第207話決別

「遅い登場やな。見ての通り本は残ってないから、もう売れないで」


母親とおぼしき女性に向かって、錬金術師の少女は言う。


「相手は日本語がわかるのか?」


サラさん自身、最近まで日本語を勉強していなかったくらいだし。


「日本に来るまでに少し勉強したわ。サラの母のユリアナです。この度は娘が世話になった」


そう言って彼女がお辞儀をしたので、俺たちも頭を下げた。


「見ての通り、かけはウチの勝やで。日本まで来てもらって悪いが、帰る気はないんや」


サラさんは物品が残っていない、俺たちの販売スペースを指さす。


「サラ、お前は偉大な始祖の末裔だ。その思想の通りに行動しないといけない」


片言の日本語でこんなことを言った。


「こんなやつらと仲良くして、あの聖なる一族に悪いと思わないの?」


今度は俺たちを見下す発言。


「うわー、一神教の信者が、こんなことを言い出したよ」


「ただの海賊であって、神聖でも何でもないですしね。国が決めた役職である陰陽師と、同格にしてほしくないですよ」


「やはり、最後の一角は……」


近年までぱっとしない一族だったらしいしな。


「お前は錬金術師になるために生まれてきた。それ以外は許されない」


「話にならんわ」


くすんだ金髪の少女は、うんざりしたような表情で、いったん言葉を区切る。


「これだけは言わせてもらうで。ウチが嫁いだところで、ホーエンハイムは御三家にも、候補一族にもなれへん。無駄なあがきやな」


錬金術師の少女は、母であり魔法の師でもある女性に背を向けた。


「ウチは自分で選んだ道を歩むで。そこのよしかや一樹はんも、自分の意思で選択したみたいやからな」

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