第九話…「荒ぶる剣士と気苦労」


「フンッ!」

 脳無しの獣、自分達の縄張りに人間が踏み込んできたからと、気を立てて牙を剥く。

 俺の一振りで、真っ二つになる程度の雑魚が…。

「セスっち後ろッ!」

「オラァッ!」

 地面に足がめり込まんばかりに踏み込んで、俺は振り返る。

 目に映るアイセタは一匹、俺に飛び掛かってくる直前だ。

 その瞬間、俺は両手剣を右手で持ち、全力で振り下ろす。

 苛立ちで物を地面に叩きつけるかのように、全力で、何の手加減もなく、過度な一撃をその雑魚に食わせてやった。


---[01]---


 その結果、砂ぼこりが高々と舞い上がり、斬るというよりも剣との接触面を叩き潰したかのように、その体をひき肉へと変える。

 俺は、物を雑に、それでいて力任せに振り回すもんだから、切れ味だとか扱いやすさだとか、そんな力の無い事を自分から暴露するようなもんは全部捨て去って、強度の方へと重きを置いた。

 普通の剣の2倍か3倍か、剣身は厚く、そもそも刃を付けようにも、その厚さが切れ味を上げられないようにもなっている。

 当然、剣自体の重量も増してはいるが、そのための鍛錬、俺の体は魔法の恩恵無しに、その剣を振るえるに足るからだが出来上がっていた。

 その甲斐あって、今使っている武器はなかなかに使い心地が良い。

 すぐに折れないってのは、何より好印象だ。

 訓練でこいつを使う時も、力さえ入れなけりゃ相手を切っちまうなんて事もない。


---[02]---


 そして今、雑魚とは言え、加減なくこいつを振るえる状況に、俺は興奮していた。

 魔法で剣の切れ味を上げる事は、今の俺にはまだできねぇ事ではあるが、これはこれで十分に通用する。

 今後の事を考えて、魔法を使った切れ味の増加を考慮した上での設計、それ無しでも戦えるのは上々だ。

 飛び掛かってくるアイセタの首を掴み、そのまま地面に叩きつけ、横からの攻撃に対し、それが当たるよりも速く、横薙ぎで相手を叩き飛ばす。

 こっちに来る相手の数は、はっきり言って拍子抜けだ。

 物足りないにも程がある。

 だから、襲い掛かって来る雑魚一匹一匹に対して、必要以上に力が入った。

 過剰な攻撃と言っていいだろう。


---[03]---


 これが訓練なら、やり過ぎだの、加減をしろだの、相手の力の無さを擁護する言葉が飛んで来たに違いない。

 それを気にせずに、思う存分剣を振るえるのは、実戦あってこそ。

 名売りとして有用な、王の警護から外れて、こんなしょうもない討伐任務に着かなきゃいけない事に、正直苛立ちしか起きなかったが、剣を加減なく振るえる機会を得たと思えば、これもなかなかに悪くないもんだ。

 身に纏った鎧に傷などつく事なく、襲い掛かってきたアイセタを叩きのめした数が二桁を越えたあたりから、段々とその攻めの勢いは減っていき、気が付けばこちらに近づいてくる連中はいなくなっていた。

 不完全燃焼、やる気に火が点いてきた所だって言うのに、そこに水をかけるかのような勢いの減り方、全然足りない。


---[04]---


 全力で剣を振るえる事ができたとしても、そこに快感を得たとしても、それが自分の身になっていると実感ができなければ、それはただの娯楽、無駄な労力だ。

 この短時間での成果を、俺は端から端まで掻き集め、少しでも前へと進む足しにしようとする。

「チッ…」

 こっちに来るアイセタはいないくせに、近場では未だアイセタの群れとじゃれてる連中がいる。

 向こうが手間取ってんのか、こっちに来るはずの連中が向こうに流れてんのか、どちらにしても自分が外されている事が苛立たしい。

 さっきまで俺を襲ってきていた肉塊に、口の中で砂と混ざった唾を吐き捨てる。

ガサガサ…。

 いざ、残りの糧を得に行こうとした時、後ろの草が揺れる。


---[05]---


『…ッ!?』

 音が聞こえた瞬間、体は動き、俺の剣はそこに居るであろう何かに襲い掛かった。

 俺の命を脅かすモノへの先制攻撃の為じゃない、ただ貪欲に、血肉を貪ろうとする獣のような本能の赴くまま喰らうためだ。

 しかし、それは寸での所で止められる。

 俺自身の意思で。

「・・・」

 そこに立っていたのは、アイセタではなく、マントを羽織り、フードを深々と被る、ふざけた仮面を常日頃から付けた女。

「わ、わわ、私の頭は、まだ体とおさらばし…してないかね、セスっち?」

 むしろ、どこぞの野盗のような格好に、このまま斬ってやろうかとさえ思えてくる。


---[06]---


 いや、それが斬りたい理由じゃねぇ。

 戦いの場で、後ろから近寄ってくる野郎が、気に食わねぇんだ。

 戦う姿勢の時にそれをやられちゃ、こちらは敵が不意を突いてきたと判断しちまう。

「こんな状況で後ろから寄ってくる奴があるかよ…、馬鹿かてめぇは」

「ご、ごめん」

 剣を止める事ができず、その雑魚共の血肉がこべり着いた刃が、その軽い頭を叩き潰してたらどうするつもりだ?

「フンッ」

 剣は寸での所で止まるも、さんざんアイセタを叩きのめした剣が僅かに接触し、フードに残す赤黒い線、それを尻目に、舌打ちと共に自身の糧を求めて走り出した。



「はぁ~あぁ~…」

 腰が抜けて、私はよろよろとその場に尻餅をつく。


---[07]---


 危なかった、いや本当に…。

 何度も何度も、首やら頭やら頬やらを、マント越し、お面越しに触って、自分の無事を確認する。

 ただただ怖かった。

 完全に抜けた腰が、自分へ与えた影響を物語っているだろう。

 向かった先でセスっちの戦う姿を、風に揺れる草花の間から覗き、彼が生き生きとその戦場に立っている事を、私は感じ取る。

 これでも、向こうで未だ戦っている人達はともかく、セスっちの周りにアイセタがいない事を確認して近寄っていったつもりだったけど…、それでも気遣いが…足りなかったみたい。

「いんや、足りなかったというより、あれはもはや私の危機感の問題? 怖い怖い」

 何はともあれ、戦闘本能がむき出しのセスっちに近寄る事、特に後ろからの接近は絶対にやめた方がいい、そんな教訓を得た。


---[08]---


 さっきの戦う姿も、今戦っている姿も、もうどっちが魔物なのかわからないぐらい。

 それだけ、他の人達よりも荒々しく、暴れているんじゃないかとすら思える戦い方をしている。

 魔法無し、補助無しの純粋な戦いだったら、私達の班の中で、一番強いんじゃないかな。

 隊長先生はあくまで魔法使いで、剣を使う戦いでも魔法ありき。

 シオっちは、まぁ身軽だけどまだまだ発展途中。

 アレっちは…、良くも悪くも普通。何でもかんでもそつなく熟す感じがするけど、逆に1つの事に特化したモノに対しては弱いかも。

 私に関しては考えるまでもなく勝てる訳もな~い、勝てる部分があるとしたら、魔法に対する知識量ぐらいだ。


---[09]---


 セスっちはそんなみんなと比べて、とにかく力が強い。

 武器も、体付きも、他の皆と比べて大きいし、そりゃあ強いよねぇって、今回の実戦での戦いを見た事で再認識する。

 いやマジで、私がこっちの隊に入る必要あったのかな~…。

 このご飯を奪い合う肉食獣の争いみたいな状況、確実に私は場違いだった。



「調べるのは終わった?」

 ミクリィの死骸に対して、色々と調べていたアルキーが立ち上がり、グッと伸びをしながら満足そうに声を上げるのを見届けて、俺は彼女に話しかける。

「一通りは終わったよ~」

「満足した?」


---[10]---


「う~ん、それはどうかな~。調べられる場所は全部調べたから、その事に関しては満足。そこから得られたモノには不満足」

「有力なモノは無かったと?」

「な~んにも。強いていうなら、最近お肉を沢山食べたみたいだけど、その前は草ばっか。それはつまり、お肉はここで襲われたアイセタ達として、その前は食べるモノが草ぐらいしかなかったって事。ミクリィたちの主食はお肉だけど、草も食べる雑食性、その時その時で自分の隊長に合わせて薬草とかを食べるの。でも、それもお肉と一緒に食べるから、別々に食べる事はほとんどないんだ~」

「じゃあ、主食とする食料が無く、餌を求めてここまで来たと…」

「そうなんだけど、それだけじゃ何にもわからない。一番知りたいのはその餌の無い理由だも~ん。これはいよいよ調査に本腰を入れないとねッ!」

 アルキーは、欲しい情報が無かったと言っていた時はがっかりとした雰囲気だったが、調査をしなきゃと言っている時は子供のように目を輝かせる。


---[11]---


「嬉しそうだな」

「そりゃ~も~。図鑑士として、調査する対象物というのは、豪勢な料理にも負けず劣らずなご褒美だよ~」

「なるほど」

「そう言えば、テケッポは戻ってきた~?」

「とっくに」

 そう言って、俺はジョーゼの肩で休んでいるテケッポを指差す。

「あらあら、ほんと。言ってくれればよかったのに~」

「何度も声をかけたが、えらく真面目な顔で作業していたから、無理にやめさせる事も出来なかった。あんたの自己満足の為じゃなく、その調査が最終的に自分達のためになるのなら、尚更な」

「それはまた、付き合わせてごめんね~」


---[12]---


「まぁやる事が終わったなら、向こうの連中と合流しようか」

「は~い」

 ジョーゼの肩で毛づくろいを始めていたテケッポには悪いが、手招きをして呼び寄せる。

 一度ジョーゼの方をチラッと見てから、こちらに飛んでくるのを見ると、少しだけ悲しい気分になるが、まぁある意味、その流れは良い方向に進むかもしれない。

 魔法使いとして、魔法の鍛錬を諦めていないからこそ、ジョーゼに使い魔であるテケッポが懐いている状態は良い事だと、考えようと思う。

 その小さな翼をはためかせ、招いた俺の手に止まると、少しの間を置いてから空高く飛んでいった。

 体が小さい分、余り高く飛ばない様にと指示を出し、全員でその後を付いて行く。

「一つ興味があるんだけどさ~」


---[13]---


 その道中、アルキーが近づいてくる。

「使い魔って、どの程度までの指示を出せるものなのかな~?」

「それは、図鑑士としての興味? それとも、個人的な興味?」

「う~ん…、強いて言えば個人的な興味。みぃはこの仕事をもう長くやってるけど、使い魔の事に対して、詳しい話を聞かせてくれる人に会った事がないんだ~。あの人達って、秘密主義というか、頑固者が多くて…」

「魔法使いは、その技術を盗まれたり、利用されたり、何かしらの悪事に関わる事を極端に嫌うからな。まぁ使い方次第だとしても、魔法自体が強力だからこその秘匿と言える。使い魔の事に至っては、もしかしたら教えた事だけの情報で、その使い魔と同じモノを使い魔にされる可能性もある。使い魔を作るというのは、その魔物やら魔人やら、使役した連中の力を自分のモノにできるという事だ。下手をすれば、魔法よりも使い魔と言うモノは危険で、アルキーさんにその辺の事を教えなかった魔法使いの気持ちはよくわかる」


---[14]---


 教える事での良い影響と、教えてしまった事による悪い影響、俺としては、悪い方の影響が大き過ぎると思うし、つり合いが取れていない。

 もし、自分が研鑽を積み重ね、開いてきた道を他者に教えた事で、そいつが悪事に利用しようものなら、善のための道が一瞬にして悪の道になる。

 弟子を取る事になった俺自身にも言える事、身内だけの枠に収まらないからこそ、気にしなければいけない事だ。

「ガレス君も、他の魔法使いと同じ事を言うんだな~」

「当然。・・・でもまぁ、テケッポの使い魔の事に関しては、別にその括りに入らないか…。物は使いようだが、まずテケッポを使役して悪事を働こうなんて奴ら、そうはいないだろうし。何より、アルキーさん個人の興味なら、尚更害はないだろうから」

 同じ条件でも、俺以外の魔法使いに同じ質問をしていたら、今の俺とは全くの逆、アルキーが過去に言われた言葉を、再度伝える事になっていただろう。


---[15]---


 それだけ、魔法の事になれば、大半が視野を狭めてしまう、周りを見ずにこれはダメな事だからダメと、何の考えも起こさずに切り捨てたに違いない。

 俺がそういう思考に至らないのは、やはり、魔法使いの世界に生きていても、少し…、ほんの少しだけだが、その世界から離れた位置に立っているから。

 ほんの少しだけ、視野が広いからだ。

「テケッポに限った話なら、あいつらの知能はそこまで高くないのもあって、そこまで複雑な注文はできない。何かを探せ、目的地まで案内しろとか、例えるなら、小さな子供にできるお使い程度の指示ぐらいだな。できるのは」

「なるほど。ん~…。使い魔にする子たちによって、気の使い方が変わるのか~」

「そうだな」

 だからこそ、偵察や捜索だけとはいえ、テケッポにそれ以上の事をさせる事ができない。


---[16]---


 さっき、他の連中を探させる時も、テケッポに出した指示は、探す事と危険だと思ったら急いで戻って来い、その単純な2つだけ。

 そして戻ってきたアイツに、問題はあったのか報告させたが、別に焦る様子もなく、探しに行かせる前と同じようにしていたから、アルキーの調べ物を待つ余裕もあった。

「ん~。興味深~い。できる事なら、じっくりとあのテケッポ君を調べさせてもらいたい所だけど~…、無理だよね~?」

「勘弁してくれ」

「ざ~んね~ん。・・・、いっその事、みぃもガレス君の弟子になって、使い魔を作れるようになった方が、色々と手っ取り早いかな~?」

「それこそ勘弁してくれ」

 ちょっとした助言をしながら、未熟な魔法使いの成長を見守るならいざ知らず、正直弟子を取る事においても、そこに立ったからこそ見えてきた苦労が大量にあるんだ。


---[17]---


 個々の成長の速さの違い、得手不得手、そもそも基礎から教えなければいけないという、先の見えない不安…。

 この上で、また1人弟子を増やすなんて、俺の身が持たない。

 やっと今の状態に慣れ始めてきた所、そこに変化を入れたら、それは変化だけで収まらずに限界点を越えてしまう揺らぎになりそうだ。

「残念」

 そしてアルキーがそれを本気で言っているのかどうか…。

 冗談だとは思うけど、その冗談もまた、心臓に悪いと言えなくもない。


『たいちょ~せんせ~…ッ!』

 テケッポの後を追い、たどり着いた場所で分かれた面々と合流、俺達の姿を確認するや否や、フォーが何処となく半べそをかいているような声を上げる。


---[18]---


 だがまぁ、仮面のせいで泣いているのかどうか、その辺の事は全くわからない。

「私達の手じゃ終えませんよ、アレ」

「あれ…ね」

 フォーに言われ、先ほどからちらほらと視界に映っている連中の方へと視線を向ける。

 そこには、お互いに怒声をぶつけ合うセスと、一応俺達を含めたここにいる面々の指揮をとるジエンの姿が。

『その辺で縮こまってた野郎が…、雑魚共を一番潰した俺に意見するってのか!?』

『なッ!? 誰が縮こまってたってッ!? こっちだって必死にアイセタと戦っていたッ! それを力任せに暴れる事しかできない貴様が言うのか!?』

『ああそうだ。権力で地位を手に入れたボンボンが、一丁前な事を言うんじゃねぇよ? あんな雑魚を一匹や二匹潰した程度で活きんじゃねぇ。その程度の成果、俺からしてみれば縮こまってたのと変わりやしねぇんだよ!』


---[19]---


 耳にガンガンと響くような、そんな言い争いだ。

 よくやるよ…、特にセスは。

「俺が言うのもなんだが、上司に対してズカズカとモノを言い過ぎだな」

「アイセタを倒し終わってからずっとあんな感じで…。こっちの言葉なんて聞く耳持たなくて」

「ずっとこんな感じか?」

「アイセタを倒したのが少し前ではあるけど、ずっとこんな感じ」

「そうか」

 ジエンの部下は彼の仲間で、自分達の隊長擁護をしている。

 逆にセスときたら、自分の言い分に賛同してくれている奴はおらず、一人で自分の言葉を押し付けていた。

 譲さんの部下達は、言い争いをあえて止める事はせず、遠巻きからその様子を見守りつつ、討伐したアイセタの亡骸の後処理をしている。


---[20]---


 若気の至りとでも思っているのか、それとも面倒ごとに巻き込まれたくないのか、何にせよ止めてくれればいいのにと思う次第だ。

 歳が近いからこそ、今ならできる争いとでも思えば、言わせておくのも悪くないと思うけど、ジョーゼもいるし、一応任務中だしと、止める理由を漁り出す。

「いつもの事。アイツは気に食わないと思ったら、相手が誰だって突っかかる」

 セスの姿を見て、シオがため息と共に言葉を漏らす。

 経験者は語る…か、いや、この場合は同じところから出てきたからこそ、身近で見てきた人間の言葉か。

 溜め息を吐きたいのはこっちだが、場の空気をこれ以上悪化させるのも良くないからと、その吐き出したいモヤを飲み込む。

「一応任務中だぞ、二人とも」

 いずれ手が出そうな言い争いに割って入ろうとするが、ジエンの部下はともかく、元凶の二人はこちらを見向きもせず、お互いに睨みを利かす。


---[21]---


 不毛な争いだ…。

 この二人の相性が悪いという事が分かっただけでお腹いっぱいである。

「…ヒノ…カムイノミ…ゴーニグ…パセ…エイワンケ…」

 呪文を唱え、幾ばくかの間の後、俺は二人の肩に手を置く。

 一瞬だけその触れた場所が赤く光ったと思えば、今度は徐々に二人の体勢が傾いて、姿勢が下へ下へと沈んでいった。

「チッ…」

「重ッ…」

 その変化で、二人の喧嘩腰の状態がようやく消え失せ、その代わりと言ってはなんだが、その敵意としか思えない眼光が俺を捉えた。

「言いたい事があるのはわかるが、ここでやるな。苦労したかどうかはともかく、討伐任務の後だ。他にやる事はいくらでもあるだろ? まずはそれを片付けてから。そして俺はさっさと体を休ませたい」


---[22]---


「ふざけんな、てめぇ…」

「そんな事のためにわざわざ魔法をッ!」

「言葉でわからなければ…だ。体罰は時と場合だが、無理やりにでも話を聞く状況を作ってやれば、大体の事は片が付く」

「片なんて付いてぇよ…」

「全くだ…」

「そうだとしても、騎士団の人間なら、節度を持てって話だ。カヴリエーレ隊長がここに居たら、多分…同じ事を言うだろう」

 なんで俺がこんな事しなきゃいけないんだか…。

「チッ…、興が削がれた。止めだ止め…」

「・・・」

 俺の睨みつけていた目の力が弱まったのを感じる。

 その後で視線を地面に落とし、鎮火はせずとも、セスの中で燃えていた火は弱まったような…そんな気がした。


---[23]---


 まぁ実際どうだかわからないが、こちらも早く終わらせたくて、二人にかけていた魔法を解く。

 それと同時に、そそくさとどこかへ行くセスを見送り、ジエンに対して手を差し出して、彼を立たせた。

「すまない。難しい奴で、こっちもまだ手探り状態なんだ。今回のは、こっちの不徳の致す所だな」

「いえ。彼は、口は悪いが、言わんとしている事は…、あながちズレているとも思えなかった。俺も熱くなってしまったし、こちらにも責任はある」

「そうか」

 隊長と言っても、歳相応の部分があるのか?

「お互い気苦労が絶えないようだな」

「そっちにも、まだ慣れないじゃじゃ馬でもいるのか?」

 ジエンの後ろへチラッと視線を向けて、その彼に近い年齢であろう部下達を見るが、ジエンはそんな俺の言葉に首を横に振る。


---[24]---


「部下の話じゃない、もっと別の話だ」

「別?」

「・・・まぁいい、こちらの話だ。さっさとこの場を片付けて、王の護衛に追いつこう」

「あ、ああ」

 ジエンが俺の横を抜け、部下達も釣られるように通っていく。

 そこでようやく、俺は溜めていた空気を、ため息として体の外へと吐き切った。

「はあぁ…」

 こういう事があると、責任というのも実感せずにはいられなくて、ただただ疲れる。


 その後、散らばったアイセタ達の亡骸を燃やし、テケッポに周囲を警戒させる。


---[25]---


 別に群れが隠れていないか、その心配をした訳だが、不要だったのかそれらしいモノは見つからず、俺達は本来の任務へと戻っていった。


「ところでガレス君」

「なんですか?」

「あのテケッポは、今後使い魔として協力関係を築くんだよね~?」

「そのつもりだけど」

「じゃ~さ~。名前、つけてあげなきゃね~」

「名前…」

「大事だよ~。あの子たちに人との絆をあげなきゃ」

「考えておきます」


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