ミニフィクション・鉄道

小書会

小湊鐵道

石炭を燃やして車体が血を巡らせるように震えている。柔らかく深い座席に腰を掛けて、露だらけのまどから隣のホームを覗いた。空席だらけのグリーン車が駅を出ると、自分が昔の人のように思えてくる。


線路のなかに少年が入ってきた。どこからかはわからない。かつては柵などなく、みな無邪気に電車を眺めていたのだろうか。

お手洗いを済ませていないことには気づいたが、改札からずっと見ていない。まあしばしの我慢だ。この年ではまだ頑張れるだろう。むしろそうでないと困る。


最後方に座している。乗務員たちはみな緩やかに、日々の生活を楽しむように車両を走らせる。

「光風台ね」

切符の確認は女性の方だった。


次の駅ではひとりだけ乗せて、乗り込んだのがわかると早々とドアを閉じて走り出す。

短いブザーでのやりとり、雨の不安はひとつもないから、単線を力強く、体を揺らして前へ進め。


不安な自分の心も、喧騒に忙殺されそうな体も、全部包んでくれるような、無事明日へ運んでくれるような感覚がした。

贅沢かもしれないけど、目的地までは、甘えさせて。

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