6.アラフィフに逃げ場無し
「ご、合格……?」
大将の言葉の意味が分からず、思わずオウム返しに聞き返す。
「おうよ。歳の割にお前さんは伸びしろがありそうだ。俺の方から冒険者ギルドに推薦してやろうじゃねぇか」
「……ギルドに推薦?」
ますます意味が分からず、思わず首を傾げる。
すると、戸惑うばかりの俺の様子に気付いたのか、フェイが助け舟を出してくれた。
「エイジさんは、ギルドのオバチャンがただの親切心でうちの店を紹介してくれたと思ってるみたいだけど、実はそうじゃないんだよ。オバチャンはね、エイジさんに見込みがあると思ったから、うちの店に預けて様子を見ようと思ったのさ!」
「この店で、様子を……? この店はギルドと何か関係あるのか?」
「アレ、言ってなかったっけ? あたしもフェイも店長も、みんな元冒険者よ?」
「……いや、聞いてないんだが?」
リンの言葉に衝撃を受ける。
……いやまあ、確かにオーク共との立ち回りを見ていても、リンとフェイがただ者じゃないことは良く分かったが……見た目普通の若者なんだがなぁ。とても荒事の世界に生きていたとは思えない。
「ふふーん! こう見えても一年前まではそこそこ名の知れた冒険者だったのさ、僕らは! でも、もう十分に稼いでいたから、
「とは言えギルドと縁が切れる訳じゃないから、エイジさんみたいに見込みのある人を時々預かってるんだけどね~。店の常連さんも、半分以上は現役の冒険者なのよ?」
「マジでか……」
客達の方を見やる。
ちょうど移動したテーブルや椅子を元の場所に戻している最中だが……確かに、強面やガタイの良い連中が多い気がする。普段はあまりフロアに出ないから気付かなかった。
「ふん、最初は俺に負けねぇ位の
「は、はぁ。ありがとうございます……?」
……何となく場の雰囲気に流されてしまっているが、俺の頭では先程から一つの懸念がグルグルと渦巻いていた。
「あれ? なんだかこのまま冒険者にならなきゃいけない空気が出来上がっているぞ?」という懸念が。
そもそも、俺は元の世界に帰るまでの一ヶ月の間だけ衣食住を確保できれば、仕事はなんだって良かったんだ。
冒険者ギルドに登録しようとしたのは、シリィに勧められたからだった。別に冒険者になりたくて行ったわけじゃない。
「ヒバリの丘亭」での仕事は給料は殆ど出ないが、まかない飯が出る上に寝床も借りられるという、俺にとってはいたれりつくせりのものだった。
正直、後三週間はこのままでいいと思っていた。むしろ冒険者のような荒事業界には首を突っ込みたくない。
だが、大将もフェイもリンも、祝福ムードで俺を冒険者ギルドに送り出そうとしてくれている……それを無下にするのはなんとも気が引ける。俺も「NOと言えない日本人」だということか。
「エイジさぁ……ギルドの受付でもこの店でも、『一ヶ月だけ働きたい』って言ってなかったよねぇ……」
そっと耳打ちされたシリィの言葉に「あっ」となる。
確かに、ギルドの受付でもこの店でも「一ヶ月間だけ働きたい」という大前提を口にしなかったように思う。
うっかりってレベルのボケじゃないぞ、これ。
「――シリィ。お前それ、気付いてたなら先に言ってくれよぉ……」
「言ったろ? オイラは案内妖精だから、案内以上のことは出来ないよ? って」
……段々、シリィが悪魔に見えてきた。
「ま、うちの店も人手不足なのは本当だからよぉ、ギルドの仕事がない時は今まで通り働いてくれて構わねぇぞ! 定宿が決まるまでは倉庫も寝泊まりに使ってくれて構わねぇ……末永くよろしく頼むぜ、エイジ!!」
「――お、おう! 任せといてくれや、大将!!」
思わず場の空気を読んでそんな威勢の良い言葉を吐いてしまう。これは逃げられそうにない。
――どうしてこうなった?
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