第8話 ギリギリのギーリー
やれることはすべてやった。取り入れる物は柔軟に、こだわりのある部分は
「どうやら、しっかり仕上げて来たようね」
「よろしくお願いします」
言葉などはいらない。静まり返った剣道場に緊張感が張り詰める。一矢乱れぬ構えで、お囃子に耳を傾ける……
始まりの所作はぴったりと
(しっかりと呼吸を合わせろ。独りで踊っているんじゃない、みんなの気配を感じとって、踊りの流れを
大輝の想いは、しっかりと仲間にも伝わっている。悠一と隆も寸分違わずとまではいかないが、綺麗に揃えてきた。男衆が力強く踊りを踊れば、中盤で合流して来た志穂と灯里が
(こ…… この子達に何が起きたの?)
愛子の口角がじわじわとあがっていた。(ポーカーフェイスを保たなくては!)と自分を戒めても、自然と笑えみが
「馬鹿だな私…… チョロすぎるじゃない」
お囃子が最後の節を終える頃、愛子は目頭に熱いものを覚えながら小声で
お囃子の演奏が終わり、大輝達が踊り終えて礼をする。その目にはやり切ったという自信が満ち
「あっ…… 貴方達、何とか見れる位にはなったんじゃない!」
安藤先生が強がってるのを、その場みんなが気付いていただろう。俺は思わず笑っていた。
「その割りには、やけに手足がソワソワしてたじゃん」
「ちーがーいーまーすぅー! これはこれからが思いやられると、思っていただけです!」
顔を真っ赤にした安藤先生が、涙ぐんだジト目で反論してきた。その姿がめちゃくちゃ可愛くて、相手が教師だということを忘れてしま……
「えっ!……」
俺達は耳を疑った。それって……
「だから合格って言ったのよ。でも、勘違いしないでよね! 合格と言っても、ギリギリのギーリーーの及第点なんだからね」
「おっと!? こんな所に素直になれないお嬢さんがいらっしゃる」
「大輝さんや、アレはツンデーレという病を発症した痛いお嬢さんなのです。ほら、見てはなりませんよ」
「なるほど! だから笑顔で手足が踊り出してても、知らぬ存ぜぬの一点張りなんだね。志穂さんや」
俺と志穂はニヤニヤしながら、安藤先生について語っていた。何だかんだ言って安藤先生は顧問を受ける気だったんだ。多分こちらが諦めても、関わる気満々だったのだろう。そんなことを考えていたいたら、安心して力が抜けていた。
「うわぁ、やばい…… 力が入んねー」
「あははは! 大輝、産まれたての小鹿みたい」
「そういう志穂だって、腰が抜けたんじゃないのか?」
「ちょっと休んでるだけだしー」
……
「言いたいことはそれだけかしら…………」
「!?」 「!!!!」
俺達の背後には、目の座った安藤先生が…… なお、他の者達は
「Excuse me《えくすきゅーずみー》」
三人揃って逃げ出している。(お前ら、随分と懐かしいネタぶっ込んできたな! 魔◎英△伝ワ□ルなんて、俺達の世代じゃ解る奴居ねぇよ!)などとツッコミつつ、自分のアニオタ顔負けの博識さに恐れを感じていた。
(大輝…… 恐ろしい子!)
まるで、絶体絶命な自分達を忘れるかのように……
このあと取り残された俺と志穂。安藤先生はこのあと滅茶苦茶……
○△□した。
勿論、説教をしたのである。ん…… 何か?
「安藤先生ハ素敵ナ先生ダナー」
「ソウダネ、美人デ気ガ利ク優シイ、オ姉サンダヨネー」
俺と志穂は二人で外を
「そこでしばらく反省しなさい!」
滅茶苦茶怒られて茫然自失な二人は(注、この時の記憶は全くありません)ほっとかれ、安藤先生と投降してきた三人で話し合いが始まった。
「これで同好会の設立の条件はクリアー出来たわけね」
「は…… はい、書類を提出して審査に通ればオッケーかと……」ビクビクッ……
「ううっ…… 審査なんて形だけだから問題ないよね」ぷるぷるっ……
「ワシは愛ち…… ゲフンゲフン! 安藤先生が来てくれて涙目(いろんな意味で)」ガタガタっ……
「貴方達、怯えなくてもいいわよ。あの二人は、あれくらいが丁度いいんだから。ところで、他にも部員の候補は居るの?」
「今のところはまだですが」
「フェスティバルに参加したいのなら、このままじゃ無理よ」
「そ、そうなんですか?」
安藤の指摘に驚きつつも、やはり駄目かと心当たりのある悠一。それを見ていた安藤は、持参してきた書類の中から”大会運営条項”なる物を提示した。
「気付いていると思うけど、大会に参加する為には圧倒的に人数が足りてないわ。まず入賞を狙うなら、踊り手は最低でも六人は欲しい。それに
「地方?あの後ろでお囃子を演奏してる人達ですよね」
「そう、演奏や合いの手など、とても重要なセクションだわ。大会では踊りだけではなく、お囃子の出来不出来も採点の大きなウエイトを占めているの。これが最低でも四人は必要ね」
悠一も薄々は気付いていた。しかし、詳しい内容は把握しておらず、同好会設立後でも良いかと思ってたのだ。
「あと他には、そうね…… 楽器の手配は学校で何とか出来るとしても、衣装の準備が大変なのよ。郷土芸能って、お金が結構がかるの」
「そこは愛ちゃんの力で何とかならないの?」
復活した志穂が
「おっ、復活したか。勿論、私も色々当たってみるけどね。志穂、貴女の家にもアテがないかしら?」
「うちはどうかなぁ。出入りしている呉服問屋さんに聞いてみるか」
何とか安藤先生に顧問就任をお願いする事が出来た。色々と課題は山積みだが、やっと動き出した郷土芸能部(現在は同好会)に胸が高鳴る大輝達なのだった。
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