第二話…「魔法使いの弟子と騎士の弟子」【2】
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ジョーゼの方はさほど驚いた様子ではないが、マドレの方は大道芸で一芸を見た後のように拍手をくれる。
マドレの反応はともかく、ジョーゼの反応は想定の範囲内だ。
こいつはいつも俺に対して攻撃系の魔法を放ってきていたし、覚えるならそういう魔法って考えがあったんだろう、でもそれは、ここでは無用の産物だ。
それにこれができるようになれば、このお茶会の場が自分にとってより良いモノになるという事をジョーゼ自身も理解しているだろう。
魔法を見せた時、反応こそ薄かったものの、それ自体を否定するような行動は取らなかった。
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「やってる事は単純、魔力を放出して、それを固定するだけ。ちなみに俺が想像したのは、真っ暗な中で松明を振り回した時に目に残る光の線だ。一時的に線を残すだけだから、魔力の消費も少なくて、人や物に干渉させるモノでもない、そして狭い範囲でのみ使うモノだから、魔法の形をちゃんと頭の中で固める事ができれば、発声魔法よりも簡単にできる」
コクッ。
俺の言葉に力強い頷きを見せ、ジョーゼは真剣に自分の指先をジッと見つめ始める。
村にいた時も似たような関係ではあったけど、あの時は教えるにしても、来たから返すという形で、似たような…と言っても全然違うモノだった。
しかし、今は俺の方から教えに行き、ジョーゼがそれを受け入れる形となっている。
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片道だけの道のりが往復する道になったとでも言えばいいか、それはジョーゼが俺の弟子になった瞬間だった。
サグエとジョーゼが魔法使いとその弟子として1歩前に進み出した頃。
彼よりも早く完治に至った私はもう1つの家である隊の館に戻り、今後の新しくできる国の代表ともいえる隊について、考えを巡らせていた。
あくまで予定であり、そうなるかどうかはわからない。
他の国が今回の件でどう動くかわからない以上当然だけど、でも、少なくともサドフォークが隊を作る事は間違いないだろう。
人員はどう選ぶのだろうか…、その人数は?…、各国との連携が上手くできなかったとしたら?…、少しでも動きをよくするために少数精鋭で動く必要が…。
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いくら考えを巡らせても、不明点がまだまだ多いために、答えが纏まる事はない。
そうと分かっていても、それについて考えてしまうのは不安故だろう。
すっかり冷めてしまったドルチェが淹れたお茶を飲みつつ、机に置かれた書類に目を通す。
そこに記されているのはサグエの情報と、彼を補佐として隊に入れるため、騎士団員としての資格を得る入団試験を受けさせるようにという上からの命令書、そしてもう一枚…、騎士団に入った場合、血制魔法の使い手として、希少な存在となったその魔法を後世に残すため、騎士団内で補佐とは別に血制魔法の指導を行ってほしいという事が書かれた書類。
今日、上から届いたその書類達に、私はただただため息をつくばかりだった。
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それでも、どうなるかわからないからと後回しにしていてもしょうがない。
私は不明点が満載なこの案件に、人員だけでも候補を上げようと、隊の中で魔法を扱える者達を呼び出した。
血制魔法の指導を受ける団員は、ここに限らず騎士団内全てから選ばれる。
サグエの指導能力がどれほどのモノかわからないからか、選出される団員の数は曖昧で確定していない。
いくつかある隊の中から数人を選出するらしいけど、この事自体どこまで本気なのか…。
その時、ふとドラゴンとの戦闘でのサグエの姿が脳裏を過る。
お世辞にも扱いやすい魔法と言えるモノじゃない、むしろ危険ばかりがつき纏う魔法。
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彼が魔法をあまり使わない様にしていた理由が、それで分かったような気がする。
どんなに魔法を操る事に対して並外れた才を持っていたとしても、強力な力はその才すらも破綻させるだけの力を持つ。
魔法は万能ではない。
いざという時、一番信用できるのは自身の経験と技術、そういう事を彼は言っているのだと思う。
コンコンッ。
ドアをノックする音が、考えを巡らせるだけで静寂が支配していた執務室に響く。
我に返った私は小さな驚きの声を漏らし、部屋に来た人間を招き入れた。
入ってきたのは、この隊の新米な少年。
金髪でお河童頭のようなショートヘアに、黒のようにも見える青い目、真面目な雰囲気を醸し出しているのに、緊張で微かに引きつったその表情に初々しさを感じる。
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「「アレン・プディスタ」、ただいま参りました」
少年ことプディスタは、背筋を伸ばし、手は後ろで組み、足は肩幅に広げて静止する。
何時でもご命令ください…と、無言で、なおかつ全身を使って私に言い放っているようだ。
「そんな硬くならないでいいです。楽にして」
「ですが、隊長の前ですので」
「私は、この隊を1つの家族と思っています。気を引き締めるのも大事だけど、隊の人間だけの場所で畏まる必要はないですよ」
「・・・」
一瞬、そんな私の言葉に揺れたのか、堅苦しい姿勢を崩そうとしたプディスタだったが、すぐ我に返って決まった姿勢を取った。
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「・・・では本題に入りますね」
無理強いをする事でもないから、同じ言葉を並べる気はない。
すぐに元の姿勢に戻ってしまった事は残念に思うけど、それは彼が真面目であるが故だ。
「今回呼んだのは、血制魔法の指導の件で…」
「喜んで受けさせていただきます」
「そうですよね…。え? あ、さすがに返事を返すのが速すぎです。せめて内容を全て聞いてから返してください」
「いえ。隊長がわざわざ僕に直接話を持ってきてくれたのですから、それに対して首を横にする方が失礼です」
「そ…そう」
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想定外の速さで返されたものだから、こちらが戸惑いを見せてしまう。
真面目過ぎるのも考えもの…と思いつつ、私は気持ちの切り替えを兼ねて咳払いをして、説明を始めた。
サグエの事、血制魔法の事…、詳しくではなく所々簡略化させはしたが、彼は質問を返す事もなく首を縦に振り続ける。
「つまり、我が国独自の貴重な魔法である血制魔法、その使い手であるサグエ殿に魔法をご教授願える機会があるという事ですね?」
「ええ、確定ではないけど、候補生の1人としてあなたを選びたいと思って…、今回はその説明です。でも血制魔法は発声魔法や杖魔法とは違うし、危険なモノ。1度じっくり考えてから…」
「いえ、先ほども言いましたが、その話、可能であるならば喜んでお受けしたいと思います」
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「ですが、候補は他にもいるので」
「わかりました。ですが、自分は、今こそ剣の技術を中心に納めているものの、いずれ魔法の分野にもその手を伸ばしたいと思っています。それが貴重な魔法だというのなら尚更。もし、その候補生の選出が隊長の裁量で決められるものであるのなら、是非、自分をその中に入れていただきたい」
「わ、わかりました。考えておくから今回は下がってください」
「はい。では、失礼させていただきます」
そう言い残し、彼は深々と頭を下げて執務室を後にした。
「・・・」
嵐が去った後のような静けさが部屋を覆う。
不覚にもあの気迫に押されてしまった私は、彼がこの隊に入って来た時の事を思い出す。
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ほとんど人の出入りがない私の隊に珍しく入って来た新人。
雑務から野外任務まで、新人とは思えない程何にでも手を伸ばしていくその姿。
新人ながらその姿だけは、熟練兵の活躍並みに目に入った。
久々の新人だからこそ、目につく部分もあるけど、それを抜きにしてもこの隊の中で存在感を放っている事は確かだと思う。
彼の頑張りが、他の隊員の話から伝わってきている点も、そう感じる1つの要因だ。
そんな隊員間の話から、彼が魔法に興味を持っている事も知った。
やる気の程は予想以上、その点においては合格点を楽々稼いだという感じか。
コンコンッ。
再び、部屋のドアが叩かれる。
ノック音が先ほどのプディスタよりもだいぶ下から聞こえてきたような気がして、それで誰が来たのかがすぐに分かった。
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「どうぞ」
一呼吸入れてから、来た人間を招き入れる。
小さな体に茶色の三つ編み、ドルチェことドルチェ・ストレガが、トレイに新しいお茶とその添え物に適当な茶菓子を乗せて、笑顔で執務室に入って来た。
「お姫様、お茶のおかわりを持ってきましたわ」
「ありがとう。今日は非番なのにごめんなさい」
「何を言うの? 非番だろうが当番だろうが、お姫様のお世話をするのは年中無休でやると決めているの。誰かにやれと言われたのではなく、自分が好きでやっている事、だからそんな言葉必要ないですわ。あたしの事より、お姫様は病み上がりなんだから、仕事もほどほどに切り上げないと」
「でも、やらなきゃいけない事もあるから」
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と言いつつも、自分がやるべき仕事が無かったとしても適当に探して何かしら作業をし始めるだろう…と内心で思う。
さすがに隊から身を離していた時間が長すぎる。
その穴埋めもしていきたいと思っている次第だ。
「物事を片付けるのは、体が健康そのものだという条件付きよ? せっかく隊に帰って来たのに、頑張り過ぎて倒れたら、それこそ他の隊員たちに示しがつかなくなるわ」
「それを言われるとなかなか言い返せない…」
「そうでしょうとも。それで? 今のお姫様の悩みの種は何かしら? さっきプディスタが来てたみたいだけど、それ関係?」
ドルチェの質問に苦笑いを浮かべつつ、机の上の書類を手渡す。
彼女はそれに目を通し始め、私はその間に新しく入れてくれたお茶と茶菓子を口に運んだ。
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ほのかな茶葉の香る茶色く色づいた温かいお茶、香りは私の心から疲れを取る様に癒し、お茶の温かさは身体を温めて、硬くなった体を解してくれるよう。
甘さ控えめなお茶に対して、茶菓子の方は仕事に集中して一時的に頭の外に出て行っていた空腹感を満たしてくれた。
集中が途切れたのもあるけど、この瞬間は自分が疲れている事を実感させてくれる。
なんだかんだ言って、仕事の合間に訪れるこの休憩時間を自分は待ち望んでいたのかもしれない。
「また上は面倒な事を持ってきましたわね…」
「誰かの下に着くって、そういう事だと思う」
「それはそうですけど」
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ドルチェがこちらに書類を返してくれるのと同時に、丁度良いからと話を始めた。
彼女は優秀な隊員だ。
それはいつも傍でその力を見続けている私がよくわかっている事。
だからこそ、血制魔法の件と作られるかもしれないという隊の件、その2つを話した。
魔法に長けたドルチェなら血制魔法の件を任せても問題ないと思うし、隊の方に関しては信頼できる人間という事が大きく関係している。
彼女の力を借りたい、メンバー候補としてあげようと思ったのだけど、なにか彼女の表情は曇っていた。
「どうかしました? 何か不明な点でも…」
「いえいえ、お姫様の説明に足りない所なんてありませんわ」
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「じゃあ…」
「仮定の状態だから決めかねる…とかそういう訳じゃなくて、この男、ガレス・サグエ…でしたっけ? 気に入りません」
「はい?」
「だから気に入らないの。どこの馬の骨ともわからない、ポッと出の野郎を、お姫様の傍に置くなんて、我慢なりませんわ。それにそんな野郎から魔法を教われだなんて…、お姫様の頼みでなければ間髪入れずに断る所です」
「え?」
笑顔で、子供のように小さな女の子だったその姿は、今まさに魔人が如きオーラを纏い、もはや別人のようだ。
この姿は過去にレッツォが隊に入って来た時以来と言っていいだろう。
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何年前だったか…、とりあえず懐かしい。
そういえば彼女にはこんな一面があったのだと思い出す。
何故か男性関係で私の近辺に変化が起きると、いつもこうなってしまうのだ。
隊員のほとんどは男性だというのに、その時は何も変化はない。
この差は一体…と…、ドルチェの豹変ぶりが懐かしくてずれてしまったけど、彼女としては候補として上げるのはいいという事でいいのだろうか。
「ちょっとお待ちになって」
「は、はい」
私が言おうとした事を察知でもしたのか、こちらが口を開くよりも早く、ドルチェは制止してきた。
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「他でもないお姫様の頼みです。その申し入れは受けていい。血制魔法の件もです。ですが、まずはそのガレスとかいう野郎が信頼に足る人間なのか、それを知りたいですわ」
「は、はぁ」
「その2つはどちらも重要な案件、ですが、その件の中枢に誰かもわからない人間が収まるというのは、他が何と言うかわからないけど、少なくともあたしは納得ができません」
「そ、そうですね」
私怨が少なからず入っているような気がするけど、彼女が言っている事もごもっとも。
現状仮定の話ではあるけど、もしそれが決定事項として話が次に進むなら、その点は解決しなければいけない。
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この件が団内に広まれば、遅かれ早かれドルチェと同じ考えの人間が出てくるだろう。
それは、いざ隊を作ろう、血制魔法を習おう…となった時、必ず綻びとして現れ、そして事件の火種となる。
早足で進められ気味のこの問題、一度余裕を持って進める必要があるかも…。
そもそも、まだ中心人物である彼だって宮廷で少し話を聞いたぐらいで、承諾を得た訳じゃないし…、本当に曖昧な事が多すぎてどこまで話を進めていいのやら…。
「まぁ話がどう転ぶにせよ、今できる事はあまりないわね」
「うん」
自分でも分かっていた事、それを改めて第三者に言われると…それに対するやる気というのは一気に冷めるし嫌気も差す…。
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体の力が抜け、気だるさが残り、私はそれを払おうとはせずに、椅子の体を預けた。
「なんか…疲れました」
まるでやる気のない声が自然と口から洩れて、完全にやる気という機能が停止した事を頭が告げてくる。
ある意味、ドルチェは良い時に来たのではなかろうか。
さすがの彼女もその辺まで考えて動いている訳ではないと思うけど、それが助け舟になった事は間違いない。
当の本人は机越しにこちらを見てニコニコと笑みを浮かべている。
その笑みはどういった笑みなのだろうか。
そして束の間の休息を得る事ができた時、再び、コンコン、と部屋の扉がノックされる音が響く。
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