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 しばらく沈黙が流れてから熊谷さんは決意したように向き合った。

「実は花菱さんをお呼び止めしたのにはわけがありまして」

 でしょうね。

「あの」

「はい」

「実は協力して頂きたいことがありまして」

「はい」

「あの、とりあえずこれを」

 そう言って出されたのは白いカップに入ったクマのラテアート。

「はい?」

「これ、どう思いますか」

 どうって、可愛いし売り物みたいに綺麗だなぁって。っていうかこの繊細で可愛らしい、絵本の中のクマさんみたいなキャタクターをこの元ラガーマンが作ってると思うとそれだけでなんか、胸が一杯だわ。

「可愛いです」

「可愛い、ですか?」

「はい」

 で、どういうことだとばかりに熊谷さんを見ると、ホッと眉尻を下げていた。こう、日向ぼっこしているクマみたいな。例えるならそんな感じ。

「実は、これ、あの、これを使って」

「はい」

「告白、出来たらなって」

「えっ」

 まさかの。協力って、これ!?

「常連のお客様なんですけれど、いつもカフェラテを頼まれる方で、その、僕もラテアートを練習中でして、その、喜んでもらえるかなって思って、その、どう思います?」

 その瞳は純情そのもの。もしかして今まで恋もしたことがないのだろうかと、訊ねてみればそうだと言う。嘘だろマジか。それで告白しようと言うのだから、凄い度胸の持ち主だ。さすがラガーマン。

「えと、なんで俺に」

「桐嶋さんとこのおばあちゃんに訊いて。女性経験がその、豊富だからと」

「違うから!」

 あのババァ、適当言いやがって!

「ま、まぁそれはいいとして。その、お客様のことはどのくらい知っているんですか? 名前とか、お仕事とか」

「知りません」

「え」

「いつもカフェラテを頼まれる、笑顔の素敵な方としか知りません」

 にっこりと微笑む熊谷さんに、なぜか俺がどっと疲れた。ラテアートの感想だけでは、この恋を成就させられる気がしないもの。

「とりあえず、お名前を訊くところからはじめてみましょうか」

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