第三話…「酒と酒呑み」【3】


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「出会いの印だ」

 俺に向かって首を傾げて見せるロレンサ。

 その時、光の具合でうっすらと見えた口元は微笑みを浮かべていた。

 しかし、それも一瞬で、彼女は大の男顔負けの呑みっぷりで、コップの中を空にする。

 それを見た俺も、その無色透明な酒を口の中へと流し込んだ。

 まるで、ブドウの実を食べているかのような風味が、鼻へと香る。

「大陸の東、「エヴェント」にある「ワコク」という国で作られている純米酒でな。我のお気に入りだ。どうだ? うまかろう?」

 その声は嬉しそうで、誇らしげ。

「あ、ああ。旨い」


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 俺の感想に、彼女はふふ~んと満足げな声を上げた。

「この良さが分かってくれてうれしいぞ」

 言葉だけでは飽き足らず、その嬉しさを俺の肩を叩くという形で表現して見せる。

 それは、彼女の酒好きの度合いを体現していた。

「それにしても、米の酒…か。そういった酒があるというのは聞いた事があったけど、実際に呑んでみると、なかなかに面白い。まるで」

「ブドウでも食べているみたい…か? この酒の特徴だ」

「あんたはだいぶ酒が好きみたいだな」

「そうとも。あの長く船に乗り続けているかのようなふわふわとした気分に、体を内側から熱くさせてくれるし、余計な事を考えなくて済むからな。酒というモノを呑んで得られる効果はどれも最高じゃ」


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「なるほど、それだけ好きなら、相当酒に強いんだろうな。二日酔い知らずか?」

「二日酔い? 馬鹿もん。いくら酒好きでも、たらふく呑んだら酔いが続いて、生活どころじゃなくなるのは世の常だろう。それは我も例外じゃない。だが、そうなってしまえば、体調不良で仕事をせずに済むでな。二日酔いは願ったり叶ったりじゃ」

 そう言って彼女は笑う。

 傭兵なら仕事をして何ぼの職、仕事と生活が直結しているというのに、正直笑い事ではないだろうと思う。

 仕事をしなくて済む辺り、その辺の貯蓄が十分なのだろうか。

 それなら言っている意味は分かる。

 それができる程に優秀な人材で有名な人という事か。

 彼女がどういう人間なのかは気になる所、何より気になるのがその格好だ。


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 仮に、本当に彼女が傭兵という職の人間なら、姿を隠すという行為は一理ある。

 金さえもらえれば…という印象が偏見でないのなら、それは自分が意図しない場所で恨みを買う事を前提としたモノ、自分の容姿を見せない様にする理由にもなるだろう。

 しかし、今は夏季だ。

 いくら夜になって気温が下がり始めてきているとしても、マントで全身を覆うという行為は見ているこっちまで暑くなる光景である。

「美味い酒を呑めて嬉しい限りだが…、それは置いておいて、あんたはそんな格好で暑くないのか?」

「なに、美味い酒はその良さが分かる人間と呑んでこそ、真の美味さを味わう事の出来るのさ。あと、我は暑さに強いでな、この程度暑い内に入らんよ。やろうと思えば全てを燃やし尽くす業火の中に入る事も出来る」


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「それはまた、すごい特技だ」

「ふふ~ん。そち、信じておらんな?」

「それは…、まぁ…」

 信じるに足る条件が揃っていない状態で、さらに現実味に欠けた事を言われれば、そうならざるを得ない。

「まぁよい。その辺はおいおいだ。我もわかっておる。信じろと言う方が無理な話だという事はな。だが、本当の事だぞ? 本当の事だからな! 本当だ!?」

 いずれ信じてもらえればいいのか、今すぐ信じてほしいのか、どっちだ。

 自分の胸元で握りこぶしを作って俺に迫ってくる、その行動のおかげで、彼女の本心が余計に分からなくなった。

「ふふ~ん」


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 完全にどうしていいのかわからずお手上げで、俺が苦笑を浮かべた所で、彼女は意味深な声を上げて体を離す。

 そして、その視線は俺ではなく、その後ろへと向いていた。

「そちと話をするのも楽しいが、その後ろにいる小さき魔法使いにも興味がある」

「後ろ…」

 ロレンサと話としているうちに、体を彼女の方に向けていたから、視界から外れてしまっていたが、俺の後ろ、正確には横だが、そこにはジョーゼがいる。

 小さき魔法使いジョーゼは、俺を盾にして警戒心を緩めずにロレンサの事を見ていた。

「なんで、こいつが魔法使いだってわかったんだ?」

 俺の事を魔法使いと言ったのにも疑問を覚えるが、それ以上にジョーゼを魔法使いと言った事の方が驚く。


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 ティカが用意した服を着ているジョーゼだが、魔法使いには到底見えないモノ、派手過ぎずかといって質素過ぎない、差支えの無い街娘に見える格好だ。

 ジョーゼのどこをどう見ればそう思えるのか、俺にはわからなかった。

「我はな、こう見えても魔法使いだ。ま~あくまで自称だが…。我には見えるのだ。そち達の纏う火の魔力がな」

「それはまたすごいと技術をお持ちで」

 その瞬間、驚きとともに、わずかだが血の気が引いていくのを感じた。

 何せ、魔力を見る…、それを可能にする魔法使いはそう多くないのだ。

 魔法を使う時、魔力と呼べるものが発光して視認できるようになるけど、そうではない状態の魔力を見るには、相当な修練が必要で、並大抵の努力で到達できる技術ではない。


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 そして俺にはできない芸当だ。

 はったりかとも思ったが、彼女は俺の魔力の属性だけじゃなく、ジョーゼのそれをも言い当てた。

 確かに、ジョーゼは俺と同じ火の魔力を持っている。

 それは当てずっぽうで言い当てるにはあまりに確立が低いモノ。

 彼女、ロレンサの魔力を見るという能力を証明する言葉だった。

「なに、我には少し才能があっただけの事。この程度…と言ってしまえば失礼だが、欠かす事とのない修練で誰でも習得ができる技だ。それはそちもわかっているだろう? 魔法使い」

「・・・」

 納得のいった事が1つ。


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 彼女に対して、勝てないと何かをする前に悟っていたのは、文字通り俺より格上の存在だったからだ。

 感じ取っていたにもかかわらず、それについて今更気付いた事に、自分に対して苛立ちを覚える。

 ロレンサは今のところ敵対の意志を見せていないが、相手がもしロレンサではなく、こちらに敵対する存在だったら…そう思うと、自身の未熟さを恨むなんて程度で済む話ではない。

「それで。小さき魔法使いの紹介は無いのか? 他にもそこのオヤジは…見知った酒呑みだからいいとして、もう1人、いかにも未熟そうな少年の紹介とかは? あまり見ない様にしていたが、そこの少年、さっきから我らの会話をメモし続けていて怖い…。できればどういう奴なのかだけでも説明を求む」


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「は、はぁ」

 それを聞いて、自分が彼女に意識を向け過ぎていた事を理解する。

 ジョーゼやアレン、おやっさんの存在がすっかり意識から抜けていた。

 おやっさんは…、まぁこっちの事なんて関係なく呑み続けているからいいんだけど、アレンの方は…。

 ロレンサに言われて彼の方へ目を向けてみれば、確かにインクと羽ペンを出しで何かを書く姿勢を取っていた。

 勉強熱心だという事は、会って間もない時間で分かっている事の1つではあるけど、ここまでというのは流石に俺の想定よりも斜め上を行っている。

「彼はアレン、勉強熱心な奴だ。魔法に興味があるらしいから、俺達の話に身になる事があると思ったんだろう」


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 彼女の機嫌を損ねたくないと思う中、まずは好奇心ではなく不信感を抱いている存在の説明をする。

 それでも、当たり障りのない程度の説明だ。

 必要以上の事を言っても得をしないから、それ以上の事で知ってもらいたいと思うなら、本人から自己紹介が入るだろう。

「あ、失礼しました。まずは自己紹介ですよね。そんな当たり前の事ができていなかった事、この場を持って謝罪させてください」

 アレンは失敗を悔いながら、自身が何かを書いていた羊皮紙を差し出し、頭を下げる。

 律義というか何というか。

 ロレンサもそこまでされると思っていなかったのだろう、動揺し流されるがままアレンの謝罪を受け入れ、差し出された紙を受け取った。


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 紙に目を通す彼女の手元を覗き込み、俺もそこに書かれた内容に目を通す。

 そもそも、そんな魔法に関して役に立つような事を話した覚えが無いし、魔法に関係ない所に対しての役立ち情報に至っても同じだ。

 書かれている事も案の定、お酒には魔法技術向上の可能性が…とか、何かを守る事が引き金となり技術向上のきっかけに…とか、言いたい事はわかるが、それが自分のためになるかと言ってしまえば答えは否。

 まぁ守る事云々の話はあながち間違った事ではないにしろ、それは心のありようというか、心持ちの問題であって、何かを得るための方法としては適切とは言えない。

「ふふ~ん」

 俺が書かれたモノに目を通し、難しいという色を微かににじませる中、ロレンサは楽しそうに声を上げる。


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「内容どうこうは置いておいて、アレンと言ったか、そちの向上心は良いモノだ。称賛に値する」

「ありがとうございます!」

「それで、アレンとやらはそちの弟子か何かか? 魔法使い」

 受け取った紙を、精進せよ…という言葉と共に返したロレンサは、こちらに向き直る。

「いや。まだそういった関係じゃない。現状、俺の弟子はこの子だけだ」

 俺は自分の言葉と共に、未だロレンサに対して警戒心を解こうとしないジョーゼの頭を撫でた。

「ほう、それは意外だ。というか弟子が1人おるのなら、2人も3人もかわらんだろう」


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 テーブルに残っていた料理、その骨付き肉に手を伸ばしながらロレンサは意外だと言わんばかりに、疑問の色を浮かべる。

「出会いとは、縁だ。出会いに偶然などない。全ては必然だ。そしてそのきっかけは大事なモノだぞ?」

「大事と言われても」

「深く考える必要はない、ここにいる事が何より大事な事だ、魔法使い」

 綺麗に骨付き肉を骨だけにして、ロレンサは立ち上がる。

「そして、この世界に無意味な事なんて存在しない。我がこうやって肉を食い、酒を呑む事にも意味はある。それは生きるため、実感するため、そして新たな出会いを祝うため。全てに意味を見出す必要はないが、我は此度の出会いは意味のあるモノだと思うぞ。今すぐその意味を知る事はないにしろ、それは確実に存在し続ける」


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 自身の持っていた酒瓶を俺に差し出して、ロレンサは口元に笑みを浮かべ…。

「これは祝いの品と思って受け取れ、それが嫌なら、今の肉の代金とでも思うと良い」

「あ、あ~、ありがとう」

 拒否する理由も思いつかず、俺は流れのままに酒瓶を受け取った。

「我はそろそろ行かねばならん。まだ話足りない所だが、ま~、どうせすぐに会う機会もあろうて。最後にもう一度名前を聞かせてもらえるかえ? 人と会う事が多い身であるが故、しっかり聞いておかねば忘れてしまう」

「ガレス・サグエだ」

「サグエ…か、よろしい。それで、アレンとやらは? そちのも教えてはくれんか?」


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「ぼ、僕もですか!? 僕の名前は、アレン・プディスタです!」

「ふふ~ん。小さい魔法使いの方は…またの機会にという事で、今回の所は聞くのをやめておこう。ではな魔法使い、そして未熟な騎士よ」

 軽く手を振り、ロレンサは纏ったマントをはためかせて、酒場を勢いよく出て行く。

 それは何かから逃げるかの如く、勢いのあるモノだった。

『…ッ!』

 すれ違いで酒場に戻って来た譲さんとレッツォがその彼女の勢いに声を上げ、譲さんに至ってはしばらく動揺が隠せずにいた。


 譲さん達が戻ってきて、軽い食事を済ませた後、今日の集まりはおやっさんの方からお開きだと申しだされる。


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 正直、ただ酒を呑んで飯を食って、適当な話をしただけで、俺にとっての本題、そのほの字すら出ていなかった。

 それについて聞こうとしたのだが、おやっさんは口を手で塞ぎ、いかにも気分が悪いと言った動きを見せ、それと合わさって表情にも不調の色を浮かべる。

「期待だけさせてこんな様じゃ、申し訳ねぇが。今もこうして話しているだけで腹ん中のモノが出てきそうだ」

「俺は別に構わないが」

 酒を呑みまくって体調を崩すおやっさんの姿は、別に初めて見る訳じゃない。

 その姿が反面教師になって、逆にそうならない様にと、俺が冷静になって呑む量を調整できるから、逆にそうなってくれた方がありがたい。

 それでも、潰れるのが早かったなと思わなくはないが…。


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 何にせよ、注文したものは食べ終わってるし、飲み物も同じだ。

 話ができないなら、これ以上長居してもしょうがないだろう。

「さ、サグエさん、さっきの女性の方は?」

 おやっさんの状態に苦笑を浮かべる中、こちらもぎこちない喋り方で譲さんが話しかけてくる。

「女性? ロレンサの事か。彼女とは少し話をしたぐらいだ。後は、出会えた祝いにってこれを貰ったぞ」

 俺は彼女から貰った純米酒の酒瓶を見せる。

 それを聞いてか、譲さんは安堵した表情を見せ、手を胸元に当てた。

「ロレンサがどうかしたのか? 彼女が言うには、またすぐに会えるって言ってたし、もし用事があったのなら、その時に言っておくが」


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「い、いえ、いいんです。本当に。大丈夫です」

「そうか。じゃあ、帰るとするか」

 コップにわずかに残ったブドウ酒を一気に腹の中へと流し込んで、俺は自分の服を掴みコクコクと小さく船を漕ぎ始めている少女に目を向ける。

「おやっさんだけじゃなく、こっちもそろそろ限界らしい」

「そうですね」

 船を漕ぐ少女の、今にも夢の世界に旅立たんとする表情を見ながら、譲さんはほほ笑む。

 そして、レッツォにおやっさんの介抱を命令し、彼もまた間を開けずに承諾すると、俺達はエノへの挨拶もそこそこに酒場を後にする。

 アレンがレッツォだけに任せて帰るのは申し訳がないと、彼の手伝いを申し出て、帰路には俺、ジョーゼ、譲さんの3人で着く事となった。


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「レッツォとアレンに任せて大丈夫だったのか?」

 譲さんが、懐から出した明かりをつけるだけの機能しか持たない杖出す。

 夜も更けて来て、街灯と呼べるものの少なくなってきた屋敷への帰路。

 俺の背中で寝息を立てる少女を起こさない様にと、その杖の明かりを頼りに足元を注意しながら歩く。

 特に会話もなく歩き続け、若干の息苦しさもあってか、酒場に残してきた3人の事が脳裏を過った。

「大丈夫です。プディスタさんもいますから」

「そうか」

 レッツォはおやっさんと知り合いだし、アレンはあんな性格だ。

 確かに心配には及ばないとは思うけど、譲さんの大丈夫という言葉には何か別の意味があるようなそんな気がしないでもない。


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 例えば、勤務時間外だけどレッツォのだらしなさは度を越えている、だから今回はお願いではなく命令、ちょっとした罰という意味もあります、みたいなそんな理由とか。

 まぁさすがに考え過ぎだな。

 今はとりあえず、おやっさんを任せてしまった事、その労力に対しての恩を感じていなければ。

「私、酒場に行く機会があまりなくて」

「そうらしいな」

「まさかそこで隊の人間のあんな姿を見る事になるとは、夢にも思っていませんでした。それでも、普段から二日酔いで体調不良を訴える姿を見ていましたから、その姿自体には驚きませんでしたけど」


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「祭の準備の時に会ったが、今日のはその時以上だったな。余程気分が良かったらしい」

「はい…。本当にどちらもしょうがない人です」

「どちらも?」

「いえ、こっちの話です」

 俺達の話声と、小さな寝息、そしてどこかで吠えているのだろう犬の遠吠えが夜の世界を支配している中、ガシャガシャッと足並みを揃えずに走る兵の足音が耳に入ってきた。

 数こそ少ないものの、全員が杖魔法で明かりを点けて、周囲に目を配りながら小走りで隅に寄った俺達の前を通り過ぎていく。

「こんな時間に見回りをするにしてはやけに慌ただしいな。何か問題でもあったのか?」


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「いえ、大丈夫です。あれはここでは日常風景みたいなモノ、夜も昼も関係なく起きる事です」

「そうなのか?」

「はい、なので早く帰りましょう。いくらサグエさんの背中が広くて温かいとしても、夜風は寝る子の体に障るモノ、彼女が風邪を引いてしまいます」

「ああ、そうだな。急ごう」

 譲さんがジョーゼの事を気にかけてくれているという事に、若干の喜びを覚える。


 まるで後ろ髪を引かれるように、視線を兵達が通り過ぎて行った先、道ではなく、建物の屋根の上に人影のようなモノを目にするも、それは瞬く間に姿を消した。

 その影は俺達の方を見ていたようなそんな印象を受け、そして口元に僅かな明かりを灯していたようなそんな気がする。

 それが自身の眠気が見せた夢、幻なのかは、知る由もない。


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