飛んで火に入る冬の虫

りょう(kagema)

飛んで火に入る冬の虫

深い深い森の奥の


崩れかかったぼろぼろの廃墟を照らすのは


まん丸い満月の


死んだように冷たいやわらかな光だけだった


手の届くはずのない


天高くでじっとたたずむ優しい月だけだった


死体からわいた蛆虫は


腐肉を食らいながら月を見上げていた


蛆はやがて羽が生え飛び始める


ふらふらふらふらと飛び始める


半人前のハエは見た


夜空の遠くで新たな光が


ぼんやりと生まれ始めているのを


ハエはただふらふらと光を目指した


その光は私を導く篝火か


私の身を焼き尽くそうとする業火か


ハエはちらりと廃墟を振り返ると


遠くへ遠くへ旅立った

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飛んで火に入る冬の虫 りょう(kagema) @black-night

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