第一話…「小さな村の魔法使いと一国の騎士」【1】


 部屋の明かりと外の明るさが同じぐらいになった時、俺は寝ずに仕事をしていた事に気が付く。

 ニワトリが朝を告げるように鳴き、それに合わせるように、遠くから人の生活する音が次第に聞こえ始めた。

 大きな欠伸をしながら、ついさっき終わらせた仕事に不備が無いかを確認する。

 毛皮で出来た掛け布団を作っていたわけだが、自分で言うのもなんだが、良い出来だ。

 伊達にガキの頃からやってきた訳ではないという物的証明である。

 満足な出来である事を隠しもせず表情に出し、俺はその布団を綺麗に畳んで、外で飼っているニワトリ小屋へ、産みたての新鮮な卵を回収に向かった。

 何か行動を起こす度に欠伸が出るのを、独り身だからと隠さず、いつも通りの日課を熟す。


---[01]---


 そんな冴えなさそうな俺…事「ガレス・サグエ」は、この魔法使いの村「プセロア」に住むしがない魔法使い。

 ここは大きめの山が近くにあり、木々も他と比べて多く生い茂る場所にある。

 たいして大きくもない村で、俺はそんな村にある固有の魔法「血制魔法(けっせいまほう)」を得意とし、魔法の基礎となる「発声魔法(はっせいまほう)」の呪文も人並みに覚えた身だ。

 血制魔法は、「自分の血」を使って行使する事の出来る魔法。

 発声魔法は、「特定の呪文」を、魔力を込めて唱える事で行使できる魔法だ。

 魔法ってのは…まぁ簡単に言えば、人の身でありながら使う事ができる神の技とでも言えばいいだろう。

 いや、それは言い過ぎか。

 とにかく、変わった力の事だ。


---[02]---


 この世界、俺が生きる大陸の「ズィーグル大陸」には、魔力と呼ばれる目には基本見る事の出来ない力があり、それを使う事で扱える魔法が形は違えど広く普及していて、魔法の一番の基礎と言えるのが発声魔法、それを土台に独自に進歩していった魔法は国ごとに様々存在する。

 自分が住む国では、当たり前と思っている魔法も、他の国に行けば名前は知っているけど使う人はいないよ…なんて言われる事もしばしばだ。

 俺の得意とする血制魔法なんて、プセロアだけでしか使われていない魔法だしな。

 この村がある「サドフォーク」て国で、一般的に普及している魔法は「杖魔法(つえまほう)」で、使いたい魔法の仕組みを杖に仕込んでおく事で、魔力を杖に流し込むだけで魔法が発動できる代物だ。

 使いたい魔法が使える杖さえあれば、どんな魔法ド素人でも、魔力のコントロールさえできていれば、基礎となる発声魔法を使えなくても使える。

 まぁ基本的に杖を使っているというだけで、そんな名前になってはいるが、仕込まれているのが杖とは限らないが…。

 


---[03]---


 まな杖にこだわる必要もないから、便利な事この上ない。

 かたや血制魔法は、魔法を発動するために自分の血を使わなければいけないし、多用ができない、強力な魔法を使おうとすれば、それこそ大量の血ないしは大量の自分の魔力を使わなければいけず、使い方を間違えれば一瞬であの世逝きだ。

 でも良い事もある。

 自分の血を使う、つまり自分の一部を魔法に変える訳で、自分の体を操る様に魔法を使う事が出来る。

 それこそ最大の利点であり、このズィーグル大陸広しといえど、血制魔法ほど魔法を自在に操れるモノは無いと言っていい。


 卵を回収し、それを家において、俺は上着を脱ぐ。

 これも日課、朝食前の軽い運動の為だ。


---[04]---


 剣を模した木の棒を使って、俺は素振りを始める。

 何も健康を気にして木を振るっている訳ではない。

 この世界は何かと物騒だ。

 どれだけ治安が良い国でも、道を外れる連中は出てくるし、数百年前に起きた「邪神竜討伐戦」でできた置き土産とでもいうべき、「魔物」や「魔人」が至る所に生息している。

 魔法を使える身としては、恐るるに足らずと言えるのだが、それはあくまで魔法が使えればの話だ。

 血を使う以上、血制魔法を使えないという場面も少なくなく、その代わりとして、俺が選んだのが剣での戦いだった。

 村の連中は、そのほとんどが基礎を固めるのも兼ねて発声魔法を特訓している。


---[05]---


 それ以外なら、弓矢とかの狩猟武器の練習。

 魔法以外で剣を選んだのは村の中でも俺だけだ。

 つまり変わっているのは俺の方だな。

 でも、ほとんどが発声魔法を選ぶのにはちゃんと理由がある。

 このプセロアは、魔法使いの村と言われるだけあって、昔から村人のほとんどが魔法使いで、魔法に思い入れがあり、強い信念を持っているからだ。

 おまけに、より良い魔法使いが生まれるのを願っているせいか、魔法に対して強めの執着をしているし、村以外の所から夫や妻を迎え入れる事をほとんどしない。

 まぁだからと言って、優れた魔法使いが絶対生まれるという訳じゃないが…。

 魔法使いの村って言ったって、魔法を使えない奴も普通にいるし、発声魔法は使えるけど血制魔法は全然ダメという奴もいる。


---[06]---


 より良い魔法使いを…、なんて、ほんと願いでしかない。

 夫とか妻を迎え入れないのは、外界から離れた生活をしているから、単純に人見知りになっていて、よそ者は目につくってだけって面もあるだろう。

 村の在り方を他がどう思っているかは知らないが、少なくとも俺はそう思っている。

 俺もそれで結構苦労したもんだ。

 まぁその話は置いておいて、とにかくこの村は魔法主義みたいな所があるから、血制魔法まで使えるようになった身で剣なんて持った日には、少なからず変わり者って張り紙がされる。


 日課だった素振りを終えて、さっと汗を水で流し終えたら、ようやく朝食の時間だ。


---[07]---


 自家製のパンに、お湯で戻して焼いた干し肉を少々と、取れたて卵。

 俺にとってのお決まりの朝食だ。

 お節介焼きの知り合いからは、もう少し栄養を考えて…と言われているが、人間は朝昼晩と三食食べる生き物だ、もしくはそれ以上。

 独り身として、毎日毎日三食全部の献立を考えるのはさすがに面倒というモノ、よって俺が本気を出すのは夕食だ。

 その日一日の終わり、自分にご苦労様と言うように、こだわって作る。

 だから朝食は適当でいい。

 さっさと朝食を食べ終わった俺は、徹夜をして完成させた布団とお茶を入れた水筒を持って家を出る。

 一日の仕事の始まりだ。

 俺の家はもろもろの事情から、村の外れに建っている。

 一見して、仲間はずれだとかなんとか言われる事もあるが、そんな事は気にしない。


---[08]---


 むしろ、この外れ具合が自分にとって妙な特別感を与えてくれる。

 だからこの状態も悪くはない。


 この村は、外界との接触が極端に少ない。

 さっき言ったように人見知り云々という理由もあるが、そもそもサドフォークの王都「オースコフ」からかなり離れた位置に村があるせいで、そもそも人が来ないのだ。

 たまに学者が「ある事」を調べに来る程度、他には冒険者が来るぐらいだ。

 おまけに、基本的に村で自給自足の生活を行っていて、何か買わなければいけないモノが出ても、基本的に買いに出かけるという事をしない。

 買い物のために外へ出るのは年に1回、とある祭の時期だけ。

 狩猟などをして、加工し、それを売る事で金を得る事もあるが、結局その売る行為ですら、その祭の時期に買い物がてら行くだけだ。


---[09]---


 そもそも、お金、通貨と呼べるモノを備蓄しない。

 何でそんなに商業系、売買に力を入れていないかと言えば、村の連中の大半が魔法の鍛錬をしているからというのと、生活する上でその辺の事に困っていないからだ。

 魔法を使えば火だって自由につかえるし、狩りをすれば肉は取れる、あと畑もあるから野菜に困ることは無い。

 獣を取れば毛皮が取れるし、服なんてものも一回着た服は二度と着ないなんて事をしなければ急を要する事もない。

 この村がこんな生活の形を作る話をし始めれば長くなるから、この辺で終わるとしよう。


 この村の住人が魔法にすごく熱心な理由。

 それは、古くから魔法を絶やす事なく引き継いできた民族だからって理由もある。


---[10]---


 でも、それなら魔法使いになるだけでいい。

 魔法使いとして認められても魔法の修練を欠かさない理由は、年に一回ある祭で「力が求められるモノ」があって、それが魔法の鍛錬を皆してやりまくる理由だ。


 慣れた小道を歩き終えると、木でできた簡易的な柵というか壁に囲われた村に着く。

 朝から元気よく遊ぶ子供の声が飛び交い、大人たちの楽し気な会話が聞こえる。

 そして魔法使いの村特有の音、魔法の音とか、それらの失敗した音とかが遠くから響いている。

 俺にとっては聞き慣れた音ではあるけど、いつもと変わらない生活がそこにあると実感させてくれる音でもあった。

『よう、ガレス!』

『ガレスおはよう!』


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 俺が歩いている事に気付いた人達が、元気に笑顔を向けて挨拶を送ってくれる。

「ああ、おはよう!」

 俺も、それに答えるように布団を片手で担いで、空いた手を振って挨拶を返す。

『なあ! ガレス! 昨日ガキが魔法の練習して、家の中を吹っ飛ばしちまってよ! 片づけるの手伝ってくれね~か!?』

「ああ、いいよ。午後は空いてるから、コレ届けたら寄るわ」

『助かるよ! 頼むわ!』

『ガレス兄ちゃん、今度魔法の稽古をしてくれよ』

「わかった、時間がある時に付き合ってやる」

 会話にもいちいち対応をしていく。

 村の人口は50にも満たず、人付き合いが欠かせない。

 それに仕事にも関わってくる。


---[12]---


 俺の仕事は、簡単に言えば何でも屋だ。

 頼まれてできる事なら、狩猟だろうが、裁縫だろうが、子守りだろうがやるし、勉強の手伝いだってやる。

 ガキの頃からそんな事をしていたから、いろいろと手先が器用になった。

 報酬は、基本的に物を直接もらう形、野菜だとか肉だとかを貰っている。

 さっき言ったように、この村にはお金なんて備蓄をしていないし、そもそも皆知り合いだから、ほしいモノがあれば文字通りの物々交換で対応だ。

 俺みたいに何かを手伝って、そのお礼に何かを貰う場合も、金ではなく食料だとかで全てが解決する。

 食べる物さえあれば生きていけるからな。

 そうして目的地に着く頃にはいくつかの頼まれ事を受けていた。

「婆ちゃん、頼まれてた物ができたぞ」


---[13]---


 着いた場所は、村の一角にある小さな家だ。

 中には、白髪交じりで腰も曲がり、杖を突く婆ちゃんが居て、俺に気付くとよろよろと歩いて来る。

「お~お~、よう来てくれたな~」

「いいって婆ちゃん、昨日は子供達に魔法を教えて疲れてるだろ」

「そう言わなさんな。老いぼれにだってやってみたい事があるんじゃ」

「はいはい。それはわかったから、あと今日は俺がお茶も持ってきた」

「用意がいいじゃないか。じゃが、わしとしてはやる事を取られて不服じゃな」

「それも毎回聞いてるから。て、そんな事より、頼まれてた布団。持ってきたから確かめてくれ」

「お~、そうじゃったそうじゃった。じゃあ持ってきておくれ」

 そう言って、婆ちゃんは自分愛用の椅子に腰かける。


---[14]---


 この婆ちゃんは、言うなれば育ての親…、まぁガキの頃から世話になっている人って感じだな。

 椅子に座り、落ち着いた所で持ってきた布団を渡す。

「さて、どれどれ…。」

 婆ちゃんの説明には、俺がこんな何でも屋みたいな事をし始めた理由から話さなきゃいけなくなる。

 だから簡潔に説明しよう。

 まず、俺にはもう両親が居ない。

 俺が小さい頃に、両親共に村の外へ出ていた際、盗賊か何かに襲われて死んじまった。

 普通だったら、子供が1人残されて両親があの世に行っちまったら、誰かしらが手を差し伸べるのが当然だろう。


---[15]---


 その中で真っ先に助けてくれたのが婆ちゃんだ。

 他の連中がいろいろな事情から助けるのを渋っていた中で、周りの目を気にする事なく助けてくれた。

 優しくもあり厳しくもある婆ちゃんで、食事の世話だとかをしてくれた人の1人だ。

 そして、自分の食う分は自分が稼げと言った張本人でもある。

 最初は婆ちゃんの家の手伝いから始まり、それが卒なく熟せるようになったら、村全体へ手を伸ばした。

 裁縫、掃除、料理とかの家事全般と、魔法も婆ちゃんに教えてもらい、親を亡くした俺が自立できるように面倒を見てくれた人物、だから育ての親って訳だ。

「よくできてるじゃないか」

「だろ? 我ながら会心の出来だよ」


---[16]---


 婆ちゃんに褒められると素直にうれしい、自然と笑みが零れる。

「じゃあ、いつも通りお礼を渡さんとね」

「いや、いいって。今回のはいつも世話になってる俺からの礼だ」

「なら、わしが今から渡すのはお前さんの成長祝いだ。受け取んな」

「あ~言えば、こう言う。口が減らねぇ婆ちゃんだなぁ」

「ふんっ。お互い様だよ。ほら昨日煮込んだ鹿肉と芋のスープだ。持っていき」

 布団を椅子の上に置いた婆ちゃんは、礼はいらないと言っている間に、かまどに置かれていた小鍋を押し付けてくる。

「・・・はぁ、わかったよ」

「最初からそう言っておけばいいんだ。昔から言っているじゃないか。礼は礼で返すってね。誰が相手だって何かをしてもらったならお礼をしろと」

「わかった、わかったから。でもこのお茶の方は素直に、何も言わず受け取ってくれ」


---[17]---


「お前さんも頑固だねぇ」

「どっかの婆ちゃんに似ちまったからな、しょうがないさ」

「まったく…。で、調子はどうだい?」

「ああ、ここに来る途中に色々仕事を頼まれたからな」

「ほっほ。盛況じゃないか」

「おかげさまでな。婆ちゃんは、他に頼みは無いのか?」

「お前さんが思っているほど弱ってないから大丈夫さ」

「元気で何よりだな」

「お前さんも、頑張って人様の役にたってきな」

「あいよ」

 そう言って、俺は婆ちゃんの家を後にする。

 婆ちゃんとのやり取りはいつもあんな感じだ。


---[18]---


 いつもと違うのは、仕事の内容とお茶をしてから帰るかどうかぐらい。

 先約の婆ちゃんの用を終えて、自宅に手渡された鍋を置き、また村の方へ戻っていく。

 その途中…。

 俺は何かの視線を感じて立ち止まる。

「・・・」

 周囲を見渡しても何もおらず、気のせいかとも思ったが、俺には絶対に誰かいるという確信があった。

 それは経験からくる確信だ。

 そしてそこにいるモノは、獣でも魔物でもなく、魔人でもない。

「…ヒノ…カムイノミ…アラカ…タマ…カラ…」

 魔力を込めて、呪文を唱え、右手の平を開くと、そこに光とともに拳程の大きさでわずかに赤く光る球体が現れる。


---[19]---


 それを作ってすぐの事、近くの草むらがガサガサッと音を立てて揺れた。

 隠れ、そして好機を伺っている相手は、この魔法の痛さを知っている。

 この村ではしつけのためによく使われている魔法で、通称「躾け玉」、怪我をする事は無いが当たるとそれなりに痛い代物だ。

「さて…、今日はどう仕掛けてくる? …ヒノ…カムイノミ…」

カタンッ…。

 身構えて、対策で魔法を唱え始めた時、横から何かが落ちる音が耳に届く。

 自然的な音ではなく、故意に発生した音。

 一瞬、その音に釣られて視線を動かすと、見計らったかのように再び草むらの方が揺れ、何かが飛び出してきて叫ぶ。

『…シュターク…タマ…レラ…シュス…カラ…ッ!』

 飛び出してきた相手の目の前が赤く光り、球体ができたかと思えば、強い風と共に俺へと勢いよく飛んでくる。


---[20]---


 その光は、最低でも体にあざを作る程に痛い魔法だ。

「…チセマム…カラ…」

 新たな呪文を唱えると、俺の前に赤い半透明な大楯が作り出され、飛んでくる球体を防ぐと、高々と砂埃を巻き上げる。

「はぁ…」

 陽動じみた行動の後にこの威力の魔法か…。

「いつもより強いお灸が必要か…。…シュターク…」

 魔法を撃ってくる事ではなく、その威力に限度を超えていると感じ、躾け玉にさらに魔法を付加すると、拳サイズだった躾け玉がさらに大きく、倍近くに膨れ上がった。

「…ヒノ…カムイノミ…ルックツーク…カラ…」

 新たに呪文を唱えると、立ち込めていた砂埃が俺の前だけ消え去り、魔法を撃ってきた張本人の姿がはっきりと見えた。


---[21]---


 赤髪で短めな髪を無理やりポニーテールのように結んでいるせいで、ちょんまげ気味になった髪型、ダークブランの目をした小柄な少女だ。

「ジョーゼ、今日の躾け玉はちっとばかし強めだから覚悟しとけよ」

「ッ!?」

 俺の言葉に少女は、マズいっ、とあからさまな表情を見せ、すぐさま村の方へと走っていく。

 でも、逃す気は毛頭ない。

 少女は一目散に逃げるが、あまりに移動が直線的過ぎる。

 俺は躾け玉を振りかぶり、少し加減はしつつも少女に投げつけた。


「甘い、甘いなぁ、「ジョーゼ」」

 少女を小脇に抱え、俺は村へと入っていく。


---[22]---


「確かに…、考えてかかってこいって言った気がするが、あんな一瞬だけ気を逸らした所で意味はない。あれで先手を取るのはそんな甘くはないぞ」

 ジョーゼ、村に両親と姉の4人で生活している子で、少女の母親には昔から良くしてもらった事もあり、この子とその姉を幼い頃から面倒を見ていて仲もよく、幼馴染と言った所だ。

 悪戯というか、ちょっかい出してくるというか、とにかく勝負を毎朝仕掛けてくる相手でもある。

 そして、魔法を覚え始めた頃からは、それを知った両親の認識が魔法の勉強の一環という形になったらしく、不肖ながら魔法を教える事になった。

 教えると言っても魔法事態は村の学び舎で教えてもらえるから、運用の面を重視して教えている。

 朝のいたずらは、獲物をしとめるための訓練みたいなものだ。


---[23]---


 問題はその相手が俺である事、俺が魔法使いである以上、獣を狩るとか魔物を倒すとかよりも難易度が上がる。

 だから頭を使えと言っているのだが、結果はご存知の通りだ。

「ん~。あたしの予定では、防ぎきれずに一本とれるはずだったのに…」

「それが甘いって話。魔法は確かに強力だが、魔力依存の技だ。だから魔法は魔法で対処するのが有効。逆に、実体のない魔法は物理的なモノ、剣とか弓矢とか、そういうモノを防ぐのが難しい。学び舎で最初の頃に教えられるはずだが…、お前、ちゃんと勉強してるのか?」

「しっけいな。勉強してるよ。だから今日だって、強くした魔法を撃ったでしょ?」

「確かにシュタークで強化をしていたな。まぁダメだった訳だが」

「むぅ~…」

「つか、危ないっての。一歩間違えれば怪我してただろ」


---[24]---


「だいじょうぶ、おにぃなら」

「俺なら大丈夫…か。それを本気で言っているなら、俺から一本取る気が無かったって事でいいんだな?」

「え!? 何でそうなるのさ!」

「そうだろ? アレを使った所で、俺なら問題ないって思った、つまり俺には効果がないと、自分で答えを出している事になる。にも関わらず使ったのは一本取る気が無かったって事だ」

「ぐぬぬ…。そう言われると、そうかも…」

「でも、魔法を強化できたのは褒めてやる。後は、魔法使いを相手にするんだから、1つを極めるんじゃなくて、幅広く、多彩な魔法を使えなくちゃ相手に届く攻撃はできないぞ」

「むぅ~…。お祭りが始まる前までにおにぃから合格点もらえると思ったのに…」


---[25]---


「祭? あ~、もうそんな時期か」

 祭、この村で年に約一回行われる催し。

 祭の名前は「排炎祭(はいえんさい)」、村を出てさらに南にある山の中腹にある「封印の杭」と呼ばれ古くからある石柱を守護及び手入れを行い、そして宴を開く祭だ。

 年に1回、あの石柱が魔力を溜め込む時期があり、その魔力に釣られて集まってくる魔物を狩るというのが1つと、手入れ、簡単に言えば清掃を行い一年の穢れを落とす行為、そして最後に、狩られた魔物達を調理して、何日も掛けて宴を開く。

 この祭りの一番重要なモノ、「封印の杭」は、過去に邪神へと落ちた神様の封印を手助けしているとされている。

 その杭が本当にそんな大それたものなのかどうかは俺にはわからないが、昔からそう言い伝えられているし、王都の学者連中が、何年かに一度状況の確認のためにはるばる何日も掛けてやってくるから、言い伝えられている事は恐らく本当なのだろう。


---[26]---


 邪神竜との戦い、それは詩人の歌や、本、親たちから教えられる昔話、いろんな形で言い伝えられ、同じ過ちを繰り返してはいけないと、子供の頃から誰もが教えられるものだ。

 俺も含め、周りの大人も、実際にその出来事を目にした訳ではないから、話半分で話したり聞いたりするばかりだが…。

「おにぃはいつもみたいに、王都の方に買い出しに出ちゃうでしょ?」

「ん? まぁ今回も頼むって言われてるからなぁ」

 そして祭の際に必要なモノを買い出しに出る役目を、俺が受け持つ事になっている。

 仕事柄というか、こんな生活をしているせいか、何だかんだ村で他人との交流が一番上手いという事もあり、成人してからはその祭の買い出しは俺に一任されている。


---[27]---


「あたしも行きたい!」

「ダメ」

「な~ん~で~っ!」

「行ってもしょうがないから。遊びに行くわけじゃないし、王都にいる間は商売で手いっぱい、何かをする暇なんてない」

「でも~…」

「でもじゃない。あと、最低でも1週間はいなくなるんだから、その間もサボらず魔法を練習しろよ」

「言われなくたって!」

「おっと…」

 ジョーゼは抱えている俺の腕から無理やり脱出する

「これで勝ったと思うなよ! 帰ってきたら覚悟しろ、おにぃ!」


---[28]---


 俺を指差し、捨て台詞を吐いてこの場から逃げようとする。

「はぁ。…ヒノ…カムイノミ…ネィーム…パラウレ…エイワンケ…」

 ため息を吐きつつ、逃げていくジョーゼを追う事なく呪文を唱える。

 すると、走っていくジョーゼの足が後ろへ引っ張られ、進む体を支える足が無くなり、少女は手をバタバタと振り回しながら勢いよく転んだ。

「ぶぎゃっ!」

「待てって。話はまだ終わってない」

「・・・」

 倒れたままのジョーゼの首根っこを掴み、俺は無理やり体を起こさせる。

「今日は魔法の練習がてら俺の仕事に付き合ってもらう」

「なっ!?」

「…ヒノ…カムイノミ…シュターク…コシネ…エイワンケ…」


---[29]---


 俺はジョーゼの反論を聞く事をせず、新たに呪文を唱えると、ジョーゼの体が実際のそれより軽くなり、片手で持てるまでになる。

「言いたい事は終わってから聞こう」

 そして、ジョーゼの逃げようとする音を聞きながら、意気揚々と仕事場へと向かった。


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