第21話 正義の借金
ベンツを走らせると、すぐに目的の工場に着いた。休憩時間なのか、作業服を着た初老の男性が、外で煙草を吸っていた。
車から降りた僕とルフォンさんに怪訝そうな視線を投げかけながら言った。
「いかつい車だからやくざかと思ったら、テレビの取材か? うちなんか取材しても視聴率取れねえぞ」
どうやらルフォンさんをお笑い関係の芸能人だと思ったらしい。
僕は自己紹介をして、ルフォンさんも変な格好だが、悪い人間ではないことを告げた。
「すみません僕の友達が行方不明になってしまって。この男に見覚えありませんか?」
僕は此原の写真を男性に見せた。
「ああ、こいつか。覚えているぜ。変な箱を作りにきた奴だ。珍しい仕事だったから良く覚えている。いきなり設計図を持ってきて、これを作れとか言っていたな。材料も珍しかったし、初めて作るものだったが、しっかり作ってやったぜ」
男性はにやりと笑った。自信にあふれた笑顔は、本当に何でも作ってしまいそうだった。
「何か言っていませんでしたか? その箱で何をするとか。どこにもって行くのかとか」
「俺も気になって聞いてみたぜ。うやむやな返事ではぐらかされて、結局わからなかったけどな。やばいことをしそうな感じはしなかったが、こっちも犯罪絡みの仕事は出来ればしたくねえ。あの箱は一体なんだったんだ?」
悪魔教団と戦う武器を隠す箱です、と言うのも何となく躊躇われ、返事に困ってしまった。
「悪魔教団と戦う武器を隠す為の箱です」
返事に困っている僕の横で、ルフォンさんがはっきり言った。
男性は、あっけに取られた顔をしたが、笑顔を作ってルフォンさんを見つめた。
「そういえば、此原って言ったっけあんたが探している男。あいつとは何回も打ち合わせしたが、一回変なやつと一緒に来たな。そっちの宇宙人のあんちゃんみたいに独特な感じな奴だった。銀色の服は着てなかったけどな」
ルフォンさんの親友と、此原がつながった。
僕とルフォンさんは目を見合わせた。
箱の制作費についても少し聞いてみたが、そこについてははぐらかされた。とにかく結構な金額がかかったらしい。その他にも色々聞いたが、それ以上は目ぼしい情報は出てこなかった。
「なんかあったら仕事持ってきてくれよ。腕には自信があるぜ。頑張って悪魔軍団やっつけてくれ」
頼もしい笑顔を男性は見せた。
軍団ではなく教団なのだが、訂正はしなかった。
帰り道の車の中で、僕は再び考え込んでいた。ルフォンさんも珍しく黙っている。
此原の失踪には悪魔教団が絡んでいる。宇宙人かどうかは別にして、ルフォンさんの親友も実在した。二人は悪魔教団を倒そうとして、返り討ちにあってしまったということか。此原は死んでしまったということになる。そう考えると、気持ちがどんどん沈んできた。
そして、此原が僕を保証人にして作った借金。あれは、悪魔を倒す為の武器を収める箱を製作する為だった。何故教えてくれなかった。ちゃんと理由を説明してくれていれば、此原を恨んだりしなかったはずだ。いや、説明されていてもにわかに信じられなかっただろうし、悪魔教団とか聞いたら、保証人になることを拒絶したかもしれない。それに、此原は僕を巻き込みたくなかったのだろう。危険な戦いから遠ざけたかったのだろう。此原、お前は正しいことをしていた。恨んだりしてすまなかった。
嫌な想像が頭から離れない。とにかく此原無事でいてくれ。
「ルフォンさん。全て知っていたのですか? ルフォンさんの親友と此原が一緒に悪魔教団と戦おうとしていたのを」
「友に地球人の協力者がいたことはわかっていた。良い地球人だと言っていた。友は残念ながらアムドゥスキアスに殺されてしまった。地球にやってきて友の足取りを調べるうちに、地球人の協力者此原が、借金を残し行方不明になっているのがわかった。幸い地球での体「猛」はやくざの親分だ。此原の残した債権を買い取り、保証人になっていた圭介を手許に置いた。組の若い衆と気が合わないのも確かだったが、此原へ、隠された武器へと圭介が導いてくれる可能性があると踏んだからな」
全てではないが、仕組まれたことだったのか。複雑な感情が少しずつこみ上げてきた。
「圭介。お前が歌の謎を解き、武器へとたどり着かせてくれる気がしている。そして武器があれば、アムドゥスキアスを倒すことが出来る」
もう狂った人のたわ言ではないような気がしてきていた。悪魔の儀式も見た。麻薬を作っているのも見た。呪いを口にする悪魔の司祭の話も聞いた。悪魔教団は存在し、悪を為そうとしている。悪魔教団の教祖が悪魔なのか宇宙人なのか、いかれた人間なのかはこの際どうでも良い。悪を阻止しなくてはならない。此原の意思を無駄にしない為にも。
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