森のくまさん

カゲトモ

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 天気が良い割に風が強い。特にセットしてきている訳じゃないけど、髪が風に掻き上げられて乱されるのは良い気がしない。それよりも耳が寒すぎる。マフラーを巻いた首を縮めるように、無意識に肩を上げてしまう。最近の肩こりは完全に寒さのせいだ。後で薬局に寄って温湿布を買って来よう。

 もう歳だな、なんて思いながら商店街に足を踏み入れると同時にとある人物と目が合った。

 ぺこり、と頭を下げる。と、その人はカッと目を見開いて、すごい勢いで手招きした。手招きと言うにはあまりにもアグレッシブな気もするが。

「え、どうしたんですか」

「今暇ですか!」

「え、えぇまぁ」

「時間ありますよね」

 ありますよね?

「これから出勤ですけど」

「まだ時間ありますよね」

「・・・あります、けど」

「丁度良かった」

 丁度良かった? え? なになになに。

「ちょっとこっちへ!」

「なになになになに」

「いいからいいから」

「こわいこわいこわいこわい」

 グイグイと掴まれた腕を引かれながら連れて来られたのは、商店街のメイン通りから少し外れた(と言ってもアーケード外なだけ)一軒のカフェ。

 木のぬくもりと、植物の緑が優しげなナチュラルテイストのカフェは、オーガニックしか使わない本格派だ。特に売りにしているのは、ドライフルーツのパウンドケーキとカフェラテ。店長はこの、ニット帽がやけに似合うおしゃれ髭のマッチョ。元ラガーマンの店長に腕を掴まれたなら、それはもう離してもらえるわけもなくて。

「これ、よかったら」

 クローズの掛かった店内にはコーヒーの良い香りが広がっている。

「どうも」

 一口含むと口いっぱいに香りが広がり、ふわふわなのにクリーミーで、うん、めっちゃ美味い。

「すみません、急にお呼び止めして」

「あ、いえ、それはべつに」

 そりゃ驚いたけど、カフェラテは美味しいし、きっと何か理由があってここまで連れて来られたのだろうし。

「何かあったんですか?」

 ご丁寧に添えられた、ドライフルーツのパウンドケーキを飲み込んで訊いた。店長である熊谷さんは、視線を外して口を噤んだ。ここまで連れて来たものの、話すかどうか悩んでいるようだ。行動力は凄いのに何このギャップ。一見強面なのにつぶらな瞳と長い睫が何ともアンバランスな可愛さを醸し出していて、女性はこういったキャップに弱いんじゃなかったっけなんて思いつつラテを飲み込む。

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