魔法が無いからこそ、より決定的な一撃を…と思考が先行し、それが剣に現れていた。
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「体が硬いです」
サグエの攻撃を避け、迫る剣を弾き返す。
10回でも20回でも、何度も何度も。
そして決着は付いた。
一際速く強く踏み込むサグエ、そこから出される突きは、鋭く、強烈な一撃だったけど、後一歩届かない。
それを繰り出す場面、猶予、相手との距離、それらを総合的に見た時、私には届かなかった。
迫りくる剣を弾きながら、好機と言わんばかりに、彼の懐に入り込むと、その腹部へと強烈な肘打ちを入れ、よろめきながら勢いがそがれた所を、畳みかける。
攻撃を直撃させてはただでは済まないからと、その体をかすめるように剣を出す。
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「あっつッ…」
サグエの頬を、私の突き攻撃が霞める。
腕、横腹、太ももと、防ぐ暇を与えずに攻めていき、最後にまだ戦おうとする彼の剣を、手から離れる程強く、弾き飛ばした。
「素振りとか、剣を使えるようにと体を鍛えていただけあって、時々油断できませんね。でも、魔法ありきでの我流の色が強すぎるせいで、魔法無しになると極端に動きが悪くなります」
「返す言葉もない」
サグエは剣を持っていた左手を摩りつつ、飛ばされた剣を拾い上げる。
「すいません。どこか痛めましたか?」
「いや。模擬戦をやったら当たり前の痛みがあるぐらいだ。大事な事は無い。強いていうなら譲さんの攻撃の痕が痛いかな」
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そう言って、彼は自分の頬を指さす。
そこには赤い線が残り、血は出ていないものの、痛くないはずがない痕がくっきりと残っていた。
「あはは…」
私はやり過ぎたと反省しながら、剣を鞘へと納める。
「すいません、いつもの訓練と同じようにやってしまいました。でも、だ、大丈夫です、刃は付いていないので、少し腫れる程度ですよ。治癒魔法をかければ、明日には後も残らず痛みもありません」
「それは分かっているが…。はぁ。にしてもダメだな。いつも通りにやろうとしても、魔法を使っていないってだけで、体に力が入る」
「なら、まずはその体に着いた意識から変えていく必要がありますね」
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「例えば?」
「実戦に勝る経験なしと言いますが、サグエさんは魔法の方の仕事がありますし、討伐任務に同行してもらう事も出来ませんし、かといって彼らも連れていくのは危険。なので、現状は模擬戦で魔法を使わない戦いに専念するといった所でしょうか」
「やっぱりそういう方向へ行くか」
現状、サグエの魔法を使った剣術は、欠点を魔法で補うモノ。
剣の腕に欠点が無くなれば、そこに付加される魔法は全てサグエの力に上乗せされていく。
でもあくまでサグエは魔法使いだ。
私は彼の多くを知っている訳でもないし、何故魔法使いである彼が剣を我流でも訓練してきたのか、それは当然知らない。
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あのドラゴンとの戦いで、彼の魔法の力はとても高いモノだと知っている。
それはまさに彼の努力の賜物。
なら、何故彼は剣を使えるようになろうとしたのか。
魔法を極めたからこそ、次の扉を開けようとした?
でもそれなら常に剣ありきの戦いをする必要は無い。
剣を使う理由は何なのだろう。
聞きたい気持ちはあっても、それができない自分がいる。
魔法使いの村の産まれでありながら、剣を使う変わった人、村での信頼も買い出しに王都まで来ていただけあって厚かっただろう。
でも、なぜかそんな村から離れる様に建てられた彼の家。
村で見た彼に関係するモノ達が、私の脳裏を過る。
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村の人間を埋葬していた時、彼は自分の両親を埋めるといった事は無かった。
それはつまり、最初からあの命を落とした人たちの中に、両親はいなかったという事だ。
考え過ぎだろうか。
でも、持っている情報だけで答えは出て来なくとも、複雑な立場である事は容易に想像ができる。
だからこそ、踏み入れない。
それができる程、私と彼との関係は深くないのだ。
「どうかしたか?」
考え込んでしまった私を不思議に思ったサグエは、自分の左手の調子を確かめつつ、私の顔を覗き込んだ。
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「い、いえ。なんでもありません」
「そうか」
サグエは、今度は剣を素振りして、納得したように頷く。
熱が入って意識から外れていたけど、彼は一応万全の状態じゃない。
右腕はだいぶ良くなってはいるけど、負傷者である事に変わりはないのだ。
だから、彼が納得したように頷いた姿に、内心ホッとした。
「譲さんは、俺と似て考えを溜め込む人間だと、印象だけで勝手に思っているんだが、俺が言うのも何だけど、たまには発散した方が良いと思うぞ?」
「ど、どうしてそう思うのですか?」
「どうしてだろうな、何となくそう思う」
「納得がいきませんね」
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「強いて理由を上げるなら、村での件かな。馬車の御者をやってくれたのとか、俺は有難かったが、よくよくその経緯をあの小人種との会話から推察すると、周りに相談せず受けてくれたみたいだし、それまでに色々あったとか。そう言う所だ」
サグエの言っている事を否定するつもりはないけど、そこからその答えにたどり着く流れは、やはり納得ができない。
「助言として、一応受け取っておきます。そう言えば、話は変わりますが、魔法を教えている方々との関係はどうですか? 悪化しているとか、そういう事はありません?」
「特にないと思うが。急にどうした?」
「いえ、サグエさん達は私の隊の1つ、つまりは部下ですので、少々心配で…。セ・ステッソ・フォルテさんなどは、試験の事で因縁がありますし」
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「そう言えば、その事に関しては、何か話を出してきた事は無いな。右腕の包帯とか、特徴的過ぎると思うんだが。あいつなりに思うとこがあるのか、単純に気づいていないのか」
気づいていないなんて事は無いと思うけど。
「彼は上下関係と言うモノに特に敏感なようなので、そういう点で事を荒立てない様にしているのではないでしょうか?」
「なるほど。かもしれないな。俺には馴染みのない習慣だが」
「あの村には村長などの役職の方はいなかったのですか?」
「居たが、村の人間は家族みたいな間柄だったからな。上下関係とかは気薄だった。確かに年長者とかを尊重する空気が無かった訳じゃないが、ここみたいにはっきりと出てくる事は無かったよ」
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「皆が家族ですか、良いですね。でも、サグエさんは今や部下を持つ一人の指導者であり、先導者。上下関係とか、馴染みのない事は多々あるかもしれませんが、慣れて行かないと。例えば、その私への呼称を変えるとか」
「譲さんの呼び方を変えろって? それは無理だな。それとこれとは話が別だ」
「何故ッ!?」
「またその話をするのか? 理由なんて特にない私情の果てだって。隊長と部下とか、助けた側と助けられた側とか、そういうのが必要なら優先するが、そうでない時は無理だ。頭で考えるよりも感情が先に出る。嫌悪とか見下しとかではない、別の何かがな」
「つまり?」
「その感情が何かと言うなら、譲さんには負けられない、負けたくないという、対抗意識とかか?」
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「反抗意識では?」
「別に立場的に逆らうつもりはないぞ? あくまで俺と譲さん、2人の間にある俺の感情だ」
「はぁどっちでもいいです…」
サグエの言っている事はわかる。
私も、譲さん譲さんと呼ばれる度に、多分彼と同じような感情を抱いているから。
自分の方が年上で、実力でも負けないと自負している、それなのに譲さんなんて呼ばれ方をする事に、負けているような気がして腹が立つ。
それ自体は誰だって抱く感情だと思ってはいるけど、でもそんな行為を受け入れてあげなければと、自分からそれを受け入れてしまう所がある。
彼に限ってそういう感情が生まれるのは、正直不思議の一言だ。
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でも、今回はさっきのサグエの助言を受け入れて、今この瞬間、頭の中にある処理しきれない感情を消化する事にする。
「では、二回戦と行きましょう」
諦め気味にため息をついた後、私は鞘に納めた剣を再び引き抜く。
「私が打ち合いの時に言った事、覚えていますか?」
「体が硬いとかなんとか」
「そうですね、それも1つです。では改めて、説明させていただきますね。力み過ぎである事、これはサグエさん自身もわかっているようなので、今は優先的に意識してください。体の硬さもそうです。無駄に力むせいで強張り、柔軟な動きができていない。後は、今まで魔法を使う事でできていた事の修正、向上です。剣を使い斬る事に関して、魔法のおかげで容易にできていたがために、剣の使い方としてはとても大雑把なモノになってしまっています。剣は魔法をより効率的に使うための道具ではなく、その逆、魔法が剣の利点をより強くさせる力です」
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「なかなかにやりがいのありそうな課題だな」
「では、私もサグエさんからの助言を実行させようと思うので、先ほどよりも少々力を上げていきますね」
「なんか俺の思った助言とズレている気がするんだが…」
「いえいえ、方法が違うだけで、そこから導き出される結果は同じですよ」
「モノは言いようだな」
「では、始めましょうか」
サグエとの間隔を空け、私は健闘を祈るという意味を込めて微笑みを向ける。
それを受け取った彼の、諦めや余計な事をしたなという後悔の入り混じった顔は、印象的でしばらくの間忘れられそうになさそうだ。
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