ミニフィクション・鉄道
小書会
小湊鐵道
石炭を燃やして車体が血を巡らせるように震えている。柔らかく深い座席に腰を掛けて、露だらけのまどから隣のホームを覗いた。空席だらけのグリーン車が駅を出ると、自分が昔の人のように思えてくる。
線路のなかに少年が入ってきた。どこからかはわからない。かつては柵などなく、みな無邪気に電車を眺めていたのだろうか。
お手洗いを済ませていないことには気づいたが、改札からずっと見ていない。まあしばしの我慢だ。この年ではまだ頑張れるだろう。むしろそうでないと困る。
最後方に座している。乗務員たちはみな緩やかに、日々の生活を楽しむように車両を走らせる。
「光風台ね」
切符の確認は女性の方だった。
次の駅ではひとりだけ乗せて、乗り込んだのがわかると早々とドアを閉じて走り出す。
短いブザーでのやりとり、雨の不安はひとつもないから、単線を力強く、体を揺らして前へ進め。
不安な自分の心も、喧騒に忙殺されそうな体も、全部包んでくれるような、無事明日へ運んでくれるような感覚がした。
贅沢かもしれないけど、目的地までは、甘えさせて。
ミニフィクション・鉄道 小書会 @kosyokai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ミニフィクション・鉄道の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます