第13話 幻影
「よし分かった! お前には坂本を爆風から庇おうとしてくれた分の借りもあるからな。吉岡、お前は助けよう! 他の奴らはどうする? お前らのボスは俺が助けるが……お前ら自身はどうする?」
庸平は校庭にいる生徒全員に向かって問う。
すると、赤縁眼鏡をかけた3年生女子学級長が一歩前に出て――
「豊田くん……私たちも――」
「私たちだと? その『たち』って何なんだ? 自分の命に関わる事なのに、この期に及んで皆で一緒みたいな考え方をするな!」
庸平はその言い方を許さなかった。
彼にそう言われた学級委員長は半泣き状態になりながら――
「私を助けてください……」
頭を下げて、そう言い直した。目からこぼれ落ちた涙が滴となって校庭の土に落ちていく。
続いて、別の生徒が助けを求め、やがて次々に庸平に頭を下げていく――
その様子を佳乃は呆気にとられて見ていたのだが、ふと集団の中に長谷川智恵子を見つけ、目が合ってしまう。彼女は佳乃の『親友』であり、共に校庭まで肩を支え合って避難してきた仲間。そして佳乃を『元・最弱の女』として皆に身柄を突き出した裏切り者である。智恵子は何かを言いたげな表情を浮かべたが、佳乃は目を逸らし無視をした。
「さて、陰陽師を名乗る若造よ、話は済んだか?」
赤鬼は地面に突き刺していた金棒をグイっと持ち上げ、肩に担ぐ。
「待たせたな赤鬼よ……改めて名乗ろう……」
庸平は足を斜めに突き出し、右手に9枚の霊符を持って構える。
「俺は陰陽師豊田庸平、この学校では最弱の男だ。しかし故あって全校生徒から助けを求められそれを承諾したところだ。この土地に流れ着き、この土地を愛し、この土地を守った我が先祖の名にかけて赤鬼、お前を成敗する!」
「良かろう! そこまで言い張るのなら相手をしてやる。好きな得物をとれ!」
赤鬼は校庭の中央に山積みになっている機関銃や日本刀などの武器に向けてアゴを突き出して指示をした。
「得物!? そんな幻影が何の役に立つのか、ふざけるな!」
「えっ? 相手が武器を取れと言ってくれているんだから、一応もらっておけば良いのに……」
3年生の武器マニアの呟きが聞こえる。
「だから……幻影が何の役に立つと言うんだよ。お前らは皆赤鬼に騙されているんだよ。その武器は全部幻影だ。実体はない!」
「さ、最弱の奴は何を言っているんだ? この機関銃が……幻影だって?」
「僕のライフルも幻影というのか? そんな馬鹿な……重さだってちゃんと感じるし弾だって発射できたし……」
「最弱はやはり駄目だ……みんな赤鬼に殺されちゃう……」
生徒達がざわめき始める。
しかし赤鬼は無言。
表情から余裕が失われていた。
「若造よ、貴様はトヨダと言ったか……いや、まさか……そんなことは……」
「なんだ赤鬼、俺は豊田庸平だ。先程から何度も言っているだろ! 聞いていなかったのかよ!」
「いや、そんなことはないはずだ! 人間は弱い弱い弱い――すぐに死による! こんな風になぁ――! 地獄の業火に焼かれて死ねぇぇぇ――!!」
赤鬼は金棒をズシンと地面に突き刺す。すると目の前の佳乃と吉岡に向けて真っ赤な炎が地面を這って行く。
「きゃあぁぁぁぁ――――!」
「うおぉぉぉ、熱い熱い熱い――!」
2人は炎に包まれ叫び声を上げる。
生徒達が悲鳴を上げ、校庭が地獄絵図と化した。
しかし――
「坂本――! 精神攻撃に負けるな! お前は散々皆にいじめられて追い詰められて、味方が誰もいなくなっても1人でずっと耐えてきたんだろ? そんな実体のないものにお前が負けるはずはない!」
庸平は炎に包まれた2人の元に歩み寄りながら叫ぶ。
「でも、熱いものは熱いのよぉぉぉ――!」
佳乃は頭を抱え、吉岡は地面に転がりのたうち回っている。
「最弱、なにのんびり歩いているんだ! お前の不思議な術で早く助けてやれよ! いや、助けてあげてください――!」
「助けてあげて、最弱くん!」
生徒達から懇願されるが、庸平は歩く速度を変えない。
その間にも吉岡は力尽き、炎に包まれたまま動かなくなる。
佳乃は――
何か口をぱくぱく動かしているが、皆には何を言っているのかは聞こえない。
庸平は佳乃を包む炎をものともせずに、近づき――
彼女の肩に手を乗せて――
「よく頑張ったな、中二病の坂本さんっ!」
佳乃の肩をポンと叩く。
耳を塞いでいた佳乃はゆっくりと顔を上げ――
「ふんっ、アンタがただの中二病患者だったら今頃私は死んでいたわ! そしたら絶対恨んで出てきてやるんだからねっ!」
庸平が何食わぬ顔で炎の中に入った様子を目撃した瞬間に、皆の視界から炎は消えていた。それまではぐったりして動けなかった吉岡も、呆気にとられながらも立ち上がる。
「さ、最弱の言っていたことは……本当なのか……」
「じゃあ、このライフルも……」
生徒達が持っていた武器が瞬間的に消失した。
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