第五話…「光無き世界とすれ違う者達」


 1つ目か…2つ目か…3つ目か…。

 子供達が住処にしているかもしれない場所を探し続け、ようやく見つけた時には、坑道内を何回も行ったり来たりした後の事だった。

「探し損か?」

 でも、やっと見つけた住処らしき場所だったけど、そこに子供の姿はない。

 そんな状態に、セスが苛立ちを隠そうともせず、文句を言ってきたが、ウチはそれを聞き流す。

 寝床にしていたのか、寝具がいくつも置かれているけど、それは元々ここで使われていたものだと思う。

 坑道の突き当りの1つ、ほかと違って広く掘られた場所だ。

「たぶん、ここはこの鉱山が使われていた時に、休憩所として使っていた場所じゃないですかね」


---[01]---


 奥の方に寝具、それ以外の場所には道具入れか何なのか、木箱が無造作に置かれ、場所によっては積み上げられていた。

 周囲の様子を伺いながら、アレンはその中へと入っていき、中央の所まで来るとその場で膝を付く。

「なんかあったのか?」

「はい」

 ウチの質問に頷いて、見えやすいように体を横にずらし、杖魔法の光でその地面を照らす。

 そこには簡素ながら火を起こした跡があった。

「まだ温かいですし、誰かいたのは間違いないです」

「だが、肝心のガキ共がいねぇ」

「入れ違いで出て行ってしまったのでしょうか…?」

「そんな事、どっちだっていいだろ。ここにいない。それだけだ」


---[02]---


「頭筋肉ダルマは黙ってろ」

「ああ? やんのかてめぇ?」

「面倒だからって、ちゃんと調べもせずに終わらせようとすんなって言ってんだ」

 不本意ながら、また喧嘩を始めそうになるな中、それを止めたのはフォーだった。

「ちょ、ちょっとやめんか~い2人共。言い争うぐらいなら、さっさと調べて出るのが良い流れだと思うぞいッ!」

「チッ…」

「はいは~い、決まり決まり。セスっち、じゃんじゃん調べちゃって、じゃんじゃんッ!」

「うるせぇよ…」

 フォーの説得に、セスは露骨に嫌そうな顔を浮かべ、アレンとは違う場所に目を向ける。


---[03]---


「ごめんな、フォー」

「別にいいって事よッ!」

 フォーの助力のおかげで、喧嘩が大きくならなくて済み、調べる方へ集中できるのが素直に嬉しい。

 でも…。

「さっきと比べて、なんか、元気になってない」

 鉱山に入る前とは別人…とまではいかないけど、フォーの調子というか、力が溢れかえってる感じがする。

「そうかな? いや、そうかもしんない。多分、この真っ暗な鉱山の中が原因だね」

「どういう事だよ…?」

「つまり、私って元々夜派の人間だからさ~、実際はまだ真昼間でも、この暗さに体が騙されてると思うんだよ、うん」


---[04]---


「人間て、そんな単純なものか?」

「私が証拠だよ、シオっち」

「え…あ、うん」

 いや…まぁ…普段から相部屋だし、隊の館でだって相部屋…、フォーが夜になると元気になるのは知っているつもりだけど、その元気になる条件、思いのほか緩すぎないかな?

 まぁ落ち込み気味に地味な作業を延々とやってるよりも、元気にやってくれた方が、この暗い空間では周りの空気も明るくしてくれるから良いのか…。


「使える状態にあるベッドは5つですね、たぶん。その内2つは焚火の跡と一緒でまだ温かかったので、シオさんの話で聞いた町で見た2人が使っていたか、もしくはそれ以外にいるか」


---[05]---


「ぐだぐだ考えるよりも、5つ使える状態にあるってんなら、ガキは5人いるって事でいいだろう」

「それはそうですけど、もしかしたらベッドを使用していた2名が病気で、寝ている事を余儀なくされていた可能性もありますよ」

「その時はその時だ。結局、可能性の話だけ、結果が出ていねぇのに、その可能性に踊らされてどうする? ガキ共が魔法を使おうとした事から発生した調査だ。魔法が使えれば相手が子供だろうと、大人を倒す事は難しい話じゃねぇ。危険性を考えるなら、脅威が5つあると考えて行動した方がイイだろうが。第一、ここをガキ共が住処にしてたかどうかもわからん。子供じゃなく盗賊の類だったらどうする?」

「ですが…」


「いやはや、セスっちは真面目だが、協調性と柔軟性が無さ過ぎ問題ですな~。ねぇ? シオっちもそう思うっしょ?」


---[06]---


「もし盗賊とかがここを根城にして、子供達をこき使ってたりしたら…」

「あら、シオっちもそっちに考えを深めちゃう感じ? 落ち着きたまえよ。もしそうなら、ここら辺一帯にお酒の類の瓶とかその他諸々が転がってると思うぞ? というかっ、もし盗賊の類なら、ここは貧相すぎだぞぃ、金目のモノ無し、隠してるにしたって、何も無いのはおかしいぞ。だから、その辺の線は薄いって、むしろ無いと言っても問題ない的な?」

「それは…そうかもだけど…」

 あくまで可能性…、でもその可能性を意識に入れてしまったせいで、その場合の最悪の考えばかりが、ウチの頭を巡る。

 確かに、フォーの言う通り、盗賊の線は薄い…、それはウチもそう思う所だ。

 なら、アレンの言っていた病気の子供がいる可能性は?

 盗賊の可能性なんかより、こっちの方があり得る。

 病気を患っているのなら、ただでさえ子供なのに、余計に仕事ができなくなる。


---[07]---


 薬も買えず、動ける子が減るから、余計に食べ物にも困る様に…。

 負の連鎖だ…、全く持って良くない状況…。

「いや~、シオっちは優しいねぇ~。「アノ」…事もそうだけど、子供の事を考えてる時のシオっち、お母さんみたいな顔してるぞ」

「・・・別に、ウチは…」

「さあさあお母さんっち、私達が調べていないのは、あとこの木箱の山だけだぞっ。ここから金銀財宝やら、安酒から高級なお酒まで選り取り見取りなモノが出てきたらよし、そうでないのなら…ちょっと悲しい…」

「何が…よし…だ。そんなもん出てきたってどうしようもないだろ? というか、お母さんはやめろ」

「いやいや。自分達がどうこうしなくても、町の人が喜ぶかもじゃ~ん」

「町の奴らを喜ばせてどうするつもりだよ」


---[08]---


「・・・。特に考えてない。そういう事すれば喜ばれるかなとしか考えてないよ?」

「そう…」

 ・・・・・・・疲れるッ!

 いつにも増してフォーの調子について行けない…。

 ついて行こうモノなら、こっちの状況とか関係なく引き釣りの刑だ…、よくないぞ。

 彼女の今の格好も相まって怖いぐらいだ。

「およ?」

「どうかした?」

「いや、木箱の奥で何か光ったような、気がしただけだ」

「気がしただけって…、気を付けろよ?」

「わかってる、わかってるって…」


---[09]---


 バカンッ、その時、この坑道内には不釣り合いな音と共に、木箱がフォーへと襲い掛かった。

「のわッ!」

 フォーは体勢を崩し、その場に倒れ込むと、そこに追い打ちをかけるように、木箱たちが降り注ぐ。

「お…重い…」

「一体な…」

 フォーを助けなければ…と、頭を過るも、同時にこんな事になった原因を見つけなければと視線が動く。

 木箱があった方向、そこに見える人影。

 杖の光をそっちに向けた時、どことなく見覚えのあるマントを身に纏った人の姿が、しっかりと見えた。


---[10]---


 でも次の瞬間、何かが光ると同時に、大の大人に体当たりをされたみたいな衝撃がウチを襲う。

 体は後ろへと持っていかれ、何が起きたのか理解する時間もなく、ウチの背中に強い衝撃が走った。

「カハッ…!」

 背中を襲う痛みの後、ウチはその場に力なく倒れ込む。

「く…」

『フォーさんっ、シオさんっ!』

 アレンの声が聞こえる…。

 それに返事をするよりも、今は身体を起こしたい…。

 でも背中を襲う痛みが、その邪魔をした…。

 視界の方は段々と調子を取り戻し始め、落とした杖を拾う頃には、目の前を光と共に大柄のアイツが、ウチの視界を横切る。


---[11]---


「ちょ…まっ…」

 それは他でもないセスの姿。

 アレンに渡された鉄棒を抜いて…。

 相手は子供…。

 こっちが止めようとした事を知ってか知らずか…、その鉄棒が振り下ろされる。

ガンッ!

 その瞬間、耳に届いた音は、まるで金属同士がぶつかった時のような音だ。

 戦闘訓練の時、刃の付いていない剣同士がぶつかった時、そんなよく音を出してた。

 音もそうだけど、異変はそれだけじゃない。

 鉄棒を振り下ろしたはずのセスの体がよろめいた。

 同時に、スタスタ…と人の足音がいくつも、この空間から離れていくのが聞こえる。


---[12]---


『…クソ…がッ!』

『セスさんッ!?』

 何が起きたのか、ウチからは見えなかったけど、セスの悔しそうに出された言葉は、どこか悔し気だ。

「おい…底辺。これが…てめぇの望んだ事か?」

 こいつはウチになんて言わせたいんだ?

 分からないけど、ウチが言える事は、これは望んでいないという事だけ。

「皆さん大丈夫ですか?」

「うん…。ウチはいいから、フォーの方を助けてあげて…」

『重い~…。た~すけて~…』


 痛む背中で、フォーに乗っかった木箱を退かしていく。

 それ自体は空っぽではあったけど、木箱だけにその重さはなかなかだ。


---[13]---


「うぃ~~…、重かったんじゃ~~…」

「大丈夫か、フォー?」

「怪我とかは無い…から、大丈夫」

 勢いよく木箱に押し倒されたように見えたし、怪我が無いのなら一安心だ。

 ホッと胸を撫で下ろすウチだけど、この状況に納得がいっていない事を隠す気の無い奴が、我慢の限界だと声を荒げる。

「問題ねぇなら行くぞ」

「そうですね。野営での治療も兼ねて、一度状況の報告をしに行った方がイイと思います」

 報告…に、治療…か。

 子供がここを住処にしている事はわかったから、その報告のために一度鉱山を出るのもいいかもしれない…。

 でも…。


---[14]---


「ふざけんな。帰るんじゃねぇ。俺が言ってんのはガキ共を追う方だ」

「追うって、言っても地の利は、あの子達にあるでしょうし、下手に追っては鉱山の中で遭難してしまいますよ」

「入口に見張りでも立たせて、呑気に休もうってか?」

「休むとまでは言いませんけど、僕は見張りを立てる方がイイと思います」

「それを呑気だって言ってんだ。廃坑になったって、穴が掘れねぇわけじゃねぇ。おまけに相手はガキ共だ。大人が通れる穴よりも小さい穴で事足りるだろうが。入口を警戒したって他から出られたら意味がねぇ」

「ですが、他に出口があるかも怪しいですよ。子供達がここを離れる時に、そもそも入口に向かったかも…」

「それはねぇ。少なくとも、お前が持ってきた地図が正しければ、ガキ共は入口とは反対側に向かっていきやがった」

「…だから入口の監視は意味が無いと?」


---[15]---


「意味が無いんじゃねぇ。他の可能性を警戒しろって話だ。少なくとも、逃げるのに入口の方へ向かわなかったのには意味があるはずだろ。地の利があるのなら、尚更だ」

「アレン、子供達を追う方と、報告に鉱山を出る方、二手に分かれるのは?」

「それは…。地図は1枚しかありませんし、二手に分かれたら、地図を持たない方が最悪の場合鉱山の中で迷ってしまう可能性があります。僕からはお勧めできません。なので、二手に分かれるのは無し、全員で追うか…戻るか…の二択ですね」

「じゃあ…追おう」

 ウチの答えは即答、はなから戻るつもりが無かったのもあるから、当然の結果と言える。

 意気良いよく立ち上がると、まだ背中が痛む。


---[16]---


「来る時は足跡とか無かったように思えるけど、なんでかさっき出てった子達の足跡は残ってる。だから今なら追えるはず。逆に戻ったら、他の出口の有る無しに関わらず、足跡を消されて追えなくなっちゃうかも…」

「・・・わかりました」

 アレンは、不服そうな顔を崩さず、ウチの言葉に頷いた。

「フォーにはウチが肩を貸すから、前はセス、中央がウチとフォー、後ろをアレンが警戒して」


 フォーは口では大丈夫と言っていたけど、ウチがただただ心配で、肩を貸しながら行動を進む。

 アレンは進んできている道を細かく記録しながら進み、セスは前よりも足元に集中した。


---[17]---


「フォーは木箱が倒れてきた時、どう思った?」

「そうだの~。倒れてきたというより、私に襲ってきた感じだったぞい? なんかこう…まっすぐ進んできたというか、投げられたような…。シオっちは?」

「ウチは…、明らかに魔法かなんかの力で攻撃された」

 そうでなきゃ、透明人間が体当たりしてきた事になる。

 それはない。

 あの光は…魔法が使われた時に起きる現象だ…。

「とにかく…。早く子供達を見つけてやらないと」

『見つけてどうする?』

「え?」

 前を歩くセスが、視線だけをこちらに向ける。

「子供かどうかは関係ない。ガキ共は盗人だろ? そこに魔法を使える事が加わった。危険度だけで言えば、その辺の盗賊連中と変わりゃしねぇ。むしろ衝動的で、感情任せに動く可能性を考えれば、ガキ共の方が質がわりぃ。」


---[18]---


「感情任せになるのは大人だって同じだろ。盗賊みたいに自分の好き勝手やってる連中なら尚更だ」

「盗賊…悪党連中の大半は、自分の命を大事にする。真っ先に死なないよう行動して、相手の隙を突く。俺達の首にいつ噛みつくかを延々と考えてる。だがガキ共は、頭の出来た奴でもない限り、出来るかどうかの考慮をすっ飛ばして喰らい付いてくる。…同じじゃねぇ」

「だからって…。さっきみたいに子供達に向かって、その鉄棒を振り下ろすのが正解だって言うのか?」

「だったらなんだ? 仮面女は木箱の下敷きになったし、テメェは吹き飛ばされて動けなくされたろ? 相手が大人だろうが、盗賊だろうが、ガキだろうが、手を上げた時点で、等しく罪人だ」

 罪人?

 確かに子供達は今日まで生を繋ぐために盗みをしたかもしれないけど…。


---[19]---


「だからって…、罪人だからと一蹴するなんてひどいぞ…」

 あの子達は、それしか知らないだけだ…、それしかできなかっただけだ。

 進むべき道を教えてもらえなかっただけ…。

「…テメェがどう思ってようが関係ねぇ。剣を持った時点で、誰もが戦士になる様に、魔法を使えるようになった時点で、ガキ共は子供だから…なんて、誰かから守ってもらえる立場から外れてんだよ」

「く…」

 それでも、誰かが手を差し伸べてあげなきゃ…。

「皆さん、少し落ち着きましょう。あくまで僕達の任務は子供達の調査であって、保護、捕獲、説得、そう言ったいくつかある手段とは違うモノです。まぁ調査の一環で子供達と協力関係になれるのが一番良い流れですが…、その辺の事、忘れてはいけません」


---[20]---


 だから、ウチは少しでも子供達に近づきたいと思ってるんだけど…。

「・・・」

「・・・わかってるっつぅの。いちいち念押しすんじゃねぇ」

 こいつは、子供達を力で押さえつけてどうにかしようとしているように見える。

 それこそ、無理矢理情報を聞き出そうとするかも…。

 ウチとは考え方が正反対だ。

『なぁ…』

「わかっているのならいいですが…。危ないと感じたら、撤退するのが優先順位としては高いですからね?」

 子供達に危害が加えられないのであれば、そうする事が一番か…。

『なぁ?』


---[21]---


「ああ。最悪、ガキ共が使っている場所を把握するだけで戻る事は考えてる。だがそれはあくまで最悪の場合だ。ガキ共から直接情報を得る。それが最良の結果だって事忘れんな」

「僕は…、情報の聞き出し方はちゃんと考えた方がいいと思いますが…、今の班長はあくまでシオさんですから、僕はその指示に従います」

 何をするにしても、あの子達に会って、そして話をしてみない事には始まらない。

 ウチから出す指示はただ1つだ。

『なぁ?』

「…行こう。まずは子供達と話がしたい」

「チッ…。甘ったるい頭だな…。底辺野郎」

「うるさい。いいから、行くぞ」

『なあったらッ!』


---[22]---


「うぁッ!?」

 突然上げられるフォーの大声に、体は小さく跳ねる。

「なんだよ、急に!?」

「急にじゃないって、さっきから話しかけてたって、マジで」

「なぁなぁ唸ってた訳じゃないのか?」

「違うよ!」

「そう…。なんかごめん」

 素顔が見えない状態だから、さっきの木箱のやつが痛みとして襲ってきてるのかと思った。

 いや、それはそれで問題だから、すぐに反応してやんなかったウチが悪いか。

「謝罪はよろしよ。なんか変な音聞こえないか?」

「音? とくにウチは…」


---[23]---


 話をしてたからか、フォーの言う音には、ウチは全く気付いていない。

 フォーの発言に、セスもアレンも、周囲を警戒し始めて、結果この場はシンと静まり返った。

 変な音がする…フォーの発言からしてみれば、その静かな状態は願ったりだけど、やっぱいウチには何も…。

「やっぱり何も聞こえない。ほんとに何か聞こえた?」

「むむむむ…。今は聞こえん。だが…だがッ! 確かに聞こえたぞ。ガサッと、何か硬い物が地面を削るような音が…」

ガザッ…。

  ガリッ…。

 また幾ばくかの静寂の中、少しの間の後、ウチの耳にもその音が届いた。

「アレン、戦闘準備。フォーも」

 音がしたとして、それはきっと子供達がこちらに歩いてきたのだ…と、ウチは思った。


---[24]---


 でも、その予想はただの希望的観測で、子供じゃない何かはこっちに向かってくる。

 ウチとフォー、お互いに動きやすいように肩を貸すのをやめて離れると、その何か…がセスの杖魔法の光に照らされた。

 黒光りする甲殻を身に纏う…。

「アリ?」

 パッと見ればそうだけど、その口元にあるはさみと言うか…牙と言うか…、ウチの知る蟻とは明らかに形が違う。

 いや、違うモノがあるとすれば、それ以外にも見張るモノがあるけど…というか、それが真っ先に覚える違和感である部分で…。

 いやいや、もはや違和感なんてモノではなく、まさにそれは異常。

 明らかにウチの腰あたりまである高さを持つ大きさ、普通に子供1人分には匹敵する大きさだ。


---[25]---


「「トイウナ」…です。巨大なアリの魔物。大きさもさる事ながら、その相手を掴むための外牙に捕まってしまえば、正直怪我では済まないですよ」

 巨大なアリの魔物…ね…。

「ちなみに肉食です。秋の繁殖期にしか獲物を狩る事はありませんが、巣穴に迷い込んだ場合、時期は関係なく襲ってきます」

 情報ありがとう…。

「そういう事は今、聞きたくなかったわ」

 アレンの説明しようする姿勢はとてもありがたい。

 でも、それを知った所で、心の準備が全くできていなかったウチには、不安がばかりだ

 進行方向は塞がれ、前ばかりに気を取られていると、後ろからも物音が聞こえたかと思えば、後方…ウチらが来た道からも、続々とその姿を現した。


---[26]---


「数としては、後方のほうが数は多いです。7対3といった所でしょうか」

「なら今取るべき行動は1つだろうよ。仮面女、杖で前を照らせ。このまま前に突っ込むぞ」

「えっ!? まじかよセスっち!?」

 セスに杖を渡されて目を丸くするフォー。

「ちんたらしてたら、もっと増えるだろうが。それならさっさと薄い所を突っ切った方がいい」

「僕も、セスさんに賛成です」

 くそっ…。

 この瞬間のセスを頼もしいと思った自分がいる…。

 そのセスの言葉に賛成するアレンの言葉、ウチ自身が考えるよりも早く結論は出て、行けっ…の一言が、口からいつの間にか出ていた…。


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