第2話 募る想い

<秋田ですかぁ 寒いんでしょうね~ 雪どのくらい積もってるのかな?今度写真送ってくださいね (=´ー`)ノ ヨロシク> 

<今日も寒いですね ヌクヌク♪(*  ̄)√ ̄\ ←コタツ 昨日 会社の帰りバーゲンでマフラー買っちゃいました♪>

<今夜 鎌倉にも雪が降りましたぁ 雪景色の鎌倉の街も好き☆>

フェイスブックでのやり取りで彼女との距離が少し近くなっていくように思えた、それが僕にはとても、うれしくて、まるで高校生の時好きだったクラスメイトと交換日記をしているようなそんな感覚を思い出していた。

<秋田は気温 マイナス3℃です 外は吹雪です、今夜は接待で秋田の地酒を飲みました 旨かったぁ( 仕事だけどね )>

僕も出張先からフェイスブックに書き込みをする、家族には出張のことなど話したことがないのに・・・いや。。。訊かれたこともなかった。

<雪景色の鎌倉か、きれいなんでしょうね~ 堤部長は どの季節が好きですか?私は鎌倉の雪景色も好きだけどやっぱり春の鎌倉 桜の鎌倉が大好きです^^>

「鎌倉の雪景色か」窓からしんしんと降り積もる雪を眺めながら呟く。

最近雪景色などみてキレイだなんて思ったこともなかった。

「鎌倉の桜はキレイなんだろうな~」

<堤部長は今年初詣に行きましたか?私は娘とふたり 毎年 鶴岡八幡宮に行ってます、今年の おみくじは、大吉だったんですよぉ(⌒^⌒)b>

( 娘さんか・・・)僕はプライベートのことは一切書こうとしなかった、書く内容も見つからないほど僕と家族の間には何もなかった。

ただ家にはベッドで眠りにつくために帰るだけの生活だった。

彼女にもプライベートなことを訊く勇気もなかったが、娘さんのことが書かれて、思い切って訊いてみる。

<初詣は近所の神社に行きました、おみくじ私も大吉でした、今年もいい年になるといいですね、娘さんはお幾つですか?>

翌朝返信がきていた。 

<娘は高校2年生です、一緒には住んでいませんけど、留学先のハワイから年末に帰ってきて、一緒に初詣に行きました、休みが終わって 帰っちゃたんで少し寂しいです (´_`。) >

「高校2年、ハワイ・・・17歳 か、きっとあの写真の女の子か」

フェイスブックで少焼けた顔の母親に似た少女がきっと娘さんだと思った。

僕は、彼女のことを もっともっと知りたいと思うようになっていた、でも・・・その思う反面彼女のことをこれ以上知るのも少し怖かった。

そんな思いをのせて今年2度目になる秋田出張のため羽田空港へ向かう、今年の東北地方は記録的な豪雪で飛行機も欠航が多かった。

ANA879便 20時発の最終便、ラウンジはこれから出張するサラリーマンで混雑していた、ラウンジで先ほど弁当屋で買った、焼き鯖寿司を持ち込んで、一口つまみながらフェイスブックに書き込む 。

<今 羽田空港です、20時の便で秋田へ出張です 何とか飛びそうです金曜日には会社に戻る予定です>

10分遅れで秋田便は出発して、秋田空港へは結局20分遅れで到着した後、リムジンバスで市内へ向かう。

外は雪 少し吹雪いている、バスのヘッドライトに照らされる雪をただ ぼんやりと眺める。

結局ホテルにチェックイン出来たのは23時近くになっていた。

いつものようにバスタブにお湯を張っていると、フェイスブックには返信があった。

<秋田着きましたか?また雪ですか?ちゃんと晩御飯 食べましたか?(θωθ)おやすみなさい☆>

「はい・・・焼き鯖寿司を食べました、何だかカミさんみたいだな・・・晩御飯食べましたか?なんて」

そう独り言を言うと、デスク前の鏡の中には少し嬉しそうな顔をした自分が映っていた。

こうして僕は孤独を埋めるかのようにフェイスブックに想いを綴っていく。

金曜日 クライアントの鈴木社長に秋田駅まで送って頂く、昨晩は夜中の2時まで一緒に飲んでいて、僕の頭の中は朝からガンガンしていた。

一緒に飲んでいた鈴木社長はケロっとした顔をして隣でハンドルを握っていた。

やはり東北の人は酒が強い、そういう私も高校までは山形庄内にいた東北人なのだが。

「鈴木社長、ありがとうございました」

「せばな、ほれ、これ」

口下手な鈴木社長がそう言って紙袋を手渡す、袋には、稲庭うどんが入っていた、東北の人は本当に温かい人が多い。

「ご馳走様です、本当にお世話になりました」

もう一度礼を言って鈴木社長と駅で別れる。

リムジンバスの時間までまだ少しある、この時期としては珍しく秋田の空は青くて、太陽の光が積もった雪に反射して眩しかった。

彼女への秋田のお土産は『きりたんぽ』と決めていた 駅から5分ほど歩き鈴和商店に入る。

店内は炭火で焼いた 『きりたんぽ』の香ばしい匂いがしていた。

「いらっしゃいませ~ 」(ふたり分か?)

「きりたんぽ、5本を2セットください、あと このスープも2つ」

「毎度ありがとうございます、焼き立てでまだ熱いので包装は、開けたたままにしておきますね」

そう言うと手際よく熱々の『きりたんぽ』を包んでくれた。

焼きたてで まだ暖かい レシピが書いてある冊子も入れてもらう、両手いっぱいのお土産を抱え秋田空港までのリムジンバスに乗り込んだ。

羽田空港から京急で品川に、荷物が多くて腕が痛い、品川駅から人波を抜けてデスクに戻ったのは17時近くになっていた。

「ふぅ~」大きく息を吐く、オフィスを見渡すと彼女はいつもの様にパソコン画面に見入っていた。

しばらくすると、彼女は僕の方をチラッっと見てそのままオフィスを出て行った。

パソコンでメールをチェックしていると、突然彼女の声が左側から聴こえてくる。

「堤部長、お疲れ様でした」

彼女はそう言うと 暖かいチャイティラテをデスクに置いた。

「えっ?なんで、ありがとう」

突然のことでまた 動揺してしまう、チャイティラテ?なんでわかったんだろう。僕が不思議そうな顔をしていると彼女はすかさず答えた。

「スタバの 店長さんに訊いたんですよ、堤部長は、午後 疲れている時はホットのチャイラテだって」

(店長?スタバの?)

そう言って彼女は微笑んだ。

「あぁ、あっっちょっと待って」

僕は、戻ろうとする彼女を引き止める。

「これ、秋田の 『きりたんぽ』それと、これ貰い物だけど 稲庭うどん『きりたんぽ』は余ったら冷凍して…」

周りの人に気づかれない様に、早口で一方的に話す。

「いいんですか? こんなに頂いて・・・」

彼女が少し心配そうな顔で訊いて来る。

「あぁ全然、問題ないから 」

「でも、部長のお宅の分は? 」

(うちの分?)

「うちは大丈夫、問題ないから 」

彼女はいつもの様に笑顔で、軽く会釈をしてオフィスを出て行った 彼女が買ってきてくれた、チャイティラテを一口飲む。

「あぁ美味い」

(温かくなる、心まで・・・)彼女の心遣いがうれしかった。

僕の土産好きは父親の影響だと思う。

僕の親父も年に数回、東京へ出張に出掛けていった帰り、山形では売っていない珍しいお菓子を買ってきた。

僕たち兄弟は、今まで見たことにない美味しいお菓子を食べて・・・それを

見て微笑んでいた、幸せそうな親父の顔を今でも覚えている。

いつか自分にも家族が出来たら、同じようにお土産をいっぱい買って帰ろう、そんなことを思っていた記憶がある。

今、僕がお土産を買ってくるのは、自分の家族ではなく、彼女だけだった。

このお土産は彼女に喜んでもらうことはもちろん、実は自分自身のためでもあった。

こうしてふたりは フェイスブックを通じて、いく幾千もの言葉を重ねていく。

<堤部長 (* ^-^)ノこんばんわぁ♪秋田出張はいかがですか?あまり飲みすぎないでくださいね(=^~^)o∀>

「そうか、 昨晩の...フェイスブックの」

時間差で返信をする。

<昨日は、夜中の2時 まで飲んでしまいました 秋田の地酒 旨かったから(少し反省しています)お土産(さっき渡したけど)『きりたんぽ』にしました 1本1本炭火で焼いているお店で焼きたてを買いました。牛蒡と鶏肉も忘れないで地元ではセリを入れるみたいだけど あとレシピの冊子にも書いてあるけど、『きりたんぽ』は煮すぎないように、また写真送ってください♪>

送ってから、チャイティラテを飲み干して、残っている仕事を片付ける。

日曜日22時 パソコンにたまっている役員への報告書をまとめる 明後日の夜からは北海道、北見から札幌 そこから長野への3泊4日の出張が待っていた。

<堤部長 こんばんは♪ 『きりたんぽ鍋』作ってみました牛蒡も鶏肉も入れましたよ~頂いたスープもコクがあって本当に美味しかったです ☆⌒(*^-゜)v 『きりたんぽ』もモチモチで 残ったのは冷凍してまた頂きます。写真もアップしたので見てください。部長のお土産っていつも美味しくて心まで温まります、ありがとうございます。今週もまたご出張ですか? おやすみなさい>

写真を見ると 旨そうな『きりたんぽ鍋』の写真と、それを旨そうに食べる彼女が写っていた。

「ほんとうに旨そうに食べるんだな・・・」

ちゃんとレシピ通りに作ったみたいで少し安心する、以前家に買って来たキリタンポはドロドロに溶けていたから。

その写真を見ながら返信する。

<本当に旨そうですね 『きりたんぽ』喜んでもらってうれしいです。明日の夜から北海道へ行ってきます! 僕は寒さには強いから大丈夫です。>

「なんだか言い方 硬かったかな?」

まだフェイスブックの接し方がぎこちない。

パソコンをシャットダウンして出張の準備をする、3泊4日分の下着、 靴下、ハンカチ、ワイシャツ、ネクタイも予備を1本、これもいつものことだった。

「あぁそうだ、雪か・・・靴も」

玄関の下駄箱からブーツを取り出す。

月曜日 出張の衣類を持って、いつもより早く家を出る スタバがオープンすると同時に店内に入る。

「おはようございます 堤さん今朝も早いんですね」

「あぁ荷物多いから、明日の夜から北海道だから」

「相変わらず忙しいですね~ そうだ 金曜日チャイラテ届きました?やっぱり、まずかった?」

そう言って店長が笑った。

「えっ あぁ、うん、いや」

「彼女、突然やって来て 堤部長がいつも頼んでるの下さいって、コーヒーの方が良かったですか?」

「い いや大丈夫 問題ない ありがとう」

BLTとコーヒーをテイクアウトしてオフィスへ入る。

「彼女 わざわざ 買いに行ったんだ・・・」

「部長 ミーティングの時間です」

「あぁすぐに行く」

「部長じゃあこれで進めていいですね? 部長?大丈夫ですか?」

「んっあぁ進めてくれ」

(まずい 彼女のことが頭から離れない・・・)

僕は彼女に恋を? たぶん、きっと そんな気持ちに自分が一番驚いていた

「恋?そんな、この歳で、恋なんて…もう恋なんてしないと思ってた」

でもこの気持ちはずっと前に感じたことのある、純粋な恋心そのものだった。

「高校生じゃああるまいし…彼女を追いかける?そんなこと今の僕には…恋なんて」

「堤部長?」

「んっ?」  

「大丈夫ですか?本当に、具合でも?」

アシスタントの天谷が心配して訊いてくる。

「あぁ大丈夫だ 問題ない、じゃあ 今週もよろしく!」

「はい」

そう言った僕が上の空だった、朝のミーティングが終わりデスクに戻る。

「まずい、仕事に 集中しないと」

そう思っていると 彼女が私のデスクに向かってやってくる。

「おはようございます」

「おはよう」

「午後のコンプラミーティングの資料です」

「ありがと」彼女から資料を受け取る。

(きれいな手・・・)

彼女の指は細くてネイルには桜色のマニキュアが光っていた(指輪は?)

無意識に 彼女の左手を見ると、薬指に指輪はなかった。

「北海道 お気をつけて」

彼女は小さい声でそう言って戻っていった。

報告書の上にはピンク色の小さい袋がおいてあった、中を見てみると手作りのクッキーが入っていた。

思わず、デスクに戻った彼女を見る。

彼女は私の方を見て一瞬 微笑んだ後 パソコン画面に目をやった、 その袋を急いでバックに入れて、別のミーティングへ向かう。

羽田へ向かうANA4753便 16時15発女満別行きで北見市へ入る予定だった、空港ラウンジでフェイスブックを開くと彼女からの書き込みがあった。

<堤部長 いつも美味しいお土産ありがとうございます <(_ _*)> 昨日クッキー焼いたので、北海道にお供させてください(=´ー`)ノ いってらっしゃい♪>

目オ瞑ると、彼女のこぼれるような笑顔が思い浮かぶ、そしてクッキーを1枚食べてみる。

「うまいな、これ」

<これから女満別へ発ちます クッキー おいしかった ありがとう♪>

なんだか まだ返信がぎこちない。

(今度は少し 絵文字にもトライしてみよう・・・)

「でも…フェイスブックでどれだけ言葉を尽くしても、たったひとつの想いを彼女に伝えられない…いや…伝える勇気さえ今の僕には持ち合わせていない」

真っ暗な空に浮かぶ自分の顔を見つめながら私はそんなことを考えていた。

1時間半ほどのフライトで女満別空港に到着する、 気温マイナス7℃ 2年ぶりの北見は大きなクレーム処理だった、迎いに来てくれた札幌支店長と北見市内のホテルにチェックインする。

北見は焼肉屋の多い街だった、鮮度のいい食肉が地元で安く流通しているからだそうだ。

「四条ホルモン」に入る 七輪で焼肉を焼きながら改めてクレームの報告を聴く肉の焼ける、香ばしい匂いが店内に充満して、抑えていた食欲を呼び覚ます。

ビールも進む 北見ワインも勧められるままに飲んでみる、22時店を出る気温はマイナス15℃まで冷え込んでいた、ホテルに戻りいつものようにバスタブにお湯を張る。

<北見は気温マイナス15℃ 夕食は焼肉屋へ行きました 北見ワインも美味しかった明日の夕方、特急オホーツクで札幌に移動です> 

焼肉屋で撮った写真を付けて送る。

最近バスタブに浸かると独り言が多くなる。

「ふぅ~疲れた」

いろんなことが頭の中を駆け巡る。

「この先、どうすれば・・・」

ベッドに横たわりパソコンを閉じようとすると返信がある。

<ひぃぇ~マイナス15℃ですか?  (*゜д゜)ノ 未体験です、天気予報観ていて、堤部長 今この辺りかな~って 明日は札幌ですか? あまりがんばり過ぎないでくださいねGOODNIGHT☆(;д;)>

彼女からのひと言 ひと言が凍りついた僕の心を少しずつ解かしていく様だった。

(がんばり過ぎないで・・・か)

今までの自分には味方は仕事しかなく、全てだった。

<ありがとう<(_ _*)> >がんばって絵文字を入れてみる(なんだか少し 変か?)

翌朝9時 支店長と代理店に向かいクレームのお詫びをする。

「本当に、本当に申し訳ありませんでした・・・」

「堤さん、私たちに詫びるより直接クライアントに、直接お詫びに行ったらどうですか」

(代理店の言うのはもっともだった・・・)

「堤部長・・・代理店の言うことを聞く必要ないですよ」

札幌支店長がクライアントへ行く車の中で呟いた。

私は、支店長の言うことも聞かず直接クライアントにお詫びに行く事にした。

「今更、何しに来たんだ!」

突然お詫びに来た私たちに厳しい言葉が浴びせられる。

「お詫びに参りました・・・この度は、本当に申し訳ありません」

怒りが顔に滲み出るクライアント、無言の重苦しい時間が続くそれでも申し訳ない本当の気持ちをぶつける、それが僕の信条だった、言い訳はしない。

「堤さん、あんたの気持ちはよくわかったよ、今回だけ、あんたに免じて許してやるよ」

「ありがとうございます、本当に、ありがとうございます」

1時間後にはクライアントと握手をして席を立つ。

「今度飲みに行こうや、な、堤さん 北見、また来てください」

「はい、是非、ありがとうございます 」

こういった瞬間が一番嬉しい 支店長に北見駅まで送ってもらう。

「堤部長 すごいですね、クライアント最後には笑顔で見送ってくれて」

「よかったな、本当の信頼を築くのはこれからだから、がんばって」

程なく駅に着く 支店長と別れ札幌へ向かう。

14時19発 特急オホーツク6号札幌に着くのは18時47分、4時間半の長旅だ。

飛行機での移動も考えたが、少し立ち止まっていろいろ考える時間が欲しかった、発車のベルが鳴り列車はゆっくりと動き出す。

真っ白な大地をひた走る車窓を見ていたら、30分程で腰が痛くなる。

「やはり飛行機にした方が、よかったかな」

と少し後悔する。

1時間ほど走ったであろうか?車窓から見える風景もさほど変わらない

「くたびれだぁ~」

思わず独り言の庄内弁が出てしまう。

時間を持て余しパソコンをバックから取り出す。

「メールも、圏外か?まいったなぁ」

実は最近、僕にはまだ非公式ではあるが転勤の話が伝えられていた、それも国内じゃなく本社があるスウェーデン ストックホルムへ5年間、キャリアアップには必要な転勤であることは、僕自身重々理解していた。

時期を同じくしてヘッドハンティング エージェントからは転職の誘い話が来ていた。

「そろそろあっちも、返事しないと、な」

もちろんこのことは誰も知らない、もちろん家族も。

社内にもそんなことを相談出来る人間はいなかった。

ストックホルムへの転勤を妻に切り出しても言われることは、大体わかっていた。

「単身でしょ行ったらいいじゃない、給料は上がるの?」

たぶん、こんな感じか?しかし海外転勤は家族同伴が原則だった。

転職した場合 勤務地は東京だったが46歳にしての転職は相当の覚悟とパワーが必要なのは自分でも理解していた。

これも妻からの返答は想像できた。

「年収は?どのくらい上がるの?年収下がんなきゃ好きにすれば、いいじゃない」

たぶんこんな感じか。

このまま今の家族を続けるのか?続ける意味があるのか?私には守り抜く家族の存在自体が見えなくなっていた。

「はぁ~」

大きな溜息をついて車窓に目をやる山並みを抜け列車は旭川市内へと近づいていた。

デッキに出てストレッチをする、腰と肩がパンパンに張っている札幌まではあと2時間弱、少しお腹も空いてきた。

青い空と真っ白な雪原を写真に一枚収める。

4時間半・・・やっと札幌駅に着く「ふぅ~長かったな」大きく背伸びをして改札へ向かう。

そのままJRタワー6階に上がり根室の回転寿司「花まる」へ向かう店は観光客でいっぱいで20分ほど待って席に案内される。

東京ではあまり見ないネタが回る、めふん(鮭の腎臓)タラバ タラバの外子、ホッキ貝、どれも新鮮で旨い 鮭の切り身が入った石狩汁は冷えた身体をやさしく温めてくれる。

翌朝 新千歳空港のラウンジでウォールに書き込みをする。

<昨日は4時間半かけて札幌に移動してきました 車窓から撮った 真っ白な草原の写真送ります♪ 札幌では回転寿司を食べました☆東京の普通のお店より旨いかも 石狩汁の写真も、なんだか食べ物の写真ばっかりですね、これから羽田経由で長野に入りますε=ε=ε=┌(;*´Д`)ノ >

「うん、絵文字も少しは様になってきた・・・」

新幹線で長野駅に着いたのは22時を回っていた、夕食は新幹線の車内でだるま弁当を食べた。

長野駅に降り立つ、北海道も寒かったけど長野も負けずに寒かった。

ホテルにチェックインしていつもの様にバスタブにお湯を張る、 長時間の移動で腰が痛い。

そしていつもの様にフェイスブックを開く。

<いいなぁお寿司(`ε´)ぶーぶー そういえば最近お寿司食べてないなぁ堤部長は何が好きですか? 私は中トロとか 穴子とか 玉子 何でもいけます♪石狩汁もおいしそう(゜ー,゜*)ジュルルル これなら私にも作れるかも☆私の今日のランチは手作りお弁当v(。・ω・。) もう 長野ですね今週は戻らないんですか?長野寒いですか?^^☆>

「手作り弁当か・・・」

僕の中で、自分の気持ちに逆らえば逆らうほどに、彼女に逢いたいという気持ちが強くなっていった。

翌朝 レンタカーを借りてクライアントへの説明会の会場へ向かう、その後松本市内に移動してミーティングを行いまた長野へ戻ってくる予定だった。

10年来の付き合いの りんご農家「丸青園」に連絡を入れ17時位に伺う旨を伝える。

ここの『サンふじ』を初めて食べた時のことは今でもよく覚えている 半分に割った、りんごの中心には熟した蜜が入っていて 本当に旨かった。

このリンゴをどうしても、彼女にも食べてほしいそう思っていた。

高速を下りてアップルラインに入る お店の駐車場に車を停める。

「こんにちは」

「やぁ~堤さん お元気そうで」

「おやじさんも、ご無沙汰しています。急で悪いんだけど1箱お願いします」

「いつも ありがとうございます 堤さんの注文は特別に厳選したの送んないとなぁ」

「うれしいなぁ じゃあ~頼みますよ」

こうして月曜日着くように会社に送って貰うことにした。

本当は彼女の自宅に、とか思ったが住所も知らないし 突然リンゴ1箱届くのも、迷惑なんじゃ・・・と思い会社に送ることにした。

レンタカーを返して長野駅に向かう。

「東京駅に着くのは19時52分か 直帰だな、これじゃあ、夕食はまた新幹線で駅弁だな」

大宮駅で降りてスーツケースを引いて埼京線地下ホームへ降りて行く。

(この感じだと駅に着くのは20時30分くらいか)大泉学園駅に着く、家にはすぐに帰らずスタバに入り壁際の席に座る。

「あぁ~疲れた、4泊の出張はさすがにキツイな」

バックからパソコンを取り出す。

「あっ」パソコンケースから彼女からもらったクッキーが1枚出てきた。

店員の目を盗んで ハート型のクッキーを頬張る。

<ただいま、長野からの帰りです。月曜日に届くように 長野のリンゴ農家から会社宛にリンゴを送りました とっても美味しいサンふじです♪食べてください^^ >

パソコンを閉じてスタバを後にする。

「また憂鬱な、週末がやってきた ・・・」

この2日間が早く過ぎ去ることをただ願う、月曜日が待ち遠しい、玄関のドアを開ける。

「ただいま・・・」

洗濯物をスーツケースから取り出して洗濯機に入れる。

いつものように、そのままシャワーを浴びてベッドに入る。

「あぁ、今週は、ほんとうに疲れた」

日曜日の夜、憂鬱な週末もあと数時間だ。

「はぁ~ 疲れ、とれないな、昨日 予定外にアウトレットモールへ行ったからか」

月曜日 朝、昨晩飲んだ栄養ドリンクとサプリメントが効いたのか?気持ちよく起床し駅に向かう。

冬晴れ 冷え込みもさほど感じなくなった 春が近づいているのを感じる。

今日は午前中に八王子のクライアントへ直行する、八王子駅は東京へ向かう通勤客で混雑していた。

待ち合わせの京王プラザホテル1階のスタバに入ってパソコンを開く。

<おかえりなさい♪(*^-^)出張お疲れさまでした (=^ー゜)ノ 長野のサンふじ!私リンゴ大好きだから楽しみです♪鎌倉は少しずつ春が近づいています(´ー`*)。・:*:・ >

八王子の打ち合わせは思っていた以上に長引いて終わったのが11時45分を過ぎていて

会社に連絡を入れる。

「堤部長 リンゴご馳走様です~長野から届いてますよ」

セールスアシスタントの天谷だった。

リンゴは予定通り届いた様だった。八王子の定食屋でアジフライ定食を食べて14時半過ぎにデスクに戻る。

(デスクに着くのは1週間ぶりか)なんだか ものすごく、長い時間が経ってしまった気がした。

久しぶりに10メートル先の彼女に視線を向ける、彼女がこちらを見ている 思わず視線を外す、

恐る恐るまた彼女の方を見ると、彼女は私を見て微笑んで、いつものように髪を左耳にかけて、

そしてまたパソコンに視線を落とした。

僕は 彼女のこの仕草がとても好きだった。

18時過ぎにデスクに戻ると、彼女はもう帰った後だった。

「部長 リンゴご馳走様でした~」

天谷が声をかけてきた。

「 旨いんだぞ ここのリンゴは 」天谷は入社10年目の直属の部下だ。

「ほんとうにこんな美味しいリンゴ食べちゃうとスーパーのリンゴなんてもう食べれませんよ~デスクワークの女性スタッフで分けたので ひとり3個くらいは渡ったと思います皆 喜んで持って帰りました。 あぁ そうそう、この前コンプラの柴咲さんとランチ一緒に行ったんですよ~」

「そぉ ・・・」

「彼女 以前 航空会社で働いていたみたいですよ~」

(航空会社って?もしかしてCA?キャビン?)

「あぁ、そう」

全く関心がない素振りで答える。

「なんで辞めちゃったんですかね?入りたくても、入れない人いっぱいいるのに、もったいないですよね~じゃあ、私もお先に失礼しますぅ」

そう言って天谷は足早にオフィスを出て行った。

「CAだったのか? なぜ?辞めたのだろう?前の会社?」

よく考えたら彼女のことなどまだ何も知らなかった、携帯の番号でさえ、彼女のことでまた頭がいっぱいになる。

デスクを離れエレベーターでスタバに向かう。

「こんばんは、チャイ ラテ、ショートで」

お気に入りのタンブラーを渡す。

「堤さん まだ仕事ですか?」

「あぁ」持ってきたパソコンを開くフェイスブックには何も書き込みがない。

1時間ほど時間をつぶしデスクへ戻る、フロアーには誰もいなかった。

(CAかぁ 国内線?国際線か? )

それが気になって頭から離れない・・・水曜日からは新潟への出張が入っていた。

水曜の朝5時30分過ぎまだ外は暗い、家を出て自転車で駅に向かう、冷たい北風が頬を刺す。

9時前に新潟駅に到着し万代まで歩く、新潟はまだ冬空だ、支店に着いてパソコンを開くと彼女からの書き込みがあった。

<おはようございます(^_^) 頂いたりんご今朝食べましたよぉ~なんですかこのリンゴw(゜o゜)w メチャクチャ美味しかったです(>▽<)bスーパーで買うりんごと比較になりません♪ 母も感激していましたo(*^▽^*)o堤部長はフルーツでなにが一番お好きですか? 私はもちろん りんご☆ 苺も好きかな~ 葡萄も>

(長野の林檎喜んでくれたみたいで、良かった・・・フルーツで)

<僕もやっぱり リンゴです☆ あと梨も好き よかったらまた送ります♪>

( CAだったって本当?そんなこと訊けないよ・・・)

新潟での仕事を終えて直帰する。

池袋駅の西武百貨店では今年もバレンタインディ のチョコレート売り場が賑わっていた。

テレビのアンケートで妻が夫にチョコレートをあげるのは70パーセントと言っていた、我が家は残り30パーセントだった、昔 手作りチョコをもらった記憶はあるが、ここ数年 妻からもらった記憶などなかった。

月曜日、電車の中で大きな紙袋を持った女性とすれ違う。

(そうか、今日か )

いつものようにスタバでテイクアウトしたコーヒーを持ってデスクへ、オフィスには私しかいない。

「おはようございます」

突然 彼女が私の左横に立っていた。

「おっ おはよう、早いんだね…」

またしても 動揺する、彼女はネイビーのコートを着たままだった。

「りんご 本当に美味しかったですよ、堤部長甘いもの大丈夫でしたよね?これ良かったら食べてください」

そういって水色の手提げバックを差し出す。

「…ぁありがとう」

彼女はそう言うと小走りでオフィスから出て行った。

中をのぞくと、同じ水色の箱にシルバーのリボン、微かにチョコレートの甘い香りがする。

(もしかして・・・バレンタインディの?)

オフィスにまだ誰もいないのを確認してデスクで箱を開けてみる。

箱の中には直径10センチほどのチョコレートケーキが入っていた。

「これって もしかして…手作り? 」

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