第10話 圭介の過去と悪魔
悪魔教団司祭の言葉が頭から離れなかった。
とても信じる事が出来ない胡散臭い話だ。しかし、「悪魔」という言葉に僕は引っかかっていた。僕の過去にも「悪魔」という言葉が、大きくかかわっていたから。
小学生の時だった。僕の父が人を殺した。
その頃、僕の家族は郊外の一軒家に住んでいた。父と母と僕の三人。兄弟はいなかった。
優しい父と母だった。裕福というほどではないが、貧乏ということもない、一般的中流家庭だった。
家族仲も良かったと思う。今思えば、とても幸せな生活だった。
ある日突然、父が隣人を殺した。
隣人の男性は、かなりの変人で、町内でも嫌われ者だった。死んだ親が資産家だったらしく、働いている様子はなかった。窓からゴミを捨てたり、変な歌をがなりたてたり、そのくせ他人には苦情を言ったりする、厄介な人だった。変な宗教に凝っているという噂もあり、悪魔にとり憑かれた男というあだ名も影でささやかれていた。
僕たちも、隣人のおじさんには良い感情を持っていなかったが、大きな揉め事を起こさず、うまくやっていたと思う。それなのに事件は起こった。
夏休みの事だった。僕が朝目を覚ますと、家に警察がいた。父はもうおらず、母はぼんやりと立ち尽くしていた。母は明らかに泣き腫らした顔をしていた。
父は隣人を金槌殴り殺し、さらに頭を滅多打ちにした。隣人の頭は原型を留めないほどにぐしゃぐしゃになっていたそうだ。
父は、そのまま警察に自首した。殺した動機は、黙秘し続けた。
隣人のあだ名が、「悪魔にとり憑かれた男」だったことに注目が集まり、悪魔憑依隣人殺人などと呼ばれ、全国ネットのニュースで大々的に取り上げられた。
僕の生活は一変した。その街で暮らすことも出来ず、母と共に引越しを余儀なくされた。
当然のごとく学校も転校し、新しい小学校に通い始めた。
苗字は母の旧姓筑野に変えていたのだが、どこからか僕が殺人犯の息子だという情報は伝わってきたようだった。周りとの間に何やら見えない壁を感じ始め、直接殺人事件について触れる人も出てきた。僕は孤立した。
母は僕を養う為働いてくれた。経済状況は悪くなったが、何とか暮らしていけた。しかし、いつでも家は重く暗い空気が満ちていた。笑顔を忘れてしまうくらい、笑わない日が続いた。
父が殺人者ということで、ずっと差別され続けてきた。だから、このことはなるべく人にはばれないように、こっそりと生きてきた。ルフォンさん、鎖島さん達も、まだそのことは知らないだろう。
ここに来て、再び「悪魔」という言葉が僕の前に出てきた。これはどういうことなのだろうか。薬に溺れた悪魔教団司祭の言葉なんて、あてにならないことはわかっている。しかし、心から追い出そうとしても、「悪魔」という言葉が引っかかってしまう。
僕は今出てきた部屋のドアを振り返ってみた。鎖島さんと司祭が入っているが、中から音は聞こえてこなかった。
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