第九話…「騎士と女王」


「負傷度の低いモノを前面に陣を組んでくださいッ!」

 私は叫ぶ。

 有象無象のトイウナ相手なら、自分の隊員達は1人1人対応できるだけの力を持っている。

 でも、女王が相手では1人の力だけでは話にならない。

 すぐにサグエを連れて隊員達の下へ…、とにかく合流しなきゃ…。

『譲さんッ!』

 しかし、そんな私の…私達の邪魔をするように、砂ぼこりが収まりきらぬ中、赤い一閃…2つの閃光が見えた。

 それは迷わず私へと近づき、その姿を現す。

 魔法使い…、サグエが相手の時よりも、どこか殺気付いている様にも見える。

「…ッ!?」


---[01]---


 その両拳を包む赤い光が、迷いなく私を襲う。

 攻撃が来る…そう悟った私が急いで盾を構えるが、魔法使いはそんな事には目もくれず、光に包まれた拳を勢いよく盾へと打ち付ける。

 ドゴンッ!と、手で叩かれたとは思えない衝撃が、盾越しに私の手へと響く。

 それはまるで、大きな槌で叩かれたかのように重く、しっかりと踏ん張ったつもりの私の体は体勢を崩させられる。

 そこに追い打ちをかけるように、素早く…連続で繰り出される二撃目に、足は地面から外れ、体は後ろへと飛ばされた。

 地面を転がりながらも、倒れ込む事はせず、膝を付く形だけど何とか堪える。

 さらに続けて迫りくる魔法使いに、体勢を整えられるか不安が過る中、今度は魔法使い目掛けて横槍が入った。

 文字通りの槍…、形は不正確で、何とか鋭利で長い棒状の…槍…と呼べなくないモノではあったが、でもその赤い光の魔力でできた槍に、魔法使いの意識が持っていかれる。


---[02]---


 私への追撃を止め、その槍に反応した魔法使いは、ソレを魔力で包まれた手で弾くが、それと同時に槍が破裂、魔法使いの周囲に砂ぼこりを舞わせて視界を奪う。

『走れ、譲さんッ!』

「ちょッ!?」

 そして、その砂ぼこりの中に、自ら突っ込んでいくサグエ。

 さすがの私も、彼の行動に驚き、普段出さないような声を上げてしまった。

 そんな驚きの冷めやらぬ中、今度はサグエが走っていった直線状に、強い衝撃が放たれる。

 一部の砂埃を消し去って、そこから出てきたのはサグエではなく、その衝撃に飛ばされた魔法使いの方だった。

 それを見て、彼は大丈夫と悟り、私は部下の下へと走る。

 しかし当然、私達を邪魔する存在は魔法使いだけでは終わらない。


---[03]---


 女王出現の時、どこか大人しさを見せていたトイウナ達が、再び獲物の血肉を貪ろうと動き始めていた。

 襲い掛かるトイウナの顔を盾で叩くように弾き、怯みながら後ろへよろめいたのを私は見逃さず、その横へと回り込んで、その首…甲殻の隙間へと勢いよく自身の剣を突き刺す。

 獣とは違う、独特の硬さはあるものの、1枚硬い物を通過してしまえば、貫通させる所まで一気に持っていける。

 これでは絶命させるのに少し足りない所ではあるけど、1匹1匹確実に持っていく時間は無い。

 絶命しなくても致命傷、圧倒的なまでに致命的な動きの鈍さにまで落ちるのだから、後回しにしたってどうにでもなる状態だ。

 次に迫るトイウナの牙を斬り飛ばし、その顔を盾の端で力一杯叩き潰す。


---[04]---


 バキバキと音を立てながら、ヒビをその甲殻に走らせ、二度目の攻撃で、今度は確実に頭を粉砕する。

「ちょっと力み過ぎ…」

 ヴィーツィオの出現だけでも一大事だというのに、そこに加えてトイウナの女王、焦るのも当然だと理解しつつ、それでも事を急いては仕損じる…、結果的に焦る気持ちで力んだ体は鎧を通じて、普段以上に私の力を強化していた。

 杖魔法の仕組みを鎧に転用させ、魔力を使う事で、自身の肉体の力を強化させているが、魔力を使えば使うだけ、普通に戦うよりも疲労は溜まりやすい。

「使いどころを間違えないで私…。焦るな…」

 その時、視線が交わった…。

「女王…」

 蟻特有の頭の触覚がうねうねと動き、女王は頭部を…尻尾を地面に付かせるように姿勢を低くする。


---[05]---


 突っ込んでくるその巨体、地面を蹴る無数の足は、その気持ち悪さで持って、私の全身の毛を立たせた。

 馬並みの速さで自分へと迫る女王と、真っ向から勝負しては、体がいくつあっても持つ訳がない。

 寸での所で横へと避け、体の作り故に横へはみ出るように生えた胴体の6本の足、そこへ力一杯剣を振り払う。

「硬いッ!?」

 トイウナの女王と戦うのは、何も今日が初めてじゃない。

 その甲殻は結局下っ端のトイウナと同じ、女王だからと他より硬いなんて事はないはず。

 不気味にも、その巨体でそれなりの速さを出す女王と戦う時、まずはその機動性を削ぎ、動けなくなった所で、頭を潰し、胴を潰すのだが…。


---[06]---


 力一杯、それも剣には魔力も籠り、その切れ味を増していたにも関わらず、その刃が女王の足の甲殻を突破する事はできなかった。

 ジンジンと弾かれた剣を握る手が痛み、自分の魔力制御がおかしかったのか…と、襲ってきていたトイウナに、同じように加減無しで剣を振るって見せる。

 サグエのように真っ二つ…とまではいかないまでも、今度はその甲殻を斬り、頭部の半分まで刃はトイウナを断って見せた。

「特別硬い…」

 私は女王を見やる。

 胴体…その6本の足を踏ん張らせ、そこを中心として、女王はその頭と尻尾を振り回す。

 視界の端で前衛に立った盾持ちの隊員が、女王の攻撃で致命傷こそ負わないまでも、強く叩き飛ばされているのが見えた。


---[07]---


 隊員達を信じない訳じゃない。

 でも一太刀浴びせたからこそわかる…、この女王を現状のまま倒せる者が、自分の部下にいない事を。

 女王自身の頭と尾を振り回す攻撃、迫りくる尾を跳び越えて、通り過ぎ越しに上からそれを斬りつける。

 でも、やっぱり刃は通らない。

 生半可な攻撃じゃ、決定打にならない…、加減をしているつもりはないけど、その事実がのしかかり、そのやりきれなさにモヤモヤした気持ちが募っていく。

 回転を止めた女王、次に私と対峙するのはその頭部。

 尻尾側を部下達に向かわせて、口の無数に並んだ不規則な長さの牙を私に向ける。

 左右にその頭を振るわせ、右か左か、どこから攻撃を仕掛けてくるのか、相手を惑わせるように動かした。


---[08]---


 その時、視界の端に動く物体が写り込む。

 何かが来た…ではない、女王の下っ端が来た。

 まるで女王のために、自分を囮にでもするかのように、私の視界にわざと入る様に回り込む。

「…ッ!?」

 視線がそのトイウナに釣られた時、女王が、そのトイウナがいる方向とは違う…逆の方向からその頭部を回して回り込む。

 大口を開けて迫る女王の顔面を、盾を前に出して、全力を出し迎え撃つ。

 足を巡る魔力、腕を…盾を包む魔力、力を増す温かみを感じながら、その馬車の衝突を思わせる攻撃を防いで見せる。

 ザザザッと脚が地面を滑り、何とか受け止め切れたかと思ったその刹那、足は地面を離れ、体は宙を飛んだ。


---[09]---


「さすがに…無理…。…くッ!」

 叩き飛ばされた体は地面を転がり、仲間との距離を離す。

 ゾクゾクッと悪寒が走り、耳にはガサガサと無数の足が地面を蹴る音が不気味に届いた。

「囲まれ…ッ!?」

 周りにはトイウナの群れ。

 私は振り向き様に、剣を全力で振るい、その切っ先は近くに居たトイウナの頭部を斬りつける。

 1,2,3,4…、一番ソレらが集まっていた場所へと突き飛ばされ…。

 数えるだけで億劫になりそうな数、そもそもそんな余裕などないこの状態、トイウナが迫る中、私は全力で地面を蹴った。

 今度は自力で宙を飛び、体は勢いよく天井へ足を付く。


---[10]---


 今まで自分が居た場所にトイウナが群がり、その体で小山を形成するのを真上から見下ろして、その山を目掛け、天井を蹴って私は突っ込んでいった。

 剣は駄目だ…、魔力を込めればある程度の衝撃には耐えられるし、それ相応に切れ味も増す…、でも可能性としてもし使い物にならない状態になれば、その後の攻撃手段を失ってしまう。

 それだけは駄目だ…と、腕に盾を固定する留め具を外し、取っ手だけを強く握り締めて、自身の体が落ちる勢い…天井を蹴って突っ込んでいく勢い…、全部乗せてまさに殴る様に、トイウナの山へと特攻した。

 腕を…盾を…体を強化して、増し続ける勢いの盾に殴られた一番上のトイウナの頭部は、一瞬にして原形を崩壊させ、下に居たトイウナは首が耐えられずに胴から別れを告げられる。

 下に行けば行くだけ、外傷としては落ち着いて行くが、その衝撃は確実に影響を与えたに違いない。


---[11]---


 万全のトイウナ対策が取れていたなら、こんな荒事絶対にしないのに…。

 ズキズキッと痛みの走る盾を持っていた左腕…、盾を持っているのも辛くて、力なくその手から自分を守る要がこぼれ落ちる。

 無残な姿になったトイウナの山から飛び降りた時、視界に入ってきたのはヴィーツィオの姿。

 こちらに視線を向けつつ、その口元に笑みを浮かべ、私ではなく、女王の尾に襲われる部下達へと視線を向けた。

「…く…」

 優先すべき対象がどれか…、私がどれを選ぶのか…それを見て楽しんでいるとでも言うのか…。

 気は苛立ち、苦虫を噛み締めたかのように、私の口元は歪む。


---[12]---


 ヴィーツィオの目的こそわからないものの、彼からこちらに何かをするつもりはない…、それを行動で示されているかのような…、私の気を意気揚々と逆なでしてきているようで、苛立ちだけが最高潮に達する一歩手前だ。

 挑発に次ぐ挑発が、私の判断を鈍らせようと邪魔をしてくる。

 ここでヴィーツィオを捕らえたとして、女王対策に魔法使い…、問題が山積みだ。

 こちらが手間取れば、仲間が全滅する。

 最悪挟み撃ちだってあり得る状態だ。

 手を出さないというのなら…、不本意でも、仲間の命を優先…すべき…。

 次に迫るトイウナの群れが来るまでの余裕は十分、私が定める敵は1体。

「す~…はぁ~…」

 気持ちを切り替えろ…、そうだと決めたなら、突き進め…。

 体を強化し、全力で女王に向かって突っ込んでいく。


---[13]---


 体の強化もさる事ながら、一番意識するのは剣の強化だ。

 下っ端のトイウナに剣をくれてしまえば、その先は真っ暗だけど、女王相手なら、おつりは来なくても妥当な対価。

 もちろん、ダメにしないに越した事はないから、そちらにもできる限りの力を注ぐ。

 今まで、ただの魔物魔人退治なら、そんな事気にもしなかったけど、自分の武器が通らなかった時の無力さは、もう痛い程知っている。

 あの時…、全ては終わった後だったけど、あのサグエの故郷…プセロアでの出来事は、自分の力を見直させるきっかけになった。

「硬くても…、ドラゴン程じゃないでしょ…」

 確かに、女王の足を斬る事は出来なかった…、その甲殻を斬る事ができなかった…。


---[14]---


 でも、それよりも硬いモノに剣を振るった経験があるから、剣が当たった時の感触でソレ以下だという事はわかる。

 私が斬る…斬れる目標にしているモノに比べれば、女王…。

「あなたの硬さじゃ…、足りない…」

 こちらの動きに気付き、体勢を低く、最初のように突撃してくる姿勢。

 相手の数を減らし、数的有利を得る…、女王の行動は間違ってはいない…、私だってできるのならそうするだろう…。

 強い敵に加えて、邪魔が入る状況じゃ、いつ予期せぬ致命的な決定打を受けるか…、想像しただけで恐ろしい。

 だからさせない、戦いもそうだし…、何より、部下をやらせない。

 ゴゴゴッと無数の足を走らせて迫る巨体に怯まず、ただ1振り1振りを確実に。

 再びその口を私に向けて突き進む巨体は、その寸前で頭を持ち上げ、正面からではなく頭上から私を襲う。


---[15]---


 それを避けるも、攻撃そのものを見せびらかすように地面を抉る様に、その大口は地面を貪る。

 女王の頭部が通った場所は、通った証として溝を作り、その抉られた分の土砂が、女王の首の中腹から排出された。

 地面を掘り進むために進化した結果がそれなのか…、さすがの魔物も土や石は食べないらしい。

 相変わらず、頭部か尻尾、どちらかが私を向き、どちらかが仲間達を襲う。

 まず敵の数を減らそうとする動きに加えて、私の足止めまで…、魔物との戦いというには、少々知的が過ぎるのではないか…。

 なんにせよ、仲間への攻撃を止める気が無いのなら、嫌でも片手間ができないようにするまで。

 その長い首が蠢き、さらに長くなっているように錯覚するほどに、左右へと振られ、一気に責め立てる。


---[16]---


 同時に周りのトイウナが動くのも見えた。

 女王が仕留め損ねても、畳みかけられるようにと動く。

 ドゴォーッと地面を抉る音が響き渡るが、、そこに私の肉片はない。

「所詮は魔物…」

 地面を抉りながら進むその体、首の中腹…いや相手からしてみれば背中だろうか、腹ではなく背だと思うけど、そんな事今はいい、女王の攻撃を跳んで避けた私は、自身の下を進む敵のその首へ、力を込めた剣を振った。

 剣の刃は魔力を纏い、その普通ではない硬さの甲殻を、地面を剣で斬るかのように、その一閃を刻みつける。

 決定打には程遠いとはいえ、今度こそ確実に、その体には私の攻撃の通った証が刻まれた。

「まだ足りないッ!」

 跳んだ後の落ちる体、そのまま女王の首へと降り立って、さらに魔力を込めた剣の切っ先を、体の強化も上乗せさせ、全力で振り下ろす。


---[17]---


 飛び散る女王の体液、今度こそ私の刃が甲殻を越え、その肉を断った。

 ガサガサと次に迫るは女王の尾、自身の体の異変…それを成した自分を脅威と判断でもしたか、自身の首に乗る私へと、その尾を振るう。

 すぐさま首から飛び降り、尾の下を潜りながら、その腹の肉を断つ。

 確実にこちらの攻撃は通る…いける…と確信し、不快感から来るものではない、勝利へと続く光が見え、私の気分は高揚した。

「今の内に体勢を立て直してッ!」

 完全に女王の意識は、今の二撃でこちらに向いた。

 何度も私を仕留めようと、女王の頭と尻尾がこちらへと襲い掛かる。

 優先順位こそ、知的で戦略的と感じたものの、私への攻撃手段は明らかな猪突猛進、威力こそ高いがこちらに決定打を与えるものではない。

 だからこそ、違和感が拭えなかった。


---[18]---


 大振りになったその攻撃の合間を縫って、確実に私の刃が女王の…甲殻を裂き…肉を断ち…無数に並ぶ足を1本2本と切断し、この状況に焦りでもあるのか、下っ端のトイウナ達の動きも次第に活発化していく。

 私達の様子を伺う様に、周りでジッとしていたトイウナも戦いに参戦し、襲い来る黒体が増し、その亡骸も増し、混沌の様相を見せ始めた。


「はぁ…はぁ…」

 女王へ何太刀浴びせただろうか…、襲い来るトイウナを斬った数は5体を越え、下手をすれば2ケタも超えたかもしれない。

 自身の使う両刃の直剣、その片側だけ使ってきたけど、その片側は最初こそ問題無かったものの、魔力の力が衰え始めたか、徐々に刃こぼれを増やし始めている。

 息も上がり始め、まだ慣れぬ普段とは違う魔力の使い方に、体が悲鳴を上げ始めた。


---[19]---


『隊長は女王に注力してください。群れは私達がッ!』

 横から迫るトイウナに、剣を振るおうとしたその刹那、私の前を仲間の隊員が通り過ぎ、その手に持つ盾で迫ってきていた相手を叩き飛ばす。

「…ッ!?」

 飛び出したその部下目掛け、女王の尻尾が振るわれた。

 部下の前に立ち、剣を握る手に一層力が入る。

 今の剣の切れ味で、両手であればいざ知らず、片手でその振るわれた尾をどうにかできるか…、咄嗟に動き、結果の見えない行動に不安を抱く。

 しかし、その不安も、この流れは払拭させた。

 私と迫る尾の間に割って入ったのは、サグエの弟子たるセス事フォルテ、その手に握る鉄棒を両手で握り、雄叫びと共に振り上げられたソレは、迫りくる女王の尻尾を叩き返す。


---[20]---


「えッ!?」

 今ここにいる者の中で、一番と言っていい大きな体とはいえ、その成した事に、思わず驚きの声を漏らした。

 でも、怯んだ女王の姿を、しっかりとその目に捉え、驚きはあるものの、体は追撃に走る。

 前線に出て来られた隊員は今の2人だけ。

 しかし、その薄まった前衛を援護するように、私に迫るトイウナを足止めする魔力弾が目に入った。

 トイウナの群れに続いて女王、その連戦に負傷した部下は、遠距離を担う者の援護に回っている。

 サグエの弟子…クリョシタにプディスタ、その手から放たれる杖魔法の魔力弾が、倒せないまでもトイウナ達の動きを封じ、女王までの道を開く。

 好機と見た私の体は、自然とその力を増した。


---[21]---


 重く感じ始めた体は軽く、瞬く間に女王の下へとたどり着く。

 近いのは尻尾、その横に回り込み、動きが鈍った女王の尾の関節部分…防御の薄い箇所目掛けて、剣を振り下ろす。

 息つく暇もなく、1回2回と振り降ろされた剣の傷は、最初は小さく、あっという間に大きく、ジンジンと痛む左手も使って振り下ろされる渾身の一撃が、巨体の尾を両断した。

 体液をまき散らしながら、切り離された尾がのたうち回る。

 女王も自身の損壊にのたうち、頭を地面や壁へと打ち付けた。

 ガリガリと地面を…壁を削り、やけくそじみた突撃に打って出る。

 しかし迫る頭部は私の所まで届かず、大げさ気味に砂埃を上げながら、地面を転がった。

『譲さんッ! 胴体を狙えッ!』


---[22]---


 その声は響き、その方向へと視線を向けた時、同時に、その言葉の意味するモノが視界に入る。

 女王の胴体の背中部分、不自然に脈打ち、光を放つ人の頭ほどの固まりがそこにあった。

 それを見た時、ゾクッと悪寒走り、それが不味いモノだと体が拒絶反応を起こす。

 地面を蹴り、その固まり目掛けて剣を突き刺した。


 何かが溢れ出る。

 体液ではなく、隙間風のように実体の無い何かが、剣の刺さった場所から噴き出し、刺した剣を押し返す。

「くッ!?」

 今のが何だったのかはわからないけど、ビクビクッとより一層巨体を震わせた女王は、しばらくして完全に沈黙した。


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