第6話 拳銃とモデルガンの思い出

ルフォンさんが暮らす基地から、食器を下げる為に本館に向かった。

 ごちそうさまでした、と一言告げて、食器洗い当番に食器を渡した。

 早く基地に帰ろうとしていたら、鎖島さんに声をかけられた。

「どうやら猛さんとはうまくやっているようだな」

「そうなのでしょうか…」

「猛さんは暴走するところがあるからな、あまり無茶させないようにな」

「は、はい。この間の廃工場は、とても驚きました」

「こっちだってびびったぜ。こっちも情報はつかんでいたが、猛さんが単身ぶっこむとは思わなかった。とにかく無事で何よりだ」

「ルフォンさん、いや猛さん、拳銃持った相手に突っ込んでいきましたけど、拳銃の弾ってのは、そんなに当たらないものなのですか?」

 鎖島さんは、少ししかめっ面をして考え込んだ。

「拳銃の弾を当てるのは難しい。それに、人間は人間を殺すのにためらいがある。戦場でもわざと弾を外している兵士が多いっていう研究すらある。悪魔教団とか名乗っていても、人を殺す覚悟が出来ていなかったのかもしれん。まあ、それにしても猛さんが無事だったのは奇跡的だ」

 あの時、物陰に隠れていて良く見えなかったが、ルフォンさんは素手で拳銃に勝った。あれは奇跡なのだ。

「お前も撃ってみるか。難しいのがわかるぞ」

 鎖島さんがおもむろに拳銃を取り出して、手渡してきた。

 何も考えずに手にした拳銃は、思ったより重かった。昔モデルガンに興味があった時期があったのだが、それもかなり昔の話だ。手渡された拳銃がなんという銃なのかわからなかった。

 ふとモデルガンを改造して遊んだ思い出が甦った。

小学校の夏休みのことだった。僕はモデルガンを改造して遊んでいた。

 濃度の濃いガスを注入し、弾を普通のプラスチック製から、金属を埋め込んだ強力なやつにした。

 モデルガン自体は、友達がくれたやつだが、強化する為の部品は、なけなしの小遣いをはたいて購入した。

 改造しているときは、謎の高揚感に突き上げられていた。

 作業が終わり、狭い庭に出て銃を構えた。的には大き目の缶を用意した。

 とても暑い日で、蝉がうるさいくらいに鳴いていた。風はなく、物干しにぶら下がった洗濯物が、はためきもせず水分を蒸発させていた。

 僕の予想では、弾がこの缶をぶち抜いて風穴を開けるはずだった。

 台の上に置いた缶に照準を合わせ、引き金を引いた。

 破裂音がして、弾丸は発射されたようだが、缶には当たらなかった。

 もう一度、照準を合わせ、引き金を引いてみたが、今度は弾すら発射されなかった。無理な改造がたたり、一発打っただけで壊れてしまったのだ。

 僕はひどい喪失感に襲われ、銃をその場に投げ捨てた。

 その後、モデルガンに触った記憶はない。

「弾は入っていないが、銃口こっちに向けたら殺すぞ」

 笑ってはいたが、恐ろしい鎖島さんの言葉に我に帰った。

 愛想笑いを浮かべながら、拳銃を鎖島さんに返した。

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