第十一話…「小さな案内人と竜神大聖堂」
「・・・」
張っていた糸が何の前触れもなく切れるように、ロレンサ達とテーブルを囲って酒を呑んでいた最中、俺の意識は唐突に切れ落ちた。
起きた俺の目に入ってくるのは、借りている部屋の光景。
窓から入ってくる朝日の明るさは、目に眩く、意識が覚醒していく中で、僅かな頭痛も襲ってきていた。
一段目のベッドに寝ていた体を起こし、ベッドの外へと足を放り出して座る。
右腕を下にして寝てしまっていたのか、今の右腕の状態は体温をわずかに下げ、ビリビリと痛みに近いしびれを起こしている最中だ。
コンコンッ。
左手で顔面を擦りながら、少しでも眠気を飛ばし、右腕の痺れをまぎらわせようとしていると、窓の方から何かを叩く音が、自分の耳へと届く。
---[01]---
視線を向ければ、そこには一羽のテケッポが、まるで人間がドアを叩くようなしぐさで、その小さい手を使って外から窓を叩いていた。
なんで外にいるんだ…。
そう頭に疑問が浮かんだ後、窓を開けようと怠い体を動かしていると、その疑問はおのずと答えを導き出した。
控えめにテケッポの足へ括りつけられた紙、それにこのテケッポは雄だ。
ジョーゼに懐いているテケッポは、確か雌だったはずだから、そもそもこいつは別の個体になる。
そして、その足に括りつけられた紙からして、こいつは恐らくオースコフの方へ伝達を任せていたテケッポだ。
「初仕事から長時間の仕事、ご苦労さん」
足の紙を取り、右手で取ったその髪の内容を確認しながら、空いた左手をテケッポに乗せる。
---[02]---
痺れが治まってきた右手が、少しだけ痛かった。
こいつへの報酬、自身の魔力を、この小さい体へ。
分け与えると言っても、渡す魔力を体から放出するだけで、後は相手に、好きに持って行けと言うだけの話だ。
頭に手を乗せるのは、無駄な魔力を無くして、出来る限りの魔力を渡すため。
手の平に若干の熱を感じる。
このテケッポは、体がもう一羽の方よりも小さい分、長距離の移動は大変だったろうと、与える予定だった魔力を数割増しにしておいた。
最後に軽くその頭を撫でて、給料の支払いは終了だ。
『ご主人、お目覚めか!?』
そこへ、バタンッと勢いよくドアが開かれ、ティカがいつものような眩し過ぎる笑顔で入ってきた。
---[03]---
いつもと違うのは、その服装ぐらいだろう。
「朝から騒々しい。あまり大声を出すな。頭に響く」
「おやご主人、二日酔いにでもなったか?」
「軽くな」
「おやおや、ではティカもそれ相応のお世話をしよう。まずは二日酔いに聞く飲み物でも用意しようじゃないか」
「それは助かるな」
「所で、ご主人は何をしていたのだ?」
「オースコフに向かわせていたもう一羽のテケッポが戻って来たんだ。その確認と給与支給をしていた」
「お~、テケッポがもう一羽。頼まれた事をちゃんと熟すとは、こやつもなかなかやるではないか」
---[04]---
興味深そうにこちらへ歩み寄ってくるティカは、少しだけ体を屈めて、机の上に立つテケッポを覗き込む。
「お前とジョーゼが、無事にこっちと合流出来て安心だとさ」
テケッポより届けられた紙の内容をティカに話しつつ、その紙にも気づくように持ち上げる。
「む? 奥様達からの返事も来ているのか? それでそれで?」
「そんなにたくさんの事は書いていないが…。あとは屋敷の方は気にしなくていいから、自分の務めを果たしてください…だとさ」
務め…か。
こいつからすれば、心配が1つ無くなるよい知らせだが、こちらとしては、これでティカが張り切り過ぎないかが心配だな。
---[05]---
「奥様、お優しい。すぐに帰って来いとか言われたらどうしようとか思ってたけど、ティカは感激だ」
しかし、いつものティカなら…いいから世話させろッ!…とか言ってきそうな所を、勢いに乗せて突っ走ってこない。
「ん? どうしたご主人?」
「いや、いつもならもっとズカズカ来る所だからな。驚いただけだ」
「ご主人は今、二日酔いで頭痛がするんだろ? ならティカが力を発揮するのはいまではない。ただそれだけの事だ」
「そうかい」
後か怖い…というか面倒だな。
「オースコフに、無事に着いた事を伝えるつもりだが、ティカは何か言っておきたい事とかあるか?」
---[06]---
「ん~。ティカの言いたい事は、多分ご主人が報告する中で全部書くと思うから、特にないぞ? 強いていうなら、張り切って頑張るぐらいかな」
「なら、それを書いておく。これが終わったら、朝飯がてら俺も下に行くから、その世話をしたい衝動がうずうずしているなら、朝食の準備を頼めるか?」
こちらの頼みに、ティカはまるで贈り物をもらった子供のような笑みを浮かべる。
「お安い御用だ、ご主人。期待して待っているといいぞ」
そう言いながら、彼女は自分の胸をポンッと軽く叩いて、部屋を後にする。
俺は、部屋に置かれた机に向かい、目的地に無事に到着した事、ティカが頑張ると言って心配な事を記し、そのテケッポにもうひと仕事を頼むのだった。
いつもより腹に優しい朝食を少しとり、ティカが二日酔いに聞くからと用意してくれたハーブティを口にする。
---[07]---
なかなかに苦みのあるお茶、良薬口に苦し…と、それを一気に胃の中へと流し込んだ頃、宿の階段を降り、酒場へとやってきた小さな女性が、軽いため息をついた後、こちらへと足を進めてきた。
「酷い顔ね。長旅の後だからって、まだ仕事中である事を忘れてもらっては困るのだけど」
そして、挨拶代わりとでも言うかのように、今日の案内役であるストレガが、俺自身の不調を隠しきれていない表情を見て、目つきを鋭くさせながら口を開いた。
「疲れもあってか、酔いが回るのも早かったらしい。これでもいつもと比べれば半分以下に抑えていたつもりだったんだが、その言葉は甘んじて受け入れるよ。到着した事の安心感を味わうのもそこそこに、もっと身を引き締める」
「わかればよろしいですわ。・・・、少し早いですが、そちらがよろしければ、もう出発しますが、どうするかしら? あなたはともかく、今回の主役である子は、早く行きたくてうずうずしているようだけれど」
---[08]---
ストレガが俺から視線を動かした先には、俺の横で果実を搾った飲み物を口にしながら、ワクワクと興奮を抑えられていないジョーゼを見る。
この状況、もう少し待て…と言うには少々説得が難しそうだ。
納得させるという意味での難しさはストレガが高く、ジョーゼはまだ行けないとその期待を少しでも裏切る事ができそうにない難しさがある。
俺はティカに少し多めにハーブティをくれと頼み、ティーカップではなく酒を入れる大きなコップに注がれたそれを、これはやり過ぎと頭の中で愚痴をこぼしながら呷り、ストレガに今日はよろしく頼むと口にしながら席を立った。
昨日は、早く休みたいという気持ちと、知らない場所で後を付いて行くしかなかった事もあって、せっかく初めて訪れたチェントローノの街を見る事ができていなかった。
---[09]---
だからこそ、街並みこそオースコフと大差はないモノの、その人の多さに圧倒される。
本通りを通っていないはずなのに、その人混みはとても厚い。
オースコフの本通りとそう大差はないだろう。
しかも普段のソレではなく、あの祭の賑わっている時のソレだ、準備段階の時との比較だが。
とにかくそれと比べて差が無いなら、ただただ多いの一言だ。
「くれぐれもはぐれない様に。はぐれてしまっては、探すのも一苦労なので」
それは言われなくても重々承知だ。
ストレガは小人種である以上、はぐれてしまったら、その小さい体の彼女を探すのは一苦労だろうし。
---[10]---
チラリと自分の横を歩くティカとジョーゼに視線を向けると、はぐれない様にと2人は手を繋いで歩いている。
その光景は、この場の波の事もあって、安心できる絵面だ。
そしてその後ろをアレンとシオが並んで歩く。
アレンは普通に歩いているが、シオの方はこの人混みからか、周りに視線が泳ぎ続けていた。
「シオ、大丈夫か?」
はたから見れば、その辺の子供と大差ないし、心配するなと言うのも無理な話だ。
「だ、大丈夫」
「ならいいが。こうも人が多いとな」
「先生って、結構心配性だよね」
---[11]---
「かもな」
人の事を気遣う…と言ってしまえば聞こえは良いけど、それも度が過ぎれば迷惑な行為だ。
恩着せがましいとか、しつこいとか…。
俺の場合は、自分自身の習慣と言うのもあるが、最近じゃ、自分を安心させる行動の1つになりつつある。
「あまりよそ見をしていると本当にはぐれますわよ? 案内人であるあたしが小人種であるという事、忘れないでくださるかしら」
忘れようにも、それに関しては見た目で分かりやすい、忘れるという方が難しいだろう。
いっその事、子供にしてやるように、肩車でもしてやれば楽なんだが。
---[12]---
「まぁ、いい歳をした大人なのだから、迷子になったらその場にとどまるか、宿に戻るなりするでしょうが」
ストレガはこちらを見る事無く低い声でしゃべるが、もしこちらに視線を向けていたら、絶対に睨んでいただろう。
なんでか、後ろ姿を見ているだけなのに、そう感じさせてくる凄みがある。
「そういや、前に譲さんを酒場に誘った時、あまり酒場とかに行った事がないって言っていたんだが、宿と酒場が同じ建物の中にあるっていうのに、アレはどういう事だ?」
場の雰囲気が常にピリピリしている気がして、このままの状況に窮屈さを感じた俺は、ストレガの好きそうな話題を絞り出す。
「…ではないですわ」
---[13]---
「ん?」
「譲さん…ではないですわ、無礼者」
今度は、目をしっかりとこちらに向けて睨みつけてきた。
「隊長とお呼びなさい。あなたは、経緯はどうであれ、お姫様の部下なのだから。敬意を払いなさい、たく…」
自分はお姫様なんて呼び方をしているのに…と、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「宿と酒場が一緒になっているなんて、別に珍しい事でもないでしょう。そして、一緒になっているからと言って、その施設を両方とも使うとは限らないという話ですわ。そもそもチェントローノまで出張る任務なんて早々ありませんし、あったとしても仕事に集中している間は酒場の方になんて行きませんわ」
---[14]---
「そ、そうか」
ストレガは、握り拳を作って熱弁する。
「ただでさえお酒なんて…、いえ、この話はやめましょう。・・・、とにかく、お姫様はあそこを利用しているとしても、酒場の方へ足を運んだ事なんてほとんどありませんわ。あなたも昨日は酒場の方で食事を取り、しばらくいたでしょ。その間、あなたはお姫様の姿を見まして?」
昨日の酒場での出来事は、正直、わからないからこその不安しかないが、覚えている範囲で言うなら…。
「見ていない…な」
「でしょうとも、お姫様は、あなたが部屋の方へ連れていかれた後、仕事を終えて帰って来たので…。食事は部屋の方で軽く食べ、そのまま寝てしまいました。明るい内の酒場は、酒場と言うより食事処の色が強く、あの酒場としての雰囲気を味わう事も出来ない。これぐらいですわ、お姫様の発言の真意は」
---[15]---
「なるほど」
場の空気をどうにかしようとした質問だったが、藪蛇だったみたいだ。
お互いに小さなため息をつき、歩いた先で、一際大きな広場のような場所に出る。
そしてその先には見上げる程に大きい建物がそびえていた。
「これはまた、デカい建物だな」
ここまで大きな建物は初めて見た。
大きさだけで行ったら、入団試験をやった闘技場の大きさを優に超えるな。
「ここは、かの有名な「竜神大聖堂」ですねッ!」
それを初めてみた面々が、その驚きに言葉を無くしている中、ストレガより早く目を輝かせたアレンが前に出る。
「各国にある封印の杭とは違う、「封印そのもの」がある場所ですわ」
---[16]---
興奮状態にあるアレンの横腹を軽く小突きながら、今度はストレガが前に出る。
封印そのものがある場所…か。
「杭はあくまでその封印を補助するための封印に過ぎず、邪神竜の封印の大本はこの建物の中にある」
ドンッと、不意に横からジョーゼが抱き着いてくる。
「どうした?」
こちらの問いかけに、首をフルフルと横に振るだけで、答えは帰って来ない。
どうした…か、本当なら怖くないと一言言ってあげたい所だけど、何故かその言葉が出てこなかった。
青空から注がれる太陽の光が、そびえ立つ大聖堂に注がれ、その白い壁が光を反射し、神聖な場所という事も含めて眩い。
---[17]---
それと同時に、何かが見える。
物理的に何かがあるという訳ではないだろうけど、俺の目には何か、その大聖堂に黒い雲でもかかっているかのように見えた。
「では中に入りましょう」
俺の目の錯覚なら、それで済むんだが…。
再び、先導するようにストレガは歩き出す。
「ほら行くぞ、大丈夫か?」
コクッ。
しがみ付かれ、少々歩きづらさはあるが、まぁこれでジョーゼが安心できるなら、俺からこれ以上何かを言うつもりもはない。
「大聖堂は、東西南北にそれぞれ大きな広間が存在しますわ。南の広間なら、あたし達の国サドフォークの守り神たる五神竜「ブレンニーダー」様が祭られています。東はエヴェントの守り神である五神竜「ヴェンター」様。西はオーロヴェストの守り神、五神竜の「スクルーア」様。北は、アルドアの守り神、五神竜の「ヴェレトール」様、それぞれが祭られています」
---[18]---
「それぞれ大聖堂の中心に合わせて、東西南北にそれぞれの国と位置を当てはめてるって話か」
「ざっくり言ってしまえばそう言う事になりますわね」
大聖堂に入ると、自分達が南側から建物内に入った事もあって、最初の広間は赤く染められ、翼竜の石像が中央に堂々たる様相で立っていた。
当然小さく作られているにしても、見上げる程の大きさの像、その翼を大きく広げて立つ翼竜の姿は、像自体は作り物だとしても、自然と圧倒される。
そして、大聖堂に近づくにつれて、ほんの…ほんの少しだけ右腕にあった違和感が、はっきりと痺れとなって表れた。
痛みではなく、ビリビリと何かが伝わってくる感じ…。
なにより、翼竜だからという事だけではなく、その姿自体、村や王都を襲った翼竜にどこか似ている。
---[19]---
そっくりという訳じゃなく、どこか面影がある程度だけど、その何とも言えない既視感が、俺の不安を煽った。
その不安を表に出せば、ジョーゼを怖がらせる要因の1つになりかねない。
だから、気づかれない様に深呼吸して、不安や腕の事、それらを表に出てこない様に、ついでに自分も気にならない様にと願いながら、意識の奥へと押し込む。
「知っているとは思うのだけど、ブレンニーダー様や五神竜の方達、その説明は必要かしら」
今はただ、ストレガの話に集中していく。
この地に生まれ出た者なら、形は何であれ、必ずと言っていい程に、自国の五神竜の話は耳に届くだろう。
他国の守り神の事も、耳にマメができるぐらいに聞かされる。
---[20]---
「できればお願いしたい」
だがまぁ、それ等を正確に全て覚えているかと聞かれれば、首は横に振られる。
俺の村は無宗教だったしな。
子供の頃、村でそういった事は一度、一通り教えてもらいはしたが、普段必要としない知識だったがために、今ではそのほとんどがうろ覚えだ。
それに、王都で生活するようになっても、そういうのを崇拝する人間を見る機会は何度もあったが、身の回りにそれを押し付けてくる人間はいなかった。
だからこそ、俺の中にあるその記憶はどんどん廃れていく結果に…。
子供の頃に聞かされた昔話程度、逆にジョーゼの方が知ってそう…と、少しばかり考えはしたけど、こいつの場合はそういった勉強とかよりも、魔法に重きを置いた生活をしていたし、実際どうか…というより、ここで一回教えてもらうのが良いだろう。
---[21]---
「そうですか。どういう意図でのお願いかはわかりませんが、今後はちゃんと勉強する事を勧めますわ。自分や相手の為にね」
「耳が痛い…」
「では、まずはブレンニーダー様の説明から。ブレンニーダー様は、サドフォークの守り神にして五神竜の一角で赤色の翼竜、司る力は、「炎」と「再生」。傷ついたモノを治す善神の姿を見せる一方で、全てを焼き尽くし全ての空を灰で覆うという悪神としての姿を持つ者」
傷を治す姿に、全てを焼き尽くす炎…か。
村で戦った翼竜がなおの事、俺の脳裏に蘇るな。
信じたくはないが、もしかして、あの竜はブレンニーダーだったとでも言うのか?
「邪神竜「エヴォール」との戦闘でその魂を3つに砕かれたものの、邪神竜封印の成功に伴い、砕けた魂を3つの封印の杭へと変え、サドフォークに打ち込み、邪神竜の封印を強固なものに変えましたわ」
---[22]---
「それで、今、いろいろと大変な事になっている」
「あたし達のような一介の団員がたどり着ける答えなど、この瞬間では、本当に確かな事でもない限り、意味はありませんわ」
「まぁそうだな」
「さて、次は何処の説明をしましょうか」
「中に入るんじゃなくてか?」
俺はさらに奥の方へと指を指す。
この広間の奥、ストレガの話通りなら、その先にはこの大聖堂の中心、この世界を守る封印の要がある場所だ。
「それでも構いませんが。せっかく竜神大聖堂に来たのだから、順を追って理解を深めてから「封印の間」へ行った方が、感じるモノも、より深くなると言うものですわ」
---[23]---
「う~む」
一理あるな。
「ですから、次は何処の説明をしようかと言ったのですわ。封印の間を通らずとも、他の広間に行く事は出来ますので、順に行くのなら、ここが「炎の間」ですから、「土の間」と「風の間」かしら。西に位置するオーロヴェストを守護するスクルーア様を祭る土の間、東に位置するエヴェントを守護するヴェンター様を祭る風の間、どちらから説明してほしいかしら?」
俺としてはどちらも詳しく知らないモノだし、順番なんて何でもいい。
他の連中も、視線を動かしてその興味を伺うが、そこまで優先的に知りたいモノはなさそうだ。
「そうだ。譲さんの…」
「隊長…」
---[24]---
「・・・。んっん~…。隊長の…、いや、この隊にオーロヴェスト出身の甲人種の奴がいなかったか? 名前は確か…」
「レッツォの事ですの?」
「そうそう。レッツォ」
酒場で何度か一緒に呑んだ、レッツォ。
たしか、サドフォーク出身ではなく、オーロヴェスト出身と、酒の席で言っていたのを思い出す。
「レッツォは確かにオーロヴェスト出身ですわ。じゃあ、次は土の間でいいのかしら?」
「ああ」
「はぁ…。あの男をきっかけに次を決めて本当にいいのかしら」
---[25]---
「酷い言われようだな」
「まぁいいでしょう。所詮はただのきっかけですわ」
譲さんの話をする時は、すごい力の入りようなのに、他の、特に男の話になると熱は低くなる。
そこに、譲さんに対しての思いが強く出ているようだ。
今いる炎の間の左側へと足を進め、開かれた扉を通り、広い廊下を進む。
「そう言えば、ストレガさんは、この街の事に詳しいって、昨日話していたけど、あんたはチェントローノの出身なのか?」
「いえ、あたしの出身は北のアルドアですわ」
「そうなのか。じゃあこの国の事に詳しいのは?」
「・・・」
---[26]---
「言いたくないのなら、別に聞こうとは思わないけど」
ストレガとはすごく距離を感じる。
案内してくれる事になったのも、何かの縁。
それなら、この間に何かしら親睦を深めるのも良いと思うのだが…、なかなか返答も帰って来なかった。
なかなかに長い廊下、円を描くように曲がっている廊下も、そろそろ中間に差し掛かる頃、彼女は口を開く。
「勉学に励んだ時期が多かっただけの事ですわ。まぁ学を得るのは今も変わらずですが。あと、この国には少しの間住んでいましたし、だからこそ、道も知っています。お姫様が私にこの件を任せたのはそのためでしょうね」
「なるほど」
---[27]---
「あたしの話は以上。ここへは、あたしの話ではなく、あなた達のためになるよう、この国を案内するように言われているから。以後あたしへの詮索はしない様に。ジョーゼさんもアパッシさんも、ここの事に関しての質問は歓迎しますので、気になる事があったら」
コクコクッ。
「は、はい」
「では。着きましたわ。ここが、土の間。オーロヴェストを守護するスクルーア様が祭られている広間ですわ」
次に入った広間は、淡い茶色に染められ、炎の間と同じように、中央には、祭られている五神竜であろう像が、その存在感を確固たるものにしていた。
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