~魔法使いと騎士団入門~
~魔法使いと騎士団入門~プロローグ
勉強の終わりの鐘の音が廊下の方から聞こえ、それと同時に先生が軽い挨拶と共に部屋を出ていく。
周りからは、勉強という牢獄から解放された子供達が、塞き止められていた滝を開放するかの如く、一瞬で会話を弾ませ、それに参加しない子供達は家へと帰る準備を始める。
そしてあの娘も、学友との会話には参加せず、帰り支度をし始めた。
…アリエスちゃん、今日はみんなとあそんで行かないの?…
娘の様子に学友の少女が訪ねる。
…今日はお家でご本をよもうと思って…
いつもなら帰る前に友達と遊ぶ娘も、今日ばかりは早く帰りたくてたまらないという雰囲気だ。
---[01]---
勉強で先生が教えてくれる物語よりも、娘はあの本が描いた物語が好き。
理由は自分でもわかっていないだろう。
それでも、とにかく読みたいという衝動に駆られて仕方がない。
娘がとても嬉しそうにその理由を語るものだから、学友の少女も子供ながらに気を使って「またね」と手を振った。
…うん。またあしたね…
娘も笑顔で手を振り返す。
帰り道、まだ日は高く、夏季が終わりに近づいて気温が下がる中も、まだまだ元気だと言わんばかりに暖かい。
すれ違う人達に挨拶をしながら、その足取りは軽くあっという間に家へと着く。
扉を開ければ、お母さんとお父さんがお帰りと声をかけ、娘もまた、ただいま…と返した。
---[02]---
…お父さま、今日はちゃんとかえってきてくれたのね…
娘は嬉しそうに父親へ抱き着く。
そんな娘の期待に応えようと、父親も娘を抱擁した。
…お父さま、わたしとの約束、覚えていて?…
…ああ、覚えているとも。そのために今日は帰って来たのだから…
…うれしいっ!…
その時の娘の笑顔は、まるで太陽のように眩しく、見ている者をも笑顔にする程に純粋で穢れのないモノだった。
満足いくまで抱擁を交わした娘は思い出したかのように父親から離れ、家にある家具の中で一番豪華な作りであろう棚から一冊の大きな本を取って、父親の方へと戻っていく。
---[03]---
娘にとって、今日の本を読む、物語を見るという行為には特別な意味があった。
…早速だね。では約束通り、今日は自分が本を読んであげよう…
普段、騎士として家にいない事の多い父親、そんな父親が珍しく帰ってくる日、そして自分の好きな本を読み聞かせてくれるという約束していた。
本を読むからと言って早くに帰って来た娘だけれど、父親がいる事から、読む…ではなく読んでもらう…という形に変わる。
…あ~、今日はここからなんだね。自分はこの話が大好きなんだ…
読み始める最初のページを開いて、父親は嬉しそうに声を荒げる。
…ええ、お父さまが約束してくれたから、わたし、ずっとよまずにがまんしていたの…
…それはすまない。この本は「貰ってから日が浅い」。まだそんなに読み返していないだろうに…
---[04]---
…いいの。「わたしのために」作られたわたしの大好きな本だけど、みんなで見た方が楽しいもの。それにわたしだってがまんぐらいできるわ…
…あ~、少し見ないうちにアリエスはまた一段と大人のレディに近づいたらしい…
…ふふふ、そうよ。わたしもいつまでも子供ではないわ。だってわたし、もうすぐ10さいよ?…
…これは失敬した。ではそんなレディのために、早速本を読んでいこうじゃないか…
…ええ、おねがいするわ、お父さま。お母さまも、いっしょにききましょ…
椅子に座る父親の膝の上に腰掛けて、娘は隣の椅子に母親にも声をかける。
…あら、私もいいのかしら?…
…いいに決まっているじゃないか…
---[05]---
…ふふ、そうね。久しぶりに帰ってきてくれたから2人の時間を邪魔してはいけないと思っていたけど、あなたがそう言うのならお邪魔するわ…
…ではレディの2人、準備はいいかな?…
母親が椅子に座った事を確認して、雰囲気を出しつつ咳払いをしながら父親は物語を読み始めた。
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