第一話…「悩み多き隊長と落ち着いた前日」


「頭痛がします…」

「風邪か? もう少しで到着って言ってたし、もう少し我慢しろ」

「…そういう事ではなくて…ですね…」

 チェントローノを出発し、目的地であるオーロヴェスト…大陸の西に位置する国への到着が目前に差し掛かった所。

 道の片方は切り立った崖。

 木々の少ない山岳地帯を、時間をかけて進み、標高もそれなりに高くなっていて、若干の肌寒さを感じる。

「責任がのしかかって不安とか?」

「それも…ありますけど、この頭痛は別の種です」

「どの種だよ?」


---[01]---


「・・・」

 頭痛がしてしょうがない…。

 実際に痛いのもあるけど、積み重なった悩み…重みから来る頭痛でもあった。

「にしても驚いたな。あの歳で王様とは」

「・・・」

「あの子の知り合いを見つけた時、大人数の出迎えがあって、大げさなもんだなと思ったが、それも当然だな。どこぞの富豪の娘か何かかと予想はしていたけど、まさかまさかそれ以上とは」

「・・・ん~」

 私…アリエス・カヴリエーレは、隣に座り、馬車の御者を請け負ってくれているガレス・サグエの言葉に、言葉にならない声を漏らし続ける。

 手で顔を覆い、ため息も漏らし続けた。


---[02]---


「・・・はぁ。ちょっと手綱持っててくれ」

 彼は私の前に手綱を持ってきて、それを私が受け取った所で、馬車の荷台へと入っていく。

『え? ちょっ! 隊長先生、や…やめてッ! 出ちゃう、出ちゃうから!』

『うるさい。酔いたくなかったら、その仮面外せ。少しは楽になるかもしれないぞ?』

『いやいや、隊長先生、それ問題発言だよっ! 乙女に裸を見せろって言ってるようなものだからッ!』

『だが実際に言っている訳じゃないだろ。気持ち悪いなら、そんな事言ってないで安静にし…』

『うぷ…』

『言ってる傍から…。ティカ、案の定だ。ちょっと診てやって。ジョーゼも、それを手伝ってやれ』


---[03]---


『了解だ、ご主人。このダメダメでダメな魔法使いの面倒を見てやるぞ』

『なんだとこの…うぷ…』

『はいはい、そのみっともない争いはやめろ。お互いにやる気満々かもしれないが、はたから見れば弱い者イジメに見えるし、何より教育に良くない』

『わかったぞ、ご主人。…という訳で、ダメダメ魔法使い、ありがたく思うように。世話してやる』

『それは…こっちの…うぷ』

 同乗者の人達は元気で仲が良いみたいだ。

 自分たちの状況を理解しているのかどうか…。

 馬車に酔ったクリョシタの世話をティカとジョーゼがするのとは別に、積まれた荷物を漁る音。


---[04]---


 頭痛を堪えるがあまり、目つきが悪くなりながらも、馬車があらぬ方向へと進まない様にと、手綱を握る事に意識を集中する。

 再びサグエが私の横に戻ってきた時、手綱と交換するように、小瓶に入った緑色の液体を渡してきた。

「これは?」

「気休め程度の痛み止めだ。頭痛が酷いなら、飲んどけ。無いよりマシだろ」

「・・・ありがとうございます」

 液体状になったソレ。

 口元に近づければ、悪い意味で何とも言えない青臭さが鼻を刺激する。

 それはまさに見た目通りのモノだ。

 一見して気にも止めなかった緑色が、濃くて…濃くて…もはや黒に近い何か別の色に見え始める程に。


---[05]---


「・・・ンッ!」

 痛み止め…つまりは薬であるのなら…とそれを私は口へと流し込むが、見た目相応、臭い相応にその味も酷いモノだった。

「良薬口に苦し…とか、そんな事を言うつもりはない。即席で作るとなると、飲みやすさまで考慮するのは無理だからな。まぁ本当に気休めだし、無理に飲めとは言わん」

「い、いえ、飲みます。飲みますよ」

 彼の好意を無にするつもりもない。

 瓶の縁を凝視しながら、意を決してそれを一気に飲み干す。

 頭痛を和らげるために飲んだはずの薬だけど、それを飲んだ事で、飲み込む前に吐き気が襲う。

「むぐ…んん…ん~~…んぐっ」


---[06]---


「お~、よく飲んだな」

「・・・それほどでも」

「ふっ。それが飲めるのなら、やる気は十分だな。まぁ後は、進む、止まる、戻る…をちゃんとできるかどうかか」

「どういう…意味ですか?」

「張り切り過ぎるなって事だ」

「・・・」

「と、本当に気休めだったかもな。見えてきたぞ」

 サグエの視線に釣られるように、私は馬車の進行方向に目を向ける。

 山々が並ぶ合間を抜けて、一層広い空間の先に目的地はあった。

 山の傾斜を埋め尽くさんとする家々の数々、その下には大きなの川があって船が行き来している。


---[07]---


 その川のおかげか、ここへ来る道中などと比べて緑が多い。

 街のあちこちから伸びる煙突から煙が噴き出す。

 川を挟んだ反対側には、坑道なのか、沢山の人や道具と共に、何かの作業をしている光景が見て取れる。

 そして、この街…王都「ソーリド」において、一番目を引くモノがアレだろう。

 傾斜に立てられた街の中央を縦に分断するかのように作られた何かのカラクリ、川の方で水を汲み何かの力でソレを上へ上へといくつも持っていく大きな水の入れ物が、均等に並んでいる。

 当然オースコフにあのようなモノは無いし、チェントローノにもなかった。

 このオーロヴェスト特有の光景だ。

 住む場所…地形が違うとはいえ、サドフォークやチェントローノとは全く違うその雰囲気に、私は頭痛の納まらぬ中、ほんの少しだけ、胸を躍らせた。


---[08]---


 そして、私達の目的の1つ、「封印の杭」が、王都ではなく、川沿いのさらに奥…そこにある大きな湖の中心に、オースコフよりも2か3倍大きな杭が突き刺さっている。

 あれほど力強くそびえたつ杭でも、何かしらの力の脅威にさらされているという事実に、その瞬間だけは頭を悩ます痛みを忘れ、思わせてくるのだった。


「カヴリエーレ隊長、国に滞在している間の宿を手配させていただきました」

 街に付いた所で、戦闘を進んでいたこの国の一行の、その指揮者であるアット・バイネッタが他の人員に指示を出しつつ近づいてくる。

「お手数をかけてしまい申し訳ありません」

「いえいえ、あなた達は我々の協力者であり、何より客人。可能ならば王宮に客室を設ける所なのですが、さすがにそこまでの事を自分の一存で決める事はできませんので」


---[09]---


「お、王宮なんて、協力する身とは言え、私達は一階の兵の身です。さすがにそこまでの事をしてもらう訳には…」

「…申し訳ございません。その分、用意する宿はできる限り良質なモノを。場所は愚弟に伝えてあります。先に走らせている部下が部屋を確保してくれているはずですので。宿までの道は愚弟に指示を出してください」

「は、はい。ありがとうございます」

「今日は疲労もあるでしょうから、宿でゆっくり休憩をしてください。翌日の朝、兵を向かわせますので、協力内容の詳しい話はその時に」

「わかりました。よろしくお願いします」

「では」

 お互いにお辞儀をして、バイネッタは人混みの中へと消えていった。


---[10]---


『じゃあ、こっちも行くか、隊長』

「ここに来る道中、よく姿が見えなくなっていたのは、お兄さんに会いに行っていたからだったのですね」

 バイネッタが言った後すぐ、彼の言う愚弟事私の部下…レッツォが顔を見せる。

「積もる話もあったからな。まぁその話はどうでもいい。さっさと宿に行こう。兄貴の奴、ほんとそれなりに良い宿を用意してくれたみたいだし、さっさと行って、さっさと良いさ・・・魚を食おう」

「・・・オーロヴェストって、魚が有名なのですか?」

「お、おう。横に見ての通りデカい川があんだろ? 結構取れるんだよ。まぁそう言っても、この国の特産は食い物じゃなくて鉄を使った武器や防具、農具から、鉱石そのモノだったり、そっち方面だ」


---[11]---


 そう言ってレッツォは、あちこちの家々から伸びる煙突を指差す。

「パッと見て軽々2ケタになる煙突、その煙突がある場所は基本鍛冶屋だ」

「多いですね」

「それが取り柄な国だ。だから上品な飯は期待するんじゃねぇぞ。あるのはガサツな野郎共が食う飯ばかりだ」

「ん~?」

「いいから、行くぞ。ほらほら。他の連中もしっかりついてこいよ。体がデカい連中ばかりだし、離れると迷子になりかねねぇからな」


 レッツォが言う様に、通り過ぎる人の大半が、ガタイが良く体も大きい。

 そしてそのほとんどがレッツォと同じ甲人種の人々だ。


---[12]---


 確かこのオーロヴェストが、初めて甲人種が誕生した土地…と何かの本で読んだ気がする。

 レッツォもそうだし、だからこそ甲人種が多いのか、甲人種特有の住みやすさがあるのか。

 自分達は他国の人間だからこそ、物珍しさからくる視線が刺さるし、なんか鍛冶屋らしき人間からの視線が痛いというか、どこか目を輝かせているようにも見える。

「まぁ気にしない事だな」

「ん」

「職人魂が叫ぶってやつだ。武器防具はより一層興味をそそられる連中でねぇ。さっきからその辺の視線が飛んでくるし、隊長…気になってるだろ?」

 肩越しにチラッとこちらを見ながらレッツォ、その言葉はまさに図星だ。

「そいつらの目ときたら、まるで新しい魔法とか戦術を見た時の隊長みたいだろ?」


---[13]---


「え、私はそんな事ないですよ」

「嘘つけ。アレだぞ? ガレスが模擬戦をする時、他の連中の時よりも目がキラキラ輝いているように見えるけどなぁ?」

「な、なんでそんな所まで見ているのですか…」

「気になる相手はついつい見ちゃうってやつだ」

「・・・もう、そう言う事は冗談で言うモノではありません」

「ふっ。堅いなぁ」

 構造上、地形上仕方ないとはいえ、進む道のほとんどに階段が設けられている。

 生活する上で、必然的に体を鍛えられている…、職の偏りもあって、歩いているだけで体の大きな人が多くいる理由や鍛えられている理由が自然と理解できた。


「久々にこの階段を上ると、結構キツイな」


---[14]---


 徐々に口数が少なくなっていく中で、目的地の宿に付いた時、真っ先に弱音を吐いたのはレッツォだった。

「運動不足…ではなく、訓練の手を抜きすぎです、レッツォ」

「いやいや、そんな事ねぇって。そこでガレスの背中でバテてる子供だっているだろ。自分だけじゃねぇよ」

 ガレスの背中で歩き疲れてぐったりとしているジョーゼの姿に、無茶を言うなとレッツォは言うが、そもそも比べる対象がおかしいと言うモノ。

「より一層、今後のレッツォの訓練に力を入れる必要があるようですね」

「・・・勘弁してくれ」


 その後、割り当てられた部屋へ、各々が荷物を置いた後、レッツォは姿を消した。

 いつもの癖が出たようだ。


---[15]---


 美味い酒を呑みに行くぞ…と喜々として鼻歌交じりに口にしているのを、ティカが聞いていたから間違いない。

「はあぁ~…」

「大きな仕事の始まりだっていうのに、大きなため息な事で」

 詳しい話を明日すると言われてはいるものの、休む気になれず、前情報で聞いていた話を元に少しは話を進めておこうと、空が赤く染まり始めている中、サグエを私は部屋へと招いた。

「故郷に帰って来た訳だし、行きたい所もあるだろう。昔通ってた馴染みの店とか、知り合いに会いに行くとか」

「それはそうですが…。レッツォはこの隊の鍛冶師としての役割を持っていますから、明日からの任務に備えて、皆の装備の手入れをしてほしかったのですが…」


---[16]---


「なるほどあの人も大変だ、仕方ないけど。まぁ、周りには鍛冶屋が山ほどある訳だし、急ぎの用だからって言えば優先してやってくれるんじゃないか? 一応この国の要請で来ている面もあるんだろ?」

「できるのならそれもいいですが…予算が…」

「・・・なんだよ、唐突に。生々しいな」

「いや、この任務は時間が掛かる任務になるので、出来る限り出費は押さえたいという話です」

「なるほど。てっきりウチの隊が貧乏なだけかと思った」

「その面も少なからず影響はしてますけどね」

「あるのか」

「予算の問題は私の隊だけではないですけど。私達をよく思わない人が上にいるという話です」


---[17]---


「その割には、あまりその辺の雰囲気は出さないな。俺は気づかなかったし」

「そりゃ~頑張っていますから。隊員達への給金は渋らず、それ以外の所で調整の日々です。指揮を高める上で大事な食事面に関してなんか、ドルチェに沢山頑張ってもらっているのですよ? 業者の方と交渉してもらって、継続的に購入する代わりに安くしてもらうとか。あとは王都外での警備任務中に隊員達に動物を狩ってきてもらうとか」

「・・・なんか、騎士団の隊って堅い印象があったが、やってる事は結構庶民的だな」

「他がどうしているかは知らないですけど、私の所が特殊なのは認めます…」

「ふっ…。そういや、隊に入った割にはそういった事全然知らなかったわ」


---[18]---


「当然です。満足のいく給金に、満足な美味しい食事、整備された装備に寝床。これらがあれば、少なくとも生活する上で悪い印象を外に撒き散らす事はしない…とドルチェが言っていましたから」

「わからなくもないが、何か言い方が引っ掛かって反論したくなる」

「とま~、隊の内部の雰囲気をよくするために試行錯誤しているのです。賃金と食事面はさっき言った通りで、装備面の事情はレッツォのおかげでだいぶ良くなりました。そして隊の宿舎に関しては、ご存じの通り、少し古めではありますが用意した館を宿舎として使用しています。一応騎士団が提供しているモノを使うのが普通ですが、あそこは生活するというより寝泊まりをする場所といいますか、少々窮屈な場所なので」


---[19]---


「ふ~ん。俺はその兵舎を見た事がないから何とも言えないな。窮屈とは?」

「簡単に言えば広い部屋に二段ベッドを並べて、そこで寝なさい…というのが基本の形ですね。それが私個人としては苦痛でした。慣れれば問題ないだろうと思いましたが、そんな事もなく、常に大多数の人間と起きている時も寝ている時も一緒に居るというのは心休まる時が無くて…、自分が隊を率いる事になったら、これは駄目だと思い、今の形になりました」

「それはまたすごい判断…というか実現力だな。騎士団もよくあんな建物を提供してくれたよ」

「いえ、あの建物の所有権を持っているのは私ですよ? あの建物自体に騎士団の助力を得た事はありません」


---[20]---


「え、でも。あの建物ってそれなりの大きさだぞ? 小隊の人間が全員相部屋とはいえ入れる程度には。王都の隅で古い建物だからって、おいそれと手に入れられるような物件じゃ…」

 サグエが珍しく驚いた表情を見せている。

 そう言えば、騎士団に入る前に住む場所を探して、あちこち空き家を探していると聞いた気が…。

 それなら、驚くのも無理はないかもしれない。

「さすがに、私にだってあの建物を購入するお金を一括で払える程の財力は持っていませんよ」

「じゃあどうしたんだ? パードさんか?」


---[21]---


「さすがにそれもないです。お父さまは自分がお金を出してあげる…と最後まで言ってきましたけど、きっぱりと断りました。お父さま、最後には泣きながら、お願いだから払わせて…と言ってきましたけど」

「じゃあどうやって…」

「元々私、物欲が少ないというか、お金を使う事が多くなかったのですが、それもあって使わずに貯まっていた騎士団の給金と…」

「と?」

「借金です」

「・・・」

 驚きの顔だったサグエの顔が一瞬にして、冷めた顔に…。


---[22]---


「あ、怪しいお金じゃないですよ? オースコフで一番由緒ある所から借りていますから。それにもう半分以上は返しています。返済も自分の給金からですし」

「いや、そんなに焦られても…逆に戸惑うわ。そこまでして隊の環境を整えている事に驚く。まぁある意味、その話を聞いて譲さんの隊員に対する考え方の本気度が分かる気もするがな」

「はぁ、これからの話をしようというのになんか疲れました…」

「譲さんのため息から、話が大きくズレたな」

「あはは…、ごめんなさい。そういえばジョーゼさんは?」

 いつもなら一緒に居ようと、こういった話し合いの場にも来そうだけど、ティカに止められているのかな?


---[23]---


「アレン達と一緒に魔法の練習をさせている。一緒にやってろって言ったら、文句の1つでも言われると思ったが、なんか案外乗り気でな」

「ジョーゼさん、言うなればサグエさんの一番弟子ですからね。他の弟子であるプディスタさんとかアパッシさんに、実力で抜かれたくないと思っているのかも」

「そう言うモノかね? 単純な実力とか、魔力に対する体の対応力…というか適した体作りに関しては、アレン達にはそうそう追い付けない程の差をあいつはつけてる。その事はジョーゼもわかっているはずだが」

「・・・はぁ。そういうものですよ」

「そうか」

「そうです。そうなのですよ」

「・・・。にしても、話が逸れているのはいいとして…、これから重要任務が始まる前日とは思えない気の抜けた話をしてるな」


---[24]---


「いいじゃないですか。良い言い方をするなら、それだけ緊張する事無く平常心を保てているという事ですよ? それはつまり、硬くならずに任務に挑めるという事です。重要な任務だからこそ、失敗が許されない場面が普段よりも多くなる。冷静に…いつも通り事に当たれるというのは、その失敗の可能性を排除できるという事になります。これはとても重要ですよ」

「それはまぁ、そうだな」

 そう言って、サグエは冷めてぬるくなってしまったお茶を、一気に飲み干した。



「気の抜けた話ができるのは、緊張してないから、だから硬くならずに失敗せずに任務に当たれるから、それは重要な事…か。この言葉、譲さんはどう思う?」


---[25]---


 ビクッ、俺の隣に立つ女性は、こちらの質問に焦り顔で体を震わせる。

 俺事ガレス・サグエは、太陽もてっぺんに来ていない時間、オーロヴェストの王宮に招かれていた。

 俺以外に、譲さんとレッツォ・バイネッタの2人が招かれているんだが…。

 俺達の隊長である譲さんは、いつにも増して緊張している様子だ。

「ふ、普段はこんなに緊張すると言った事はな…ないのですが」

「知ってる」

「あれだろ? 自分にとっての未知の領域に足を踏み入れるってのは誰しも怖いモノだし、その始まりに足を突っ込んだから、今になってそれが実感として沸いてきた…みたいな?」

 バイネッタが何かを閃いたかのように指を鳴らして、その持論を展開していく。


---[26]---


 あながち間違っていない様にも思うけど、譲さんに対してそれが当てはまっているかどうかは、本人のみぞ知る…だ。

「逆に…逆にですが、お二人はなんで平然としているのですか?」

「命のやり取りをやった後じゃ、それに勝るモノは無いだろ」

「むむむ…」

「村での事以降、オースコフで生活するようになった時、宮廷に召集されて緊張で訳が分からなくなっていた人の発言とは思えないですねッ!とか文句の1つでも言いたいけど、そんな方向へ気力を回す余裕が無いみたいな顔をしてるな」

 悔しそうで、尚且つこちらを睨みつける表情、普段の譲さんからは想像できない子供っぽさのある顔だ。

「そ…そんな顔していません」

 譲さんは俺から視線を反らす。


---[27]---


「らしくないな。チェントローノの仕事を終えるまではいつも通りだったろう」

「それは…頭ではわか…いえ、自分でもわかりません。レッツォは? 何か緊張しない方法とかあるのですか?」

 なんでそこで堪えるように言い直す。

「自分はもう知り合いに会い行くって気持ちがあるもんで、知った人間相手だから緊張はないな」

「この時ばかりは、レッツォがうらやましいです」

「今回ばかりはって…」

『カヴリエーレ隊長、よく来てくれました。では始めましょう』

 王宮に入り、確かバイネッタ…レッツォの兄であるらしいアット・バイネッタが姿を見せる。

 同じバイネッタ…紛らわしさを感じなくもない。

 いや、見た目は全然違うが…、レッツォは短髪で、アットは長髪だし。

 俺達は会議室であろう場所に通され、国の地図が敷かれた大きな机を囲いながら、今後の話をし始める。

 存在する事を知った敵…。

 その敵を追う第一歩を…俺達は踏み出した。


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